なのはの先導で目的地である神社に向かう5人と2匹の大所帯。
その道中で近くを歩むフェイトに振り返って耳許へ。
「そういえばさっきバルディッシュ起動しちゃってたけど……大丈夫かな?」
「………?」
最初はどういった了見か理解していなかったがなのはが最後尾を歩くエルへ視線を向けると漸く分かり。
「ああ…カナリアさんの知り合いなら大丈夫かなって」
「……確かに」
凄く説得力があった様で頷くなのは。
今日一日で金糸雀を大分理解してしまった様だが迂闊さは否定出来ないので内心二人とも改めようと誓う。
「向かってる神社ってあそこか?」
すると今度は十六夜も接近してきて既に視界内に捉えられる距離の神社が聳える石階段へ。
「うん、あそこだよ。えへへー十六夜君もきっと
「…へえ」
「………むっ」
首肯すると悪戯めいた笑みで十六夜を見るなのは。
何かの挑発と捉えた彼は目を細めて期待を表し、そんな最中視界が十六夜に向いた事に嫉妬したフェイトがなのはの腕を絡め。
苦笑するなのはとヤハハ、と笑う十六夜。主の変化にご機嫌のアルフと後ろの金糸雀&エルを連れて石階段を登り始め。
「あれ、なのは……此処って」
「あ、気付いた?そうだよ。2個目のジュエルシードを回収した場所」
「やっぱり…でもあの時は?」
ふと気付いたユーノが肩から声を掛ける。
なのはが魔法の力を手に入れて一日目に早速ジュエルシードの反応を察知して、まだデバイスの起動すらままならず悪戦苦闘しながらもバリアジャケット装着後は持ち前の才能で直ぐに処理出来た八束神社だ。
当時はなのはが言う小狐とは出会さなかった事に疑問を抱いたユーノの声ににゃはは、と苦笑し。
「あの時は大きいのが暴走状態で大変だったでしょ?一通り見回したんだけど居なかったから避難したのかなって」
「なるほど。結構賢い子なんだね」
「うんうん、そうだねぇ〜」
説明で合点がいったユーノは誇らしげに言い、フェイトの隣を歩くアルフも数度首肯して同意する。
「ま、人語を喋る賢いイタチや御狗様からしたらそうだろうよ」
「だからフェレットだって!」
「あたしは狼だよ!」
十六夜の皮肉を込めた物言いにアルフは逆毛を立ててユーノと共に訂正を要求するも当然あしらわれて叶わず、なのはが苦笑しながら割と仲睦まじい様子を伺いつつ歩みは止めず。
因みにフェイトが十六夜の背後に回り器用に展開したハンマーサイズくらいのバルディッシュ先端で後頭部を「てい、てい」と殴り苦情を申しているが。
「てい、てい、てい、てい」
「……おい金髪小娘、仏の顔も三度までって言葉を知ってやがるか?」
「知らない…それに女の子に暴力は格好悪いよ?」
「ハッ!生憎現代では男女平等主義なんて用語が流行る時代だ」
声に出して殴り続けた結果アイアンクローをかます十六夜と無表情で受けながらも柄を長めてまでバルディッシュを叩き付けるフェイトの図。
最早犬猿の仲、水と油といった具合でバチバチと睨みを交わす修羅場に流石にこの後金糸雀が仲裁して事なきを得て、一同が神社の鳥居を潜った時には本格的に夕暮れ時となった。
「くぅーん!」
「あ、早速いた!くーちゃーん!」
入り口を越えて石畳を歩く事僅かで神社の床下から飛び出してきた小柄の狐。
余程嬉しいのか体格に似合わず素早い走りで駆けると飛び上がり、その動作中なのはも駆け寄って最後はひしっと抱き合う。
その間ユーノが肩から振り落とされたがなんとか着地。
「くぅん、くぅ〜ん♪」
「にゃはは!擽ったいよくーちゃん♪」
頬を舐めて戯れつくくーちゃんと呼ばれた狐に歓喜するなのは。この様子を見るだけで相当仲良しなのが伺える。
「か、可愛い……」
「くぅん!」
「きゃっ…!はう…可愛い……」
直後フェイトも駆け寄ると潤んだ熱視線で狐を見つめ、なのはに抱かれた小狐は次いでフェイトに飛び付くと珍しく悲鳴を上げるがアグレッシブさに驚いただけで、頬を擦り合わせ早速懐くとフェイトも目を蕩けさせてすりすり。
「ふあ!?珍しい〜、くーちゃんが初対面で懐くなんて…ちょっとジェラシーかも」
「な、なのは…?きっと面倒見のいい子が居たから慣れたんだよ」
「そうかなぁ?へへ、この子はくーちゃん!久遠って名前だよ」
ジト目のなのはを慌ててフォローすると本気ではないのか直ぐにニッコリ笑い、くーちゃん改め久遠を紹介する。
「そっか……宜しくね?クオン」
「くぅーん…」
頭を撫でると気分良さそうに鳴き。
「へぇ…コイツがお前の言ってた狐か。案外普通だな…」
「くぅ!?きゃぅんきゃぅん!!」
一部始終を見守ってた他の面々から十六夜が身を乗り出すと二人と一匹の側まで歩み、見ればいつの間にかユーノが十六夜の肩に乗っていて気付くなのはが謝ろうとするより先に急に慌てふためきなのはに飛び移っては身を縮め震え。
其れを見たフェイトは黒いオーラを発す。
「……ねぇイザヨイ、どういう事かな?」
「おいおい、それはこっちの台詞だぜ。物騒なモン構えてないでとっとと説明しろ」
「クオンが怖がってる。それだけで大義名分……死ねイザヨイ!」
今度は本気で怒ったのか魔力刃まで展開したバルディッシュを振り下ろすも難なく避ける。
「大方俺の力に気付いて怯えただけだろ。野生の本能的なな」
「問答無用!」
「はいはいストップ。もう…フェイトちゃんも十六夜君が絡むと途端に問題児になるのだから」
牽制とばかり睨みを飛ばすも容赦なく斬りかかるフェイトにバルディッシュの柄を掴んで無力化し。ビクともしない己がデバイスに構わず十六夜を睨み付け。
なのはは突然の事態にあわあわと視線を彷徨わすと透かさず金糸雀が呆れた顔で金の少年少女互いの行動を"指一本"で止めて離させ。
「あ、う……ごめんなさい」
「分かってくれたらいいのよ。落ち着いて、ね」
金糸雀には心身共に逆らえなくなったのか表情を暗くしデバイスを引っ込めて俯くフェイト。
その様子で何かを悟ったのか金糸雀はフェイトを抱き寄せると片手で朝の喫茶店の様に頭撫すると力が抜けた少女は身を預け。
「十六夜君……?」
「ん?…ああ、十六夜様は寛容だから気にしてねぇよ。………?」
その様子を一瞥した後文句も無く察した様に離れ、十六夜らしくない静かさになのはが声を掛けるも鈍い反応が返るのみ。
実際気に留めた雰囲気は無く寧ろ先程己に怯えたなのはに抱えられている狐を気にして視線を移すと、久遠は金糸雀をじっと見ていた。
動物の表情で分かりづらいが驚いてる感じだと十六夜は思い。
「あ、そうだ!ふっふっふー、実はくーちゃんにも凄い能力があるんだよ!」
対してなのはは露知らずと得意げな顔で本題を切り出して、その言葉に思考を手放しで待ってましたと十六夜含め全員が注目すると。
「いいよ、くーちゃん」
「くぅん」
合図する様に語りかけたなのはに反応して小狐の体躯が眩い光を発し目を眩ませ、収まるとそこには金の髪に獣耳と狐の尻尾を生やす巫女服の少女が立っていた。
「へ、変身術?」
「驚いた…魔力の反応も無かったよ?一体どういう事なんだい」
ユーノとアルフは目を見開き驚き、立ち直ったフェイトも表情こそ余り変化無いが内心驚愕して。
然し十六夜と金糸雀とエルは全く表情に変化無し。
「あ、あれ?十六夜君も驚いてない!?」
「いや、感心はしてるけど……なあ?」
「………確かに、今更かも」
言葉と共にユーノとアルフを見ると吊られてなのはもそちらを一見し、直ぐに納得し肩を落とす。
一番驚かせたい相手が冷静極まっていて残念がる間に人化した久遠が十六夜まで歩み寄り。
「……さっきは、ごめん…おどろいた…」
「ハハ、さっきも言ったが気にしてねぇ」
緩りと不慣れな喋り方だが非礼を詫びる久遠に軽いノリで返す。
「それより折角だから本殿の方にも寄っていきたいんだが…金糸雀、コイツの事見ててくれないか?」
「いいね、僕も日本の神社には興味があるんだ」
「えっ?」
そして唐突に十六夜が提案を切り出すと今まで静観していたエルも外国人設定を利用したような口振りで便乗して全員を促し。
当然その他メンバーは困惑気味だが、意図を察した金糸雀がクスリと笑みを漏らし。
「あら……そうね。なのはちゃんは此処の神社に有識そうだし、皆の案内をお願いできるかしら?」
「あ、じゃあ……くーちゃんもそれでいい?」
「……だいじょうぶ……」
後は自然の流れに身を任せ特に異存が無い事を確認取ると、それぞれ大人しくなのはの先導に連れられ境内の奥へと歩み去り。
鳥居に残されるは金糸雀と久遠。
全員が離れるのを待つよう暫し間を置くと金糸雀が口を開く。
「久しぶりね。まさかこちらで再会するとは驚いた」
「……かなりあさまも……なんて、おわびをすれば…」
「おや、まだ気にしてるのかな?私がそうした方が正しいと思った故の行動だし、余計なお節介だったかもしれないのだから貴方が気にする必要は本当に無いのよ?五尾の妖狐、久遠…」
漸く二人きりになり再会を交わし合う。
そう、なのはに紹介されたこの小狐こそかつて日本の化生を纏めた大妖怪の血を受け継ぐ子孫の妖狐である。
憂いを帯びた瞳で金糸雀を見つめる久遠はぎゅっと袴を握ると納得していない表情で。
「でも……それは…!」
「おっと、五尾の本格を顕す必要は無いわよ?まだ大分霊格が抑え付けられてるのだし」
「………ッ」
話しを遮る様に静止させられ久遠は押し黙り。
生まれや由来に別に関わりがない二人が出逢ったのは遥か昔、300年前にまで遡る。
*
長い歳月を得て妖怪と成った久遠は海と山で遮られた辺境村の一角に身を寄せていた。
先祖が起こした事件によりここ"外界"と呼ばれる世界に落ちた数少ない生き残りがそれでも密かに繁栄を続け、その実態等はこの世界で産まれ落ち育った久遠には預かり知らぬ場所だった。
それでも伝承を継ぎ色濃い血を持つ妖狐の久遠は"その場所"を認識しており決して再びその地に踏む込む事を許されない事も。
密やかに暮らし世界を巡っていたある日人里に降りたばかりに追われる身となり、都心の京から遥かに離れた辺境村まで逃げ延びて難は逃れたものの強靭無比な落雷の恩恵等を屈指した末に既に減衰していた霊格は身体の傷や衰弱と共に回復力を著しく落として遂には地に伏した。
次に目が覚めた時には火の精霊を僅かに香らせる一屋の中。
驚愕で飛び起きるも満足に身体を動かせず、それを見た少年が慌てて宥めに掛かる。
どうやら倒れた久遠を連れて救ったのがこの薬売りの少年で、その話しを聞いた時初めて人情に触れて涙を流した。
少年は弥太と名乗り、生涯で唯一無二の人となった。
それからまた暫く療養と隠れ家として弥太との営みがあり。
幸い辺境村で辺りは海か山で遮られ人口も少ない事から久遠を追及する者も居なく平穏な日々を送った。
村の奥に代々伝わる由緒正しき神社と、そこの神主の娘であるみつというまだ幼い少女と出会い友達となった。
治療の為初めて人間形態を取り更には辿々しいながら人語を話す久遠に弥太を驚かせたのはいい思い出で、みつと三人で人語の学習をしたり、薬の知識を得意気に話され二人の少女が苦笑する等々、安寧を過ごす中で弥太とは年頃の男女の仲にまで発展していた。
恋に酔いしれ愛の営み交わし、親友の少女にバレて揶揄われたりと。然し成長と共に平穏を脅かしたのは後の都の崩壊に繋がる大火災と、特に近隣村で流行った伝染病。
瞬く間に広がった病は死者を多数出す程で山を越えた一つの村が壊滅したという噂も流れた。
その頃には三人が住まう辺境村にも祟りだのと騒がれ村人が怯えて過ごす日は少なく無く、然しその知識を伝授され更に己も無自覚の内に宿している恩恵がこの病の性質を悟りそれを報せに忙しなく渡った。その為久遠も存在を隠す事無く五尾の妖狐の身体能力を活用し弥太を手伝い、ある日特効薬の開発まで成し遂げたのだ。
だが、神託と世迷言を述べた神主は禁忌を侵した。
人を贄に神風の病にして退廃の風を納める冴えた方法と豪語する、人情を踏み外す道。
その名を、人柱。
久遠は特効薬を村々の長や病院に渡す任期を終えて愛する少年と親友の少女が待つ里へ帰還したある日。納屋はものけの殻で、途端に神主が口にしていた言葉を思い出し直様神社へ向かう。
「………ッ!違う…そんなまさか…!」
そして目にした光景は残酷にも、臓器を抉り出されて柱に吊るされた弥太とみつの"残骸"だった。
金の女性は傍らに燕尾服の男を連れて辺境村を訪れていた。
「これはまた、酷い有り様ね……本来なら後の"
「そうだな、
「……他殺」
二人が見た光景は感染者を悉く杭や槍で打ち抜き絶命した村人の亡骸の山。それと、恐らく奥地では隔離という名の軟禁状態にされた村人だろう気配を感じ。
「おお、金糸雀よ。殺気が凄まじいぞ」
「は?これを見て正気を保てとでも?これでも犯人を探し出して今すぐにでもダンテの歌も届かぬ奈落へ陥れてその上で生き恥を後悔し切れないくらい八つ裂きにしてやりたいのを必死で抑えてるのよ。この僅か一日で出た死者の数だけでも"
捲し立てる金糸雀は地を歩むだけで小さくも亀裂を起こし、表情こそ変化は余り見られないが憤怒のオーラが一帯を包む。
「えぇい全く抑えられておらんぞ!かくいう私も今回は流石に"キハハハハッ!"とも笑えぬがなッ!」
「黙って、クロア」
「なん─────」
クロアと呼ばれた男は三高帽を取って下ろし、会話を中断すると金糸雀が突如駆け出す。
有無も聞かず大地に風の跡を残して去ると慌てて追尾し。
目指すは辺境村の奥地に建てられた神社、その扉を開くと怖気はしる光景を目の当たりに。少年少女が一体ずつ磔にされハラワタが剥き出した惨劇の有り様に、然し目を凝らしながら冷静に周囲を見渡すと奥で高笑いをする神主と後方で今には憤怒を爆発させん妖狐の少女を見つけ。
「クロア、二人を回収。一度離れるわよ!」
「任せたまえ!既に回収済みだ!」
「ナイス!!」
短くやり取りをした。
クロアの両腰には空間跳躍で磔から解放した二人の少年少女が抱えられ、血を垂らすも構わず神社から出る。
その直後、妖狐は大妖怪と化して神社諸共全てを吹き飛ばす勢いの雷撃が散る。
「流石歴戦の大妖怪の末裔、今の私だと攻撃を防ぐにも一苦労…ッ」
咄嗟に村人が収容されている建物の前で手を翳し。
燕尾服の男も同等の行為を成すと一帯を焼け野原に変えた雷撃が収まり、未だ帯電している巨大妖狐の下には直撃で灰燼と化した元神主と恐らくその部下の亡骸。
だが金糸雀はそんな塵芥共に構わず、クロアも意思疎通が完璧で回収した少年少女を地に下ろすと容態を見る。本来なら普通に助かる筈も無いのだが。
「まだ息吹を閉ざしていない…こっちも。この子の恩恵?でも絶命はしている…ともかく速く処置を!」
「待て!まさか"エレウシスの秘儀"を使うのかね!?アレは────」
「何の為の外界で持ってきた数少ない恩恵だと思ってるの!此処で使わずしていつ使えと!?」
気付けば二人の少年少女から剥き出された臓は傷と共に消えていて、串刺しのままの磔状態ならば恐らく幾ら回復しても一向に治らなかっただろうが、今は何かしらの力が働いたと考察。
だが肝心の魂は霊格が抜け落ちた様に既に離れて肉体は実質死を迎えているも致命傷になる欠点は残されていなく、魂が冥府に留まっているならば間に合うと一縷の望みに賭けて、金糸雀はクロアの静止も無視して"
大地の女神にして冥界の女王とも謳われたギリシャ神群で唯一無二の死者蘇生の使い手。彼女以外は決して使えない恩恵だが、とある遊戯にて試練をクリアすればその身技を授かる事で一度だけ使用可能な秘儀。
それを躊躇なく金糸雀は発動させた────。
久遠が目を覚ました時には既に力を使い果たし少女の姿に戻っていた。元々弱っていた霊格だが正気はとっくに失っていて、そんな自分が今は正気の状態の理由が理解出来なかった。
「お目覚めかしら?」
「………えっ……」
未だ覚醒し切れないもうっすら開けた瞳に映ったのは金の髪。
女性は久遠の頭を撫で下ろすと視線を周囲に向け。
「ごめんなさい、駆け付けた時には殆どが手遅れで…非発症者の方々と人柱にされていた二人しか救う事が出来なかったわ」
女性の言葉を矢張り理解出来なかったが最後の言葉には一気に覚醒し、飛び起きて左隣を振り向くと悍しい姿にされた筈の恋人と親友が安らかな寝息を立てていた。
「………ッ!?」
「魂はなんとか定着させたけど、傷は癒えて間もないから暫くは安静ね。彼の恩恵が無かったら恐らく助からなかった…」
話しを聞きながらも次第に意識がハッキリとしてきて、此処が少年と自分が営んだ家である事に気付く。
屋根は吹き飛んでいて壁も一部失い、外の景色は何処も似たり寄ったりだが神社の在った方角は村人が軟禁されていた納屋を残して一帯が焦土と化していた。救いはその付近に神社の関係者以外住まう人が居なかった事か。
そこで気付く。あの時久遠は間違いなく大妖怪と化して暴走、怒りと怨念の侭に全てを焼き尽くすつもりだったが被害が色々少なすぎる…つまり目の前の女性が助けてくれた上に自身も宥めてくれた事を理解し。
「ありがとう…御座います…!」
「どう致しまして……と言いたいけれど、申し訳ないけど貴方の力は封印するしか無かったの」
「えっ!?……あ、本当だ。雷撃が出せない」
即座に手と頭を地に着けて礼を述べると女性から告げられた事でハッと頭を上げ両の掌へ力を込めるも本来なら発する能力が出ないのに気付き。
「こればかりはどうしようも、ね」
「い、いえ!助けていただけただけでも…感謝をし切れません!」
それでも恩が膨れるばかりと必死に伝えると金髪の女性、金糸雀は苦笑しながらまた頭を撫で。
彼女の名を知ったのは少し経ってからだった。
村の再建に協力を惜しまず、村人からはこの破壊痕は神社の神主が引き起こした儀式の失敗だと伝えていたらしく、久遠が迫害される事は無かった。
どうやら蛇の杖の"旗印"を見せると長老が平伏して以降金糸雀の全ての言葉は事実だと誤認、久遠も知見があったのか偶々居合わせたばかりについ同じく地に膝を着けて逆に彼女を困らせてしまったが。
暫く滞在した金糸雀は村が落ち着き二年半後、村を去った。
それから回復した弥太とみつと三人での生活が再開した。
両親を失ったみつは久遠達と共に暮らす事になり数多の歳月が過ぎ、二人は天寿を全うして静かにこの世を去った。
きっとあの時金糸雀が救ってくれなければアレ以降も弥太と契りを交わす事も無く、みつとも永遠の別れをしたまま久遠は神職への恨みと疑心暗鬼で大妖怪として破壊の限りを尽くしただろう。
二人を追悼した後久遠は辺境村を去る。
残念ながら弥太との間に子を成す事は出来なかったが、種族の違いからそれは余り期待してなかったりして。
久遠が目指したのは都心部。
京の都が天明の大火で騒がしい中、可能な限り行ける地を目指す。
高位の霊格が封印されても人化と些細な術は行使出来て、練習の末耳と尻尾を隠す擬態を学んだ事によりもう狐狩りに怯える心配も無くなった彼女は金糸雀を探す旅に出たのだが。
最初から出鼻を挫かれる事になる。
「ちょっとええか?嬢ちゃん、少しウチに付き合おうてもらおうか?」
「え……は、はい」
異様な雰囲気を纏う女性だった。
道中で呼び止められとある建物へ訪れる事となった。
格式の在りそうな立派な境内と広々とした屋敷、思わず縮こまる久遠は女性へ連れられ奥間へ。
「単刀直入に言うで。嬢ちゃん…九尾の玉藻の前の血統者、五尾の大妖怪・久遠ちゃんは直ぐに都から引き返した方がええ。あそこにはウチの官僚も所属してるんや。流石にかばえへんよ?」
「なっ!?ど、どういう…………ハッ!」
最初は己の素性を明かされた上で傲慢に告げられた内容に反発しそうだったが彼女が言った意味とその存在を視て全てを悟り。
「まさか……貴方は!?」
「おやや、もしかして視えたんか?まぁええ、ウチとしては玉藻の前との因縁に子孫まで巻き込むつもりはあらへんし…」
そう、この人こそがかの陰陽寮に通じ、宇迦之御魂神に通じる、童子丸こと阿部晴明の母として知られる命婦"葛の葉"である。外界の化身からでも溢れ出る神格に息を呑み。
「ただなぁ、久遠ちゃんが約百年前に破壊した神社はウチらの系列でもあったんよ。それは金糸雀ちゃんが自らの霊格の一部譲渡と、嬢ちゃんの霊格を封印して落とし前はついたんやけどな?流石にウチの縄張りに来るんはアカンよ」
次々語られる情報に混乱しそうになるが一部分だけは聞き逃さずつい反応を大きくした。
「お待ちください!かなりあさまが…なんと!?」
「なんや聞かされてないんか?本来なら久遠ちゃんの命で落とし前をつける筈やったけど、金糸雀ちゃんが出向いてくれたんや。あの子も…跡地とは言えまだウチの縄張りでギリシャの蘇生術を使うん禁忌は犯したけどそれはええ。ディストピア戦争の英雄に僅かながらでも霊格と恩恵の譲渡まで言われたんや。久遠ちゃんが悪させんように一部霊格の封印ならって感じやけど…」
頭を鈍器で打ち付けられた衝撃だった。
不義理過ぎると、勿論金糸雀は単に罪悪感に苛ませるのは避けただけだろう、それは久遠も分かっていたがお礼くらいはしたかった。返せない程の恩であってもならば一生涯隷属してでも良かったが、これも彼女は予測していて気付かれない内に村を去ったと合点がいく。
結局久遠は忠告通り直ぐに都を去り、葛の葉の話しでは金糸雀は此処には居ないと言われたのもあり他国へと渡ったが、金糸雀を見つけられる事は無かった。
*
そして漸く今日金糸雀との再会が叶った。
既に諦めていてこの神社の関係者が偶々良くしてくれたのもあってこの地に居着いたのだが、いつしか人間不信になってしまい。
それでも根気良く久遠に接してくれたなのはに心を許して現在に至り、思えば少女との出会いも運命だったのだと夢想し。
「そう、彼女から聞いたのね……これでは私が貴方に呪いを掛けたのも同義じゃない。寧ろ謝るのは私の方だわ」
「ちが……ッ!かなりあさまにはほんとにかんしゃしてて…!」
金糸雀は己の行いが偽善で浅はかだったと嘆くも辿々しい喋り方で必死に訴える久遠。
「…なら此処はお互いごめんなさいで手打ちにしましょう。なによりも何時迄も縛り付けるのは貴方の為にならない…勿論隷属なんて以ての外よ?」
「………わかり、ました……」
渋々とだが頷く。
そもそも自分は命も霊格も奪われず封印処置に対して彼女は文字通り霊格を少し減らして恩恵の譲渡までしたと内心納得は出来ていないが、金糸雀の困り顔を見るとそれ以上は何も言えなかった。
その後は十六夜が自分の義理の息子で今は孤児院を経営しそこに住んでいる等説明して。
「……かなりあさま…なのはとは…?」
「ああ、なのはちゃんとは十六夜君を通じて知り合ったのよ。久遠は彼女が何をしてるか知ってるの?」
「…まえにここでたたかってた……まほう?つかって……」
相変わらず途切れ途切れの口調だが見た目に精神年齢も引き寄せられるので仕方なく。
ボーッとした雰囲気もその為だ。
「……いざよいは…なにもの?」
そして今度は久遠が気掛かりの事項を尋ね。
「ふむ…世界を揺るがす程の力を持った問題児ってところかしら。今は絶賛教育中」
「……わかった……」
誤魔化す様に口許へ指を当て質問に答え、それで十分得心がいったのか首肯して。金糸雀は何も言わず後ろから久遠を抱き締めるとそれを心地良さそうに甘受し。
「……こんど、しせつに遊びにいっていい…?」
「勿論大歓迎よ。まだ設立して間もないけどご馳走くらいは出来るから」
「……うん…やくそく……」
機会があればなのはにでも教えよう、そうすれば久遠も迷わず来れるだろう、と金糸雀は思い定めると奥の本殿から十六夜達が戻ってくる。
「なんだ、もう打ち解けたのか?」
「ええ。ふふ、かなり仲良しになれたわよね?」
「……うん!」
全員が目の前まで揃うと十六夜が悪戯顔で問い、それにぎゅっと抱き続けながら顔を久遠と高さまで近付け見せ付ける様に答え。
久遠も嬉しそうに頷く。
「あう〜〜くーちゃんがどんどんわたしから離れて行く気が」
「だ、大丈夫だよなのは…」
一方なのはは久遠の親交が広がる事へ嬉しさと寂しさから再び嘆き、若干本気っぽさが滲み出て慌てたフェイトが撫でながら慰め。
「なのは…よしよし…」
「うえーん、くーちゃんフェイトちゃん!ひしっ」
空気を読んだ久遠は金糸雀から離れなのはの下へ行き頭を撫でるとフェイトと久遠に抱き付き。
「……なぁ、あいつどんどん幼児退行してないか?」
「う、うーーん…あたしはフェイトの代わり様に嬉しさ通り越して驚いてるよ」
「アハハ、仲良き事は美しきかなでしょ」
残された十六夜とアルフとエルがそんな会話をして。
金糸雀も子供達の様子に微笑し、主に嬉しい方面で様々な出来事が過ぎた一日は空も暗くなってきて御開きとなった。