しかしこの作品は終わらない。
頑張って完結させますので、温かな目でご覧ください。
さて、今回から林間合宿編、そして...鬼姫、戦力拡充開始の回です。
うっすらと瞼を持ち上げると、目の中に朝日の光が刺激し、一度瞼が反射的に閉じられる。そして光に目が慣れたところでもう一度瞼を持ち上げると、今度は液体が目元から溢れる。それが涙だと知るのは、もう少し先だ。
上半身を持ち上げたところで、溢れ出た液体が零れ落ちる。そこでようやく涙だと自覚した私は、仄かな意識と共に無意識な知覚をする。
――――夢を見た。おぼろげだが、どこか寂しい夢だ。
「雄英高は一学期を終え、現在夏休み期間に入っている。だが――――」
まだ抜けきらない眠気と格闘しながら、担任に当たる相澤先生の話を聞き終えた私は、出発までの空き時間で一人日向ぼっこに興じていた。ポカポカと当たる日差しに意識がまどろみつつも、ふと私はあることを思い出した。
夢とは、一説では就寝中に脳が記憶を整理している状態にある際に知覚するものである...と、どこかの記事で見たことがある。
ウトウトと半分眠っているような感覚でそんな他愛もない思考を続けていたが、視界に入った二つの人影―――ウヴァとドレミ―が何か話しているのを観察していたけれども、気づけば出発の時間を迎えていた。
◆◇◆◇◆
バスに揺られてどのくらい経ったのだろう。幾分か眠気が飛んだ私が次に目を開けたとき、見晴らしのいい空き地辿り着いていたことに気づいた。本調子まではもう少しだけ時間がかかりそうだ。
「よーーーうイレイザー!!」
「ご無沙汰しています」
相澤先生が頭を下げたところで猫をモチーフにしたアイドルらしきコスチュームに身を包んだ女性が二人、そして角の生えた帽子を被った5、6歳くらいの男の子が私たちA組の前に現れたのだ。
「今日お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
相澤先生の紹介に私は薄目で二人の女性を見つめた。赤いコスチュームを着た黒髪ボブの女性が“マンダレイ”、水色のコスチュームを着た金髪ポニテの女性がピクシーボブ...だったはず。
――――あれ、なんでそんなこと知ってるんだっけ...?私が知っているのは、精々職場体験までだ。
緑谷の興奮した説明を右から左へ流しつつ、私は考え込む。何故、どこで、この情報を知ったのか。わからない。わからない――――――。
「ヒーロー一つ一つに、それぞれの歴史があって、たくさんの可能性を秘めているんだよ?」
――――声が聞こえた。私と同じくらいの、同級生というべきなのかもしれない。誰なのかもわからない。もしかしたら、転生する前の私の友達なのかもしれないし、兄弟、または姉妹だったのかもしれない。
視線を辺りへ巡らせるが、クラスメイトは皆ポカンとした呆れ顔。誰もさっきの声は聞こえていなかったのか。となると幻聴?しかし――――――
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね!」
そんな考え事をしているのにも関わらず、時間とはあまりにも残酷なことだ。ピクシーボブが私たちの前方に現れて地面に手をつくと、土砂が盛り上がって皆が森の中へと落ちていく。
流石に私の意識も危機的状況であると知覚したのか、意識がクリアになっていく。次々流れてくる土砂の中にある塊の上を的確に踏んで皆を助けるため下へと降りていく。
「おい!なんで俺はこっちなんだ!」
そんな怒号が後ろから聞こえたところで、私はハッとした。今救助に向かっているのは破厳、ドレミー、ウヴァ、私を含めて計4人。一人足りないのだ。ということは、宇覇が一人待機組だ。難易度調整にしてはいささかやりすぎな気もする。ドレミーの言葉も頷ける。
「私有地につき、個性の使用は自由だよ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!!この...魔獣の森を抜けて!!」
マンダレイの声がA組の鼓膜を揺らし、合宿最初の難関が始まったのだった。
◆◇◆◇◆
クラスメイト達が後ろで土砂でできた魔獣達を倒しながら進んでいる中、私とドレミーは最前線を走っていた。ドレミーが森に落ちて最初に見せたライナーフォームに私も最初は驚いた。いつの間に仮面ライダー電王の力を身に着けていたのか、どんな経緯があるかはさておき、ドレミーのその姿は様になっていた。
人間は成長する生き物だ。年齢を重ね、経験を増やし、家族を作り――――
「...っ!」
物思いにふけっていた私へ魔獣の一体が飛び出してきたが、身体の反射行動で魔獣の首を砕き、迎撃する。この作業にもやっと慣れてきたものだ。だからこそ、私はこの物事を考えてられるのだろう。
――――深海棲艦は、強い未練を抱いた艦娘が深海棲艦化し、その元いた場所に還りたいという思い故にかつての仲間たちと戦う羽目になる────所謂無限ループ説を見たことがある。それも一つの答えだろう。公式からの明言も一つの答えだ。
〔Put on!!〕
私が左右に分かたれたマスクを正面へ戻すと、滑らかな脚部を新たに生成された装甲によって覆われる。プットオン――――それは仮面ライダーカブトに登場する一種の応用技術だ。ライダーフォームからマスクドフォームへ戻る際に使用されるのだが、劇中では出番が少なめ。特定の部位だけをプットオンして攻撃を防ぐ、なんてことができるのも画期的なシステムである。
その脚部のまま跳躍すると私の体は浮き上がり、超高速により発生した慣性の法則に引かれたまま魔獣たちの合間を通過していく。後続の人達には悪いが、後処理だけはしてもらおう。
〔CAST OFF!!〕
そうして慣性の法則で飛んだ私は着地際に再度キャストオフを行い滞空距離をギリギリまで稼いだ後に着地し、スピードを落とさぬまま走りはじめる。ドレミ―とは距離が開いたが、彼女の事だ。きっと早く追いついてくるだろう。
そうして私は再び物事を考えつつも、魔獣の森を切り抜けるのだった。
◆◇◆◇◆
プシーキャッツの宿泊施設であるマタタビ荘に到着した私たちだったが、到着時間は午後5時20分。お昼どころか予定の時間よりも大幅にオーバーしていた。私単体ならまだしも...という不服はさておき、相澤先生の話が本当なら、本格的なスタートは明日。体に負荷がかかり始めるのだ。今日はゆっくり――――と思っていた私だったが、負荷をかけるのは今日からだ。
「無茶をするな...とはいうけどねぇ...」
先日のオールマイトと根津校長と話した件は、既に教師陣にも届いているようで、私が外で練習をする際は必ず一人、空いているヒーローが付くように言われてるらしい。...まぁ、今回は相澤先生が担当で「無茶だけはするな」とくぎを刺したままマタタビ荘の方に戻ってしまった。合理的な人だが、今回は絶対どこかに潜んで情報収集してるよあの人。
「...まぁ、そんなこと言っても始まらないし。...やりますか」
私の個性はみんなの前では多くを使うことはできない。それは、私のカードを減らすことにもつながるからだ。教師陣?それはもう仕方ないよ。うん。
そんなことを思いつつ、私は地面に右手を置き、目をつむる。そうすると暗闇の中、水のような液体的感覚が指先を刺激する。刺激を認識した私は目をつむったまま思考し、指先を通して目の前の地面へと思考を流し込むように意識する。
ズズズ...という音が鼓膜を刺激し、共に何かがせり出してくるのを感じ取る。そうして目を開けた私の目の前にいたのは、肥大化した上半身に比較的小柄な下半身、そして小さな尻尾に猛獣さながらの意匠が施された深海棲艦――――そう、戦艦棲姫の隣の人でお馴染みの16inch三連装砲さんである。
「これは...成功したって捉えていいのかな...?」
私を見下ろしてくる16inch三連装砲さんは何も言わないし、判断してくれる人は......いたわ。
『...ソレデ私ヲ呼ンダト?』
「そうなのよねぇ...」
戦艦水鬼...戦艦棲姫の改修型(?)に当たるこの子ならこの16inch三連装砲さんは成功なのかわかる...はず。霊体となっている戦艦水鬼は淡く光る青い燐光を放出しながらうんともすんとも言わない16inch三連装砲さんのもとへ歩み寄ると、その右手を16inch三連装砲さんの身体へと添える。
『...形ハ完璧。ダガユニットトシテハマダマダダナ』
「うへぇ、この先が思いやられるなぁ...」
戦艦水鬼からの辛口なコメントに私はげんなりとした。だが、完成させないとこの先の戦闘でガス欠は必至。何とか使用できる戦力の拡充をしなければ、一人で何人もの敵と戦う状況が続くだろう。覚悟を決めた私は、夜通し個性の模索と自主練習を行っていたのだが、案の定相澤先生に怒られた。深海棲艦は元々睡眠しなくてもいいのに、なぜ眠らなければならないのだろう。私は訝しんだが、これはまた後の話である。