世間では闘争が刺激される出来事がありまして。
久々の更新、文量が少ないですが、オニイサンユルチテ…。
林間合宿二日目。
「おはよう、諸君」
相澤先生の第一声が鬼姫の鼓膜を刺激する。林間合宿も二日目に入ったが、行われるのは、個性の限界突破と呼ばれるもの。個性を限界まで酷使し、性能をより引き上げるというものらしい。だが鬼姫からしてみれば、個性の強化は既にやったもの。つまり、夜通し行っていた拡充の延長戦だ。
「...煉黒。お前は他の奴らとは別で特訓しろ。その方が合理的だ」
相澤先生もそれを承知で他の面々とは別で鬼姫へ指示を行う。鬼姫もコクリと頷くと、今までよりも明らかにキレの違う身のこなしで山の奥へと消えていく。誰にも見られてはいけない以上、見えにくいところに行くのが賢明だ。
「...いいのかいイレイザー。あの子一人でも」
「...アイツは他の奴よりも一層特殊だ。だからこそ、一人で居させた方が個性は引き出されるはずだ」
全員への伝達が終わった少しの隙間時間で、マンダレイとイレイザーヘッドは話していた。話題はもちろん、開始時点から別行動で動いている少女、鬼姫についてだ。マンダレイも、ラグドールから異質な生徒の話をされていたが、それが鬼姫だったのだ。
ラグドールから「居場所そのものは見つけられる。だが弱点を探し出すのは容易ではない」と言わしめたのだ。ヴィランとして立ちはだかっていたらヒーロー側からしたらかなりの脅威になっていただろう。マンダインはふと一層大きくなった轟音を聞き、山奥から目視できるくらいに立ち上がった土煙へ視線を向けながら、鬼姫の成長を案じているのだった。
◆◇◆◇◆
「
「ふふ、頑張ってくださいなマスター!」
「ぐぬぬぅ...まだまだぁ!」
そんな鬼姫は今、圧倒的な弾幕に翻弄されていた。自主練習の内容は、ヲ級が展開する艦載機を撃ち落とすというもの。内容自体はシンプルなものだ。だが、この訓練の難易度をさらに引き上げているのは、弾幕を張ってくる深海棲艦の存在だ。ヲ級はもちろんのこと、ネ級やレ級も有り余る砲弾を撃ち込んでくるのだ。普通の人ならまず回避さえできない弾幕量だが、鬼姫は人間から逸脱し、同じ土俵に立った深海棲艦として回避し続けていた。
左へ右へ。時に正面から背面への急速旋回など、持てる限りのテクニックで鬼姫は応戦する。最初の方は三人だけの弾幕でやがて鬼姫のほうにも余裕ができ艦載機を数機撃ち落とせるようになってきた。だが――――
『面白ソウナ事ヲシテイルナ?』
『少シ、鍛エテヤロウ...』
『耐エラレタラ、合格...ダッ!』
『頑張ッテ...ネ?』
『スグ沈ンダラ、許サナイカラァ...』
少しして厚く、そしてバカ強化された弾幕によって即落ちした鬼姫だったが、リスポーンしたところで目を疑った。ヲ級、ネ級、レ級の三人の他に青い燐光を放つ影が一気に5つも増えているではないか。そう、戦艦水鬼、泊地棲姫、太平洋深海棲姫、港湾水鬼、防空棲姫...最終形態を形作っている5人の姫・鬼級の深海棲艦が弾幕を生成しているのだ。反則技も甚だしい。
戦艦水鬼と港湾水鬼の20inch連装砲が、泊地棲姫の長射程砲が、太平洋深海棲姫の深海16inch Mk.VIII連装砲が、泊地棲姫の4inch連装両用砲+CICが次々と火を吹き、鬼姫の周辺へ次々と着弾し火薬の香りと土煙が量産されていく。砲弾は周辺の木にも着弾し、根元からバッキリへし折れ、紙屑のように空を舞う。
「ふぁ!?姫&鬼級は聞いてないよ!?」
『アァ、今話シタカラナ』
弾幕を紙一重で回避し続けながら訴えるが、戦艦水鬼が当たり前のように鬼姫の言葉を一蹴し、火力を増やし続ける。一人だけ他の生徒とは違う実戦訓練を行っているのは、強化の為だとは言え、流石の姫・鬼級が参戦してからは鬼姫の被弾も増えていき、轟沈回数もかさばってきた。
秘密裏にリスポーンできる空間を創り出せるようになったとはいえ、これは使い方が違うのが現状。自主訓練は、まだまだ終わりそうにはなさそうだ。
「ふふ...さぁ、まだまだいきますよマスター!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
弾幕を張り続けながら告げられるネ級の言葉に、鬼姫は悲鳴を上げた。その日の自主訓練は、夕食前ギリギリの相澤先生が呼びに行くまで続いたのだった。
◆◇◆◇◆
『お疲れ様だ。多少は様になってきたな』
「それはどうも」
その日の夜、肝試しが始まる少し前のこと。鬼姫は東洋棲姫からの相談で皆から少し離れたところにいた。東洋棲姫の開口一番から受けた労いの言葉に軽く返した鬼姫は、東洋棲姫へ件の“相談事”に関してを促した。
東洋棲姫はというと、いつもの実体ではなく、戦艦水鬼らと同様の淡く光る青い燐光を纏った霊体で鬼姫と相対していた。
「...んで、相談事って?」
『━━━ヒーロー
「まぁ、ある程度なら。って、
『もう、わかっているのだろう?』
「それはっ━━...わかってるよ、十分なほどに」
東洋棲姫の言葉に鬼姫は息を詰まらせながらも、何とか言葉を返す。彼女は鬼姫の返答に続けて告げる。まるで、お前の都合など関係ないとでも言いたげに━━━━。
『深海棲艦のことを鑑みて、私達は本来正義に成り得ない。下手をしたら、ヴィランにだって...』
「わかってるって言ってる!!」
鬼姫がそう叫ぶと東洋棲姫の隣を何かが通り過ぎ、背後で轟音と木が何本か倒れる音、そして爆風に近い煙が巻き上がる。東洋棲姫が通り過ぎた方に視線を向けると、そこには━━━黒い剛腕があった。
彼女が改めて鬼姫の方へ視線を戻すと鬼姫の隣には、左腕を振り抜いた状態で静止する16inch三連装砲さんの姿があった。
「ぁ━━━ご、ごめんね。つい...」
『いや、気にしなくてもいい。それより...』
「あっやっば肝試しあるんだった!先に行ってくる~!」
鬼姫は16inch三連装砲さんを自身の影に収めると、東洋棲姫の横をすり抜けてA組の皆が居る方へと走っていく。
『...鬼姫。君が無茶をするのは構わない。だが━━━━』
東洋棲姫はそこで言葉を切ると、ふと空を見上げる。上空に広がる星空へ目を細めつつ、言葉の続きを紡いだ。
『━━━━━━時間はもう...残されていないぞ』