「あつーい...」
日光が真上で照らすお昼頃、商店街をふらりふらりと歩く人影が一つ。150センチ程の非常に小柄な体格に背中まで伸ばした純白の髪、そして金属のようにも繊維のようにも感じられる奇妙な質感のマスクを口元から耳にかけて装着した少女が、裸足のまま歩いていた。
「まだまだ着きそうにないわねぇ......」
欠伸混じりのまま、鬼姫はそういう。現在彼女は小笠原諸島周辺の海を通過し東京湾へ入っていた。眼の前の海へ突き立てた指揮棒似両手を添えるその姿は、待ち構える騎士のようだった。
そのまま海上を滑って順調に行ければ良いのだが、鬼姫の中には不安な点――及び懸念点が幾つかあった。その一つが―――
「この天気がねぇ.....」
――天候だ。深海棲艦が出現する際は、必ずと言っていいほど周辺海域の空には暗雲が立ち込め、空を覆うのだ。艦娘達はそれを目印に作戦を立てて行動しているのだが、
そしてもう一つの懸念材料は、ヒーローの存在だ。現状、本州に辿り着けなかったら.....下手をすればヒーローに捕まりかねないのだ。転生して行動を起こす前に
「....ないことを祈るしかないけどね」
どこかフラグ臭を感じる言葉をひとり口から漏らしつつ、一人航行を続けていたのだった――。
◆◇◆◇◆
「待ちやがれ密航者ぁぁぁぁぁ!!」
「だから私はれっきとした日本人ですぅぅぅぅぅ!!」
ヒーローとエンカウントすることは、そんなに時間がかからなかった。ただのヒーローなら鬼姫の敵ではない。だが、今回は相手が相手だ。
オールマイトに勝てるか怪しいからこそ、彼とエンカウントすることは避けていたのだが、エンカウントしたのはまさかの海難ヒーロー“セルキー”だった。
アニメ版も一応視聴していた鬼姫は、彼の個性を把握していた。個性“ゴマフアザラシ”――ゴマフアザラシができることは大抵できるという。海では敵なしのヒーローだ。
「今大人しく捕まれば、厳しい処罰は免れられるぞぉぉぉぉぉ!!」
「凄い形相でそう言われても違和感しかありませぇぇぇぇぇん!!」
そんな水中から時折怒鳴り超えを上げているセルキーに追いかけ回されながら、鬼姫は打開策を頭の中で思考を高速回転させることで考えていた。加速しすぎて、周囲が遅く感じられるくらいには思考がショート寸前まで高速回転していた。
「(どうするどうする!?セルキーはマジで意識外だった!とりあえず迎撃?疑似魚雷でひるませる?いや、当たったらそれこそ大惨事.....)ええい!ままよ!」
珍しく気が動転していた鬼姫はそう決断すると、本州へ向かいながら帽子の口からゴム弾を装填した機銃を装備した艦載機を3機、閃光と水中での超音波が特徴の疑似魚雷を搭載した艦載機2機、計5機の艦載機が次々と射出され、ある程度上空へ舞い上がっていく。
艦載機たちは編隊飛行である程度の高度まで浮上すると急降下し、それぞれセルキーがいるであろう海域周辺へ機銃を掃射し、疑似魚雷を次々と投下していく。疑似魚雷は本来の魚雷とは違い時限式になっており、セルキーが疑似魚雷を避けて通過しようとした絶妙なタイミングで擬似魚雷が炸裂し、セルキーの視界と聴覚を一時的に使えなくする。
「くっそぉぉぉぉぉ!!」
「(ごめんなさいセルキー!今だけ捕まることは勘弁願いますぅぅぅぅぅ!!)」
セルキーが海上へ顔を出し悪態をついているのを後目に、鬼姫はすたこらさっさと艦載機たちと共に撤退し、見事本州へ到着したのだった――――――。
「これからどうしたものかなぁ...」
時は戻って現在、鬼姫はそんなことを呟きながら、中々目立つ商店街から脇道に続く裏路地へ入る。ここならヒーローに捕捉されにくいと踏んだ鬼姫は解除していた空母ヲ級へ変身し直し、自動的に被ることとなる奇っ怪な帽子の口を開き、手を突っ込む。
口の中から取り出したのは、本州への遠征前に獲ってきたクジラ肉の欠片であり、手頃な一口サイズにカットされていたソレを口へと放り込むと、咀嚼しながら歩みを進める。
「...さて、どうやって雄英に入ろうかな」
次に彼女へ立ちはだかったのは、雄英への侵入方法だった。なぜいきなりそんな事を思ったのかというと、とにかく原作へ介入したいという、傍から聞けば卒倒モノな理由だった。
彼女はそのために思考を回し続けていたが、脳みそはセルキーとの追いかけっこで随分と酷使してしまい流石に疲労困憊。これだ、という作戦が思いつかず、瞑想することになった。そして――――――
「....そうだ、
そんな一言から始まった鬼姫考案の、雄英移住大作戦。作戦は至ってシンプル。最初に
◆◇◆◇◆
計画は順調に進行した。黒霧との綿密な作戦会議(なお、作戦自体は殆ど変わっていない模様)、そして
名前だけしか載っていなかったが、明らかに現作には存在しない名前だったため、覚えるのは容易だった。そして、襲撃当日がやってくる......。
『今日はよろしくお願いしますね。煉黒さん』
「
鬼姫は今、
「破巌 砕拳、甘夢 獏、そして分倍河原 宇覇...か」
最後に残った鬼姫は3人の名前を忘れぬよう、もう一度復唱してから、クジラ肉を放り込み、一息に飲み込む。彼女のルーティンであり、日常的に行う願掛けのようなものだった。鬼姫が黒い霧のようなワームホールに入るとワームホールは閉じ、静寂に包まれた廃墟しか残っていなかった――――。