黒霧のワームホールを目を瞑ったままくぐると、独特な浮遊感が身体全体を包み込む。そんな浮遊感が数秒ほど経って収まると、そっと瞼を持ち上げ目を開く。開いた視界は先ほどまで立っていた
鬼姫はヲ級に変身した際、強制的に被ることとなる奇怪な帽子と元から顔に装着されているマスクの隙間から覗く瞳で広場に固まって構えている雄英側の戦力を推し量る。なぜか敵思考で戦況を把握しているが、そこは気にしないでおこう。
先生は全員で三人。A組の担任たる相澤先生ことイレイザーヘッド。二人目はスペースヒーロー“13号”。ブラックホールが個性という、非常に使いにくそうな個性を持つ曲者ヒーロー。そして三人目が
襲撃前にリストを見ていた限り、原作よりも人数が二人ほど増えていたため、急遽枠が20人から22人に増やされたようだ。そんな雄英生徒の中から、鬼姫の目を引くのは三人の生徒。その三人の姿を見た直後、早速原作から乖離していると自覚することとなった。その姿は完全に――――
「(完全にブラキ、ドレミー、ガタキリバですね!......対戦ありがとうございました)」
モンスターハンターの獣竜種モンスター、“砕竜”ブラキディオス、東方Projectの東方紺珠伝3面ボス、“夢の支配者”ドレミー・スイート、そして、仮面ライダー
「おぉ......やっぱりカリキュラム通りだ。オールマイト......お前を殺す。黒霧、女、お前は13号の始末だ。ここは脳無と俺で何とかする」
「どうかお気をつけて...」ズズズ...
「私に指図するな...」
死柄木の指示に悪めの口調で言葉を返しながら、黒霧と共に13号ら生徒たちが避難しようとした方向――USJの入口側へ移動する。死柄木の小言は、勿論無視。今回はあくまで雄英へお引越しするための手段だったのが、死柄木最大の誤算だった。だが、鬼姫自身、悪役自体は楽しんでいるようで、死柄木へ返した悪めの言葉がソレを顕著に表していた。
「はぁ......黒霧さん、とりあえず私を水難ゾーンへ飛ばしてくれ。いいか?」
黒霧の説明が終わった所で、静かに声をかける。オールマイトやイレイザーヘッドが戦闘している喧騒が聞こえてなお、発した自身でもびっくりするような冷たく鋭い、凛とした声。こんな声できるんだなぁと思いつつ、生徒たちの方を見据える。ヲ級の帽子のおかげで深海棲艦特有の奇怪な外見となっているが今の自分には億劫な話だ。
『煉黒さん......分かりました。そこが貴方のホームグラウンドですからね。いいでしょう』
「2人とも下がって下さい!あとは僕に......!」
13号の言葉を尻目に、鬼姫はワームホールをくぐり、水難ゾーンへとワープする。ワームホールが若干空中に浮いたまま生成されてしまったせいで、鬼姫の身体が重力に従って緩やかな速度で落下を始める。すぐに水上へ辿り着くと、波が立つ水面に足がつくとそのまま指揮棒を水面へと突き立て、後からやってくる雄英生徒たちを待ち構える。
「(恐らく原作通りの展開なら、黒霧によって雄英生徒が散り散りに各所に転送されてくる。となると、まずはここに転送されてくる生徒たちと友好を築かないとねぇ...)....はぁ、苦難だな。だが――――」
―――――ソレはソレで、面白い。“短い間でもいい。悪役らしく、深海棲艦らしく楽しむとしよう”
水棲特化の異形の個性を持つチンピラヴィランたちが水中にて群れを成してたむろする中、鬼姫はヲ級の口からゴム弾を装填させた機銃を搭載した艦載機を2機、水中へと潜らせ足裏に配置する。
鬼姫自身、いざとなれば浮上させて周囲を撃って威嚇射撃させるか、眼の前に出現させて身代わりにする。
「さて...頃合いか」
そんなことを思考していると、視界の先で黒霧が発生させたであろう黒い靄状のワームホールが現れ、中から生徒と思われる人たちが5人、放り出されてくる。その中には、あのドレミー似の少女と、ガタキリバの少年もいた。そして、
「流石ドレミー...、夢関連なら何でもありなようだな...」
向こう――生徒たちへ聞こえないように呟く。戦闘にならないと思われるが、転生者(仮定)の二人の動向次第では敵対するかもとは思っていた鬼姫だったが、そんな彼女の思考と裏腹に、5人は甲板へ身を隠しつつこちらへ視線を向けては戻しを繰り返している。
作戦会議をしているようだが、その作戦に自分を倒す流れが無いことを祈るだけだ...。
◇◆◇◆◇
「へっへっへっ......生贄を捧げれば許してくれると思ってるぜあいつら!」
「俺の牙でグチャグチャのソースにしてやるよ!」
「(おいおいおい、死んだな...アイツラ)」
鬼姫は船の上からベロらしきものでガタキリバの少年を海へ沈めるとか言う戦法をとっている雄英生徒に口を開けかけたが、ソレを好機だと思ったチンピラたちにも呆れていた。
Bzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz!!
やがて鬼姫の
「(保険で潜航させて良かった...)」
そんなことを思いつつ、船へと足を進める。向こうが警戒している中、鬼姫はマスク越しから口を開き、静かな声で話し始める。穏やかな女性を意識したロールプレイで慎重に、言葉を選んで――――。
「......大丈夫よ。貴方達に危害を加えるつもりは無いから。......目的はただ1つ。私を雄英で暮らさせてほしいの」
目的と、敵意が無い旨を生徒達へ伝えると、一礼する。交渉できるこの一局で打てる手は全て打った。あとは彼らの判断に任せるとしよう。
「......ちょっと待っていてください。貴方とそっくりな子の夢をこの手帖に書いた気がするので、もしかしたらこの子が本当の事を言っているか分かるかもしれません」
「分かったドレミー。......動くなよ?お前をまだ信用した訳じゃない。何者か分かるまでそこで待っていろ。...攻撃したと判断したらこちらから仕掛ける」
「(ここで攻撃するのは得策じゃない上に旨味がないんだよねぇ...)」
ドレミー似の少女がそう提案したかと思うと、懐から取り出した青い手帳をペラペラと捲り始め、ガタキリバの少年は鬼姫へそう言う。
鬼姫は内心そう思いつつ、頭を上げる。実際ここで戦闘を起こしたとして、メリットが有るか?と聞かれれば答えは、否だろう。
「......貴方の名前は?」
「煉黒鬼姫。最近(4〜5年)まで小笠原諸島の近海(の深海)に住んでいたわ」
「......個性は深海棲艦で合っていますね?」
「えぇ。貴方の個性でわかるのね?」
「はい。......皆さん、この人の言っている事は本当です」
どうやら潔白の証明が終わったようで、手帳をパタンと閉じながらそういうドレミー似の少女の言葉に、鬼姫は内心ホッと安堵の吐息が漏れ出た。
「よかったわ、信じてくれて。早速で悪いけれど、まずは広場にいる相手の切り札を潰しましょ?」
クジラ肉を食べようとする欲求が脳裏を掠めたものの、頭の中から排除した後鬼姫は生徒たちへそういう。恐らく、広場では現作よりか拮抗した戦闘が繰り広げられているだろうから、ささっと戦闘を終了させ無ければならない。
「......貴方は生まれ変わりって信じていますか?」
「そうね...信じるわ。でも、何故聞いたのかしら?」
ドレミー似の少女からの追加質問にそう答えつつ、逆に問い返す。鬼姫も、4、5年経った今でも転生した実感が無いものの、転生したのは事実だ。
「いえ、最後の確認ですよ。先程までの質問はその気になれば私に合わせられますからね。なのでこのような確認をしました」
「そう......」
目の前にいるドレミー似の少女の返答に、中々の曲者だと思いつつ鬼姫は中途半端な言葉を口から漏らしたのだった―――。
コメントをくれても...ええんやで?くれたら、作者が発狂して周りのSAN値をガリガリ削ります。