使徒は少女の未来を守護れるか?   作:B.I.G

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一応、このお話は旧劇、新劇、漫画版混ぜこぜです。
基本はこれから旧劇(映画)ルートに進む予定……ただ、ドロドロしたのは書けないので、さっぱり風味。


第二話 『虚数の海から来たるモノ』

「無事起動成功……か。バカシンジ達、うまくやってるかしら。──ミサト?」

 

 エヴァ3号機の起動が成功し、アスカは無意識のうちに強く握りしめていたインダクションレバーから手を離す。エリートたる自分がたかだか起動実験に失敗するとは勿論考えてはいなかった彼女だが、緊張しない訳では無い。

 ふぅ……と軽く息を吐き、今頃あの無愛想な司令(碇ゲンドウ)とバカシンジ、そしてエコヒイキ(綾波レイ)はどのような会話をしているのか、果たしてうまくやれているのか?今更ながら心配になってきたアスカだが、管制室でモニターしていたミサトからの通信に応答する。

 

『アスカ!上空に何かある!?3号機の挙動がおかしいわ。そちらの状況は!』

 

 上空?ミサトの妙に切羽詰まった通信に首を傾げるアスカだが、モニターに映る景色を見てハッとする。エントリープラグのモニターは確かに上空を映しているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。実験前に3号機を仮設ケージで見た時には、頭部は管制室を見据えるように固定されていた筈だ。

 3号機の起動は成功したし、確かにエヴァとシンクロしている感覚は今でもある──それもかなり高いシンクロ率でだ。にも関わらず、自分が意図していない挙動をエヴァが取るのは、アスカにとって経験の無い事だった。

 

《──来る》

 

「来る?何が──ミサト、リツコ!対ショック!A.T.フィールド全開っ!」

 

 直接声が聞こえた訳ではない。頭の中に声が響いたという表現が、アスカとしては最も適切な表現だ。機械じみた抑揚のない声を聞いた瞬間に反応出来たのは、幼少の頃より過酷な弛まぬ訓練を繰り返していた彼女故か。

 上空に一瞬で拡がった黒い影を確認した瞬間、アスカは管制室の二人に瞬時に対ショック体勢を取るように警告すると、3号機のA.T.フィールドを上空に向けて展開し──数秒の後に、影の中から放たれた光弾を防ぎ切る。

 

『アスカ!ケージを破壊して3号機で迎撃して!こちらの被害は貴女のおかげで軽微よ!至急ネルフ本部へ通達!リツコ、敵の解析出来る?』

 

『もう解析中よ、ミサト。全く、即実戦可能とは言ったけれど、これは想定外ね。──アスカ、聞こえる?上空に見える黒い影、あれはディラックの海と呼ばれる虚数空間の可能性が高いわ。あの中は別の空間、宇宙に繋がっていると言われている。つまり、恐らくは中に何かいるわ』

 

 A.T.フィールドが敵の光弾を防ぐが、相殺しきれなかった衝撃が仮設ケージと管制室を激しく揺らす。幸いにもスタッフ達の被害は軽微だ。瞬時に状況を判断して指示を飛ばすミサトに従って、リツコを始めとしたスタッフ達が弾けるように動き始める。

 松代支部にはMAGIコピーが存在しており、恐ろしい速度でキーボードを叩いて瞬時に敵の解析を弾き出すリツコだが、それを悠長に待っている余裕はアスカには無かった。

 

「了解!あんなビーム撃ってくるのが、使徒じゃなくてなんだってのよ!エヴァンゲリオン3号機、起動!ちょっと荒っぽいけど、勘弁してよね!」

 

『構わないわ、アスカ!ケージから離脱後は距離を取って、相手が姿を見せるまで様子を見ましょう。リツコ、あの影に対してこちらからの攻撃は通じる?』

 

 アスカの声に応えるように3号機の双眼が力強く光り、取り付けられた拘束具を強引に排除して跳躍する。管制室を守るように前に立つが、リツコの言う通りにあの影がディラックの海──虚数空間──だとしたら、徒手空拳では手の出しようが無い。

 

『通じる可能性は低い、としか言えないわね。パターンオレンジと言うことは、影は使徒の本体では無いと思われるわ。オリジナルのMAGIだったらもっと正確に分析が出来るのだけれど──』

 

《──出てくるぞ。依代の殻を被ったモノが》

 

「──リツコ。ちょっと確認しておきたいんだけど、3号機に何か妙な機能とか付いてたりする?さっきからあたしに話しかけてきてる声、管制室からじゃないと思うのよね」

 

 先程と同じように、まるでアスカに警告するような言葉が頭の中に響く。あの時もこの声の警告が無ければ、エヴァの中にいるアスカはともかく、管制室にいたミサト達がどうなっていたのかは想像に難くない。悪意のある存在の声ではない──だが、明らかに異常だ。

 

『声?私とミサト以外、貴女と通信は……』

 

「やっぱりそうよね。──あんた、誰?」

 

《──私は君達ヒトが使徒と呼ぶ存在だ、式波・アスカ・ラングレー》

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえる。アスカがそう言った瞬間、リツコが真っ先に疑ったのは精神汚染だ。起動成功時のシンクロ率は80%と非常に高かったが、現在の状況をモニターしてもプラグ深度は正常。汚染区域まで引き込まれてはいない。

 

(まさか、ダミーシステム?いえ、そもそも本部に届いたダミーシステムはゴルゴダベースから厳封されて届いた代物。北米支部が独自で作れるような代物とは思えない)

 

「アスカと3号機の神経接続に異常は?」

 

「セカンドチルドレン、エヴァ3号機共に神経接続に異常はありません。プラグ深度は80をキープ。いえ、待ってください!そんな馬鹿な!これは……パターン青!使徒です!」

 

 キーボードを叩くオペレーターの声色が変わった瞬間、管制室にけたたましい警告音が響き渡る。主モニターに表示された警告は二つ。

 

【AT FIELD, Pattern - blood type:blue 09 9th ANGEL】

【AT FIELD, Pattern - blood type:blue 10 10th ANGEL】

 

「まさか、3号機が使徒に汚染されていたとでも言うの!?アスカっ!」

 

(使徒がエヴァを乗っ取る……寄生していた?一体どこで?まさか最初から……)

 

 使徒の反応は二つ。一つは上空に拡がる影。そしてもう一つは今なおセカンドチルドレン、式波・アスカ・ラングレーを乗せたままで、黒い影と対峙する漆黒の巨人──エヴァンゲリオン3号機を指し示していた。

 第9使徒の反応は確かに3号機を示しているが、その動きは先程と変わりがない。

 

「アスカ……3号機との通信は!?」

 

「駄目です!プラグ内のモニター及び、通信途絶!本部への通信も繋がらないままです──上空の影から高エネルギー反応!」

 

 アスカと連絡を取ろうと試みるミサトだったが、先程までとは違い、3号機との通信は一向に繋がらない。

 表面上は3号機の動きに澱みは無く、アスカが制御出来ているように見えるが、プラグ内がどうなっているのか検討もつかない。使徒がエヴァに寄生するなど、これまで考えた事も無かった。

 

 歯噛みするミサトだったが、オペレーターの声に反応して主モニターに目をやると──黒い影、リツコ曰くディラックの海から、白銀の装甲を纏ったモノがゆっくりと這い出て来るのが見える。

 

「Stupid ......, that's Evangelion Unit 4 ......, it should have disappeared!(馬鹿な……あれは、エヴァンゲリオン4号機……消滅した筈!)」

 

「事故を起こして消滅した筈の4号機?ディラックの海に取り込まれて、使徒と融合しているとでも言うの?」

 

 起動実験の為に同行していた北米支部のスタッフがソレを見て、思わず驚愕の声を上げたのも無理は無い。ディラックの海から這い出て来たモノこそ、先の事故で消滅した筈の機体──エヴァンゲリオン4号機。

 かつての人類の希望であり、使徒に対する切り札だったそれは、もはや倒すべき敵へと成り果てていたのだから。

 

 

 

 

 

 

「ふぅん……エヴァに寄生する使徒に、エヴァの殻を被る使徒?悪いけど、アンタ達の思い通りになるくらいだったら──」

 

 ディラックの海から現れた使徒は、表現するなら黒いケーブルのような形状をしていた。それがまるで棒人間のように形を変え、ボロボロになったエヴァンゲリオン4号機を着込んでいるかのようだ。

 明らかに今までの使徒とは()()()()()()。ちっ、と舌打ちをするアスカだが、幸いにもエントリープラグ内に異常は無いし、いざとなれば──と考えた時、再び使徒(バルディエル)の声が響く。

 

《──その冷静さには敬意を表するが、辞めた方が良い。もはや私にはヒトと争う意思は無い。ここで自爆するのは推奨出来ない》

 

「あーら、使徒のくせに命乞い?けどまぁ、あたしだって死にたいわけじゃないわよ!とりあえず、あの不恰好な使徒を片付けてから──!」

 

 使徒(バルディエル)の言葉を鼻で笑うアスカ。シンクロしている3号機に寄生しているのだから、こちらの思考を読み取るのもお手のものと言うわけか、と不愉快そうに眉を顰める。

(使徒にも死にたくないと思う意志があるのか、と少し驚きもしたが)

 

《──敵の主兵装は口腔から放たれる光弾だ。連射は出来ないだろうが、射線に注意すべきと進言する》

 

「使徒のクセに、あたしに命令しないでっ!どぉりゃああああっ!」

 

 夕焼けに染まる山林を漆黒の巨人が疾走する。アスカの気合いに応えるように、咆哮を上げながら使徒との距離を一気に詰める3号機。

 使徒(バルディエル)の言葉どおり、敵の光弾は連射は出来ないらしく、一度発射した後のタイムラグはおよそ10秒程。まるで軟体生物のように黒い身体を伸ばし、角度を変えて光弾を発射してくるが、その程度では彼女は止まらない。

 

「そこぉっ!格好ばかり真似したってぇっ!」

 

 両肩のウェポンラックから取り出した両刃型プログナイフを握りしめ、3号機が使徒に飛びかかる。

 まるで肉食獣のような俊敏さで使徒に肉薄すると、流れるようにプログナイフを振るい──まるで熱したナイフでバターを切るような滑らかさで、ケーブルのような使徒の身体を切断した。

 

《──A.T.フィールドで刀身を覆う事で、切断力の向上を確認。コアは口腔内》

 

「Seien Sie still!(黙ってなさい!)……これでぇっ!」

 

 アスカ自身違和感を感じる程の切れ味だったプログナイフだが、どことなく得意げな声で使徒(バルディエル)がナイフの刀身をA.T.フィールドで補強した事を報告する。

 思わず青筋を立てながらドイツ語で使徒(バルディエル)に怒鳴るアスカだが、地面の上でのたうち回る使徒の頭部を鷲掴みにすると──思い切りプログナイフを突き立てた。

 

《──戦闘終了。機体の四肢の筋繊維に、僅かながら損傷を確認。急激な跳躍は非推奨。次回は改善を求める》

 

 ──プラグ内にアスカの声にならない怒りの言葉と、何かを蹴り飛ばしたと思われる鈍い音が響き渡った。

 

 

 

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