常に走って飛んで、このままだとアスカが過労死しそうな程に働いている……!
「ちょっとぉ!もっとスピード出しなさい!このままじゃネルフ本部に着く頃には全部終わっちゃってるわよ!」
「む、無理です、葛城一佐!これ以上速度を上げたら、エンジンが焼け付きますよ!」
「ミサト!今の3号機の移動速度は優に音速を超えてるんだから、この機で追いつける訳ないでしょう!」
爆音を響かせる輸送機V-22、愛称オスプレイのカーゴベイの中でミサトがパイロットに向かってもっと速度を上げろと急かす。ネルフ本部を強襲した第11の使徒を迎撃する為、少しでも早くとアスカを陸路で向かわせた。
だが、そのまま松代で黙って戦況を見守っている程、葛城ミサトは我慢強い女では無い。
3号機起動実験の為にリツコ他、技術部のスタッフが本部から移動するのに使用したオスプレイに有無を言わさずに乗り込むと、先行した3号機を追って半ば強引にネルフ本部へ向けて発進させたという訳だ。
オスプレイの最高速度は300kn(556km/h)と輸送機としては非常に速いのだが、地上の被害はお構いなしに
「葛城一佐!ネルフ本部との衛星通信が繋がりました!どうぞ!」
「ありがと!──聴こえる!?こちら葛城、状況は!」
副操縦士からインカム・ヘッドセットを手渡され、勢い良くそれを取り付けるミサト。ヘッドセットからは発令所で鳴り響く警報の音がひっきりなしに聞こえており、状況が切迫している事は明白だ。
「葛城さん!こちら日向です。現在、目標はジオフロントに侵攻!地底湖に陣取ったエヴァ2号機が接敵し、現在交戦中です。零号機パイロットは出撃準備中、初号機パイロットは保安部と共に移動中!」
「エヴァ2号機!?アスカは3号機に乗ってるのに、誰が乗ってるの!?」
「不明です。どういう手段を使ったのかわかりませんが、封印処置を解除して独断で出撃。こちらからの通信はプラグ側から遮断されています」
思わぬ援軍と言っても良いのか考え込むミサトだが、使徒と戦ってくれている事を考えれば、少なくとも
(2号機の封印を解除するには、ユーロのパスコードが必要なのに……加持君かしら。アスカ以外の秘蔵っ子でもいるのか、それともゼーレの?)
エヴァ2号機はあくまでユーロの保有機体であり、バチカン条約に則って封印された。機体こそネルフ本部に保管されているが、こと緊急時であっても封印を解除する為にはユーロの承認とパスコードが必要で、いかにリツコでも独断でそれを解析する事は不可能だ。
つまりは2号機に乗っている正体不明の人物とは別の人間が手引きをした、と考えるのが妥当であり、リツコの知る限りそんな芸当を易々とこなしてみせるのは、加持リョウジただ一人。
──まあ、何があろうと彼がミサトの敵になる事は無いだろう。リツコは揺れるオスプレイの中でそう結論付けた。
■
「こんにゃろ〜、なんて強固なA.T.フィールド!遠距離戦でチクチクやってるだけじゃ、埒が開かないじゃん!」
的を絞らせないように動き回りながら試作型長距離狙撃用ライフルを第11の使徒に向けて発射する2号機だが、着弾したのは最初の一発のみで、それ以降は以前の使徒とは比べ物にならない程強固なA.T.フィールドに阻まれる。
ハンドガンやパレットライフルとは文字通り桁違いの破壊力の狙撃用ライフルだが、『
「そんじゃあお次はこいつで……って、ネルフの開発部もなに考えてこんなの作ってるんだか、ちょっと常識を疑うけど──行くかぁっ!」
想定を超えた連続射で銃身が焼け付いた狙撃用ライフルを放り捨て、次に2号機が手に取ったのは、チェーンソーが2つ繋がったような形状をした近接戦装備── 大型破砕兵器デュアルソー。マリの思考トリガーと連動して、無骨な巨大チェーンソーの刃が唸りを上げて回転する。
「よっ!ほっ!当たらない当たらないっ!」
大型の獲物を手にした2号機が、まるで猫科の動物のような俊敏な動きで使徒に接近する。使徒の攻撃を紙一重で躱しながら、一瞬の内に使徒の上を取る2号機。そのまま、落下の勢いと質量を利用してデュアルソーを使徒の身体の中心──コアに向けて突き出す。
「おらおらおらおらぁ!さっさと砕けろぉっ!……って!ヤバっ!」
まるでガラスを砕くかのような勢いで、何十にも張られたA.T.フィールドを割っていく2号機とデュアルソー。思い切り力を込めて回転する刃を押し付けるが、背筋に走った悪寒と直感を信じて、
「あっぶなー!痛てて……掠っただけでこれは、ちょっと洒落にならないにゃあ」
本来目があるべき場所である黒穴から放たれた光線は、一瞬前に2号機が居た空間を寸分違わぬ精度で貫いた。咄嗟に飛び退いたお陰で2号機は直撃を避けたが、デュアルソーは瞬時に融解。放たれた光線は威力を減衰させる事なくジオフロントの天井に直撃して地表まで貫通、大きな爆炎が上がる。
マリの野生動物じみた危機察知能力によって直撃こそ避けたものの、2号機の右半身は焼け焦げたような跡が色濃く残る。プラグ内のマリもフィードバックされる痛みに脂汗をかきながら、傷一つ無く悠然とたたずむ使徒を睨みつけた。
■
「何よこれ……街が、燃えてるじゃない……!」
第3新東京市に到着したアスカは、使徒に破壊された街の惨状を見て思わず息を呑んだ。居住区や学校のある地域は無事なようだが、武装ビル群は完膚無きまでに破壊し尽くされ、使徒の攻撃によるものか大きな穴が幾つも口を開けている。シンジも
「エヴァ零号機と……2号機!?2機が使徒と交戦中って、バカシンジはどうしたのよ!それになんで2号機が……!」
3号機のセンサーはジオフロント内で交戦中の使徒とエヴァのシグナルを感知していたが、本来戦闘中であるべき初号機がおらず、パイロットがいない筈の2号機が零号機と共に使徒と戦っているのが確認出来る。確かにリツコはエヴァは実戦兵器であり、パイロットも含めて予備が存在しているとは言っていたが……と、そこまで考えるが、今はそれはさして重要では無いと思考を切り替える。
「行くわよ!使徒の位置を考慮して、最も適切なルートを算出しなさい!このあたしが来たからには、速攻でケリをつけてやるわ!」
山を駆け下りながら、
《──右斜め前方。市街地の破砕ブロックの一部が敵の攻撃で溶解している事が確認出来る。該当場所から突入し、敵の上を取って奇襲をかける事を提案する。ただし、記憶ログに残っている7番目とは
使えるものは使い、頼るものは頼る。幾度かの使徒戦を経て、アスカが得た教訓だ。プライドが高い事は自覚しているし、それに値するだけの努力と鍛錬を重ねてきた事も事実であると自負している。それでも、シングルコンバットではどうしても対処出来ない事態が頻繁に起こり得る事を、アスカは使徒との実戦を通して理解した。
──人類を救うには、自分一人だけでは不可能だ。
「誰にもの言ってるんだってぇの!──《マゴロク》アクティブ!」
マゴロク・E・ソードはプログレッシブ・ナイフを基に作られたいわば《超振動刀》。対象物を分子単位で切断する破壊力を有し、NERV北米支部で試験的に開発された後に、3号機用の装備として共に空輸されてきた代物だ。
《──A.T.フィールドを展開して足場を形成する。フィールドを蹴って機体を加速させ、距離を詰める。近接戦闘に移行時に、刀身部にフィールドを展開して殺傷力を向上させるが──着地点を見誤れば、機体とパイロット双方が深刻な損傷を被る》
トンネルのようになっていた暗闇を抜けると、眼下に広がるジオフロントの中央部で、必死に使徒を食い止めようとする2機のエヴァンゲリオンの姿が見える。使徒の攻撃を受けたのか、本部の地上施設はほぼその原型を留めてはいない。チャンスは一度きり。唇を真一文字に結び、アスカは意識を一点に集中させた。
薄く何枚も展開された
本来なら使徒に気付かれずに一撃でケリを付けたかったが、そう易々と方が付く相手では無い。
(こっちに気付いてるじゃない……!)
満身創痍ながら立ち塞がる2機のエヴァはもう障害ともみなしていないのか、帯状の腕と光線を放って3号機を迎撃する使徒。まともに当たればそのまま死ぬ。だが、臆して退けば待っているのも死だ。
これだけの高さから地表に落下すれば、例えA.T.フィールドを張っていても数秒間は動けなくなる。そしてこの敵は、その致命的な隙を逃しはしないだろう。
《──接触まで10秒。9、8、7、6──》
漆黒の鞘から抜き放たれた刀身を上段に構えたままで、一蹴り事に速度を上げる。超振動と空気摩擦でマゴロク・ソードの刀身は赤熱化し、力強く握り締められた柄がギチリと軋んだ。
プラグ内のモニターに広がる使徒の姿がコンマ数秒毎に大きくなり、
「こぉんちくしょおぉぉぉぉっ!」
極限まで研ぎ澄まされた集中力を解放した一太刀。
恐ろしい速さで振るわれたそれは、幾重にも重なったA.T.フィールドを全て両断し、使徒の身体を袈裟懸けに切り裂いた──