JIJIMORIに女の子付けてみた   作:ちゅぴま

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あちい…
今回は短めです


颯を射る如き刃

「ーーー翼様じゃなくて、翼って呼んで欲しいの」

 

 

確かに、見ず知らずの子から様を付けられたらそういう反応にもなるだろう。だがしかし

 

 

「それは了承できません」

 

「ええ!?なんで!?」

 

 

琴葉はそれを受け付けない。

そんな食い気味な返答に翼は驚きの声を隠せなかった。

 

 

「別にいいでしょ!?ほら、つ・ば・さ!!」

 

「翼様」

 

「つーーばーーさーー!!!」

 

「…翼」

 

 

問答を暫く繰り返し、漸く琴葉が折れた。名前を呼ばせる為だけにここまでの攻防を繰り返すというのは世界を探しても他にないだろう。

 

 

「ふぅ…うん、よし!」

「それでですが翼さm「だーかーらっ!!」…」

 

 

再び言い争い(片方が突っかかっているだけなのだが)の火蓋が切って落とされた。

翼、翼様と口にし合うその光景は偶然通りがかった職員ですらその通路を迂回する程白熱する。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

「では、改めまして翼様」

 

「もう、それでいいよ…」

 

 

遂に翼が諦めた。

 

 

「どうして、こちらにいらっしゃるのですか?」

 

「えっと…それはね…」

 

 

シンフォギア装者だから、などと答えられる筈もなく口篭ってしまう翼。幼い少女である彼女に上手く誤魔化せる程の知恵がある筈もなく、怪しい反応を示してしまった。

 

 

「そうですか、口にし難い訳合なのですね」

 

 

しかし、琴葉がそれを問い詰める事は無かった。主に楯突く不遜な剣、そんなものは例え強大無比な神剣であっても誰もそれを執ろうとは思わないだろう。だから、自らが忠誠を捧げた風鳴の意に背くことは望まない。

 

 

「おや、琴葉さん。ぶつけた箇所の具合はどうです?」

 

 

会話が途切れたその時、氷袋を片手に緒川が戻ってきた。侵入者向けのネズミ返し、あるいは区画分けとして機能している通路は長かったようで流石の緒川も額に軽く汗を滲ませている。

 

 

「はい、もう大丈夫です。ですが折角の物、有難く使わせて頂きます」

 

 

緒川の持ってきた氷を後頭部に充てる。ジンジンとした痛みにスーッと効いてこれは良い。

 

それからしばらく、緒川を交えた3人でやり取りをしていると弦十郎達が部屋から出てきた。

 

 

「あ、司令。お話は終わったんですか?」

 

「ああ、今しがたな。聞けることは粗方聞いた」

 

 

相も変わらず健康そうな弦十郎に対して、風鳴機関のエージェント達は疲れきった表情でいる。そんなエージェント達は気にもとめずに琴葉は弦十郎に話し掛ける。

 

 

「弦十郎様、例の件についてはいつ頃になるでしょうか?」

 

「アレについては俺にも分からん。正直な所、慎重にならざるを得ない問題だからな」

 

「…畏まりました」

 

「むぅ…」

 

 

例の件、アレなどと明らかにはぐらかしたやり取りに翼は不満げに首を傾げる。なんだ、自分だけ仲間はずれなのかといいたさげな表情に大人達はつい苦笑いをしてしまう。

 

 

「翼さんも、大きくなったら大人の話をする事になりますよ」

 

「ま、こういう話はあんまりして欲しくはないんだがな」

 

 

緒川、弦十郎の順にそんな翼を論す。こういった政治取引となると相応に後暗さが付き纏うもの。広木防衛大臣の意向でそういった事に縁遠い特機部二も例外ではない。こちらの、向こうの、はたまた第三者の思惑が絡み合う政界。自衛の為とはいえ牙を持たねば、武力を有する組織の立場は危ういのだ。

 

 

「でも叔父様!琴葉だって私と同じぐらいだよ!!」

 

「…あぁ、人には立場がある。複雑な立場がな」

 

 

食い下がる翼の言葉に対して、弦十郎は胸の中で苦く思った。翼の言う通り琴葉も翼と近い年齢。翼もだが本来ならこのようなところに居るべきではないのだ。そんな事を考えつつも琴葉に対し二課司令として話しかける。

 

 

「それでだ、琴葉くん。こちらの可決はまだまだ時間がかかりそうでな。そこで、何か進展があればこちらから連絡を入れる。そしたらまたこちらに来て欲しい」

 

 

実際の所、どうして情報通信技術の発達した現代で直接顔を合わせに来るのか弦十郎には分からない。ただ、鎌倉からここ特機部二本部まで毎日こられると対応に困るので事前にそう伝えることにしたのだ。

 

 

「了承しました。当主様へは私から告げさせて頂きます」

 

「え、琴葉と会えるの今日だけなの!?」

 

 

頬を膨らませたり驚いたりと忙しく表情の変わる翼。どうやら琴葉の事がとても気に入ったのかもう会えなくなるのがショックのようだ。

 

 

「いえ、時が来ればまた」

 

「時って、いつなの?」

 

「時は時です」

 

 

翼の疑問への回答は、求めていた回答とは違ったものだろう。琴葉自身も分からないその時は、その時が来るまで誰も知りえない。そんな哲学的な回答を理解しようと翼は黙り込む

 

 

「…帰るのか?」

 

「はい、本来なら返答をお聞きした後に退去する予定でしたが」

 

 

エージェント達も体力が回復したのかいつもの調子で琴葉の両脇に付く。やはり、ヘトヘトの姿よりもこちらの方がらしい。

 

 

「それでは、ご連絡をお待ちしております」

 

 

ぺこりと、弦十郎達に頭を下げた後その場を後にする。

その背中を、未だ悩む翼はただ見つめているだけだった。




用語解説
シュレティンガーの猫
中を見るまでどうなっているかは分からない。
未来の事も胸の内もまた然り。
再開の時は、明日か、明後日か、それとも…
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