魔王様は愛を知りたい   作:黒葉 傘

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作者がとち狂って投稿した小説を削除したり、投稿し直したりする一幕がありましたが、見なかったことにしてくれますと幸いです。
(一夜明けて恥ずかしくなってきた)


3人の聖女

 魔術科代表の生徒は結局入学式が終わるまで姿を見せなかった。

 体調不良だろうか?

 教師陣の慌てぶりを考えるに、連絡がなかったようだが……

 

「ヨル、久しぶり!」

 

 空席だった椅子を見つめていたら声をかけられた。

 振り返ると、懐かしい顔がそこにあった。

 ルーカスか…………というより、こいつ背高くないか?

 私もそれなりには伸びたはずなのだが、こいつと比べると虚しくなるな。

 

「私の母親は元気にしているか?」

 

「アイシャさん?…は元気にしているけど………僕に再会して第一声がそれ!?」

 

 ?? そうだが、私は何か変なこと言ったのだろうか。

 ルーカスがなぜか暗い顔で落ち込んでいる。

 道のりは長そうだとかブツブツ愚痴っているが何の話だ?

 まぁいい、今日は入学式だけなので特に用事はない。

 私はせっかくなので久しぶりに再会したルーカスと一緒に帰ることにした。

 

「しかし、騎士科代表がお前とはな。勇者はどうした?」

 

「あぁ、何だか辞退したみたいだよ」

 

 ほぉ、勇者のガキは私と同じように代表を辞退していたのか、どうりで。

 しかし代表者の3分の2が辞退とは教師たちも大変だな。

 それで選ばれたのがボンクラの王子に、姿を見せない女、そして平民出身の騎士の卵とは錚々たる顔ぶれではないか!

 なかなか愉快な学年だな。

 私は、内心ほくそ笑む。

 そうこうしているうちに、私たちは学院の門の前に着いた。

 

「あのー、ヨルもしこの後予定がないのならお茶でも………

 

 ガタンッ!

 

 ん?

 

「何の音だ?」

 

 私はなにやら喋っているルーカスを遮り、音のする方を見る。

 校門の裏手にひっそりと配置された用具入れ、音はそこからした。

 

 ガタッガタンッ!

 

 私たちが見つめる中、用具入れが跳ねる。

 何だ……あれ?

 用具入れって生き物だっけ?

 何やら中からか細い悲鳴が聞こえる。

 誰か入っているのだろうか。

 

「わ!大変だ。閉じ込められちゃったのかな」

 

 ルーカスが用具入れの扉を開けようとするが、どうにも開きそうもない。

 ガチャガチャと音を立てるだけだ、鍵が閉まっている。

 

「壊すか?」

 

 私は術式の剣を出し、狙いを定める。

 

「ちょっ!ちょっと待った!中に人、人がいるから!!」

 

 ルーカスが慌てて止める。

 

「今!開けるから、その剣はいらない」

 

 ルーカスはそう言うと、力を込める。

 バキッと何かが折れる音と共に扉が開いた。

 あーあー、壊したなこいつ、まぁ私も壊すつもりだったんだけど。

 箒と共に小柄な少女が転がり出てくる。

 べちゃっと地面に倒れる少女、その長い髪がふわりと舞った。

 陽の光を浴びて輝く美しい銀糸のような白銀の髪。

 その美しい銀髪は私にかつての聖女を思い出させた。

 何者だこいつ。

 

「あのー、大丈夫?」

 

 私たちは心配して覗き込む。

 すると、彼女は勢いよく起き上がった。

 

「はい!大丈夫です、ミリ・ラズ・ルーナです。髪をお褒めいただいてありがとうございます。出していただいて感謝です」

 

 捲し立てるようにそう話し出した彼女に困惑する。

 誰も髪など褒めていないのだが……

 それより、今なんと名乗った。

 ミリ・ラズ・ルーナ、魔術科代表の生徒ではないか。

 こんなところで何やっているんだ?

 入学式はもう終わったぞ。

 

「え!!入学式はもう終わっちゃったんですか?そ、そんな……」

 

 彼女がうな垂れる。

 何だか小動物っぽいというか、庇護欲を誘う奴だ。

 

「ちょっと!何勝手に開けていますの」

 

 その時、後ろから怒声が響く。

 見ると、今朝校門前で踏ん反り返っていた女が立っていた。

 彼女は私を見ると怒りの形相になる。

 何故私が睨まれる? 開けたのは隣に立っているルーカスなのだが……

 ミリはぴいぃと悲鳴を上げると用具入れに引っ込んだ。

 

「ヨルサ・ハーミットさんですね?なぜその扉を開けたのです」

 

 高圧的な態度の女に私は眉根を寄せた。

 私が反論しようとした時、ルーカスが私を庇うように前に出た。

 

「扉を開けたのは僕だ。大体君は人違いしているよ、彼女はヨル、ヨル・リデルだよ」

 

 あ、まずい。

 私がせっかく偽名を名乗ったのに訂正されてしまった。

 

「ヨ、ヨ、ヨル・リデルですってぇえぇぇぇ!!」

 

 女が金切り声を上げる。

 女のいきなりの奇行にルーカスは驚いたのか一歩後ずさった。

 本格的にやばい雰囲気がする。

 

「見つけましたわよ!名前を偽るとはいい度胸じゃない偽聖女!」

 

 偽聖女だと………なるほど大体経緯がわかった。

 今の私を偽物と断定できる人物はそんなにいない。

 母親か、リュウか、そうでないなら………

 

「聖女はあなた、ヨル・リデルでもなくミリ・ラズ・ルーナでもない。私ノール・メル・ウィンディこそが!本当の聖女よ!!」

 

 やはり聖女だった。

 そして今用具入れの中で震えているミリという少女もまた聖女候補というわけか。

 私に堂々と宣戦布告とは面白い。

 魔王の血が騒ぐ。

 

「ほぉ、では本物の聖女様は敵を用具入れに閉じ込めて悦に浸っていたわけか?」

 

 私は挑発するように前に出る。

 

「な、なによ!この無礼者!私は本物、聖女として選ばれた存在!貴方のような偽りの聖女が楯突こうなどと!……」

 

 女は顔を真っ赤にして叫んでいる。

 随分と小物臭い。

 キャンキャン喚いて、それで自分を強く見せているつもりか?

 こいつは本物の聖女じゃなさそうだな………

 私はノールに向かって手を掲げる。

 

「………?何ですの」

 

 触れてもいないのにズリズリと彼女が後ろに押されていく。

 

「ほら、聖女ならご自慢の魔法で何とかしてみせろ」

 

 私は腕を前に突き出す。

 ノールは顔を真っ赤にして踏ん張っているがじりじりと下がっていく。

 その程度の魔力で魔王に敵うとでも。

 私はそれを鼻で笑うと、腕を振るった。

 

「それじゃあ先輩、さ・よ・な・ら!」

 

「ちょっ!あっっ!いやああああぁぁぁ!!」

 

 ノールは吹っ飛ぶとそのまま花壇に突っ込んでいった。

 そして動かなくなる。

 気絶したようだ、叫び声まで小物臭かったな。

 私はその光景を冷めた目で見ていた。

 

「ヨル、何したの?あの人大丈夫」

 

 ルーカスが恐る恐る聞いてくる。

 別にたいしたことはしていない。

 魔力で押し出しただけ、術式でもない、ただの子供騙しだ。

 まぁ、いつかの狼のように千切れなかったのは彼女がその魔力で抵抗したからだ。

 だてに聖女を名乗っているわけではなさそうだ。

 私はため息をつく。

 ノールとかいう女、これに懲りて大人しくなればいいけど……

 ミリと名乗ったもう1人の聖女に敵対心がないだけマシか。

 あぁ、そうだ彼女の方が本物っぽいので仲良くしておいた方が得策だろう。

 私は用具入れの扉を開けた。

 でも、そこに彼女の姿はなかった。

 どうやらどさくさに紛れて逃げ出したらしい。

 むぅ……こっちはこっちで聖女らしくないな。

 

「疲れた、帰って寝る」

 

「あ、うん……そうだね」

 

 私が歩き出すとルーカスがしょんぼりして付いてきた。

 お前はお前で、なんで落ち込んでるんだ?

 私は釈然とせず帰路についた。

 私は気づかなかった。

 用具入れの影からこっそりこちらを見る視線に。

 彼女の呟く言葉に。

 

「ま、魔王?嘘でしょ……」

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

 

 

 聖女候補者報告書

 

 聖女の発見の報告が3件重複している。

 聖女が3人確認されたことは過去になく、事態は混迷を極めている。

 国王様は早急に誰が本物の聖女か特定しろとの王命を出した。

 現時点で判明している候補者3人の情報を簡素ながらここに記す。

 

 ヨル・リデル

 最初に発見された聖女候補者。

 剣を操るその魔法から剣の聖女という異名を持つ。

 常人離れした魔力量を持ち、その高い戦闘技術で魔族を退けた。

 騎士団副団長ロレンス・リラ・ハモンにより聖女と断定。

 

 ノール・メル・ウィンディ

 王都の貴族メル家の長女。

 魔力量は常人離れしているものの聖女特有の魔法がなかったため、最近まで聖女とは判別できていなかった。

 今年になって、歴代でも聖女のみが使えた回復魔法の才能が開花し、聖女と判断される。

 王都学院学院長ホラ・メル・ロストにより聖女と断定。

 

 ミリ・ラズ・ルーナ

 王都の貴族ラズ家の三女。

 魔力量は常人離れしているが魔法の成績は振るわず。

 彼女特有の魔法のため聖女だと気づかれていなかった。

 特有の魔法は人の心を読むもので、彼女の知るはずのない貴族の内情を話したことでその魔法が露見した。

 教会教皇パロナ・ルイ・トリコスにより聖女と断定。

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