魔王様は愛を知りたい   作:黒葉 傘

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貫く剣

 魔族の男が脱走した。

 その魔族は辺境の地で発見された。

 騎士のいない辺境で暴れまわった魔族は、騎士が派遣されるまでの間、多くの人間を殺した。

 だが苦労して拘束したのにも関わらず、彼は移送中に忽然と姿を消した。

 今、騎士団はその失敗を取り戻そうと躍起になっている。

 王都の騎士である私が、こんなど田舎の村まで呼び出されたのもそのせいだ。

 なんでもこの村の近くで魔族の目撃情報があったらしい。

 平和な村だ。

 今も子供たちが遊びまわっているのが見える。

 もし、この村に魔族が侵入したら……考えただけでゾッとする。

 この村を守らなければならない。

 これ以上魔物の好きにさせるわけにはいかなかった……

 村人に聞き込みをしていると、一人の女の子が目に入った。

 年の頃は10歳くらいだろうか、他の子より少し大人びていて、どこか達観したような雰囲気のある子供だった。

 赤い瞳、どこか血を思わせるその色に私は薄寒いものを感じた。

 いや、気のせいだ……ただの子供相手になにをビビっているんだ私は。

 私は彼女の前を通り過ぎると聞き込みを再開した………

 

 

 

 確かに、魔族らしき男の目撃情報はあった。

 だが、肝心の魔族の居場所は掴めなかった。

 

「よぉ、今日はもうお開きにして、一杯やらねぇか」

 

 同僚の誘いを、私は断る。

 よく、真面目だとか融通が利かないとか言われるが、これは性分だ、仕方ない。

 同僚たちは諦めたようにため息をつくと、明日また頑張ろうと励ましてくれた。

 そんな同僚たちを置いて、私は村の巡回を続ける。

 いつ、魔族が現れるかわからない、私には人々を守る騎士としての使命があった。

 人々が寝静まった後にも、私は目を光らせていた。

 

「……………? ……っ!」

 

 何か、音が聞こえた。

 微かな物音、聞き間違いではない。

 これは、金属が鳴る音……剣がぶつかり合う、あの独特の音が聞こえる。

 誰かが……戦っている!?

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

 

 魔族の刃が自分に迫るのを私は惚けて見ていた。

 ………あれ?

 私攻撃されてる?

 なんで?

 こいつ………

 この魔族………

 

 

 馬鹿か???

 

 

 ガイィンッッ!

 

 私の防御術式がヤツの刃を弾き、甲高い音を立てる。

 

「!!」

 

 魔族の目が驚きで見開かれる。

 

「私が人間だから!術式は使えないとでも思ったか!」

 

 

 一般的に、人間は魔法を、魔族は術式を使う。

 魔法とは、自分の中で魔力を練り上げ、それを外部に放出する技術のことだ。

 対して術式とは、魔力によって術式を編むことで様々な効果を発動させる。

 その場で放出する魔法と違い、術式は事前に作成し任意のタイミングで発動することができる。

 術式とは、言ってみればより高位の魔法、魔法の上位互換なのだ。

 ならなぜ人間は術式を使わないのかというと、そこには生物的な違いが関係している。

 人間は、魔力を知覚することができないのだ。

 そのため、魔力は持っていても、それで術式を描くことができない。

 それは人間になってしまった私も例外ではなく魔力を知覚することはできない。

 

 だがしかし、私には魔王だった頃の戦闘知識がある。

 頭が、心が、数多の術式を記憶している。

 目では見えずとも、どう魔力を編めば術式が完成するか知っている!

 

 

「この無礼者を引き裂け」

 

 私は攻撃術式を起動する。

 魔力で形作られた無数の剣が魔族に襲い掛かる。

 

「クッ!!」

 

 魔族は慌てて回避するが、それは悪手だ。

 術式がさらに起動し、剣の数が一気に増える。

 

「チィイイッ!」

 

 舌打ちをして、魔族は刃をふるうが、刃一本で対処しきれる数ではない。

 魔族の体にいくつもの傷が生まれる。

 

「どうした!?お前も術式を使わなければ死ぬぞ?」

 

 私は挑発するようにそう言うと、再び攻撃を繰り出す。

 

「クソがあぁあッッ!!」

 

 魔族は苛立たしげに叫ぶと、私に向かって飛び掛かってきた。

 その四肢を私の刃が貫き、地面へと縫い止める。

 

「ぐぎゃああああっっ!!…………アアっ!……ッッッッッ!!!」

 

 敗者の悲鳴が心地よい。

 戦闘の高揚感も、嗜虐感が満たされるこの感覚も久しぶりだ。

 ………だが、なぜこいつは術式を使用しなかった?

 男の髪を掴み、その顔を持ち上げる。

 ふむ、なにやら首に禍々しい首輪が嵌めてあるな。

 これはあれか、人間様お得意の魔力封じというやつか?

 つまり私は術式の使えぬ、人間以下の男をいたぶって喜んでいたということか?

 

 つまらんな、興醒めだ。

 

「あー、もういいや」

 

 死ね。

 

 私がそいつの首筋に剣を叩きつけようとした瞬間。

 

「待てっ!!」

 

 静止の声と共に、白銀が閃き、私の剣は弾き飛ばされた。

 

「騎士か……」

 

 騎乗した騎士が私の目の前に立っていた。

 

「これは……これは君がやったのか?」

 

 騎士は、私の周りに浮遊する剣を、地面に縫い付けられた魔族を信じられないといった表情で見つめている。

 まぁ、こんな女児が高度な術式を行使していたら驚くのも無理ないか。

 私はドヤ顔でフフンッと微笑んだ。

 

「なんと言うことだ…………

 

 

聖女だ! こんな村に聖女がいたとは!?」

 

 

 うん…………?

 あれ????????????

 いや! 私、私魔王だけどぉ!!!!????

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