転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話 作:飴玉鉛
調子に乗っちゃうよぉ!(歓喜)
調子に乗っちゃったので、この作品でやりたいことを後書きで載せます。
やりたいだけで、やるとは言ってない()
あと『バーヴァンシー』は、正確には『バーヴァン・シー』なんですが、本作品だと『バーヴァンシー』で通します。
僕の前世の記憶だと、僕の前世には魔術なんてものはなかった。アーサー王伝説も架空の物語に過ぎないはずのものである。だけど僕は如何なる奇跡か転生し、今生で魔術に触れ、神秘を知り、架空だったはずの物語の世界で生きている。故に、結論は出していた。
この世界は、僕の前世とは異なる世界、異世界であると。
あるいは前世でも神秘は秘匿され、実際には魔術があり、アーサー王伝説も実はノンフィクションの事実だった可能性はある。だけど真の過去の歴史と魔術の存在を前世で知り得なかった以上、僕の主観の上だと今生は異世界としか思えないものなのだ。
だからどうしたという話ではある。転生という事実だけで充分ファンタジーだ。では僕が何を気にしているかというと、前世には存在しなかった法則の有無に関してである。
魔術というもの。魔法というもの。神秘に纏わる生物というもの。それらを知らずに生きていくには、この世界はあまりにも危険が満ち溢れていた。だから、僕はモルガンに師事を仰いだのだ。
魔術ではなく、学問の先生になってもらったのである。
そうしてモルガンに与えられた知識の一部に、抑止力というものがある。
抑止力とかいうものの説明を受けた時、僕はそれを歴史の修正力みたいなものだと解釈した。
タイムスリップした主人公が、過去の時代で未来を変えようとしても、結局は元の歴史通りの結末になる、といった趣旨の創作本を読んだことがある。それと同じようなものだろう。
だけど僕は、今のところそれらしい流れ、修正力を感じたことはなかった。本来のアーサー王伝説の面影なんて、僕が生きるこの世界だとほとんど残っていないのに。
当たり前だと思う。アーサー王伝説に纏わる難題の半分は、モルガンが黒幕とされているのだ。その黒幕が本来の『アーサー王』の立ち位置にいるとなれば、実質殆どの問題は解決されたと言っていい。モルガンが暗躍していないのだから、自然と難題も少なくなるのだ。
――いや、単に分かりにくいだけで、修正力っぽいものもあると言えるかもしれない。
『アーサー王』の立場にいるモルガンは多忙を極めている。本来の黒幕モルガンが悪事に手を染めていない以上、彼女に不幸にされるはずだった人々は穏やかに生きていけるはずだった。
だがカーボネックのエレインは、妖精に襲われた。――アーサー王伝説のエレインは、最も美しいという噂が流れるほどの美女で、それを知ったモルガンが嫉妬し呪いを掛ける。呪いの詳細は忘れてしまったけど、その呪いに苦しめられているエレインをランスロットが救い出し、彼女はランスロットに恋をして、なんやかんやでギャラハッドを孕むのだ。
エレインがランスロットに恋をするという流れ。それが僕の世界でも国益に適う形で起こっている。この流れだとギャラハッドも生まれるだろう。
他にはガウェインの結婚もだ。彼の本来の奥さんは、ラグネルだ。ラグネルはその兄と共に、悪魔に呪われて姿や精神性を変貌させられている。その悪魔の正体や過程は覚えていないけど、結果的にはガウェインがラグネルと結婚して、彼女の呪いを解いていたはず。
その導入の部分で、確かラグネルの兄がアーサー王を捕らえていた。僕自身もラグネルの兄らしき男に、なんだかよく分からない迷宮に閉じ込められたことがあるが、モルガンが駆けつけてきてあっと言う間に迷宮を崩壊させたからガウェインとラグネルは出会うことなく終わったはずである。――悪魔に呪われているラグネルの兄は、モルガンの襲来直前に逃げていたけど。
しかしどういうわけか、ラグネルは自力で呪いを破り、悪魔化した自身の兄を討ち取って、女の身でブリテン王国の騎士になっていた。そしてどういう因果かウッドワスの目にとまり、彼の紹介でガウェインと出会って、バーゲストと名を改めていた女性とガウェインは結婚してしまった。彼は若干気乗りしていなかったようだけど、僕やモルガンに女性関係で何度か迷惑を掛けていたことを後ろめたく思っていたらしく、所帯を持って落ち着くべきだと判断してくれたらしい。潔く人生の墓場に直行してくれた。
このように、過程は大きく変わっても、運命で結ばれているかのように重要人物達は巡り合っている。これもある意味で歴史の修正力、強制力と言えなくもないのではないだろうか。
「――ぱぁぱ! ぱーぱ!」
そして。
金髪碧眼の、愛らしい容姿の女の子。この子もまた必然として誕生したのかもしれない。
『アーサー王伝説』にピリオドを打つ運命の子、モードレッドだ。
まさか女の子として生まれてくるだなんて想像もしていなかったけど、モルガンがこの子にモードレッドと名付けた時は驚愕したものである。
とはいえ僕は『アーサー王伝説』みたいに、赤ん坊のこの子を島流しにしてしまう気はない。災いを運んでくるなんて予言をするはずだったマーリンは封印されているし、そもそも赤ん坊時代に島流しにされた子供が、親に対していい感情を持つとは思い難い。
僕はモードレッドをいい子に育てればいい。ちょっと警戒心を感じなくもなかったけど、僕によく懐いて笑顔を見せてくれるせいか、僕はすっぱりと未来の知識を切り捨てた。考え過ぎだ、と。
はじめて喋った時の言葉が『パパ』だったモードレッドは、モルガンに見向きもしないほどのお父さんっ子だった。それはそれは可愛いもので、僕はこの子のことが目に入れても痛くないぐらい愛しくて堪らない。まあ、母親のモルガンは非常に悲しそうだったけど。
だからか、モルガンはその反動でも受けたらしく、モードレッドの双子の姉であるバーヴァンシーを溺愛しているようだった。
バーヴァンシーは、赤髪の子である。僕とモルガンの髪色的に赤い毛の要素なんてないから、どういうことかと首を傾げたけど。どうやら僕の父ウーサーが赤毛だったらしく、その血を引っ張ってきているのではないかとモルガンは言っていた。仇敵ウーサーの血を濃く引いているとなれば、モルガンは彼女を敬遠してしまうのではないかと思ったものだが、それは杞憂で済んだ。どうやらウーサーの存在は、とうの昔にモルガンの中だと風化していたらしい。バーヴァンシーの髪の色の話題でその名を出し、少し思い出した程度のようだ。
モルガンは殊の外バーヴァンシーを溺愛した。傍から見ると誰だよ君、と言いたくなるぐらいデレデレである。何をするにしてもバーヴァンシーを連れて回り、ウッドワスに専任の護衛任務を与えて、最近は常にこの三人が一緒にいる。バーヴァンシーは僕に見向きはしても、悩んだ末にモルガンを選ぶものだから、なんだか僕も悔しくなってモードレッドを連れて回った。
ウッドワスも僕の息子だと思っているけど、いつの間にか生まれていたという特殊な経緯があって、いい父親になろうという意識はあっても実感は湧かなかった。だけどモードレッドとバーヴァンシーは違う、本当の意味での実子であり可愛くて仕方ない。これが父親になるということかと心境の変化を感じ取り、ウッドワスにもより父親らしく接せるようになったと思う。
「――オラァ! 一発殴らせろこの野郎!」
そのモードレッドだけど、物心つく前から軍事一辺倒の男親が連れて回ったせいだろうか? 彼女は立派なヤンチャ娘へと成長を遂げていた。
騎士達の訓練場を遊び場とした十歳のモードレッドが、こんな粗野な口を叩くようになったのには、間違いなく僕にも責任の一端はある。……あるが、しかし。
「……モードレッド?」
「あ! 父う……え……」
ビキ! ビキビキ! と。僕は生まれて初めて、自身のこめかみが異音を発するのを聞いた。
血管を怒張させ、髪を逆立たせ、無意識に魔力を吹き出してしまう。僕の声を聞いて嬉しそうに振り向いたモードレッドが固まり、がたがたと震え出してしまっても怒りは収まらなかった。
「君、今……なんて口の利き方をしていたんだい?」
「ぁ……ぅ……」
「僕はとても悲しいよ。そんな乱暴な口を利く子に育てた覚えはないんだけどね。ああ、怖がらないでくれ、君を責める気はないから。モードレッドは悪くない、悪いのは……君達だね?」
真っ青になって震えていたモードレッドから視線を切り、彼女と剣術の訓練をしていたらしい円卓の騎士達を見る。
そこにいたのは、ガウェイン、ランスロット、トリスタン、ケイだ。前者三名もまたビクリと肩を震わせ、真っ青になっている。どうしたのだろうか。飄々としているのはケイだけである。
「わ、我が王よ……は、話を聞いてくれませんか……?」
「なんだい? 言ってみなよ、ガウェイン」
顔を強張らせて進み出たガウェインが跪き、騎士の礼を示す。
慌ててトリスタンとランスロットもそれに倣った。
満面から汗を浮かばせながら、ガウェインは弁明を口にする。
「私は止めたのです。騎士王と妖精王の御子、姫ともあろう御方が乱暴な話し方をなさっては、父君が大変悲しんでしまわれると」
「へえ。ならどうしてモードレッドはあんな口を叩いていたのかな? いいかいガウェイン、モードレッドは僕なんかに憧れてくれて、騎士になりたいと言っていたんだ。女の子なんだから箱入りにして育てたかったけど、本人の意思を曲げたくなかったからね。でもその代わりに、僕が立派な騎士に鍛えると誓っているんだよ。間違っても『この野郎』なんて汚い言葉を使わないようにね。分かるかなガウェイン……僕は今、冷静さを欠こうとしている」
「もう冷静ではありませんね……」
「トリスタン卿! お願いですから余計なことを言わないでください……!」
ぼそりと呟いたのは、目を閉じている赤髪の騎士だ。
ガウェインが慌てて咎めるも、その空気を読めないセリフはしっかり僕の耳に届いている。じろりと睨め付けると、失言に気づいたトリスタンは押し黙った。
「冷静だよ。僕はとっても冷静だ。冷静じゃなかったら拳が出ていたよ。パワハラ上等で殴られろと命令してないんだから僕は冷静だ。そうだろう? トリスタン」
「は、はい……」
「それで? ランスロット、君がいてどうしてこんなことになったのかな?」
「――私のせいではありませぬ、全てはケイ卿の責任です」
水を向けられるなりランスロットは見事な素早さで責任転嫁をした。僕はにこりと微笑む。
指先を、ランスロットに向けた。すると彼の顔色がさらに悪くなる。
僕の体は長年の聖槍の酷使により、神性を帯びてしまった。聖槍の神、とでも言うべきだろうか。恐らく人としての寿命を迎える頃には、人ではない何かになるかもしれない。
とはいえ後二十年は正常な人間のままでいられるとモルガンは言っていた。もし僕が人として死んでしまったなら、聖槍の神と化した僕と共にモルガンはアヴァロンに行くつもりらしい。
謂わばそれが僕達の、人としての寿命である。神様になってしまっても、僕の精神はあんまり変質しないらしいけど――要するに僕の全身は今、聖槍だということであり。その気になったら聖槍ビームをどこからでも発射できるということでもある。
もちろんそんな危険なビームを味方に放つつもりはない。指先をランスロットに向けたのではなく、彼の背後に漂っていた花弁を撃ち抜いただけである。
しかし結果として脅しめいた行動に見えてしまったのか。彼らは僕がキレていると思ったらしい。
そんなことはないのに。僕は怒っていない。冷静だ。本当に。ただ――少し封印が弱まっているようなので、メンテナンスの必要性を認めただけで。
「ランスロット。僕は君を信頼している。本当だ。そんな君が言うなら信じよう。……本当にケイの責任なんだね?」
「い、いえ。少しは私達にも責任はある、かもしれませぬ。止められなかったという点では」
「うん。それに関しては僕も同罪だね。気にしなくていい。……で? ケイ。ケイ義兄さん。何か言い残すことは?」
本当は分かっているのだ。ガウェインも、トリスタンも、ランスロットも、騎士の中の騎士と言える模範的な人物だ。そんな彼らの影響を受けたのなら、罷り間違っても粗野な口調は覚えない。
故に口が汚く、皮肉屋なケイしか犯人はいない。僕は残念だった、信じていた身内に後ろから刺された気分である。ケイは僕がどれだけモードレッドを可愛がっているか知っているはずなのに。
そのケイは、僕の視線を受けても肩を竦めただけだった。
「いや、別に? 血の繋がりは微塵もないとはいえ、このジャリっ子はオレにとっては姪みたいなもんだろ? 可愛がりたいって気持ちはオレにもあるんだしよ、面倒を見てやってただけだ。感謝してくれてもいいんだぜ?」
「……感謝? 感謝だって?」
「おー怖。怒んなって、アーサー」
不敬ですよと小声で咎めるトリスタン達を無視し、ケイはそう言う。身内しかいないから気にしていないけど、僕の顔はもう可笑しいぐらい無表情になってしまった。
ブチ、と血管が切れそうである。怒りに我を忘れそうになるのを、グッと堪えた。怒りを堪えられたのは、僕の怒気にあてられ泣き出しそうになっているモードレッドが視界の隅に見えたからだ。
そうでなければ、キレていた。可愛い娘にキレてる姿は見せたくないので、根性で耐えた。
「考えてもみろよ、騎士ってのは何も名誉と栄光にだけ彩られた職業じゃないんだぜ?」
「……それが?」
「お前は立派だよ。まさに理想の、完璧な騎士様だ。だが世の中の騎士ってのはそういう奴ばかりじゃねぇし、その正反対みたいな奴のほうが多い。人間は状況次第で善にも悪にもなる畜生だ。少なくとも大抵はそうだろ。衣食が足りなきゃ礼儀も仁義も消えて失せる、所詮は少しばかり賢しいだけの獣ってのが人間の本性なんだよ」
「……否定は出来ないね。ほとんどの人間は確かにケイの言うような輩だよ」
「だろ? 恨みは忘れないくせに受けた恩は忘れる。自分の損害になるなら、全てを犠牲にしてでも免れようとする。面倒でなければ下らぬ善行を施すくせに、面倒であれば巨悪を見逃すことも厭わない。我欲に駆られて行動し、失敗すれば自分以外の何かが悪いとホザきやがる。それが人間って連中だ。本当に立派な騎士ってのは、人間ってのはそういうもんだと知っていながらなお、手を差し伸べられる奴のことで――そしてモードレッドを悪意から守るには、そういう悪意への対処法を学ばせなきゃなんねぇ。オレはそれを教えてるんだよ」
聞けば聞くほど正論に聞こえる。ケイの弁舌には勝てる気がしない。
聞いては駄目だと思うのに聞かされて、いつの間にかそれが正しいことのように感じてしまった。
僕はすっかり冷静になってしまう。頭が冷えた。確かに一理あると思ってしまったからである。
嘆息して、僕はケイを睨んだ。
「……分かった。少なくとも理があるのは認めるよ。けど、分かってるよね。モードレッドに乱暴な言葉を教えるのは構わないけど――」
「分かってる分かってる。ちゃんと丁寧で上品な騎士としても通じる、正しい礼儀作法も仕込んでるっての。な、モードレッド?」
「は、はい!」
背筋を真っ直ぐにして返事をするモードレッドは、半分泣いていた。僕は嘆息する。
「怯えさせてごめんね、モードレッド」
「……お、おびえてない……です」
「気をつけろよー、モードレッド。コイツってメチャクチャ短気なとこあるからな。怒らせたら一番ヤバい奴なんだぜ。ま、オレはお前の反抗期が楽しみでなんないけどな」
――ケイが反省する素振りもなく、ニヤニヤしながら言うのを見て。モードレッドは自分に汚い言葉を教えてくるこの男が、ロクデナシだったのだと思った。
――モードレッドは心に誓う。父上だけは、絶対に怒らせちゃ駄目だ、と。
今後のネタ。
・ガウェイン、トリスタン、ランスロットとアーサーの話。
・アーサーとモルガンの話。
・ランスロットとメリュジーヌとちょい役アーサーの話。
・ガウェインとバーゲストの話。
・バーヴァンシーとモルガンの話。
・モルガンととある妖精の話。
・アーサーと、モルガンの、お話。
以上のことができたらおしまいかな。