転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話 作:飴玉鉛
カルデア編やらzero編、sn編やら見たいと言われ、そっちの内容を考えてたら投稿が遅れました(言い訳)
そうして気づいたんですが、僕は予定を立てて話を書くより、何も考えないで即興で書いたほうが筆が進むらしいです。なので今は書く気のある話だけ先に済ませ、後のことは後で考えようと思います。
――
【貴様はッ! 貴様だけはオレが殺す! アーサーッ!】
竜種の冠位、境界の竜の血を取り込んだ卑王ヴォーティガーン。
彼は全てのブリテンの人々の裏切り者だ。
サクソン人やピクト人をブリテン島に招き入れ、戦乱の世を巻き起こした邪悪である。
目的は一つ。神秘の時代を、守ること。
そのためには全ての人間を殺し尽くす必要がある。故に彼は戦乱を齎した。
如何なる動機、如何なる道を経て斯様な思想を抱いたのか、知る者はどこにもいない。
アーサー王は言ったという。知る必要はないね、と。
「ガウェインッ! エクスカリバーを君に貸し与える、ガラティーンをバーゲストに!」
「はッ! 聞いていましたね、バーゲスト!」
「お任せを、ガウェイン様! そしてアーサー王!」
『王国史唯一の副王、偉大なるアーサー王は聖槍を手に陣頭へ立ち、自らの剣を忠実な騎士ガウェインに貸与した。騎士ガウェインは己の妻たる騎士バーゲストに己の剣を与えた』
【貴様は生きていてはいけないんだ、ブリテンの神秘を――神代を終わらせてしまう貴様だけは! そしてモルガン、あの薄汚い裏切り者もオレが――】
「煩いな。生憎とセンチメンタルなお年頃じゃなくてね、昔話に興味はない。いつまでも黴の生えた時代に縋りついてる、懐古主義の老人に付き合ってる暇はないんだ。僕達には仕事が残ってる」
激情を迸らせる巨竜を前に、アーサー王は冷酷に吐き捨てた。
凄まじい怪物と化したる卑王。その力は吐息一つで軍勢を消し飛ばす。だが立ち向かうのは円卓の騎士だ。アーサー王一人では敵わずとも、彼には英傑たる騎士が幾人も付き従っていた。
太陽の騎士ガウェイン。猟犬騎士ウッドワス。妖弦の騎士トリスタン。他にも綺羅星の如くその名を煌めかせる騎士達。いずれも過去の英霊の中でも上位に君臨する者。
彼らはアーサー王の指揮の下、果敢に災害たる竜に挑んだ。たとえ日輪の下に在る太陽の騎士が一撃で倒されても、たとえ妖弦の騎士が満身創痍で膝を突き――猟犬騎士が薙ぎ倒されても、勝機の到来を最前線で待ち続けた。そうして己の騎士が敗れた後、聖槍を手に最初から最後まで挑むアーサー王は勝機を見い出した。持ち得る全ての力を投入し、一気呵成に攻め滅ぼす好機を掴む。
『太陽の光の騎士ガウェイン、勇猛なる女騎士バーゲストは、それぞれ貸し与えられた剣を持ち、ヴォーティガーンの軍勢を突破した。その後に続いたアーサー王はヴォーティガーンの許に辿り着き、自らの槍で以て仇敵を葬り去ったのだ』
――戦線に復帰したガウェインがエクスカリバーで卑王の右手を貫き、バーゲストがガラティーンで左手を貫くと、それぞれの手は地面に縫い止められてしまった。
そして聖剣に勝る殺傷力を誇った聖槍で、アーサー王は突撃する。
ヴォーティガーンが顎を開き
【アー、サー……ァァ!】
「さようなら、ヴォーティガーン。君だけは、殺してしまっても心は痛まないよ」
如何なる因縁があったのか、アーサー王は卑王に慈悲の一片も見せない。
容赦なく、末期の呪いの言葉すら踏み潰して、彼は卑王を討ち果たした。
こうして長きに亘るブリテンの内乱は終結したのである。
残るのは、国土に点在する不穏分子。
恐ろしきピクト人の掃討。
それこそが如何に難儀する戦いなのか、考えたくもない。
『ヴォーティガーンの没後、宿敵ピクト人とサクソン人は大陸へと去り、王国に平和が戻った。ただしこれは束の間の平穏である。後年、ピクト人とサクソン人の大軍勢が攻め寄せる時、アーサー王は最大の戦いに臨むことになるのだ』
――ジャガ芋がある。
いつもなんのけなしに、作業のように口に運んでいたジャガ芋。潰したマッシュポテト。
食えるだけ上等だろう。一介の村民の生活と、一転して豊かな食生活を知る僕は、今生での食事で贅沢を言わず、食べ物があるだけ有り難いのだと思っていた。僕だけに限らずこの時代、この国の人は食事を栄養補給の作業だと割り切っているはずである。
しかしだ。ふとした瞬間に、今の今まで忘れていたことを、僕は思い出してしまっていた。
この時代、この国に、ジャガ芋なんてものはなかった、と。知識の出どころも判然としない、極めて曖昧で論拠の提示も叶わないが、確かにそのはずだと僕の薄い記憶が言っている。
ではこの潰れたポテトはどこから来たのだろう。普通なら卓の上に直接、ドン! と置かれるはずのポテトの山。それが僕の身分故に、木の平皿の上に置かれたモノを見ながら思案する。
「我が王よ、どうなさいました?」
しかし、すぐに曖昧模糊とした知識の引き出しを閉める。思い出せても意味はなさそうだ。
現にジャガ芋がある。目の前にうんざりするほど。ならそれでいいじゃないか、実際にあるのなら僕の記憶の方が間違っているのだろう。今まで思い出しもしなかったのだからそうに違いない。
「いや、なんでもない。いただこうか」
言いながらポテトを口に運ぶ。
手掴みでモノを食う人が多い中、僕はささやかな意地で、食事をナイフとフォークで行なってきた。そうしていると、いつしか周りの騎士は僕の真似をするようになったけど気にしてない。
最初の頃は素人なりに、この味気ない食事を改善しようと試みはした。だが無理だった。胡椒一瓶でそれより重い金塊と同等の価値がある今代、調味料はおろか調理器具すら満足に揃えられないのである。加えて部下の命を預かる手前、軍事の勉強と自己鍛錬を怠るわけにはいかなかったし、尊い身分のせいで
傍らの騎士ガウェインは、マッシュポテトを作るのが得意だと豪語し、料理には自信があると吹聴しているが、それは本当に今の時代だと褒められるレベルである。ヘソで茶が沸きそうな話だとは思うが、雑な食事に慣れきった貧しい国だと『料理をする』だけで物好きだと思われてしまうのだ。実際、ガウェインは下級騎士から料理が得意な上官として好かれている始末である。
僕はもう心が折れていた。たぶん、人としての一生を終えるまでは、美味しい食べ物は口に出来ないんだろうなと。少なくとも美食で知られるローマに侵攻しない限りは。
(『アーサー王伝説』だとたしか、ローマ帝国からの侵攻を受けて、そこから逆侵攻して皇帝を倒した後、ローマの皇帝になったりする話があったような気がする)
僕の生きる世界とは違う、フィクションの話だとしても笑えないが、本当にやってやろうかと思う。もちろん本気ではない、再現性のないただの妄想だ。
『アーサー王』がローマ皇帝になるなんてのは、物語としても突飛すぎるし現実的ではない。仮に上手くことを運べても、国内に不穏分子は溢れているだろうし、ブリテン島のような島国の王が皇帝になっても、統治が上手くいく確率は限りなくゼロに等しいだろう。何せブリテン王国の識字率は驚異の1%である、世界の中心である帝国の統治は天地がひっくり返っても不可能だ。
だけど皇帝になったら食事がマシになるならと、そう夢想してしまうぐらいには僕も荒んできている。
豊かな食生活は心も豊かにするというのは本当だろう。逆説的に食が貧しければどこまでも荒んでしまう。僕が証人だ。たくさん人を殺したし、味方を殺されもした。僕自身アルビオンには何度も殺された。そのせいで敵を殺すのを躊躇わなくなった。モルガンは僕の心は綺麗なままだと言っていたけど、何かの間違いである。彼女の目玉はビー玉か何かかと心配になる節穴具合だ。
ただ『ビーダマ……?』と首を傾げていたモルガンは可愛かった。
僕より十■歳も年上のくせに。
「陛下? あまり食が進んでいないようですが……」
いつものように淡々とポテトを口に運んでいるつもりだったが、とりとめもない空想に思いを馳せていたせいでペースが落ちていたらしい。ガウェインが気遣わしげに覗き込んでくる。
僕は嘆息してかぶりを振った。どうにも、胃に物を詰め込む作業に没頭できない。だから気を紛らわせるために、以前から気にかけていたことを話して気分転換しようと思った。
「ああ……実は心配事があってね」
「む。それはいけません、私で良ければ相談に乗りましょう」
「ありがとう。けどガウェイン、心配の種は君に関することなんだ」
「は、私ですか?」
はて、自分に何か王の存念を煩わせる失態を犯しただろうか。
そう自省する精悍な美丈夫は見ているだけで絵になっている。ガウェインは顎に手を当てて思案していたが、心当たりがないのか困ったように眉を落とした。
円卓の間。今この場には、僕とガウェインしかいない。彼はモルガンの長子だ。いわゆる連れ子という奴で僕の甥である。しかし甥と言っても歳は近い。だから僕にとってガウェインは弟みたいなものだし、彼にも僕を兄と思ってくれと言ってある。
まあ、彼は根っからの騎士なので、弟ではなく騎士としての態度を頑として崩してくれないけど。おまけに彼は彼で母モルガンに複雑な想いを抱いている様子である。無理もないので、口出しはしていない。正直、過去の
他にも少し前までガウェインの実弟ガヘリスと実妹ガレスがいたのだが、彼らはお仕事の時間が来たので退室している。故に今この場には僕とガウェインの二人しかいない。
――ちなみに円卓を食卓にするのは、円卓の騎士にとっては割とありふれた話だったりした。
だってどれだけ凄い宝具でも卓は卓だし……。
「聞いたよ。君、バーゲストと喧嘩したんだってね」
「ッ……!? な、なぜそれを陛下が!?」
ブリテンでも有名な夫婦騎士、ガウェインとバーゲスト。仲睦まじい二人は公私両面で支え合える最良のパートナーだと評されていた。そんな評判が立っているのは素直に喜ばしい。何より彼ら夫婦は僕にとって身内同然で、苦しい戦いでも轡を並べた戦友なのだから。
そう思っていたのに、僕が探るように言うとガウェインは露骨に動揺した。僕がそれを知っているのは想定外だった? それとも主君の耳に入るような話ではないと高を括っていたのかな?
どちらでもいい。この反応を見るに、湖氏からのタレコミは本当だったようだ。
「なんで僕が知ってるかなんてどうでもいいだろう? それより、いつ仲直りするんだい?」
「そ、それは……ええ、まあ、はい。私も可能な限り早く解決したいとは思っているのですが……」
「――おや。声がするから顔を出してみましたが、我が王でしたか。そしてガウェイン卿も」
「トリスタン卿! それにランスロット卿も!」
平服姿のトリスタンとランスロットがやって来る。円卓の場は本来気軽に足を運ぶようなところではないのだが、堅苦しくやるのに疲れた僕の提案で、円卓の騎士の溜まり場にしたのだ。
よそでフラフラしてるぐらいならここに集まっといてと、そう提案した時は皆に微妙な顔をされたものだけど。今は皆も慣れてしまったようで、まるで部活終わりに部室で駄弁る、男子高校生の集いのような雰囲気が出てきている。例えるなら僕が部長で、モルガンが顧問、ベティヴィエールがマネージャーといったところだろうか。仕事中ならともかく、そうでない時にまで肩肘を張りたくないと本音で説得した甲斐のある、砕けた雰囲気には僕も救われていた。
トリスタンは僕とガウェインだけがいるのを見て、訝しげに眉を動かす。対してランスロットの顔は微かに引き攣っていた。僕らが何を話していたのか察したらしい。
「いいところに来てくれました。この際、貴方達にも相談したいと思っていたところです。さあ席に掛けてください、今ならマッシュポテトもありますよ」
「ポテトは結構。ですが相談したいと言うなら、話を聞くのも吝かではありません。ガウェイン卿から相談されるのは稀ですからね」
「……ああ、そうだなトリスタン卿」
逃げ出したそうなランスロットだったが、トリスタンに仕草で同意を求められ、渋々自分の席に腰を下ろす。ガウェインとしては部長の僕と、一対一で話すのが気まずい話題だから、なんとか助け舟を期待しているらしい。だけど夫婦喧嘩を僕に告げ口してきたのが、そこのランスロットであることには気づいていないらしい。なんだか楽しくなってきたなと思い笑顔になる。
ランスロットはそんな僕の笑顔に凄く嫌そうな顔になった。
「それで相談とは?」
トリスタンが水を向ける。するとガウェインは僕をちらりと見て、言いづらそうに口を開いた。
「ええ……それが、私としたことがバーゲストを怒らせてしまいましてね。どうすれば仲直りできるのか、知恵を貸していただきたいのですよ」
「ああ、私も噂には聞いています。ですがガウェイン卿、私はあくまで噂でしか知らないので、詳細を聞いてみないことには貴方の求める答えは出せないでしょう。詳しく話を聞かせてください」
正論で返され言葉に詰まるガウェイン。ちらりと僕を見るところから察するに、僕がいては話しづらいのかもしれない。だけどそんなことは関係ない、僕は肩を竦めて甥の代わりに言った。
「トリスタン。彼はね、結婚記念日で妻を家に待たせているのに、婦女子からの誘いを受けたんだ。なんでもその婦女子は以前、匪賊に襲われたところを父母共々ガウェインに助けられたらしい。その時の恩返しをどうしてもしたいと請われ、ついて行ったようなんだ。結果、その日の内に帰ることが出来ず、日付が変わって帰ったら――バーゲストは悲しんで彼を詰ったようなんだ」
「ほう、浮気ですか。やりますねガウェイン卿」
「浮気などしていません!!」
感心したように笑顔へ艶を出すトリスタンに、ガウェインは顔を赤くして吠えた。
この手の話が大好き、というより。トリスタンはガウェインを誘った婦女子が人妻だという噂を聞いているから、とうとうガウェインも同好の士になったのかと歓迎の意を示したのだ。
未だに独身のトリスタンは気楽なものである。そろそろこの男にも家庭を持たせてやらないといけないなと僕は思った。どう考えても、コイツを野放しにしていてはいけない気がする。
「騎士たる者、婦女子には優しくしなければなりません。恩返しをしたいという婦女子の誘いを振り払うなど、男としても騎士としても不誠実でしょう!」
「ええ、その通り。貴方は間違っていない! 私でも誘いに乗りますからね!」
「――夫としては不誠実だった。問題はそこじゃないかな」
てかてかとした笑顔で同意するトリスタンを尻目に、ぐさりと言葉で刺しておく。流石にガウェインもそれは分かっているのか、言葉に詰まってしまったようだ。
ついでに言っておこう。
「君がどれだけ必死に浮気をしていないと訴えても、女の家に行って一夜を明かせば、それは実質浮気をしたようなものだ。たとえ実際に肉体関係を持っていないとしても、そんなことは外部の者には分からないからね。バーゲストが怒るのも無理はないし、非はガウェインにしかないと思うんだけど……君はどう思う、ランスロット?」
「……全面的に、我が王の言う通りかと」
「だろう? 流石はランスロットだ、エレインも立派な夫を持てて幸せだろうね。成長したら息子のギャラハッドくんも君を尊敬するだろう。素晴らしい父親だ、って」
「………」
無言で顔を背けるランスロットである。僕の牽制が伝わっているらしい、冷や汗を浮かべていた。
彼もまた人妻好きの変態的性癖の持ち主である。トリスタンとよくつるんでるのも話が合い、よき友人だと認識しているからだろう。それはいい、同僚と仲が悪いよりは余程。
が、駄目。彼はよりにもよって、とある王の妻になったギネヴィアなる女性と、道ならぬ恋に落ちたという。幸い早期の内に気づけた――というより、僕が勝手に気をつけていたから情報を掴めたけど、そうでなかったら彼の今の家庭は崩壊していたかもしれない。
ギネヴィアとランスロットには深く釘を刺し、二人には接触禁止令を出しておいた。もし僕の接触禁止令を破ったなら……ランスロットは去勢、ギネヴィアは不妊の呪いをモルガンに掛けてもらうと脅している。そんなわけでランスロットはこの手の話題を僕の前では出したがらなくなった。
――フランス版アーサー王伝説だと、踏み台、引き立て役、乱暴者でしかないガウェイン。同様にランスロットは完璧な騎士で、そうである故にブリテンを崩壊させてしまう存在だった。
だが僕が接して見知った彼らの人柄は、正しい意味での騎士の中の騎士である。ガウェインもランスロットも、物語で取り上げられるほどの人格破綻者でも人格者でもない。勿論僕もだ。
だから誰しもが普通に失敗するし、失敗しても自分は悪くないと思いたがって頑固になる。相手を信じる余り、何も言わなくても察してくれると決めつけて、すれ違いを起こしてしまいもする。
ガウェインは自分の信じる騎士道に沿っただけで、同じ騎士ならバーゲストも理解してくれると信じていたのだ。むしろ浮気を疑われたら、自分のことを信じてくれないのかと立腹してしまう。彼は素晴らしい騎士だけど、人間なのだ。感情があるし、陥穽もある。失敗を失敗だと認識することが出来ていないのは、そうした心の動きがあるからだろう。
「しかし、陛下。私に非があるにしても、バーゲストに私は謝罪しました。以後はこのようなことがないように気をつけるとも。なのに彼女は意固地になってしまっている。私はどうしたらいいのですか? ただ平謝りするしかないのでしょうか?」
ガウェインも自分が悪いのは分かっている。分かっていても納得はしていない。こういう時、両者を知っている僕がアドバイスするべきだろう。こんな僕でも一応は人生の先輩なんだから。
「ガウェイン。君も知っているはずだ、バーゲストは大きな女だって」
「ええ、彼女はとても、とても大きいですね」
「……トリスタン? ちょっと黙ろうか」
余計な茶々を入れてくるトリスタンを睨む。友人の妻にまでそんな目を向けることは赦さない。
僕は円卓で、ドロドロとした人間関係なんて見たくなかった。現に愛妻家のガウェインも凄い目でトリスタンを睨んでいる。やめてくれよ、本当に。さもないとトリスタンを去勢しないといけなくなるじゃないか。そんなの嫌だぞ。君も嫌なはずだ。
トリスタンも流石に自分の失言に反省したようで口を噤んだ。ランスロットなんてあからさまにカカシに徹して、空気になろうと必死である。
「バーゲストは君の事を許しているよ。事情を理解してもいるはずだし、まさかガウェインが不義を働いたなんて思ってもいないはずだ」
「……では、なぜ彼女は私に口を利いてくれないんですか?」
「たぶん、バーゲストは悔しいんだと思うよ」
「悔しい?」
「ああ。せっかくの結婚記念日を、愛する夫と祝うことが出来なかったんだ。なのに君は謝るだけ、他には何もない。贈り物をしても何もしていないのと同じだ。それがなぜだか分かるかい? ランスロット」
「……な、なぜ私に聞くのです?」
「君は答えが分かっているんじゃないか。ガウェインに教えてやりなよ」
話を振るとあからさまに動揺するランスロットに、ガウェインは縋るような目を向けた。彼は少しでも早く家庭内での変な空気を払拭したいのだ。
仲間のそんな目に、ランスロットは折れた。嘆息して彼はガウェインに向き直る。
「……恐らくバーゲスト卿は、貴公に埋め合わせてほしいのだろう」
「埋め合わせ、ですか?」
「そうだ。記念日を共に祝えなかった、それが悔しいと彼女は感じている。ならその悔しさを晴らしてやるのが夫の勤めではないかと愚考する。とはいえ彼女もそんなことは言い出しつらい。何せ彼女は騎士としての貴公も尊敬している。故に貴公を困らせたくないが、同時に納得も出来ていない……彼女は今、苦しんでいるはずだ。ガウェイン卿がエスコートする他にないだろう」
「流石はランスロット卿。女心をよくご存知でいらっしゃる」
「……トリスタン卿。頼む、茶々を入れないでくれ……」
ガウェインはランスロットの意見に深く考え込んでしまった。そしてやおら立ち上がり、僕に礼を示してくる。
「……陛下。私は今から妻に会いに行こうと思います。先に退室するご無礼をお許しください」
「無礼なんかじゃないさ。行ってあげるといい」
「は!」
颯爽と立ち去るガウェインの背中を見送る。
彼がいなくなるのを待って、僕は手元のポテトを見下ろした。
だが未だに食欲が湧かない。仕方ないので僕はにっこりと微笑んで、トリスタンを見た。
彼は嫌な予感がしたのだろう。すぐに立ち上がろうとするも、機先を制するように言った。
「――さ。次はランスロットも話しやすい話題にしようか」
「む……それは素晴らしい提案ですな。口も滑らかになりましょう」
「……へ、陛下? それにランスロット卿……な、なぜ私を見るのです?」
僕が何を言いたいのかランスロットも察したのか、素晴らしい笑顔でトリスタンを見て、彼が逃げられないようにその肩へ手を置いた。
トリスタンの端麗な顔が強張る。そんな彼に、僕は言ってやった。
「そろそろ年貢の納め時だ。君もふらふら遊んでないで……家庭を持ってみたくはないかい?」
僕がそう言うと、トリスタンはがっくりと肩を落とした。
経験上、僕がこう言い出すのが最後通牒だと理解してくれているらしい。
女性関係のトラブルで手を煩わせられるのは、いい加減うんざりしている。嘗てはガウェイン、そしてランスロットを人生の墓場に叩き込んだ。今度はトリスタンの番である。