転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話 作:飴玉鉛
ウォッチャーとセイバーが同盟を結んだ頃、事態は水面下で急速に動き出そうとしていた。
冷めた眼差しで街を見下ろす彼の目には、暗躍する蟻の蠢動がつぶさに見て取れた。一般人を何かと理由を付けて避難させ、暗示などをはじめとした魔術を用い穏便に、しかし迅速に舞台から遠ざけていく様は、庭師としては及第点な働きぶりだと言えるだろう。目的通りに事が進んでいれば、彼も有象無象が掃けていくのは歓迎していたかもしれない。
雑種如きがどれだけ死に絶えようと気に掛ける義理はないが、彼が待ち構えていた相手は、脆弱で低俗な雑種であろうと被害を出さぬように心を砕くであろうから。
しかしそうした働きも彼には不要となっている。この地で行われる聖杯戦争にも関心自体がない。戦いの末に完成する聖杯にのみ用があるだけで、それとて本当は必須となるわけでもないのだ。
見るに堪えない雑種の繁栄も、なかなか楽しくはあるが。やはり生きる価値のある人間が少なすぎる故、適当に間引いてやるかと考えもしたが――正直、あまりやる気も湧かない。
(騎士王め。十年もこの我を待たせていながら、舞台に上がりもせんとはな。ふん……貴様がその気なら我にも考えがあるぞ?)
そもそも騎士王の本体がいる理想郷へ、攻め込むだけなら何時でも出来るのだ。彼の蔵には聖杯の原典もあり、その他の財宝も駆使すれば世界に穴を開け侵攻するのは容易い。
そうせずに十年も待っていたのは、騎士王が一度とはいえ彼を破っていたからである。聖槍の神へと成り果ててしまった人間を殺してやる前に、過去の敗戦を拭い去っておこうと決めていたから、微睡みのような日々の中で舞台を整えてやっていたのだ。
しかし彼が召喚されてくるだろうと踏んでいた、騎士王は現界しなかった。
肩透かしを食らった気分であり、拍子抜けしたのはもちろんだが、祭りを前に高揚していた気分が著しく萎えてしまった。端的に言って白けたのである。
故にやる気はなくなっていたのだが――考え方を変えた。
「貴様が来ないなら我から行ってやろう。なに、武勇でこの我を破った英雄を敵に迎えるのだ、多少の労は厭わんでやるさ。――娘を手土産にすれば、貴様も引っ込んではいられんだろう?」
喜悦を滲ませた顔が、手に持つグラスに映る。
受肉した英霊、英雄王ギルガメッシュは真紅の瞳を細めて笑っていた。
全ての英霊の頂点に君臨する、原初の英雄王は傲慢で尊大で冷酷だ。神々をも見下す彼は、三分の二が神であるにも拘らず神を裏切り、人の時代を開闢させた偉大な王である。
たとえ知名度がなくとも、伝承としての記録が乏しくとも、現代に至るまでの全ての人間の遺伝子が英雄王の存在を覚えている――と言えば彼の規格外さが分かろうというもの。呪いの域に達している英雄王のカリスマ性が、時の果てに至ろうと色褪せぬ故に、サーヴァントとして現界しても在り方が歪まず、十全な自我を具えられるのである。
しかしどれほどの英雄を前にしても、ほとんどの場合雑種と蔑む傲慢さを失わない英雄王だが、本質はやはり王なのだ。彼の基準を満たし認めるに足る人間が相手なら、英雄王ギルガメッシュは驚くほど寛大になるし、たとえばその人間が取るに足らぬ力しか持たずとも、その行く末を文字通り最後まで見届けようともする。自らになんの益がなくともだ。
つまり。ギルガメッシュは、騎士王を認めていた。
王としてはある程度。だがその平凡なくせに頑強極まる魂と、凡俗なくせに高貴な在り方から、ただの人間としてなら最上であると評価したのだ。だからこそ騎士王の力も認め、以前の戦いでの敗北を認めている。そして、だからこそ自ら行動することを良しとした。
だが用意した舞台を捨てては品がない。品とはつまり格だ。故にギルガメッシュは用済みとなった舞台は早々に消し去りたいと思うようになっていたが、軽率に動く気もなかった。
なにせ聖杯戦争という余興に集った英霊が、期待していたものを上回る面子なのである。ケルトの光の御子をはじめ、ギリシャの女神の栄光、古代イスラエルの魔術王など、ギルガメッシュから見ても揃いも揃って手強い顔触れだ。暗殺者や北欧の戦乙女は眼中にないが、グレートブリテンの聖剣王もなかなか面白そうではある。
(――読めんのは遠坂の小娘が喚び出した雑種よ。アレは何を企んでいる?)
衛宮陣営に遠坂が組み込まれては余興としてもつまらない。そう考えて、遠坂が衛宮陣営に接触されるのを何年か前から妨害していたが、それ以外に特に深い考えがあったわけでもなかった。
極論、遠坂に関してはほぼ眼中になかったわけだが、結果としてセイバーとして現界した小娘と戦闘を行い、同盟を組むに至っている。だがその流れに英雄王だけが違和感を見い出していた。
(加えてマリスビリー。魔術王を
キャスター陣営とは不可侵条約を結んでいる。だがそれはあくまで表面的なもので、隙を見せたら平気で反故にできる程度の口約束だ。
マリスビリーの魂胆は分かっているが、それはいいのだ。元より律儀に不可侵を保たれるとは考えていない。最後には殺す気でいるのに変わりはないし、マリスビリーもギルガメッシュの魂胆など理解しているだろう。
だから問題になるのはソロモンの存在ではない。千里眼を有する者同士、アドバンテージはないに等しいがそれは互いに同じこと。魔術王は自らと同格の力を持つが、それだけだ。サーヴァントではあってもマスターがおらず令呪の縛りが効かないギルガメッシュが恐れる相手ではない。故に気になるのは
セイバーはいずれ捕らえに行くからいいにしても、番人は目障りである。騎士王が来ていれば多少のイレギュラーも許容していたのだが、来ていないのなら寛大さを見せる気はない。
早々に舞台を畳んでしまおうと決めたギルガメッシュは、
「今少し間を置くとしよう。下賤な狗と、神の奴隷が消えるまではな」
王は傲岸な眼差しで、無聊を慰める為の見世物を見届けることにした。
彼の視線の先では、もうすぐ二人の
どちらが勝って、どちらが消えようと構わない。
ギルガメッシュの関心は、舞台の幕引きにしかないのだから。
先日の戦いで、撤退まで追い込まれたのは己の油断のせいだ。
死角からの十字射撃、宝具発動直前の隙を狙われたタイミング。過失はないとは言えないが、相手が見事だっただけだとは言えるわけもない。この世界では些細なミスで命を落とすのだから。
自分が死なずに済んだのは、ひとえに相棒が多才多芸の大英雄だったから。もし彼が少しでも気づくのに遅れていれば、今頃バゼットは死んでいたに違いない。
「――今度は、間違えない」
バゼットは唇を噛み締めて、決意を固める。
魔術師が銃火器を用いるという思考の死角を突かれたのもある。マスター以外の人間が戦闘に加わっていたという驚愕もある。だがそんなものは敗者の言い訳だ。何より、憧れの英雄と肩を並べているのに、これ以上無様を晒して足手まといになりたくはない。
銃火器を用いる魔術使いと聞けば、この界隈に詳しい者なら真っ先に悪名高き『魔術師殺し』を思い出す。現代兵器へ対抗策を持つのを、現代の魔術師間で常識とまでさせた伝説的な殺し屋だ。当然ながらバゼットも対抗策の一つや二つは持ち合わせている。さもなければ先日の戦いで死んでいた。そしてこの冬木には衛宮の名を持つ者がいる。
彼らと戦うのなら、相手は魔術師ではなく魔術使いだと認識し、正攻法で斃すのは不可能だと考えるしかないだろう。そう考え、バゼットは如何にして相手陣営と戦うかを思案した。
だが。
「バゼット、気づいてるか?」
不意に実体化して問い掛けてくる蒼い騎兵に、バゼットは小さく顎を引く。
無論気づいていた。気づいた上で、手遅れだと判断していたから落ち着いている。
彼女達は今、新都の喫茶店にいた。昼夜の別なく人気のある所にいれば、不意を突いて襲撃される危険性は低いと考えていたからだ。
だがそのあては外れた。夕暮れを越え、辺りが暗くなり始めるや否や、周囲から加速度的に人気がなくなっていったのだ。幾らなんでも街から人が完全にいなくなるのはおかしいだろう。
話には聞いていた。前回の聖杯戦争の反省を活かし、戦闘前に人払いを徹底するとは。
しかしここまでとは思っていなかった。神秘の漏洩を防ぐのに、どれほどの労力を割いている? 巨額の富が動いているのは想像に難くなく、より多くの人が動いているのが肌で理解できた。
「この分だと冬木の聖杯戦争が終わりに近づいているという噂も、あながち嘘とは言えませんね」
「そうなのか? なら、オレはラッキーだったってワケだ」
最後に近い機会で、違う時代の英雄と戦える。それは確かにライダーにとって幸運なのだろう。
好戦的な彼らしい。そう思って苦笑しかけて――
「――あら。ならこの出会いも、貴方にとっては幸運だったのかしら?」
殺意を隠す気もなく。悠然と歩んでくる白い妖精に、バゼットは嘆息した。
接近には店内に入ってこられるまで気づけなかったが、恐らく魔術によるものだろう。
しかしここまで接近されては、どれほど気を抜いていても流石に気づく。無論ライダーもだ。だからこそ彼は実体化した。白い妖精を完全に無視して、筋骨隆々の巨漢と相対したのだ。
獅子の毛皮に似た革鎧を纏った、二メートルと半ばを超える身の丈。全身に筋肉を搭載し、であるのに戦士としての柔軟さを失わず、濃厚な武の気配を隠し立てせず放っている。
出鱈目なステータスの高さだ。間違いなく、ライダーに匹敵――あるいは超えていた。
バゼットはビスクドールのように整った容貌の少女を見遣る。伸ばせば腰まで届くだろう白銀の髪を頭の後ろで結わえ、紺色の竹刀袋を肩に担ぎ、紫色のパンツドレスを着込んだ少女は、ルビーのように赤い瞳に真っ直ぐ歪んだ光を灯していた。美しく、可憐で、それでいて優雅。であるのに闊達さと幻想性が同居し、儚く見えるのに生命力に溢れている。例えるなら、武闘派の貴族だろうか。そうとしか例えられるものを知らない。バゼットは静かな殺意を込めてその少女を見据えた。
「私は別に。しかし意外ですね、貴女は一人で来たのですか?」
「ええ。それがどうかした?」
暗にそちら側のことを、こちらは知っていると含ませて言うと。少女は面白そうに、そしてさもどうでもいいことのように応じた。
虚ろな目をしているカウンターの店員。店員は、まるで自らの職責を忘れたかのように店外へと退出していく。それを一瞥して、バゼットは席を立った。
鈴を鳴らしたような神秘的な声。魔笛を吹いたかのような、魔的な音色。容姿からして西洋者、加えて自らが有する衛宮の情報。それらを照らし合わせ、正体にあたりをつけて問い掛けた。
「衛宮イリヤスフィールですね。まさかそちらから、しかも単身で我々に挑んで来るとは」
「貴女はバゼット・フラガ・マクレミッツ、っていうんでしょ? 勘違いしないでほしいんだけど、私は優しいから一度だけ訂正してあげる。私は挑みに来たんじゃない。貴女を殺しに来たの」
「……ほう」
さらりと。名乗ってもいないバゼットの名を告げた少女、イリヤスフィールの宣告に封印指定執行者は眉を跳ね上げた。血の臭いがしない素人の戯言と流すには、余りに酷薄な声音だ。
強い言葉を使う輩ほど、油断や慢心を懐いているものだ。しかしこの少女に油断や慢心はあるようなのに、それはひどく薄っぺらかった。表に見せてある驕りは見せ掛けで、腹の中は微塵も気を抜いていないのだろう。なるほど、優れた師によく鍛えられているらしい。
だがバゼットは負ける気がしなかった。イリヤスフィールは命あるモノを殺めることに、なんら躊躇する気質ではなさそうだが、実戦経験があるわけではない。赤枝の騎士としての嗅覚が、
「こんな戦いに価値はないわ。だから早々に終わらせる。私のアーチャーは最強だから、貴女のサーヴァントなんかすぐに始末してあげるわよ」
「――強気ですね。彼女はこう言っていますが、貴方はどう思いますか、ライダー」
自らよりも数段体格に優れる漢を見上げながら、犬歯を剥き出しにして闘志を燃やす騎兵。
発される威圧感、ぶつかり合う気迫、まさしく瀑布の如し。見上げる殺気は露骨に笑み、見下ろす戦意は静謐な重みを宿す。――間違いない。これは、この相手は、どれほどの時を費やしても、一度しか望めない邂逅である。見ただけで分かる、
原野に棲む獣の如き笑み。重厚な大地の如き笑み。
重なる視線を逸らすことはなく、二人の大英雄の戦意に呼応して、比喩ではなく物理的に地面が鳴動していた。かたかたと地震が起こっているのである。まるで冬木という土地そのものが、これから先の戦いに恐怖して泣き叫んでいるかのように。
「面白ぇじゃねぇか」
「………」
ライダーはマスターの問いに応え、そして告げる。
「バゼット、頼みがある」
「……なんでしょう」
「邪魔するなよ。何もしないで、見ててくれや」
切実な、願いだった。死力を尽くしての戦いを望む、戦士の渇望だ。
バゼットは僅かに逡巡するも、頷いた。ここで異論を口にしようものなら、信頼関係に罅が入りかねないほど、ライダーはこの偉丈夫と相見えられたことに歓喜しているのである。
だが、彼女はマスターだ。
「好きにしなさい。ただし分かっていますね? 私が静観するのは、あくまで状況が許す範囲だ」
「……そいつを弁えてりゃいいんだな?」
「私達は一蓮托生。勝手に死ぬことは認めない。負けることは赦さない。貴方は私が最強だと信じる英雄です……私の信じる『最強』を、汚さないと約束できるなら、好きに戦えばいい」
「ハッ――後進の期待には応えてやらねぇとな。ってなわけだ、オッサン。表に出ろよ。それともここでやるかい?」
ライダーは気持ちのいいマスターを得られた幸運に、改めて感謝しながら巌の如き大敵に水を向ける。すると弓兵は自らのマスターに視線も向けず、ようやっと口を開いた。
「マスター。私がこの者と戦えば、暫らく掛かりきりになってしまうだろう。悪いがその間マスターを護れる自信はない。構わないか?」
「ええ。自分の身は自分で護るわ。バゼットが余計な真似をしない限り、私も手出ししない。貴方の力、この私に見せて」
自らのサーヴァントが最強だと知るが故の絶対の自信。それを背中に受け、英雄は笑った。
思えば、久しいものだ。庇護すべき者に、揺るぎない安心と信頼を向けられるのは。悪くない、いいや心地良い。得難い敵を迎えた高揚、なんのしがらみもないままに高貴な姫を護る環境、どれもが全く以て気持ちが善く――なんとも血が湧き、肉が踊るではないか。
気がつけば外に出ていた。
真っ向から対峙すれば、一流の戦士は相手の力量を察知する。故に両者は改めて、敵手の強さを正確に肌で感じ取っていた。その上で、勝つのは己だと自負している。
「なあ、オッサン」
「なんだ、小僧」
真紅の魔槍を握る騎兵に、無骨な大弓を握る弓兵が応える。
アイルランドの光の御子は魔槍を地面に突き立てると、空の手をゆっくりと伸ばした。
互いの背後には、マスターの女。この身こそが最強だと信じる者だ。無様は見せられぬ。
「オレも膂力には自信があるクチでね、いっちょ力試しでもしてみようぜ?」
「この私に力で挑むだと? 面白いな」
悪戯を仕掛けるような笑みを向けられた弓兵は、微かに驚きながらも苦笑する。世界最大の力を誇る己に、力で挑む勇者など皆無だった。だからこそ、それも一興だろうと笑みを湛える。
アーチャーも弓を置き、丸太のような腕を伸ばし、ライダーの手を掴んだ。師もを超える力量は、技のみならず経験も豊富。だが掴めば壊す自らの技を今は封じ、ライダーを見据えた。
「ッ……」
手を掴んだ瞬間、彼我の力の差は如実に現れる。力瘤を浮かべ、腰を据え、満身に血管を浮かび上がらせながら、握力で相手の手を握り潰し、力のみでねじ伏せようと体重を掛ける。
体重に重心を合わせ、足で大地を掴み、大地の重みすら乗せていく。押しているのは無論弓兵だ。余裕のある表情のまま、城すら投げ飛ばす騎兵が地面に近づいていくのを見下ろしている。
「どうした、ライダー。お前の力はこの程度か?」
「ッ! ハ――! ま、さか……ここまで、力に差が、あるたぁな……! オレの師匠ですら、オレとの力勝負は、絶対に避けてたもんだってのによッ」
「お前も私の知る中では最強だ。だが、私ほどではない」
「そうかよ……だが、勝った気になるにはちと早いんじゃねぇか――!」
足元が陥没する。地面が割れる。力と力の鬩ぎ合いに、大地の方こそ先に音を上げ砕けていた。
だが後少しでライダーが膝を折り、屈服するかのように地面につけられてしまう。
しかし、カァッ! と気合を込めて叫んだ騎兵に異変が起こった。
あらかじめ仕込んでいたルーンがライダーの体を限界まで強化する。すると微かにアーチャーが押し込む勢いが弱まったが――それだけだ。依然、力の差は覆らない。そろそろ本気で潰してしまおうと力む弓兵に、全身から汗を噴き出しながら犬歯を剥いた騎兵が吼える。
「
瞬間、異変が起こった。
光の御子の髪が逆立ち、活性化した神性が総身を駆け巡る。
音を立てて捩れる筋肉の躍動、化身する肉体の変貌。
肥大化していく肉体は、本来のものより一回り大きくなり、見開いた双眸が強烈な光を宿した。
狂化に等しい理性の蒸発。しかしクラスの縛り故か、理性を完全には失いはしない。
頭上に現れる光の環は、英雄光と称されるもの。一回り大きくなった肉体とその光の環だけが、ライダーの姿を変じさせる限界のライン。アーチャーは驚嘆した。なるほど、これがライダーの本気の戦闘形態か、と。力も、明確に、己に迫るものがある。
「見事だ。ならば私も本気をみせよう――!」
大喝して全力を振り絞れば、押し返して来つつあった姿勢を押し留め、再び押し返しはじめる。
ライダーは驚愕した。ここまで本気を出して尚、力で劣るのかと。だが、だからこそ面白い。
光の御子は咄嗟に手首をひねる、体勢を変える、そして流れるようにして瞬時に女神の栄光を投げ飛ばした。だがアーチャーはあっさり空中で体勢を入れ替え、綺麗に着地する。
「……チッ。オレの負けだ。アンタの方がオレより強ぇ。力は、な」
「人相手にここまで本気になったことはない。ライダーよ、称賛を受け取れ。お前は私以外の何者にも力で劣ることはあるまい」
「嫌味かよ。だが、これでお互いはっきりしたな?」
両者が本気で組み合った瞬間、辺り一帯の窓ガラス全てが砕け散っている。それだけの力の圧力が拮抗していたのだ。ビルや店舗のガラスが地面に散乱しているのを踏みしめ、ライダーは嗤いながら突き立てていた魔槍を握る。呼応してアーチャーも大弓を蹴り上げ、自然体のまま構えた。そしてライダーの言に、隠し切れぬ戦士の歓喜を滲ませて頷く。
「名を名乗れぬ戦いの中で、しかし確かに伝わるものがある」
「ああ。力はテメェが」
「速さはお前が」
「そして、技は」
「
組み合っただけで、頂点に立つ者達は理解し合っていた。
親友のように、双子のように、師弟のように、己のように。
互いが積み上げた研鑽の全てを、ただただ武の一文字で以て理解したのだ。
「――素晴らしい師に恵まれたようだな」
「テメェもな、オッサン」
「であれば、もはや言葉は不要だろう」
「応。掛かって来な――と、普段なら言うとこだが。今回ばかりはこう言わせてもらうぜ」
魔槍を携え腰を落とす、戦闘形態へ移行した光の御子クー・フーリンに。
槍の如き大矢を形成した、女神の栄光ヘラクレスは厳かに迎え撃つ。
「その心臓、貰い受ける――!」