転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話 作:飴玉鉛
旅行中の隙間時間でパワプロ2022をやり栄冠ナインの面白さに目覚め、動画でも見ようと思ったらにじさんじ甲子園とかいうのに出会い、意外な熱さに驚き楽しみ。とても充実した日々を送れました。パワプロ三昧の毎日! その熱さを少しでも皆様にお裾分けしたい。そんな感じで書きました。どうぞ!
バゼットは英霊召喚に踏み込むまでに、方々に手を尽くして用意したものがあった。
魔力を回復、ないし促進させる礼装、あるいは溜め込む為の礼装である。
一流の執行者である彼女は、サーヴァントの力を軽く見ていなかったのだ。また冬木という地で行われる聖杯戦争のからくりから、サーヴァントが知名度による補正を受けることも知っている。
故に自らが喚び出すサーヴァントが、本気で戦い伝説通りの力を発揮した場合、自身の魔力が瞬く間に枯渇するのを懸念するのは当然だ。そんな無様な理由で死にたくないし、死なない為に対策をするのが道理である。最悪の場合は令呪を魔力源にする想定もしていた。
だが神代の規格外というものは、現代の魔術師風情では計り知れぬもの。果たしてバゼットの用意した礼装は全て無駄となり、令呪の使用を想定していた覚悟も無駄に終わっている。
なぜなら
否、正確には違う。
ライダーとアーチャーの繰り広げる死闘は、もはや人智を超えたもので、バゼットの想像より激しさを増し、危うく昏倒する寸前まで行ってしまった。もしもライダーが自前の魔力で魔槍の真名解放を行わず、マスターに負担させていれば限界を迎えていたかもしれない。神代から続く名門と言える家系の魔術師であり、自身も極めて優れた魔術師であるバゼットが、だ。
あまつさえ固有結界にも似た城砦都市を具現化された時、バゼットの残った魔力はほとんどが枯渇しミイラになりかけた。何も手を打たずにいたなら、間違いなく死んでしまっていただろう。
だがそうはなっていない。それはなぜか?
「蒸発するまでアゲていこうぜ。祭りの時間だァ!
『
――答えは一つ。事此処に至ってなお、常人の理解の遥か先に、神話の大英雄がいただけだ。
目映い光と共に顕現せしは、戦場の王が領した伝説の居城。クー・フーリンが安らいだ地。
対自己宝具に分類されるそれは、護りよりも寧ろクー・フーリンの心身を癒やし、慰め、士気の向上を大いに促す城だ。謂わば城主の辿った歴史、史に刻まれた伝説を再現する本拠地である。
自らの名を冠したその宝具は、
魔力の枯渇で死にかけたバゼットが生きながらえ、あまつさえ全快しているのはそうした理由だ。ライダーが魔槍や魔剣を差し置いて自身の
幸運を除いた全能力を一ランク向上させるだけではなく、精神異常耐性を強め、回復力を極限まで高めた上に、戦闘続行スキルも数段跳ね上がり、更には限定的ながら膨大な魔力を得る。今のライダーは生前には及ばぬまでも、サーヴァントとしては望み得る限り最高の状態に達していた。瀕死だったはずのライダーが、急速に傷を癒やしていくのだ。理不尽極まりない宝具と言える。
「凄まじいな……」
我知らずアーチャーが感嘆する。自身の知るトロイア、神々の加護を得て繁栄した都市国家、そのいずれにも絢爛さでは劣っている。しかし無骨で味気ないその城塞都市は、只管に剛健だ。
人の営み、人の活力、それらが詰まった幻想の城。アイルランド最強の大英雄が守り抜いた、まさしく愛すべき人々の勇気の結晶だ。素朴で実直、ひたむきな祈り。それを背にした時の英雄の手強さを、アーチャーは我が事のように理解できる。アーチャーはライダーを、一人の男として素直に尊敬した。どれほどの勇者と自身が戦っているかを、改めて実感したのだ。
――光の御子は生前、数多の武勲を打ち立てた。しかしそのほとんどで自ら戦いを望むことはなかったという。闘争を好む戦士が、だ。クー・フーリンは人々を窮地から救う為、友や自らの名誉を守る為にこそ、義侠心から望まぬ戦いに挑んだのである。
騎士としての名誉と節度を重んじ、女を手に掛けることは一度もなく、裏切りを嫌った。後のブリテンの騎士に大きな影響を与えたのはクー・フーリンの真に高潔な在り方だったのだ。
故に彼はしがらみの中で生き、死んだと言える。アルスターの王族にして騎士だった彼は、いつも自分以外の誰かの為に戦い続け、それに後悔こそしていないし誇りを懐いていたが、死後に望みを託せるのなら――なんのしがらみもなく、掛け値なしの死闘を、ただ自分の為に演じたい。彼はそう願った。そして、それは叶ったと言える。
全ては相対する好敵手と、自らのマスターのお蔭だ。どちらが欠けても、ライダーの望む死闘は成立していなかった。だからこそ猛る、だからこそ奮う、全てを出し尽くすまで終われはしない。
「『クー・フーリン』の全部はまだ晒しちゃいねぇ。だがこっから先は『サーヴァント・ライダー』としてのオレも含め、全部を曝け出していく。早々に音を上げてくれんなよォ!」
「――いいだろう。我が生涯にてついぞ得られなかった好敵手、敬意を払うべき偉大な勇者! 我が全霊を以てお前の繰り出す悉くを撃ち落とす!」
ここにきて、アーチャーの戦意も最高潮に達した。
この城を出されず、あのまま続けていたらアーチャーが勝っていた公算が高い? 宝具たる肉体と鎧を持つ己を打ち破るのは不可能? そんなものは知らない。そんな道理、計算など役に立たない。
勇猛たるアーチャーは歓喜していたのだ。まさに死闘、まさに己の全てを絞り出す決戦、未だ嘗てない
「さあ、征くぜ相棒!」
「――急な話はいつものことか。いいだろう、共に征くぞ兄弟」
主の呼び声に応え現れたのは戦馬セングレン、神馬たる灰色のマハ。そして威容高らかなる両馬が牽く戦車の御台に現界せし、ライダーの幼馴染にして運命共同体――全英霊中最高位の馬術を誇る御者の王、自らも騎兵の資格を有する英霊ロイグ・マク・リアンガヴラ。
彼らはライダーの宝具『安息を背に咆え猛ろ、光の地』展開時のみ、現界を可能にする。なぜなら彼らはダンドークにて、英雄クー・フーリンと同じ戦場で死した輩であるからだ。その結びつきは極めて強い。死ですら分かたれない不滅の絆が彼らの間にあった。
いずれもクー・フーリンの誇る相棒達である。太陽神の加護を授かる車輪を有して、その車輪に螺旋の刃を具えた鉄杭を施した対軍宝具を操る、エリンの戦士として欠かせない半身でもある。
だが騎兵の座にあるはずのクー・フーリンは、戦車の台に立たない。そちらは完全なフリーハンドを預けた幼馴染に託し、自らは光の魔剣を抜刀し朱槍と共に身軽な戦士として完成する。
「シャァッ!」
地面を蹴って突貫せしは、戦闘に支障がない範囲まで回復したライダーだ。遅れて始動した戦車はライダーの初動で意図を察し、彼とは反対の位置に駆け出している。アーチャーも一目で意図を見抜くも妨害できない、そんな隙など見せては容易く心臓を抉られよう。
アーチャーは即座に大弓に矢を番え、必殺の殺意を込めて速射する。一度の射撃に五矢を乗せたが如き連射速度に並ぶのは、彼のアーラシュ・カマンガーのみだと言えよう。だが破壊力で彼の大英雄をも上回る神の栄光の矢を――飛び道具に無比の対応力を有するライダーは容易に弾いた、が、その交錯のみでライダーもまたアーチャーの意図を看破した。
お前の悉くを撃ち落とす。その宣言に偽りなし。アーチャーの放った矢は、ライダーの弾く軌道すら読み切って威力の減衰を極限まで抑え、展開された城砦に着弾し蹂躙する。アーチャーはライダーの切り札である宝具の特性を一目で洞察してのけていたのだ。
これほどの宝具を展開していながらマスターに負担が掛かったように見えない、であるのならその弱点は性能ではなく成立した形にこそある。すなわち、
「ハッ――頭の回る筋肉達磨だな!?」
「知らんのか? アスクレピオスに言わせれば脳もまた筋肉らしいぞ。つまり私は世界一の知恵者でもあるというわけだ!」
接敵し光の魔剣を振り抜いたライダーに、諧謔を返しながらアーチャーは大矢で捌く。剣士の座で招かれても不足のない技量に感嘆しながらも、彼は跳び退いて後退しながら更に矢を番えた。
迫るライダー目掛け再び宝具『射殺す百頭』を射掛ける。ドラゴンを模した絶殺の自動追尾弾、それを虹霓剣カラドボルグに匹敵する魔剣の一振りで相殺してのけるも、代わりに脚を止められた。その間にアーチャーは更に後退している。自らの奥義すら出し惜しまず、彼はちらりと自らのマスターを見た。少女は自らのサーヴァントの意思を感じ、仕方なさそうに頷きを返す。
それを確認したアーチャーは即座に大矢を射掛け、城砦を破壊する。そこへ――ライダーに迫る速度で突撃する、対軍宝具『
だが、御者の王は慮外の馬術を、そして戦車操術を魅せた。捨て身で掴みかかったアーチャーの腕がセングレンの首に巻き付く刹那、セングレンの手綱を引いて急制動を掛け、
「がッ――!?」
舐めていたわけではない、しかし神代の名馬、神馬の中でもトップクラスの戦馬達の性能を、鍛え上げられた魔剣の如く振るうロイグの戦技が未知の領域にあったのだ。これにはさしもの大英雄も初見では対処が能わず、まともに食らってしまい吹き飛ばされた。
そこに。こうなると分かっていた、信じていたとばかりに待ち構えていた者がいる。そう、御者の王と軍馬の王に並ぶ戦場の王、クー・フーリンだ。高々と跳躍していたライダーは、朱槍に一瞬にして全開の魔力を充填してのけ、撓めて溜めた力を全力で解き放った。
「貰ったぜ、『
放たれるは光の御子の代名詞。必殺必中の呪いの槍。魔力が続く限り、喩え地球の反対側まで逃れようと永遠に追い続ける魔槍の極撃。これで三つは持っていくと言わんばかりの気迫だ。
しかし。しかし、だ。
「アーチャー! ……令呪を使うわ!
人類史上最高の性能を誇るマスター、衛宮イリヤスフィールですら令呪を使ってなお五分。
この意味を、この一瞬で悟れるのはアーチャーのみ。
そして、それで充分だとばかりに――アーチャーは、獰猛なものへその笑みを変えた。
迫る魔槍。それを正面から防御する――だけでは済ませない。獅子の毛皮により心臓へと滑り込まんとする穂先を抑え、弓を捨て己の両腕で魔槍を掴む。そして、凄まじい衝撃に喀血しながら、蘇生宝具『十二の試練』を封じることで使用を可能にする
「『
英雄ヘラクレス。様々な冒険、試練、怪物退治を経た末に、神の席に列された半神半人。
その伝説の中で、彼が手に入れた武具防具、財宝、名馬は数知れず。
山と積まれる名声の果てに、人は一つの疑義を懐いた。
果たして最強の英雄の、最強の武器はなんなのか?
ヘラクレスの振るった大剣マルミアドワーズか。奥義ナインライブズを開眼する切っ掛けとなった石弓か? それとも彼の死因にもなった神王蛇ヒュドラの神殺しの毒か? はたまた彼の代名詞とも言える棍棒? あるいは、それとも、もしくは――論議は尽きぬ。
だが真にヘラクレスを知る者は。当のヘラクレス本人は。
最強の武具はなんだと問われたら、簡潔な一言を返すのみだった。
――ヘラクレスの最強の武器は、
異変を察知し目を見開いたのはライダーである。
己の英霊としての誇り、魂、修練。その具現とも言える投擲魔槍を、両手で掴み取って魅せた巨雄が、最強宝具たる己の肉体を解放し、ここに――神話の時代、あらゆる舞台を征した伝説の英雄が復活した。
「
黒髪がうねる。肉体が異常な筋肉で膨張する。握り込む握力のみで世界が軋み、大地が鳴動する。込められた力で空間が撓み――満面に苦痛を滲ませながら咆哮したヘラクレスによって――完全な力で万全の機を捉え命を狙った魔槍を――半ばから、強引に、圧し折った。
着地したライダーが絶句する。有り得ない光景に彼の相棒たちすら足を止めた。同じく大地に足を付けた巨雄が、全身から大量の汗を噴き出し、肩で息をして、しかし命を一つも散らさないまま五体満足で健在を誇示した。充謐する気魄は天を覆い、その力は山を抜き海を割き大地を砕く。英霊という枠組みのみならず、神霊ですらもねじ伏せる最強の腕力の持ち主が、莞爾として笑む。
「……まるで、雷霆の如しだった」
「テ、メェ……」
「だが――忘れていなかったか? 私は、この体と、この力で――生前は一つ切りの命で、全ての偉業を成し遂げたのだ。私の残りの命を視野に入れた
「………………!!」
燃え上がる赫怒。煮えたぎる憤怒。そして――憤死しかねない羞恥。
怒号を上げず、怒りで悶えず、みっともなく情けない醜態を晒さずに。自慢の槍を――師より授けられた誇りそのものである槍を――圧し折られた現実を受け止め、裂帛の気合を秘めて吼えた。
「…………応ッ!!」
魔剣を仕舞い、新たに取り出したるは名槍ドゥヴシェフ。クー・フーリンが魔槍ゲイ・ボルクを使わない戦いで用いていた主兵装だ。むしろゲイ・ボルクよりも手に馴染む愛槍でもある。
まだ武器を隠し持っていたのかと苦笑いしてしまいそうになりながら、宝具『ヘラクレス』と言える存在へ変貌した大英雄は顔を引き締める。まだまだ引き出しがあっても驚かない。多彩さには自信があるが、多才多芸さぶりでは到底ライダーに及ばぬ自覚があった。
だが、それがどうした。
己には、この体がある。並ぶ者なき無双の力が。
そして、この身に積んだ技がある。賢者より学んで超えた、最優の術が。
ならばこれ以上何を望む。何を求める。――何も要らぬ。この戦いは、裸一貫、腕と脚の五体のみがあればよい。そうとも、これもまた乗り越えるべき最難の試練である。
――力自慢が、技自慢が、自分だけだと思うな!
そう叫ぶように、再び跳躍したライダーへ、バゼットが令呪を二つ切った。
「ライダー! 『私の参戦を認めなさい!』『そして、絶対に勝てェッ!』」
「――祭りに参加か? いいぜ、来なバゼット!」
「っ……アーチャー!! 令呪で命じるわ、『宝具【十二の試練】と【其の栄光は、此の力で為したもの】を可能な限り併用しなさい!』」
「承知! 二つもあれば充分だ、往くぞマスター!」
マスターすら交えての血戦、その決着は近い。
自らの技を宝具の域に押し上げているのはヘラクレスだけではない。それを証明するかの如く、空中にいたライダーは愛槍を虚空に放り、その石突きに足を添えた。
そして、幕切れに向けて全力で疾走していく。
「魅せてやらァッ! オレのとっておき――『
黄金の王が呟いた。思いの外、熱中して観ていた己に鼻を鳴らし。
「フン……雑種共が、随分と興じさせてくれる。だが……
魔術の王が呟いた。機械的に、感情などなく。
「ここだ。さて……貴方はどう動く? 英雄王。いずれにしても、打てる手はない。貴方も、私も」
聖剣の女王が振り返った。
「――決着ですか。願わくば、
そして、イレギュラーは内心にのみ溢す。
(ここからだ。ここから、一瞬たりとも、一つたりとも、ミスは犯せない)