目が覚めたら狸妖怪で現代じゃん   作:酒田オト

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6話 不運と就職じゃん

 

「はぁ……それで、どうしてこんな惨状になったんです?」

 

ため息混じりに質問してくる藤崎さん。なんて答えようかと悩んでいると、先に桐子が口を開いた。

 

「すみません……最近は調子良かったんですけど、出掛けるとたまに不運な事が起きてしまうんです」

 

「不運ねぇ……?」

 

横目に俺の方を見てきたので苦笑いを浮かべながら、ここに来るまでの事を思い返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前、いたずら小僧を追いかけ怨霊を倒したり藤崎さんと出会ったりした日のこと。

家に帰ってきた後、俺は大学から帰ってきた桐子に藤崎さんのところで働こうと思ってる事を話すことにした。

 

「えぇっ!? マミゾウちゃん働いて出てっちゃうの!?」

 

「いやいや落ち着いて! 出てはいかないから!」

 

「はっごめん、気が動転しちゃったわ……でも大丈夫マミゾウちゃん? 悪い人に騙されたりしてない?」

 

そんなに俺って騙しやすそうに見えるのか? ちょっとショックだ。

 

「藤崎さんにはカフェのお金も払って貰えたし良い人だよ」

 

「そうやって優しくして女の子の懐に入ってくるんだよ!」

 

そ、そうなのかな? そこまではっきり言われると自信が無くなってしまう。いやでも働かないという選択肢はない。一生ヒモとして生活するのは男……いや元男としてのプライドが粉々になってしまう気がする。

 

「今のままだと桐子にばっかり負担をかけちゃってるでしょ? やっぱりそれだと申し訳ないからさ」

 

「マミゾウちゃん……!」

 

目をウルっとさせながら名前を呼んでくれる桐子。これで藤崎さんのところで働くのも納得してくれたかな?

 

「でも怪しいから私もその人に会いに行くからね!」

 

「お、おう……」

 

勢いに流されるまま俺はその言葉に頷いたのだが、今思えばこれが不運の始まりだった。

 

 

 

そのまま桐子の予定が何もない一週間後、藤崎さんに貰った名刺に電話をかけ今から桐子も含めた二人で行くことを伝えて出発した。

 

「一緒に出掛けるのはショッピングモールで買い物した以来だね! マミゾウちゃんもすっかり服を着慣れちゃってかわいい!」

 

「ありがとう……//」

 

歩いていると桐子から褒め殺しにされ気恥ずかしさが込み上げてくる。一週間も過ごせば女の子の服を着るのにもある程度慣れちゃったし、褒められるのも満更では無い。下着はまだ恥ずかしいけどさすが人の適応力と言った感じだ。

 

そんなことを言い合いながら歩いていると、桐子が歩いている方、右側の家の塀に猫が歩いているのに気付く。

 

「あっ猫ちゃんだ」

 

「かわいい……んっ?」

 

ちょっとふてぶてしい感じの顔が逆に可愛く感じて癒されていると、その後ろにもやを少しまとった猫が付いてきているのが見える。そして前の猫に追い付くと……しっぽを踏み抜いた。

 

『ニ”ャアッ!』

 

「桐子!」

 

しっぽを踏まれた猫がこっち側、つまり桐子の方に飛んできた。身を前に出して庇うと代わりにスカートをザクッと引き裂かれてしまって太ももの大部分が露になる。

 

「あぁマミゾウちゃん! 大丈夫!?」

 

「桐子こそ怪我とかしてない?」

 

「全然問題ないよ、でもスカートが……」

 

「藤崎さんのところまで我慢するか道中で良い葉っぱを見つけるしかないね」

 

残念ながら葉っぱはしっぽと耳を隠す分しか持ってきていないのでどうしようもない。予備を持ってくれば良かったとか思っても後悔先に立たずだ。

 

「私のせいでごめんね」

 

「いやいや無事で良かったよ」

 

まぁ桐子も俺も怪我してないんだから問題ないな。

 

 

 

結局道中で綺麗な葉っぱを拾ってスカートを元通りに化かして戻した。これで葉っぱを落とさない限り問題ない。

 

「よし! 気を取り直して出発しようか!」

 

「完璧に元通りだね! 太ももが見えてるのも良かったけど

 

「うん?」

 

「何でもないよ~」

 

何か聞こえた気がしたが気のせいだったようだ。

 

ともかく再出発し、今度はちゃんと注意しながら数分歩いていると、少し古い家の雨どいの所に一つ目? の変な生き物がピチピチ跳ねているのが見えた。

 

「桐子、気を付けてね……」

 

「えっ? うん」

 

今度は事前に桐子にも言って、慎重に進んでいく。そして丁度家の横を通りかかるところでその変な生き物が一際大きく跳ね……どんっと着地した勢いで雨どいが外れ、溜まっていた水が俺たちに降りかかってきた。

 

「「……………」」

 

気を付けてもどうしようも無いものがあるのだと俺は学んだのだった。

 

そうして多々ありつつも、藤崎さんの居る事務所までたどり着くことが出来た。場所は街の中心部に近い雑居ビルの2階だ。

 

「やっと着いた……」

 

「数十分しか歩いて無いのにすごい疲れちゃったね」

 

「ほんとにね」

 

桐子の言葉に心の底から同意する。まさかこんなに大変になるとは思ってもいなかった。だがここまで来ればもう何も起きないだろう、と考えながら階段を一歩ずつ上がっていくと

 

「ひゃあっ!」

 

顔の前を羽虫が横切った。ただただ普通の羽虫ではあったけど、びっくりして声を出しながら足を滑らせてしまう。

 

「マミゾウちゃん!?」

 

後ろに居た桐子も巻き込み転がっていく。しかし不幸中の幸いというやつか、最初に頭に乗せていた葉っぱが落ちたみたいで抱きついている桐子ごとしっぽに包んでクッションになってくれた。

 

なんか前もしっぽに助けられたような気がする……目覚めた時は邪魔だと思っててごめんと心の中で謝罪をしておこう。

 

「大丈夫か! ってお前……マミゾウか!」

 

転がった時に大きな音を立てたのもあって、ドアを開けて藤崎さんが出てきてくれた。

 

「藤崎さん、すみません転んじゃって」

 

「それは良いが……とにかく中に早く入れ」

 

俺と桐子の姿を見てそう言ってきた。返事を言って立ち上がると自分の姿に気付く、スカートを化かす為に使ってた葉っぱも外れて、ついでに水も被っていたせいで酷いことになっていた。更に桐子も転がった時に無くなったのか胸元のボタンが取れて外れてはだけてしまっていた。

 

「「早く入ろう……」」

 

二人でそう言いながらそそくさと事務所の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……それで、どうしてこんな惨状になったんです?」

 

こうして冒頭に戻るのであった。改めて思うが、なかなか酷い。

 

「色々あったんです、色々」

 

「ごめんねマミゾウちゃん、最近は調子良かったから油断してたわ。昔から私って不運な事が多かったのに」

 

「最後のに関しては完全に俺のせいだし……ごめん」

 

二人して謝りあっていると、突然パチンと手を叩く音が聞こえる。

 

「はいはい、取り敢えずシャワー浴びてきな。服は両方私の貸しとくから」

 

藤崎さんの優しさを身に染みさせながらお風呂場に向かった。

 

……未だに二人で裸になるこれだけは慣れない、自分のはまだしも桐子の姿を見るのが気まずい。それを見ないように目をつむりながら別の事を考える。

 

桐子は不運な出来事が多いって言っていた。そう言えば神社に来たときは黒いもやが後ろを付いてきていたし、最近調子良いっていうのはあれを蹴飛ばしたのが関係していたのかもしれない。不運だからもやが付くのか、もやが付くから不運なのかは分からないけど。

 

「今日はお詫びに背中洗ってあげるね」

 

「お詫びなら俺だって桐子にしないと……」

 

とにかく気を付けないと。どっちにしたってもやと接してたら悪い事しか起きないだろう。

 

「エッしてくれるの!?」

 

「あれ?」

 

やっばい適当に返事してたから聞いてなかったけどなんか了承してたみたい?

 

じゃあお願いします

 

結局シャワーを終える頃には顔を真っ赤にしてしまった。いや肌触りがすべすべでヤバい。桐子が隙あらば背中流すのも理解できてしまった。

 

「それじゃあ仕事の話するけど……体調大丈夫か?」

 

「ハイッ大丈夫です!」

 

「そ、そうか」

 

いつの間にか仕事の説明になっていたみたいだ。流石に切り替えないと。

 

「内容は依頼が有ったときのお客さんへの対応とか、仕事中の荷物持ちになる。給料は働いてる日数によるが平均よりは高くするぞ」

 

おぉ……結構出来そうじゃないか? 力仕事には自信がある。

 

「はい藤崎さん! 質問です!」

 

「お、なんだい音海さん」

 

「ちゃんと休日はありますか? ブラックだったらマミゾウちゃんを就職させられません!」

 

元気いっぱいに質問を飛ばす桐子、既に俺の保護者のようなポジションになってしまっている。

 

「それは大丈夫だ。なんせ私自身暇な時間で作家が出来るくらいだし、そもそも依頼が月に一回くらいだからね」

 

そのホワイトっぷりは逆に心配になってくるが良いのかそれは。まぁそれは置いといても問題は無さそうに思える。

 

「辞めたくなったら何時でも辞めてもらって良いから好きに決めてくれ」

 

うん、既に妖怪なのがバレてるのもあってここ以上に働きやすそうな職場はないだろう。

 

「分かりました。俺……ここで働きます!」

 

チラッと桐子の方を見るが特に否定されることもない。

 

「ありがとう、助かるよ。ただ一つだけお願いがあるんだけど働いてる時だけでも一人称は私で頼むぞ?」

 

「アッハイ」

 

確かにこの姿で一人称俺はあれか……桐子にも注意されたことないし、今初めて言われるまで完全に頭から抜けていた。お客さんに悪印象だと悪いし私生活でも変だと思われそうだから直しておこう。俺という一人称は心の中だけに封印だ。

 

こうして就職活動を終え、行きと違って帰りは無事に帰宅することが出来たのだった。




今回文字数を増やしてみました。文字数多くて投稿頻度高い人はすごいなぁと改めて感じます。
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