お待たせしました。エタは嫌いなのでしたくないです(願望)
ダンカグでマミゾウちゃんの曲が来たので皆も、しよう!
就職して俺の生活もすっかり一変した……ということも無く、藤崎さんの言う通り依頼が来ないのでぐーたらと惰性を貪っていた。
そんなある日のこと、桐子が帰ってきて早々俺の元に駆け寄って言ってきた。
「マミゾウちゃん! 東方のイベントに行きましょう!」
「イベント?」
「東方の中でも一二を争うビッグな同人即売会よ!」
同人即売会。前世でもコミケとかはネットで聞いた気がする。確か個人で作った本を売ったり、コスプレをしている人を囲んで写真を取ったり……するイベントのはずだ。
一緒に生活してて分かったが、桐子は結構なお嬢様だ。家が広いしお金に困ってるところを見たこともないからこういうイベントに行くのはちょっと意外だった。
「桐子ってそういうイベントにも行くんだ」
「なにその目は」
「いや……ちょっと意外だなって」
「むむ、イベントに行かないような人だったらマミゾウちゃんと会った神社にも行ってないわよ」
「確かに」
そう言って互いに笑い合う。出会った時から桐子は行動力の化身だったな。家に誘うのも藤崎さんに会いに行くのも。
「じゃあ、一緒にイベント行こうか」
「やったー! じゃあこのチケット渡しとくから失くさないようにね」
渡されたのはコスプレ参加用と書かれた長方形のチケット。まさかコスプレをさせられる……というか、しっぽとか耳とか出させる気なのかと怪訝な目で桐子を見る。
「だってマミゾウちゃん、いつもみたいに隠しても髪とか顔立ちとかでコスプレだと勘違いされると思うよ?」
「えぇ……?」
そこまでなのか。これはもう腹をくくって頑張るしかないみたいだと思いながら渋々頷くのだった。
「ほえ~ここが会場か。随分と人が多いのう」
会場に着くとまず人の多さに圧倒される。道中に乗った公共交通機関でも多かったのだが、参加者全員の終着点というだけあって比べ物にならない。口調に関しては会場に着いたらと桐子にお願いされてたのでしっかり実行中である。
「よし、取り敢えず更衣室に向かおっか!」
人の波を掻い潜りながら更衣室と書かれた部屋に到着する。ここで一旦別れた後、お互い着替えて再び合流という予定だ。もっとも俺の場合は葉っぱを外すだけなのだが。
他の人にそんな着替えを見られる訳にも行かないので服が入ってそうなダミーのカバンを持ちながら小さな囲いの中に入り、カーテンを閉めてから葉っぱを外していく。そして不自然にならないようたっぷり10分間待ってからカーテンを開け外に出た。
他の人のコスプレ姿を見ながら待っていると赤い市松模様の着物に緑の袴、その上から黄色いエプロンという格好をした桐子が話しかけてきた。
「マミゾウちゃん」
「それは……小鈴のコスプレじゃのう!」
「正解です! マミゾウちゃんと絡みやすいのはこの子だからね!」
どうやら当たったようだ。以前に勉強したとはいえこの身体になってから記憶力が上がってるような気がする。
「それじゃあ出発進行!」
更衣室を出て案内に従いながら本会場へと向かうと一気に開けた場所に出た。そこには同人誌やグッズを売っているスペースがあり、それを囲むように人が歩き回っている。
正直舐めていた。油断したらすぐにはぐれてしまいそうだ。
「私は買いたいもの見ていくけど、マミゾウちゃんは何か欲しいものある?」
「特にはないのう」
東方にそんなに詳しい訳でもないし、こういうイベントに今まで行ったこともないのでさっぱり検討もつかないのだ。
「それなら手を繋いで一緒に見ていこう!」
桐子もはぐれてしまうことを想像していたのか、俺の手を優しく引っ張ってくれた。
二人で有名だというサークルのCDやマミゾウが描かれている薄い本*1を買って回ったり、途中スタッフらしき人から声をかけられ
「広報用に一枚良いですか?」
と写真を撮ってもらったりと満喫していた。
その写真がSNSで軽くバズるのは関係のない話である。
散策している最中明らかに人じゃないモノも見かけたが……害をなすタイプじゃなさそうだから見なかったことにした。まぁ、うん、怨霊だってこういうのを見に来るんだなぁと一人で納得していた。
そんなこんなで楽しみ尽くした俺たちは、自販機で買ったペットボトル茶を飲みながら椅子に座り酷使した足を労っていた。
「楽しかった?」
「もちろん」
「よかった」
短く会話を交わした後桐子が頭を肩に乗せる。
少し驚いたけど、嫌という訳でもないのでそのまま姿勢を動かさない。
「私、両親以外でこういう風に友達と出掛けたりしたことなかったからさ。少し厳しくて」
「それは……家族のこと、嫌い?」
「嫌いではないんだけどね、息苦しくなって、そのまま大学に入って飛び出して来ちゃった」
「……」
なんて言えば良いのか、何も知らない俺が家族のことを悪く言うのも何か違うと感じて、言葉が出ない。
そもそも桐子の周りのことについてさえもあまり知らなかった。
「じゃあ、俺…私がこれからも一緒に出掛けたり、遊んだりするよ」
肩を離し、桐子の顔を正面に見る。
思えばこの身体になってからいまいち真剣になれていなかった。お金の問題とか容姿の問題とかじゃなくて、精神的に、現実に向き合って無かった。
「どれぐらい助けになれるか分からないけど、ちゃんと」
二人で見つめ合い、しばらくした後に
「ふふふっありがとう、マミゾウちゃん」
笑いながらお礼を言われて、そのまま抱きつかれた。自分も少し抱き返す。
これからどうなるか分からないけど、将来、この日を振り返って良い日だったねと二人で笑えることを願う。