ダンジョンに紫紺の狐人がいるのは間違っているだろうか 作:ふみふみ
ダンジョン、冒険者の欲望渦巻くこの世界の中心である都市で、その
主神である女神に尻尾を撫でられて目を細めて喜ぶ様は、そこらのペットのように愛らしい。だが、その中身と言葉遣いは奇天烈かつ破天荒である。
その少女と勘違いするような容姿とは正反対に、最初に出会った時から粗野で荒くれた中年冒険者のような話し方をするのだ。あのときのギャップの高低差に思わず女神も上を向いてしまったが、その魂の美しさと強さに心打たれた女神は、彼女をファミリアに加入させるために勧誘を続けた。
何とか勧誘に成功し、彼女は強くなり、過去の英雄たちに並び立てるほどの強さを手に入れたが、その愛らしい容姿と言葉遣いはどうしてもかわらず、まして言葉遣いはさらに悪化した。少しでも可愛く見せようと女神フレイヤは苦悩し、付き人であるオッタルにも一緒に考えるように促したが、さすがの女神からの頼みとあっても何年もその言葉遣いで共に過ごした数多の経験から、それが不可能であると苦言を呈さざるを得なかった。都市最強が過去の英雄たち以外に初めて折れた瞬間であり、しゅんとした様子にフレイヤは少しうれしくなったが、そう言っても特に妙案が浮かばなかったために、語尾に「です」をつけるように指示を出した。
狐人からしても、これから言葉遣いについてとやかく言われることがなくなることを喜び、いつも通りの言葉に「です」を付け足すだけで良いことに文句はなかった。
それは
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「早く飯を出せ、です。イズナに殴られてぇ、ですか」
「分かっている、少しまて。今日はお前の好きな団子も作ってみた」
フレイヤファミリアホーム。普通のファミリアであれば団員たちが和気藹々としているであろう食堂は閑散としており、そこにはでっかいのとちっこいのが二人いるだけであった。
でっかいほうはオラリオにおいて並び立つ武人はいないという都市最強の称号を持つ
ちっこいほうはオラリオにおいて並び立つ足はないという都市最速の称号を持つ
フレイヤファミリアは個人主義かつ実力主義であるそのせいで団員内の横のつながりは皆無に等しく、皆一様に主神からの寵愛を求めているということもそれを加速させ、団員のほとんどが周りよりも強くなるために日夜ダンジョンに繰り出すようなファミリアである。
そんな生活を続ける彼らに情というものはほとんどなく、足の引っ張り合いにつぐ足の引っ張り合いも日常茶飯事である。そんなファミリアに加入していながら仲の良さげな二人はフレイヤが主神となってからも珍しかった。その実力もほとんど大差ないために、特に二人は大きな争いもせずに寵愛を分けて受け取っていた。
オッタルは信頼を。イズナは親愛を。どちらも恋慕ではなく、種類も違うがゆえに成り立つ歪な協力関係であるが、その薄氷の上のような二人の関係性もフレイヤにとっては真新しく、興味深いものだった。
二人の様子を鏡で見るフレイヤ。オッタルの岩のような肉体の躍動とイズナの筆のような尻尾の誘惑。どちらも筆舌しがたい良さがあり、真逆であるはずなのに二人を見ていると兄妹のような安定感がある、長年の薄い関係は着実に太くなっているが、朴念仁とまだまだおこちゃまな女子では恋愛に発展するようなことがなかった。これだけが二人に抱いている唯一のフレイヤの不満である。
なんとなしにデートをさせてもダンジョンに行ってしまい、ダンジョンを禁止にしてもフレイヤの良いところを延々と話す地獄が生まれ、それを禁止にしてしまったらもうデートではないナニカしか残らない。結果としてフレイヤが彼らのこの先に不安を覚えただけにしかならなかった。
今日はオッタルがイズナとフレイヤに夕飯を作る日である。
これはオッタルがフレイヤに新しく何かしたいと提案したことに始まり、フレイヤがイズナが一緒にご飯が食べたいとごねていたことを思い出し、イズナがお腹を鳴らしたことで決まったことである。
オッタルが調理場に立って料理し、イズナが横で出来上がりを待ちフリフリし、そしてフレイヤがその二人の様子をつまみにしてワインを嗜む。誰にとっても幸せしかない、一石三鳥のハッピーセットである。
「よし、出来上がりましたフレイヤ様。ワインもほどほどに、フォアグラでございます。ソースはこちらに」
「ありがとうオッタル。さあ、席についてイズナが先に手を出しそうよ」
「それでは、「乾杯」」
「いただきます。です」
二人が上品に料理を味わうのに対して、イズナがいただきますを合図に一気にご飯を掻きこんだ。その様子にオッタルはナプキンを煎じて用意し、フレイヤは微笑ましげにご飯の消えゆく先を見つめる。
食事もそこそこにイズナが食べ終わったことで、会話が進むようになる。
「今日も二人で訓練をしていたの?」
「はい、です。オッタルには負けられねぇ、です。」
「フレイヤ様の傍を任されている以上は負けられないので」
「明日は絶対勝つ、です」
「負けん」
「負かす、です」
「勝たせん」
「ぼこぼこにして、泣かせてやる、です」
「ならんし、泣かん」
「ふふ」
二人はオラリオに相方を除いて個人で並び立つものがいないと謳われる最強の冒険者である。しかし、フレイヤの前で見せる二人の姿はじゃれあう子供のようであり、その成長過程を一滴残らず見てきたほどに特別愛情を注いできたがために、慢心することなく今も成長を続ける二人はそれはそれは愛おしく感じる。
「団子、もうねぇ、です。作れ、です」
「作らん。俺はお前の召使ではない」
「……………おねがい?です」
「知らん」
「ぶっとばしてやる!です」
「やってみろ」
だが、二人は子供のような存在であり、彼女の求める理想の
二人には資格を持つ冒険者をできる限り探してもらっているが、まだ見つからない。
大神らがいなくなり、やっとオラリオを意のままにできるようになったのに。
焦がれて焦がれて仕方ないが、目の前の二人はそれを知ってか知らずか無意識に諫めてくれている。
子でありながら、親の間違えにも気づくようになってきた。そろそろ子どもから卒業するのも近そうだ。
「おい、酒は飲むなと言っただろう」
「ふうぇ~~い、フレイヤ様、です。ぎゅうしてぇ」
と目の前でべろべろに酔ったイズナが抱き着いてくるのを受け止めながら女神は考えた。
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「私の伴侶はどこにいるのかしら?」
女神が普段と同じように呟いた言葉に撫でられていた狐と、傍に控える猪が真逆の反応を示した。前者は尻尾を振り、後者からは小さな嘆きが漏れ出た。
「どこに行く、ですか?」
「いけません、フレイヤ様」
二人の受け答えは全く違っていた。戦闘狂であり、暇、安定をフレイヤと共に嫌うイズナは賛同を。前回の
オッタルは
部屋にピりっとした緊張が走る。
女神の私室。男神や二人を除いてほとんどの団員が入ることができない場所で、特に優秀な眷属二人は意見の相違によりよくぶつかり合っている。しかし、『主神』が関連するとなると話は変わってくる。
お互いに敬愛し、愛を求める女神については特に激しくぶつかり合う。前回の気まぐれのときには
女神の気まぐれのような伴侶探しは唐突にやってくる。
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短い