強くてニューゲームを続ければ、いずれ英雄になれるだろうか? 作:ライadgj1248
異世界転生。それは多くのオタクが夢見て憧れた定番ネタだろう。辛い現実世界から輝かしい異世界へと移り住み、現代知識や神様から貰ったチート能力で無双し、様々な種族の美少女にちやほやされて愛を育む。まさにもてない男の夢そのものだ。
かくいう自分もそんな異世界転生という奇跡を授かったオタクの元社畜だ。仕事が終わってフラフラしながら帰宅する途中で、暴走したトラックが突っ込んで来るのを目にした時は、ああ・・・これで異世界に転生出来れば良いのになぁ・・・とぼんやり考えていた。まさか本当に異世界転生が出来るとは信じていなかったが、きっと神様が自分の頑張りを見てくれていたに違いない。ここから自分の人生は大逆転して華やかな生活を送れるのだ!!
そんなふうに考えていた時期もありました・・・
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「・・・・・・ここは?」
ふと目が覚めて起き上がると見慣れない風景が目に飛び込む。少し薄暗くて雑然とした路地のようだが、建物は見慣れた鉄とコンクリートではなくレンガで作られている。道に敷かれたレンガはところどころボロボロになっているし、上を見上げると建物の間にロープが張られていて、洗濯物らしきものが干されている。あれが日光を遮っているせいで薄暗いのだろうか?それにしてもここはどこだろう?今どきレンガで作った建物なんて観光地とかにしか無いと思う。少なくとも日本では探す方が大変なはずだ。レンガの建物が並ぶなんてまるで中世ヨーロッパをモチーフにした異世界のような・・・
「異世界のような!?」
待て待て待て!?自分は今まで何をしていた!?思い出せ!!思い出せ!!確かいつもどおり勤務先の工場でこき使われ、予定通りの残業を終えたと思ったら想定外の仕事が入って、フラフラになりながら帰宅している途中で・・・暴走したトラックが突っ込んで来た!?
「よっしゃああああ!!異世界だよな!?これ異世界転生だよな!?マジかぁ!!いや、普通に大人の体っぽいし異世界転移か?それとも誰かの体に憑依しちゃった系か?出来ればイケメンとして生きていたいから、元の体のままじゃない方が良いんですが!?」
まずは現状の把握からだ!!死後の世界とかで神様が説明してくれるイベントはなかったのが悔やまれる。とりあえず自分の手を見てみたが、そこには普段見慣れた自分の手ではない!!華奢と言う程ではないがわりと細身の腕になっている!!つまり長年連れ添った小太りボディとはおさらばだ!!
「よっしゃああああ!!」
「うるせえぞ!!こんなとこで騒いでんじゃねぇ!!」
「す、すみません!!」
どこからか野太い声に怒鳴られて反射的に謝ってしまう。振り返ると建物の裏口っぽいところからガタイの良い強面のおっさんが出てきたようだ。あれだな、きっと鍛冶屋か凄腕の冒険者のどちらかだろう。もしくは裏社会の住人的な人かもしれない。とにかくヤバイ人だ。
「どこの誰だか知らねえが人んちの裏で騒ぐな!!近所迷惑だろうが!!」
「す、すみませんでしたぁ!!」
ペコペコと何度か頭を下げて走り出す。強面のおっさんはわざわざ追い掛けては来ないようで、少し安心しつつも狭い路地裏から大通りらしき場所へと飛び出す。そこでまず目にしたものは・・・迫りくる馬だった。
「あっ・・・・・・」
う、馬デケェ!!
「グフッ!!」
馬にはね飛ばされて激痛に悶える暇もなく、後続の馬が迫って来て・・・踏み潰され・・・
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「ハッ!?」
気が付くと薄暗い路地に倒れていた。バクバク暴れる心臓と荒い呼吸に苦しみながらも周囲を見渡す。見慣れないレンガ作りの建物が建ち並び、上に目を向ければ張られたロープに洗濯物が干してある。自分の体を確認すると慣れ親しんだ小太りボディではなく、すらっとした体格で怪我もない。
「はぁ・・・ずいぶんと嫌な夢を見たな・・・せっかく異世界転生を果たしたというのに、冒険に旅立つ前に事故で死ぬとかどんな悪夢だよ・・・転生後に即死とか誰得だって話だ・・・」
ようやく心臓と呼吸も落ち着いてきたので、ゆっくり立ち上がって大通りらしき方向に向かう。恐る恐る路地から大通りの様子を伺うと、なかなかに活気のある場所のようだ。道に沿って露天が立ち並び買い物客で賑わっている。おっ!?あれは猫耳か!?つまり獣人が存在する世界感か!!ならばエルフやドワーフなんかも居るかもしれない!!それにしても何故か露天も人々も道の端の方に集まっていて、道の中央部分は誰も居ない空間が出来上がっている。
ドドドドドド!!
右側から地響きのような音が聞こえて慌ててそちらに目線を向けると、騎馬に乗った騎士のような一団が凄い速度で走って来ていた。騎士達はそのまま道の中央を物凄い速度で走り抜けて行ったが、街の人達は特に驚いたような反応は見当たらない。どうやら道の中央を空けていたのは、馬が走る為のスペースのようだ。現代での車道みたいなものか?つまりあそこに不用意に飛び出せば馬にはね飛ばされ踏み殺されても文句は言えないという事か。最悪な悪夢だったがあの悪夢のおかげで命拾いしたな・・・
「なんだい物珍しそうにキョロキョロして。あんた田舎から出てきたお上りさんかい?」
「えっ!?あ、はい。」
突然声をかけられて驚いていると、声をかけてきたちょっとふと・・・恰幅の良いおばさんがバシバシと肩を叩いてくる。
「そうかいそうかい!!西の街は凄いだろう?王都の華やかさにゃ流石に勝てないけど、この辺りじゃ一番栄えている街だからね!!あたしが生まれ育った自慢の街だよ!!」
「そ、そうですね。見たことが無い物が多くて驚いています。」
これは嘘ではない。現代社会で育った自分にとって中世ヨーロッパ風のファンタジー世界は見るもの全てが新鮮だ。漫画やラノベではよく見かける設定でも、実際にその地に立って自分の目で見るのとは全く別物だ。
「そうかいそうかい!!うーん、見たとこあんたは特に荷物を持ってないみたいだね?だったら仕事の用事で来たってよりかは、仕事を探しに来た感じかい?それともただの物見遊山かい?」
し、仕事かぁ・・・前世での社畜の記憶が蘇る。会社や上司の愚痴をぶつぶつ呟きながらも、やるべき仕事に追われて汗水垂らし、少ない給料をやり繰りしながら過ごした日々・・・だが異世界に転生したからと言って働かなくて済む訳ではない。働いて金を稼がなくては食事もままならない。だがどうせ働くならば憧れの冒険者生活をしてみたい!!剣や魔法で迫りくるモンスターを討伐し、一流の冒険者となって魔王やドラゴンに挑む。そして数多の女の子から好意を寄せられて最高のハーレムを作る!!これこそ漢のロマンだろう!!
「その、冒険者に憧れてこの街に来たんです!!」
「おお!?冒険者かい!?やっぱり若者は夢を持っていて良いねぇ♪よし!!じゃあおばちゃんが冒険者ギルドまで案内してやるよ。ついてきな。」
「ありがとうございます!!」
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おばちゃんに色々と案内して貰いながら街を歩く。と言っても自分が居た場所は冒険者達がよく利用する区画らしく、冒険者ギルドまでの道のりは短かった。その短い道のりの間に食料品店や雑貨屋に武器防具屋などの基本的な施設などがあり、他にも魔導具屋・薬屋など様々な施設があるらしい。ギルドも冒険者ギルドだけではなくて、商人ギルドや職人ギルド魔術師ギルドなどがあるらしい。このへんはラノベとかで慣れ親しんだよくある設定だから、わりとすんなり受け入れられる。ちなみにおばちゃんは宿屋兼食堂を経営していて、今は買い出しの途中だったそうだ。
「ここが冒険者ギルドだよ。さぁ、夢の冒険者になる第一歩だよ!!頑張ってきな!!」
「ありとがうおばちゃん!!」
「ちゃんと礼を言えるのは良い子だね。冒険者になって金稼いだらうちに食事を食べに来なよ。大熊亭だから名前忘れんじゃないよ!!」
「了解!!絶対飯食いに行くから!!」
「楽しみに待ってるよ!!」
おばちゃんに見送られて冒険者ギルドの扉を開いて足を踏み入れる。今が昼過ぎだからか人はまばらだが、何人か冒険者らしき人がたむろしている。ちなみに冒険者ギルドには酒場が併設されており、こんな時間から酒を飲んでいる奴もちらほらいる。現代ではこんな時間から酒浸りなんてクズと言われてもおかしくないが、冒険者なんて荒くれ者ならなんとなくカッコいい気がする。なにはともあれまずは受付だな。冒険者ギルドの受付には数人の女性が座っており、冒険者達の対応をしたり書類仕事をしていたりする。うーむ、胸の大きい美人さんのところにするか、小柄な可愛らしい娘に担当して貰うか悩むところだ・・・どっちも魅力的だが美人さんは慌ただしく仕事をしていて、可愛らしい娘は冒険者の相手を終えて一息ついているようだ。ここは可愛い娘のほうにしておこう。
「すいません、ちょっと良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「冒険者になりたいんですけど、どうしたら良いでしょうか?」
「冒険者の登録ですね。文字は書けますか?」
受付さんが書類とペンを取り出したが、その書類に書かれている言語はまったく読めない。かと言って異世界の文字を理解出来るような特殊な力は無いようだ。会話は普通に出来るのに・・・
「す、すみません。文字はかけなくて・・・」
「なるほど、何か身分を証明出来るものはお持ちでしょうか?」
「あ、いや・・・それも・・・」
「そうですか・・・」
「ま、まずいですかね?」
「いえ、辺境の村や開拓村の出身であればよくある事ですから。お名前は?」
文字の読み書きと身分証明書はセーフみたいだが、流石に名前を答えられないはマズイ。かと言ってファンタジー世界で日本の名前というのもどうかと・・・まぁいいか。
「俺の名前は一輝です。」
「カズキさんですね。冒険者になる前は何をされていましたか?」
「えっと・・・農作業を・・・」
「分かりました。それでは登録料として銀貨一枚をお願いします。」
「ぎ、銀貨一枚!?」
ま、まずい。そう言えば自分の持ち物なんて確認してなかった!?神様!!どうか初期費用くらいは準備してて下さい!!そう祈りながらズボンのポケットに手を突っ込むが、願いは虚しくなにも入っていない・・・ですよね・・・なにか入ってる感じしないし・・・
「えっと・・・持ち合わせが無い感じでしょうか?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
引き攣った笑顔で確認してくる受付さんにそう答えるのが精一杯だった・・・ちくしょう・・・
「でしたら救済措置としてギルドがご案内出来るドブさらいのお仕事はいかがですか?このお仕事ならば常に人手が足りていませんので、登録の無い方でもすぐにお仕事することが出来ますよ。それとこのお仕事を10日間して頂いた方は、ギルドの登録料を免除する制度もありますよ?」
ドブさらいかぁ・・・かなりキツくて人気の無さそうな仕事だ。だからこそいつでも人手不足なのだろうが、異世界転生していきなりドブさらいか・・・だが背に腹は変えられない・・・所持金も無いならなんでも出来る仕事をして今日の飯代を稼がなくては・・・世知辛い世の中だ・・・
「はい・・・それでお願いします・・・」
異世界に行くには暴走トラック。これはもはや常識。