ドロワで一緒になるテイマヤ
「カッコつけすぎじゃない?」
ボクの恰好を上から下まで見て、キミはそう評価した。
「マヤノだってすごい張り切ってるように見えるけどな?」
だぶん誰から見てもそうだろうってくらい、今日のためのキラキラを纏っているじゃないか。
「トーゼンでしょ?」
「じゃあ何がダメなのさ」
もじもじしながら「ダメじゃないけど」なんて口ごもる姿もかわいいけど。
「テイオーちゃんがどっかいっちゃいそうで心配っていうか……」
ふぅん。
「飛んで行っちゃいそうなら、マヤノはボクを離しちゃう?」
「……ううん!」
ボクの差し出した手に、キミのが乗る。
一緒に飛んでくれる事を選んだキミと、一歩一歩。
まだドロワははじまったばっかりだ。
テイマヤのバレンタイン
マヤノに連れられて行ったバレンタインデートは、思い出すだけで虫歯になりそうな程だった。チョコレートのドリンクにチョコケーキ、チョコでできたオブジェの展示を見たら最後にちょっと良いチョコをひと箱買っておしまい。ボクがこれから貰うであろう量を考えると、食べきれる自信がなくなってきた。
「ねえねえテイオーちゃん」
寮まで帰ってくると、キミは振り返ってこう言った。
「実はもう一つあるんだけど」
バッグから出てきた箱。中にはいくつか不揃いな形のチョコ。手作りだと一目でわかる、薄いハート形のそれを一つを取り出した。
「食べたい?」
ボクは頷く。
するとキミはそれを唇にくわえて、こっちに顔を突き出してきて。
「ん」
今日は控え目だなと思ったら、ここまで待ってたわけだ。こういう時、顔が緩み切ってニヤニヤしないようにするのって意外と大変なんだよなぁ。
肩に手を置いて、少しだけこっちに引き寄せる。それが合図となってゴールデンオレンジの瞳が睫毛に隠れる。何度見ても、綺麗な顔だ。
視界がキミで一杯になるほどまで近づけば匂いとか、熱とか、色々伝わってくる。
ホントに目を閉じてる事だってしっかりとね、にしし。静かに体を離して、指を口元までもっていってちょん、と突く。桜色の唇にチョコは消えていった。
「んん~~!!」
嚙み砕くわけにもいかなくて、ほっぺを膨らませて抗議するキミ。
「あははっ、あとでちゃんと食べるからさ、許してよね~!」
わざとらしく逃げて見せると追いかけてくるのが聞こえる。
まったく。そういう可愛い姿が見たいからボクも悪戯したくなっちゃうんだぞ。
『この前のお見合い相手が誠実でとても素敵な方だったので、交際まで考えている』
「ねぇねぇテイオーちゃん」
「なーに?」
卒業して2年、ぜんぜん進まないテイオーちゃんとの関係にマヤはちょっとうんざりしていた。だからこんな嘘をついちゃうのも仕方ないよね?
「えっ……ええ!?」
期待してたとおりの反応をテイオーちゃんを前に、ニヤニヤを抑えるのが大変だった。
「そうだよ、背も高くて~優しくってね」
「テイオーちゃんよりも」なんて付け足すとやっぱり、目に見えて不満げになってくれた。キミが悪いんだからね。
「むぐ……」
マヤのために嫉妬してくれる姿に嬉しくなっちゃって、もう少ししたらネタばらし。そう思っていると。
「よ、よかったじゃん!実はボクも相手がいてね」
「うそっ!?」
苦し紛れの言い返しだと思ったけど、いつ会ってたか、どんな人かという話には妙なリアリティがあって。
「ホントだよ、ちょっとワガママだけど、とびっきり可愛くてさ」
でも「マヤノよりも」なんて付け足されると、ウソホントなんてどうでもよくなってきた。
「そ、そうなんだ~、でもマヤの相手の方がマヤの事わかってくれてるし!」
「ボクの相手だって!」
「マヤの方が……!」
架空の相手自慢はどんどんエスカレートしていって、気づけば太陽はだいぶ傾いていた。
「「はぁ……」」
こんなケンカお互いに久々だったものだから、背中合わせで床に座り込んで息を整える。
「ねぇマヤノ……」
「なに……?」
「……ごめん」
放り出した手に、テイオーちゃんのが重なる。
「……許す」
こっちも謝らなきゃだけど、それはキミがアプローチしてくれた時にね。
フィアットを飛ばして迎えに来るマヤノ
『むかえにきて』
この年になると家の都合でなにかと忙しくなってきた。財産だとか保険だとか、ファイナンシャルプランナーからみっちり2時間説明を受けた。ボクの家はおもったより窮屈な場所らしい。疲れで眩暈さえ覚える中、なんとかLANEで送ったのがこの一言。
暗い中でもはっきり見える。ビルから駐車場に出ると、4輪の「それ」はマヤノと一緒に待っていた。
「どこへ行く?」
いつもフリフリな服ばっかり着るのにこういう時だけはサングラスを必ずかけてくる、今夜ボクを連れ出しに来たキミ。
「ここじゃないどこか、で!」
「オーケイ!」
重い音がして同時に閉まるドア。軽快なエンジン音に疲れは希釈されてゆく。
ボクらを乗せてオレンジのフィアットは走り出す。夜の街へ、退屈を取り残して。
テイオーちゃんの手袋
一人戻ってきた寮の部屋。
机にキミの勝負服をみつけた。
きっちり畳まれた青と白のカッコイイ服。その上に置かれた手袋を手に取って、試しにはめてみる。ほんの少しサイズは大きいけれど、左右で色が違うのがなんだかオシャレ。
着飾った自分の両手を見つめて、そのままビシッと敬礼!ハートマークを作ってみたり、ゴール後観客席から沸き起こる完成に向けて手を振る想像をしたり。指三本を立てるしぐさも真似してみる。
そして最後に、ゆっくりと両手を持ち上げて頬に置いてみる。
ふわっと鼻をくすぐるのは柔軟剤と、キミの匂い。生地の肌触りが心地いい。
――目を閉じて想像する。ゴールした後、真っ先にマヤの前まで来て頬を撫でてくれるキミを。
キミは一着のキラキラを纏ったまま甘い言葉を囁いて、ゆっくりと顔を近づけてくる。何が起こるかわかっちゃって、目を閉じるマヤ。そっか。これからマヤ、キミのお姫様にしてもらえるんだ……
「たっだいま~!って、マヤノ……?」
「あっ……」
キミの目に映るのはほっぺに手を当てて唇を尖らせてる、変な顔のルームメイト。
しかも勝手に手袋をはめて。
どうしよう、言い訳が思いつかない。