テイオーとマヤノがお互いを大好きな短編集   作:ジズィリアム

13 / 19
C102にて頒布した『テイマヤ百合本!』に掲載した書き下ろし短編です。
本書は加筆修正した過去作もありますので、ご興味がありましたらぜひ手にとってみてください!
メロンブックス: https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2037427
DLsite: https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01084956.html


テクニシャンなテイオーに耳かきしてもらうマヤノ

『眠れない夜、キミのせいだよ』

 

 そんな歌の一節を思い出した。たしかにステキな歌だけど。今マヤが寝れないのを誰かのせいにしようとしても、結局マヤ自身の顔しか浮かばない。ああ、こんな時間にコーヒーなんて飲もうとするんじゃなかった……!

 ふわふわなはずの枕は、カバーのごわごわばっかり気になって。毛布も位置が違う気がして落ち着かない。

 右にごそごそ、左にごそごそ。眠いのに、疲れてるのに、あと一押しで意識を手放せそうなのに。薄暗い天井を見つめて、恨み言は口の中に溜まるばかり。マヤ焦ってるのかな。あと何時間このままなんだろう。

 

「寝れない?」

 

 むこうでもゴソゴソが聞こえると、テイオーちゃんの声。

 

「うん。ごめん……起こしちゃった?」

 

 右に目を向けると、暗くても首を振るのが見えた。でも、きっとマヤが大人しくしてたらそのまま寝てたよね。悪いことしちゃったかな。

 

「ホットミルクとか、持ってこようか?」

「ありがと、でも歯磨いちゃったし……」

 

 どんな時でもマヤの事を気にしてくれる。テイオーちゃんって優しいや。

 

「じゃあ子守唄でもどう?」

「テイオーちゃ〜ん?」

「わわ、ごめん冗談……」

 

 だから、ちょっとからかうくらいなら許しちゃう。

 どうするか二人で話し合えば、一人で考えるよりも胸は軽くなる。けど、まだ底の方で心配事がこっちを見てる。

 明日の元気とか、過ぎてゆくお肌のゴールデンタイムとか。女の子には、気にしなきゃいけないことがたくさんあるのだっ。

 

「あっ、そうだ」

 

 ぎぃ、と隣のベッドから起き上がる音。

 

「マヤノってさ、耳掃除いつやった?」

 

 お話を遮って、急に飛び出た質問。

 

「いつって……おとといとか」

 

 マヤたちのお耳。もふもふしてて、ぴこぴこ動く、ヒトにはいとってもカワイイアイコン。だけど、実はカワイイだけじゃない。聴覚とバランス感覚を維持するための大事な器官で、定期的なケアは欠かせないんだよ。

 

「今日はボクがやったげようか?」

「え、なんで?」

「ほら……ASMRとか、安眠音声だっけ?流行ってるみたいじゃん」

 

 言うが早いか、引き出しを漁るテイオーちゃん。たしかにそういうのを聴いて寝る子はいるみたいだけど……。

 

「えー?いいよそんな、自分でできるし」

「いいから、いいから。自分でやるのと他人にやってもらうのじゃ違うしさ。電気つけるよ」

 

 真っ暗だった部屋にオレンジの薄明かりが差すと、小さなブラシを手に持ってるのが見えた。

 

「今夜はさ、テイオー様にお任せあれ?」

 

 * * *

 

 また寝転がった姿勢。天井はいつもと変わらない色。それでも世界が違って見えるのは。

 

「はい、大人しくしててね〜」

 

 テイオーちゃんのお膝で、テイオーちゃんの顔を見上げているから。膝枕、悪くないかも。

 当然だけど、普段は前を向いているお耳。それを掃除してもらうとなると、こうやって逆さに向き合うことになる。

 視線がぶつかると、むず痒くって目をそらしちゃう。天井に向き直ると、また視線がごっつん。そんな事を繰り返していると、次に合うテイオーちゃんの目元はニヤっと歪んでいて。なんだかくやしくて、抱いていたクマのぬいぐるみ(名前はアイスマン)で口元を隠すと、「ふんっ」って抗議してみせた。

 水の中の魚をすくい上げるように、左耳が包まれる。最初は手始めのブラッシング。順番なんてわかるし、目でも来るのはわかってた。わかってたけど。

 

「んひゃっ!?」

 

 どうしようもなくって、変な声が出た。

 

「あっごめん、痛かった?」

「や、大丈夫、くすぐったかっただけ……」

 

 止まった手が動きだすと、こし、こし、と優しい音。ブラシがキューティクル撫でて、毛先が整えられていく。

 

「かゆいところはございませんか〜?」

「ふふ、じゃあもっと内側おねがい」

 

 ブラシの音が大きくなって、的確にかゆみまで癒やしてくれる。けっこう上手なんだ。ちょっと……意外。驚きの方じゃなくて、もやっとする方の。

 

「……だれかにやってあげたこと、あるの?」

 

 どうしてもしまっておけなくて、疑問は口から飛び出た。

 

「え?ないけど」

 

 よかった。いや、何がよかったのかわかんないけど。もしテイオーちゃんが誰にでもこれをやってあげてたら、それはちょっと……嫌だなって思う。

 ちゃぷ、と桶から音がした。乾いたベッドの中で聞くと、変な感じ。

 

「拭いてくよ」

 

 濡らしたタオルがお耳に近づく。ここまでするのって、すごく丁寧にやる時だけだよ。

 

「あったかい……」

 

 思ってたよりも、ずっと柔らかい感触。

 

「冷たかったら目が覚めちゃうでしょ?」

 

 どこか遊んでるみたいなのに、しっかり気遣ってくれてる。口元がなんだか緩んじゃって、またアイスマンで隠した。

 じゅわ、じゅわぁ。マッサージみたいな指圧。体温よりちょっぴり高いぬくもり、それが耳を伝って体に流れ込んで、足の先まで巡るみたい。

 

「これ好き?」

「わかるんだ」

 

 テイオーちゃんに隠し事なんてそんなにない。けど、隠そうとしてもたぶん、通じないんだろうな。

 

「マヤノがわかりやすいんだよ~、ほら、こことかどう?」

「ん~、いいカンジ……」

「じゃあ、続けるね」

 

 根元の方から先っぽに向けて、ぎゅっぎゅっと。普通より長くやってくれたおかげで、耳周りの筋肉もほぐれていったみたい。それでも、ぬくもりが離れるのはちょっと名残惜しかった。

 次はちょっと硬いタッチ。ごわごわした、乾いたタオルで、隅々から残った水気が取り除かれていく。

 タオルから解放された耳をくるって動かすと、いつものふんわり感が帰ってくる。新鮮な気持ち。

 

「マヤノの耳ってさ、ちょっと平ための形だよね」

 

 指が二本、スルッとふちを撫でた。同じウマ娘でも、大きさとか形には個性がある。

 

「変かな?」

 

 気にしている訳じゃないけど――。

 

「そんなわけないじゃん」

 

 キミにそう言ってもらいたくて、つい。

 

「えへへ」

 

 来る言葉がなんとなくわかってても、嬉しいものはうれしい。そして、面と向かって言われるとはずかしい。

 

「なに笑ってるのさ?」

「なんでもないっ」

 

 沈黙がやってくる。その間マヤは目を閉じて、ただ撫でられる耳に意識を集中させていた。この時間がずっと続けばいいのに、なんて、思ったり。

 

「……そろそろ、する?」

 

 いけない、すっかり忘れてた。

 

「んぁ……そうだね、耳かき……」

 

 正直このまま寝れちゃいそうだったけど、ここまでしてもらってるんだもん。途中で止めるのも違うよね。

 ヒト用のよりも長い、ウマ娘用の綿棒。テイオーちゃんが取り出したそれをぼんやりと見てると、マヤたちの耳ってけっこう深いんだなって思った。

 

「入れるよ」

 

 本当に、その時までぼんやりしていた。この時思い出した。さっきの『自分でやるのと他人にやってもらうのじゃ違うしさ』という言葉を。

 電流、って言えばいいのかな。痛みの代わりに、もっと甘くて刺激的なビリビリを伝える電流。

 

「あはっ、それどーいう顔?」

 

 あまりに急で、あまりに「良く」て。普段なら出てたような声も、出なかった。

 どれくらい見透かされてる?たぶん、痛くなかったっていうのは、バレてる。だって、綿棒を動かす手はまったくためらってない。

 

「気持ちいい?」

 

 返答できない。ぜったい変な声になっちゃう。

 こんなの知らない、わけわかんない。ぞくぞくとざわざわが強すぎる。

 

「あれ、お耳動いちゃってるよ〜?」

 

 アイスマンにギュッと掴まって、全身に力を入れて耐えてたのに。どんな嘘も、こんなのじゃ崩れちゃう。

 はずかしいのと気持ちいいので、目を閉じたら。

 

「ふむふむ、これは効いてるようですなぁ」

 

 さっきよりずーっと近く、耳元で声がした。濃いシロップみたいな、とろぉっとした囁き声。

 このいたずらっぽい感じ、ぜったい楽しんでやってる……!

 力が抜けてく。だめ、止めてもらわなきゃ。

 

「まってぇ……」

 

 どうにか出た声は、あんまりにも弱々しくて。

 

「なにか言った?」

 

 届かなかったのか、聞こえないフリなのか。

 もう関係なかった。バーン・アウト。燃料が尽きたマヤに残された道は、気持ちいいの海に堕ちるだけ。

 

「ふーっ」

 

 温かい吐息、綿棒、されるがまま。

 

「もう寝ちゃった?」

 

 意識が沈んでいく中、ほんのちょっと開いた目でテイオーちゃんが見えた。顔が……近い。

 目をまた閉じる。最後に感じる、額への柔らかい一押し。そこでマヤの意識は完全になくなった。

 

「おやすみ」




感想等ありましたらとても喜びます、マシュマロもありますのでもしよければ…! https://marshmallow-qa.com/geezeeliam
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。