テイオーとマヤノがお互いを大好きな短編集   作:ジズィリアム

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テイマヤの記念日デート

『あのね......マヤね、テイオーちゃんの事......好きに、なっちゃった......』

『それって......』

『うん......友達じゃなくって、恋人同士がいい......』

『......ボクも、同じ気持ちだよ』

『っ.......ほんとに......!?よかったぁ......!』

 

 

 

――ずいぶんと懐かしい夢を見た気がする。

 

 

 

最初に覚えるのはボクを包む毛布の感覚、そして瞼越しに感じる光。

目を開けてみればいつもの天井。それに遅れてああ、朝なんだ、と認識した。

だるさの残る手足をぐーっと......伸ばそうとしたけど、左手がなにかに当たった。

 

「......?」

 

普段ならスッと腕を回せる場所には、なにやらもさもさとした手触りの温かいなにか。

違和感にすっかり冴えたボクは、すぐにそれがルームメイトで、今は恋人であるマヤノトップガンその人だと理解した。

 

「そっかぁ......」

 

だんだんと状況を思い出してきた。

たしか今日は一年前、ボクたちが付き合い始めた日で......

それで「記念日はおはようからおやすみまで一緒がいいな~」というマヤノの希望で、こうして一緒に寝たんだっけ。

昨晩のなんとも愛らしい恋人の頼みを思い出して、胸に甘いものがこみあげてきた。

静かに寝顔に手を伸ばし、鼻にかかった長い栗毛を除けて、頬に掌を滑らせる。

きめ細やかな肌の感触をひとしきり楽しんだ後、指をほんの少し開いた瑞々しい唇に沿わせた。

日中の元気な姿から一転して静かで無防備な姿。ボクだけがこれを独り占めしていると思うと、ちょっと誇らしい気分になる。

次にゆっくりと、唇を狙って視界がマヤノで一杯になるほど顔を近づけて......

やめた。いや、ほら......勝手にするのはよくないし?

 

代わりに耳をつんつん、頭をなでなで。うん、起きてない。

このままマヤノで遊ぶのも楽しいかもしれないけど、いくら休日でも予定はあるもので。

体を起こして目覚まし時計に手をやる。あんな音を聞くくらいならボクが起こしてあげよう。

 

「マヤノ~、朝だよ~」

 

体をゆすってみると、「んぅ~」小さくうめき声を上げながら寝返りを打った。

でも、何度ゆすって声をかけても、あくまでも寝続けようとする姿勢に変化はみられない。

 

「ふ~ん、起きないんだ......」

 

にしし、そんなことだろうと思ったよ。

膝立ちになり、わきわきと手を動かしながらマヤノに近づいて......

 

「起きないとぉ......こうだぞ~!」

 

えーい、くすぐり攻撃!

マヤノの弱点の脇腹を重点的にこちょこちょするのがポイントである。

 

「ひゃあ!? あっ、きゃっ、やめてぇ~!」

「起きなきゃ止めないもんね~!」

 

じたばたと抵抗するマヤノを抑え込むように覆いかぶさって、しっかり目が覚めたとボクが判断するまで可愛がってあげた。

一日で最初の大笑いを終えたその目尻には、わずかに涙が浮かんでいた。

 

「あれぇ......どうしてテイオーちゃんがここに?」

 

朝日に照らされる瞳が綺麗だ。

 

「ここはボクのベッドだよ!昨日の事、覚えてないの?」

「あっ......そっか!記念日!!」

 

大部分を自分で提案したイベントを思い出し、飛び起きる。

 

「もしかして忘れてた~?」

「まだ起きてなかっただけだもん!テイオーちゃんとの記念日デートはずーっと楽しみにしてたんだから! 」

 

そう言うとマヤノはベッドを飛び降り、「何着ていこうかな~」と楽しそうに尻尾を揺らしながら服を選び始めた。

そんな恋人の後ろ姿を眺めつつ、ボクも用意しなきゃとパジャマを脱ぎ捨てた。

 

そう、記念日デート。

気恥ずかしいような、でも胸が躍るような響き。

でも同時に、少し心にひっかかりを感じるボクも居た。

 

 

 

マヤノはよくお出かけを「デート」と呼ぶ。

これはボクたちが付き合う前に出掛ける時もそうで、実際内容だってあんまり変わらない。

変化はいつものように遊んだ後、ちょっと夕日が見える場所に行ってみるようになったとか、些細な事。

 

今日もその例に漏れず、一緒にゲームセンターに行ったって『これって友達だった頃と変わんなくない?』と思ったり。

お昼ごはんを食べさせ合っても『付き合う前からやってたな......』という考えが頭をよぎったり。

もちろんマヤノとの時間は楽しいし、ただ遊ぶだけで不満なんてことはない。

でも今のボクたちは恋人同士。マヤノはもっと踏み込んだ関係が欲しくて告白してくれたんじゃないか?

もしそうならボクがちゃんとしなくちゃ、とは思ってもイマイチ機会がつかめない。

結局キスだってする事なく一年経ってしまった。ああ、このままでいいのかな、ボク......

ちょっと苦い気持ちのまま、デートは続いた。

 

* * *

 

太陽はもうかなり落ちていて、肌寒さを感じずにはいられない夕方。

記念日デートも第四コーナー、メインイベントに差し掛かっていた。

バスを乗り継いでボクたちがやってきたのは学園からもほど近い調布飛行場。

マヤノと空港に出掛けるのは珍しい事じゃないけど、なんと今回は見て帰るだけではない。

 

「パパ~!久しぶり~!」

 

今マヤノが抱き合っている、若々しい映画俳優みたいな人がマヤノのパパだ。

パイロットで、今日はボクたちを乗せて飛んでくれる。

 

「マヤのお友達だね、こんにちは!」

 

お友達、という言葉にモヤっとしながらも、「よろしくおねがいします」とボクも挨拶した。

 

 

 

大きい旅客機なら前にも乗ったことがあったけど、今回乗せてもらうのはちっこいプロペラ機。

四人しか乗れないやつで、ボクとマヤノが後部座席に座る。中身はなんだか飛行機っていうより車みたいだ。

ブーンとエンジンが音を立てて、短い滑走路をスーッと飛び立つと同時に「テイクオーフ!」とマヤノが声を上げる。

 

「こういう飛行機ってもっと揺れるのかと思ったよ」

「パパは上手だからね、ぜんぜん揺れないよっ!」

 

窓から調布の街を見下ろせば、ほとんど沈んだ太陽が辛うじて山の輪郭を照らしているだけで、すっかり暗くなっている。

ボクらを乗せた飛行機は都心の光に誘われるように、そのまま南東の方へと進んでゆく。

 

「わぁ......!」

 

二人してそんな声を出したと思う。

赤、オレンジ、白、宝石箱のように輝く東京湾。よく見れば、その中にスカイツリーだって見える。

この光一つ一つが人の営みを照らしていると思うと、なんだか言葉にできない高揚感に包まれた。

 

「東京もなかなかのモノだろう?本当はダラスの夜景が見せたかったんだけどねぇ」

 

他にもドバイ、香港とか、マヤパパが今までに見た夜景について語り出す。

けど今は、目の前の景色に夢中でお話はちっとも入ってこなかった。

 

ふと、マヤノの方を見た。

ライトの点いていない機内でもハッキリと見える、大都会の光にキラキラと輝く瞳。心からこの瞬間を楽しんでいる横顔。

とびきりかわいい女の子がそこに居る。そして今、この子を見ているのは地球上でボクだけ。

 

「テイオーちゃん?」

 

気づけばマヤノの手を握っていて、目と目が合う。

ちょうど一年前、二人で想いを伝え合った時と同じような胸の高鳴り。

『ちゃんと恋人らしくするなら今しかない』とボクの中のなにかが言っているみたいで。

 

「マヤノ......」

 

もう片方の手で頬に触れる。覚悟を決めて、お腹に力を込めて――

 

「一年間ありがとう。好きだよ、マヤノ」

 

今度こそ、と勢いをつけて。でも歯がぶつかって痛くないように、ゆっくり顔を近づける。

何が起きるのか察したのか、マヤノの目が閉じる。

 

「......っ」

 

飛行機が旋回したのか、唇が重なり合った瞬間にふわりとした浮遊感。

まるでボクとマヤノだけが存在する宇宙を寄り添って浮いているような、そんなイメージが頭に浮かぶ。

このまま時間が止まっちゃえばいいのに。口が離れた直後のマヤノの顔が、やたらと大人っぽく見えた。

 

 

 

......それからのフライトはよく覚えていない。

キスの後、お互いすっかり恥ずかしくなって、せっかくの景色にもそこからはぜんぜん集中できなくて。

マヤノは大丈夫かなと隣を見て、目が合っては慌てて反らす。

一言も発せずそんなやりとりを繰り返した末に、飛行機は元来た調布の滑走路に着陸した。

夜道は危ないから、とマヤパパに学園まで送ってもらったものだから平静を装うのが大変だった。

 

「これからもマヤをよろしく頼むよ、テイオー」

 

別れ際、なぜかパパさんにやたら力強い握手を求められた。

走り去る車を見送って、ボクたちはどちらからともなく手をつないで学園へと歩き出す。

乾いた、冷たい夜風が吹き付ける中、マヤノの手がとても暖かく感じられた。

 

* * *

 

「......ね、テイオーちゃん」

 

あれから一時間ちょっとが経過して、部屋に戻ったタイミングでマヤノが先に口を開く。

帰りに一緒に夜ごはんも食べる予定だったのをすっかり忘れていて、急いで食堂で済ませた時もボクたちはほとんど話さなかった。

 

「さっきの......嬉しかった」

 

もじもじしながら、控えめにそう告げる姿は胸が締め付けられるほど愛らしい。

『ホントは嫌だったかな?』とボクが抱き始めた懸念も晴れ、ほっと胸をなでおろす。

マヤノも伝えることを伝えて落ち着いたのか、ボクのよく知る元気な表情に戻っていた。

 

「でもっ、急だったからびっくりしちゃったよ~」

「あはは、ごめんね。ちゃんとマヤノの恋人できてるかなって、ちょっと心配で......」

 

ボクが心配していた事をマヤノに説明した。マヤノが望んでいるような関係になっているかという心配と、あの時決意した理由も。

 

「も~テイオーちゃん心配しすぎ、いつもみたいなお出かけも楽しくて好きだよ!」

 

さらに「恋人なんだからそういうのは面と向かって相談しなきゃ」と言われ、返す言葉もなかった......

 

「......もちろんさっきみたいなロマンチックなのも、マヤはいつでもいいよ?」

 

上目遣いの、ボクにおねだりするときの目。

......こういう顔をされると、なんだかイタズラ心が騒ぐというか。

 

「......じゃあさ、今は?」

「ふぇっ!?今!?」

「ダメかな......」

 

わざとらしく、耳をペタンと下げて落ち込んでみせる。

 

「その、いいけど、恥ずかしいから電気消して......」

「えーそっちの方が恥ずかしくなーい?」

「いいからっ!」

 

スタスタとスイッチのある壁際まで歩いて、こっちをじっと見るマヤノ。

 

「......ちゅーするんでしょ?」

 

もちろんボクも歩み寄って、マヤノを壁際に追い込むような形で近づく。

そしてパチンと電気を消した瞬間、ぎゅっと抱き合った。

目では何も見えず、感じられるのは重なる鼓動、聞こえるのは熱を伴った吐息だけ。

好きな子で感覚が塗りつぶされるのがすごく心地よくて。

マヤノも同じ気持ちだと嬉しいなと思いつつ、唇をもう一度重ね合った。




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