ふぅ、疲れたっ。
「今日もよくぞワガハイの走りを支えてくれた!」と練習用のコースを褒めて、スポドリをいっきに飲み干す。
タイムが縮んでくのも、脚を思いっきり動かして風を切るのも、それだけで自然と笑っちゃう。汗でびしょびしょになった後のシャワーもカクベツだね。帝王の座をキープするため。そしてもっと前に行くんだから。気楽にとはいかないけど、それで疲れたっていいんだ。本気で頑張った結果なんだから、これは爽やかな疲れ。止まるつもりはないよ。
……まあそれはさておき、心身の疲労があるのは間違いないわけで。これって癒されるためにある物だとボクは思うんだよね。
濃いオレンジの夕日はまだ力強い。後輩たちに手を振って、トレーナーと別れて向かう先はもちろん寮の部屋。寄り道は普段あんまりしないよ?階段を上るごとに、ちょっと楽しみな気持ちが湧いてくるのに気づく。そんなにインドア派じゃないボクだけど、ルーティーンっていうか、そういうものができたのさ。
「ただいまー」
実家じゃないのに「ただいま」って、最初は変な感じだったっけ。
「あ、おかえりー」
ベッド端に座ってゲームに興じていたらしいマヤノを見つけると、自制心ってものを意識しなくっちゃいけない。そういう魅力を持った子なんだ。
がっつくのはいけない。できるだけ落ち着いて、まずは隣に座る。さすがに慣れてきたのか、マヤノは持ってたス〇ッチを脇に置く。言葉はもういらないみたい。じゃ、遠慮なく。
「……う~疲れた~~!!」
体重をぜんぶ預けるように寄りかかって、ひと思いに抱き着く。体にのこったウッドチップを踏む感覚が、もっと柔らかいものに上書きされていく。
「ふふ、お疲れ様っ!」
嫌な顔一つせずに受け止めてくれるキミでよかった。そう思わずにはいられないね。
ボクがこうするようになったのはいつからだろう?たしかある日、ふざけてマヤノに飛びついて。それがものすごく心地よかったのが始まりだったかな。ボクには十分元気があるし、癒しなんて別にいいやと思っていた。けど百聞は一見に如かず、一度体験すればもう戻れない。この抱きしめ心地にすっかりボクは夢中になっていた。
「今日も頑張ったんだね」
「うん」
首元に顔をうずめるように抱きつくと、ふわふわな髪がほっぺに当たる。シャンプーとリンスだけじゃない、マヤノの匂い。
「テイオーちゃんがこんなに甘えんぼだったなんて、マヤ知らなかったなぁ~」
わざとらしく、頭をぽんぽん撫でながらマヤノ耳元でそう呟く。くすぐったくて、無意識に耳が跳ねた。
「マヤノが可愛すぎておかしくなっちゃったのかも、ボク」
一息つこうと体を離せば、自然と言葉が出た。どんな高価な宝石にだってかなわないきらめき、ボクの視線を吸い寄せてしまう二つの輝き。キミの瞳を覗き込みながら。
「なっ、なにそれ、もう……」
目に見えて赤くなってるほっぺたからして、ただのお世辞じゃない事は伝わったみたい。褒め言葉を素直に受け取ってくれるのも素敵な才能だよね。
「……でも、いいよ」
恥ずかしさを押しのけるような、精一杯の声。
「もっとマヤで、おかしくなって」
逸れた視線が戻ってくる。丸まった背中、遠慮がちに太ももに挟んだ両手、うつむいて上目遣いになった顔。ふとした瞬間にキミは、ボクの知らない色気を纏う。
反射的に動き出して、でも乱暴にならないように。今度はなるべく丁寧に抱き寄せて。
こうやっておでこをくっつけるのって、変じゃないよね?
そこに確かにある重みが心地いい。抱き返してくるマヤノも同じなんだろうな。
こんな姿、カイチョーやマックイーンにはぜったい見せられないけど……でもマヤノとなら。ボクらの部屋でなら。帝王様の王冠は脱いで、ただただ休むウマ娘でいてもいいって、そう思うんだ。
帝王様にも休息は必要ですよね……テイオーからマヤへの矢印強めでお送りします。
感想等ありましたらとても喜びます、マシュマロもありますのでもしよければ…! https://marshmallow-qa.com/geezeeliam