TSアクセラレータちゃんとはオレのこと   作:悪ィがこっから先は性転換だァ!!!!

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第3話 ビビりクン

「相変わらずひっでェ悪人面してンなァ」

 

 洗面所に設置された鏡に映る自分の姿を見た感想が思わず口から漏れた。その眼光は獲物を狙う狼のように鋭く、自分の目の前に希望など現れない事を悟っているように濁っていた。

 

 鏡に映っているのはとある高校の半袖の制服の上に七分袖の黒いフード付きジップパーカーを着ている自分の姿。

 

 良く言えばスレンダー。悪く言えば貧相。服の上からでも分かるぐらいには凹凸も無く、丸みも無い貧相な体。服を着ていても辛うじて分かる程度の胸の膨らみ。残念な事にオレは着痩せするとかいうタイプでもない。まぁ、胸に重りが無いというのは地味に楽なのだが。

 

 それでもオレは恐らく人目を引き、そして目を逸らされるような容姿をしている。

 

 目を引くのは混じり気のない白髪に赤目。目を逸らすのは悪夢による深刻な寝不足によって発生する目付きの悪化という問題があるから。常人であれば、寝不足による目の下の静脈のうっ血により青白い隈が出来るだろう。尤も、オレは自分の能力で血行を強制的に良くする事で隈は出ていないが。

 

 ふと時計を見てみれば、時計は頂点で針が重なり合う時間を示していた。窓から差し込む光が今は日中という事をオレに教えてくれる。

 

 今から出れば、昼休みが終わる前には学校に辿り着く事だろう。

 

 

 ────────────────────

 

 

 自分の悪人面に辟易していた日の放課後。7月に突入し、気温も上がっている季節。オレの能力に掛かれば、どれだけ暑かろうが、熱量や日光をある程度反射すれば、長袖でも快適に過ごす事が出来る。だが、オレは長袖で生活などしない。

 

 長袖でも普通に生活出来るのに、それを着ないのはさして難しい理由がある訳でもない。ただ単純に目立つからだ。想像してみて欲しい。99.9%が半袖の中、オレだけが長袖でいるという光景を。周りの視線がオレに集まるのは至極当然だろう。

 

 自分の体のスタイルに関しては人目を引く要素など一欠片もないが、白髪と赤目というのは人目を引くには十分過ぎる。なのでオレは基本的にフードを被って生活している。夏にフードを被るような人物は少数だろうが、アルビノ容姿より数は多いのでその程度は妥協するしかない。フードを脱ぐのはオレの部屋か当麻の部屋にいる時ぐらいだろう。

 

 髪を染めたり、カラコンを付ける事も考えた。だが、オレの中で未だ僅かに燃えている中二病オタク魂が「白髪赤目とかカッコ良くね」と囁いてくる為に容姿を変える踏ん切りが付かないでいた。

 

 多少話がずれたが、今は放課後で今日は当麻の勉強会もなく、実験の予定時刻も遅い。つまり、暇という事になるだろう。だが、今は何よりも大事な予定があるので暇ではないとも言える。その予定というのは、とあるマスコットグッズをゲットする事。しかも、そのグッズはクレープ店とのコラボ限定品であり、先着100名で終わりだという。

 

 そのマスコットとは、作中で1人の登場人物がドハマりしているもので一体どんな物なのだろうかと興味本位で足を踏み入れ、無事にオレもドハマりしてしまったものだ。それは緑色のカエルをモチーフにしたもので髭も生えているという珍妙な姿形を取っている。

 

 その名もゲコ太。

 

 ベンチに座り、チョコ味のクレープを食べながらも、ついさっきゲットした限定品を眺める。今回入手したゲコ太は黒スーツを着用しており、カエルにスーツというアンバランスさが良い味を出している。

 

 周りには喧しいだけのこの世界の闇のやの字も知らないような幼児が多くいるが、能力で音を反射しているので大して気にはならなかった。

 

 静かな空間でゲコ太を眺めながら、甘味溢れるクレープと苦味が特徴的なコーヒーを交互に味わって得られるハーモニーは筆舌し難く、今オレは天国にいるのではないかという程の幸福感を味わっていた。視界の端では、昼間からシャッターを閉めている奇妙な銀行から大爆発が起きたのが見えたが、能力のおかげでオレの服や髪は靡く事すらなかった。

 

 発火能力(パイロキネシス)を持つ銀行強盗と珍しい空間移動(テレポート)を持つ常盤台の制服を着たジャッジメントが繰り広げる争いは児戯と表現出来る程度には低レベルだった。だがまぁ、余興としてはそれなりでクレープを味わいながらぼうっと眺めている。

 

 あ、強盗の1人に連れ去られそうになった子供を助ける為に柵川中学の制服を着た少女が強盗に飛びついて、ぶん殴られた。

 

 何故だろう。あの中学生達の顔を見ていると、胸の奥で何かが引っかかっているようなもどかしい感覚に襲われる。

 

 そして、道路を悠然と歩く1人の常盤台中学の生徒の顔を見た瞬間に謎は解けた。

 

「あァ、成程なァ。道理で見覚えがある訳だぜ、ちくしょうが」

 

 その女子中学生の顔は嫌という程に何千回と見てきた。血に染まったその顔を見てきた。生気を失い、命の光を失った瞳を見てきた。

 

 そいつは己に迫りくる車に向けてコインを撃ち出した。能力で電磁加速で音速の3倍にまで達した超高速のコインを。その様子から名付けられた能力名は超電磁砲(レールガン)。言うまでも無いだろうが、彼女こそがオレが殺してきた数千体のクローンが作られた原因にして、オリジナルだ。オレが見た柵川中の生徒は原作で見た事があったからこその引っかかりだったという訳だ。

 

 まさかこんな所でオリジナルと遭遇する事になるとは思ってもみなかった。突然の邂逅に動揺していると、周りにいた人達がオレの方に目を向けて驚愕しているではないか。いや、視線はオレではなく、オレの隣に向けられていた。

 

 隣を見てみると、いつの間にか銃口がオレに突き付けられていた。どうやら強盗は全員で4人いたらしく、ついさっきのオリジナルの荒事に群衆の意識が集中している間にオレに近付き、人質にしようとしたとかそういう感じっぽい。音も反射していたから忍び寄る足音に全く気付かなかったとは、我ながら阿呆である。

 

 それにしても奇妙な強盗犯である。

 

「~~~~!」

 

 唾が飛ぶぐらいには叫んでいるように見えるのに、何も話していないのだから。大袈裟な口パクでもしているようで、オレの方に声は全く届いていない。読唇術によって強盗犯が何を言っているのかは分かるのだが。

 

 ……あ、オレとした事がうっかりしていた。子供のさえずり声が喧しかったので能力で音を反射していたのだった。道理で声が聞こえない訳だ。

 

 反射の条件を変更してやれば、強盗犯の声がベンチに座ったままのオレの鼓膜を揺らした。

 

「撃たれたくなかったらとっとと立てガキ!」

 

 小悪党臭が凄まじい強盗犯は銃をオレに額に突き立て、そう脅してくる。つい先程まで無双していたジャッジメントやオリジナルはオレに銃弾が放たれる事を危惧しているのか、冷や汗を流しながら隙を伺っているだけだった。

 

 オレは自分に突き付けられている銃など眼中にはなく、意識はオリジナルへと注がれていた。具体的に言えば、オレを見るオリジナルの瞳に意識を向けていた。

 

 ……やめろ、オリジナル。その目で、そんな目でオレを見るな。その目がオレに向けるべきなのは殺意だけなんだ。強者が弱者に向けるような目をオレに向けるな。

 

「立てって言ってんのが分からねぇのか!? 言っとくが、この銃は本物だぞ!」

 

 威嚇のつもりなのか、銃口をオレの顔の横に向けて銃弾を放った。その銃弾はオレの背後に生えていた木の幹を穿ち、その破壊力を表す孔を開けていた。

 

 銃弾など浴びる程に受けてきた。そして、その尽くを持ち主の元に返してやった。つまり、銃など脅しにも何もならない。

 

 そんなくそどうでもいい脅しなどは捨てておいて、オレは一刻も早くここから立ち去りたい。オリジナルと会い、妹達(シスターズ)と同じ眼で弱い奴を見るような目で見られてんだ。そろそろオレの許容量の限界が近い。

 

「早く立たねえと──」

 

「撃ちたきゃ撃てばイイじゃねェかよォ? 三下以下の雑魚がよォ?」

 

 雑魚の言葉を遮って、オレは分かりやすく雑魚を挑発した。周りにはまだ避難していない子供達が多くいる。雑魚の意識がオレ以外に浮気しないようにしておこう。男の堪忍袋の15cm定規で容易に測れてしまう程度には短すぎる緒をオレは無事に断ち切れたようである。余裕もなく、力もない雑魚ならば、テキトーな挑発だけで逆上してくれるだろう。

 

 事実、雑魚はオレの挑発を聞いて顔を真っ赤に染め上げ、何かを喚いている。聞くに堪えないので音を反射するように再び設定したが。それでもオレの頭脳は男の口の動きから無意識の内にその言葉を読み取ってしまう。

 

 雑魚の口が閉じるのを待ってから、2回目の挑発を実行した。

 

「足りねェなァ。悪としての美学も力も何もかもが足りてねェよ。悪党にもなれない三下未満の哀れな雑魚クンよォ。ほらどうしたんだよォ? 年下に好き勝手言われても撃てねェ腰抜けクンよォ? 銃口をオレの頭に向けて、引き金を引いてみればいいじゃねェか。そうすれば、オレを殺せるかもしれねェぞ? まァ、殺されるのはオマエだろうけどなァ! あひゃははひゃはは! きゃひゃひゃははははひゃは!」

 

 狂ったように笑い声を上げるオレを見て、雑魚は足分かりやすい程にその瞳に恐怖を浮かべ、足を後ろに引いた。その引かれた足は僅かに震えていた。

 

「おいおいどうしちまったンだよォ? 足が震えてるぜェ? あぁ、そうか。オマエ、雑魚でビビりクンだもなァ! わりィなァ! ビビりクンには優しくしてやった方が良かったかよォ?」

 

 雑魚、腰抜け、ビビり。ここまで言われてようやく雑魚はやる気になったらしい。未だにその瞳にオレへの恐れを僅かに覗かせながら、好き勝手言われた怒りで体を震わせ、引き金に指を掛けた。血を昇らせ、顔を赤く染めている様子を見れば、雑魚が冷静な状態でない事ぐらいは明白。

 

「こ、この、イカレ野郎がッ!」

 

 その銃口は火を噴き、爆発によって加速させられた弾丸が俺に迫り、反射によって銃弾は元あった場所へと高速で戻って行った。オレに放たれた銃弾は寸分の狂いもなく、銃の中身へと逆戻り。その結果、どうなるのかなんて言うまでもないだろう。

 

 予想もしていなかった衝撃に雑魚は銃を地面に落としてしまう。雑魚は慌てて武器を拾おうとするが、オレの方が速いに決まっている。相手は銃を持った犯罪者。手加減など無用。殺すと面倒事になる為に死なない程度には手加減するが、何の気負いもなく殴れるというのは実に愉快極まりない。

 

 無意識の内にオレの口角は吊り上がっていた。

 

「アヒャァ!」

 

 雑魚の間抜け面を正面から殴り飛ばしてやった。オレの方に跳ね返ってくる衝撃諸共を能力により、男の方に向けている為、男はゴミクズのように吹き飛ぶ。数メートル吹き飛んだ雑魚の顔は見るも無残な事になっていた。

 

 鼻はあらぬ方向に折れ曲がり、前歯は尽くが砕けている。口の中もざっくりと切れているのか、口の端からは少なくない量の血が流れていた。痛みで気絶しているのか、白目を剥いているのだが、陸に打ち上がった魚のように男の体はピクピクと痙攣していた。

 

 ……男を殴り飛ばした事でオレは晴れ晴れとした気持ちにはなっているが、はてさて、これからどうしたものか。

 

 周りにいた群衆たちはオレの方を見ているし、オリジナルやジャッジメントなんかからは「逃がす訳ないだろ」みたいな視線を頂戴している。ここに残り続けるとアンチスキルとかのお世話になる事は想像に難くない。

 

 これはアレだな。

 

 逃げるが勝ち。だが、決断を下して、即実行をする訳にはいかない。流石のオレでも空間移動《テレポート》を持つ白井黒子から鬼ごっこで逃げ切れる自信はない。直接的な戦闘になったとしたら能力を完封する事は可能であるが、鬼ごっことなると難しい。だから逃げる前に白井黒子を無力化する必要がある。

 

 無力化するとしても、今はオレから動く必要などない。相手はジャッジメント。どうせ向こうから来てくれる。

 

 ほらな、来た。

 

「ジャッジメントですの。事情聴取にご協力を──」

 

 白井黒子が何か言っているが、全てを右から左に流して聞いている。つまり、聞いていない。どうせすぐお別れになるし、聞く必要もないだろうから。空間移動(テレポート)で距離を離されるよりも先に手を白井黒子の脇腹に置いた。

 

「わりィな」

 

 それで白井黒子の生体電気をちょちょいのちょいと多少弄ってやれば、すぐに気を失ってくれた。職務を全うしようとしていただけなのでそのまま地面に倒すのは忍びなく、力を失い、膝から崩れ落ちた白井黒子を手で受け止め、優しく地面に寝かせる。

 

 地面は汚く、高そうな制服が多少汚れてしまったが、それは許して欲しい。

 

 妹分に手を加えたという事もあってか、オリジナルはオレを警戒するような目付きで睨む。しかも、ポケットからは1枚のコインを取り出している。その目からは「動けば撃つ」という意思がありありと感じられた。

 

 あぁ、そうだ。それでいい。その目が抱くべきは敵意だ。

 

 尤も、電気量さえも操る一方通行(アクセラレータ)のオレと超電磁砲(レールガン)のオリジナルとでは相性が最悪以外の何物でもないが。超能力者(レベル5)の中でもオレに僅かでも迫れるのは2位と色々と未知数な7位ぐらいだろう。後はよく分からん6位。

 

 6位は本当に良く分からない為、何とも言えないが、2位と7位はあくまで那由多の果てにぐらいなら勝率があるんじゃね程度なのであんまり敵とは認識していない。

 

 話が逸れたが、白井黒子ではなく、オリジナルが相手なら逃げる事も勝つ事も造作もないという事だ。まぁ、今は戦う気もないので逃げる一択なのだが。この世界がオレの知る道を辿るのならば、あと1か月もすれば戦う事になるだろう。

 

「このジャッジメントは眠らせただけで少ししたら勝手に起きるだろォよ。それじゃァ、オレは帰るぜ。あばよ、超電磁砲(レールガン)

 

「ちょっと! 待ちなさい!」

 

 待てと言われて待つ逃亡者がいる訳もないだろう。足元のベクトルを操り、オレはその場から離脱した。

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