おるがいつかは勇者である   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。なんか最終回っぽい雰囲気だけどまだまだ序盤です。例えるなら前菜の一口目を飲み込んだ所です。

オルガ「ミカ、今どこにいる?」
ミカ「地球ん中」
オルガ「いや、お前なぁ…」
ミカ「俺宇宙飛行士じゃないからオゾンより下ならセーフでしょ?」
オルガ「お前はオゾンより上でも問題なかったろ?」
ミカ「わかってるよ。すぐに行く…」
オルガ「ああ、みんな待ってんだ…」
「大切な居場所へ」「大切な居場所で」


『風は●●を。樹は●を。東郷は●●を。友奈は●●を。●●●は●●と●●を。●●●に''●●●●●●●''●●』

 大赦書史部・巫女様 検閲済


第十一話 勝ち取った先で

 戦いの後、友奈たちは大赦関連の病院へ運ばれ治療と検査を行った。結果は暫定的だが特に異常はないと医師から伝えられる。しかし念のため入院することになった。

 日付は変わり六月十二日、夏凛の誕生日を迎えた。五人はロビーに集まる。

 

「これから一週間も入院かぁ。暇になるわね。……勇者部への依頼、どうしましょう」

「一週間って言っても早ければ二、三日で帰れるかも、って私のお医者さんは言ってましたよ」

「ま、私と友奈はすぐに解放されるでしょうね。……問題はアンタと樹よ」

『そうですよね』

 

 夏凛の言う通り風と樹は戦いの後、体に異常がみられたのだ。

 風は左目の視力が下がっており今はガーゼを当てている。

 樹は発声器官に難があるらしく、声が出ないのだ。なので話す際にはスケッチブックに書いて伝えている。

 

「東郷は足のことも診てもらうんでしょ?」

「はい。なので皆さんよりもっとかかるかと……」

「ふうん。……あとは三日月たちの方ね」

 

 夏凛は窓の外を見る。三日月とオルガは彼女たちとは別の病棟で検査を受けている。なぜ別々なのかは疑問に思うが、単純に男女別の方が検査に気を遣わなくて良いからだろう。

 

「おっ。噂をすれば、きたわね」

「うぃ〜す」

「おう! お前ら」

 

 オルガと三日月が合流し勇者部のメンバーが揃った。

 

「で? 三日月、アンタたちは、体に異常はないの?」

「あー、それなんだけど……」

 

 三日月は左手で右目と右腕を指差す。

 

「こっちの目が完全に見えないのと、こっちの腕が動かないんだ」

「それって重症じゃないっ」

「痛みとかはないんだけどね。戦いで酷使しすぎたんだろうって」

「……イツカさんは?」

 

 東郷に聞かれるがオルガは首を振る。

 

「俺の方はなんともねぇよ。あれだけ攻撃食らってズタボロだったのに、一夜明けたらほぼ完治してやがる」

「ほぇ〜。頑丈ねぇ」

『やっぱりイツカさんは特別なんですね』

 

 オルガは樹が持っているスケッチブックを見て疑問に思う。

 

「どうしたんだぁ? それ」

「樹ちゃん、声が出ないんです。風先輩は左目の視力が極端に下がっていまして……」

「おいおい、本当に大丈夫かァ?」

「一時的なものでそのうち治るらしいから、それまでは我慢ってところね」

 

 三日月は心配そうに樹を見つめる。それに気付いた樹は首を振って笑う。

 

「……じゃあまあ、みんな集まったことだし、祝勝会といきましょうか!」

 

 風の声でみんなはテーブルの上に用意されていたお菓子やジュースを手に取る。

 

「えぇ〜と、ほ、本日は、お、おひっおひっ、お日柄も良くーー」

「何言ってんだ?」

「風。いつもどおりでいいわよ」

「……わかったわよ。……それじゃあみんな持ったわね。バーテックスの完全討伐並びにぃ、夏凛の誕生日を祝ってぇ〜、カンパーイ‼︎」

 

 カンパーイ‼︎ と風の掛け声で、五人はコップを掲げた。

 

「……いや〜、この一杯に生きてるって感じ〜」

「風、おっさん臭いわよ」

「いいじゃない、いいじゃない。こういうのは雰囲気よ」

 

 風はリンゴジュースをごくっごくっと豪快に飲み干す。

 

「……? ……?」

 

 友奈はオレンジジュースを飲むが首を傾げる。もう一杯注いで飲む。また注いで飲んだ。

 ……その様子を東郷と三日月は見つめていた。

 

「はぁ〜。一時はどうなることやら」

「なぁに、夏凛。まさか死んじゃうとでも思ったの?」

「私は死なないわよ! ただアンタと三日月は相当怪我を負ってたし」

 

 夏凛は不安そうに二人を見る。

 

「なぁに言ってんのよ。私が死ぬわけないじゃない。みんなで生き残って夏凛の誕生日を祝うって言ったからね」

「べ、別に私は期待してなかったわよ! てゆーか別にしなくて良かったし……」

「またまた〜。そんなこと言って〜」

「う、うっさい‼︎」

 

 風が夏凛の頬をぷにぷにとつつく。夏凛は照れて距離を取った。

 

「あははっ。……でも本当に無事で良かったよね〜。みんなで祝えるんだしさ」

「だから別に私の誕生日は……」

 

 友奈が安堵した表情で見てくるので夏凛はこれ以上言うのをやめた。

 

「お誕生日おめでとう。夏凛ちゃん」

「おめでとう。夏凛」

 

 三日月も続けて口にする。

 

「あ……ありがと……」

 

 夏凛は真っ赤になった顔を背けた。

 

「あっ。そうだ風先輩。私たちのスマホどうなるんですか?」

「あー。戦いは終わっちゃったからね。勇者システムに関係するものは大赦が回収したの。……まあ、そのうち普通になったスマホが返却されるわ」

「今はこの代替機でやりくりするしかないですね」

「そっか。牛鬼と会えなくなるのは寂しいなぁ」

 

 東郷は検査終了時に医師からもらったスマホを取り出す。三日月とオルガ以外も受け取っている。

 

「あれ? そういえば三日月のスマホは?」

 

 夏凛は三日月のスマホを見る。彼のは回収されずそのまま所持していたのだ。

 無論オルガはスマホを持っていないので回収も何もない。

 

「俺は担当の医師から持っておけって言われたよ」

『それじゃあ、勇者システムも?』

 

 樹のスケッチブックを見て三日月は頷く。

 

「うん、多分、変身自体はできると思うよ」

「へぇ〜。何よそれ。三日月だけ特別〜?」

「じゃあさ。精霊もいるの?」

「いるけど……。増えたんだ」

 

 友奈の質問に三日月はスマホを触る。そこには小型サイズのバルバトスと、もう一体バルバトスに非常によく似た精霊が現れた。

 

「この子、新しい子?」

「ってかまんまね。もしかして双子?」

 

 新しい精霊は本当にバルバトスそっくりだ。違う箇所といえば頭部についている兜が大きくなっており、肩や腕の部分に厚い装甲が付いているぐらい。

 

「コイツ、バルバトス・ルプスっていうんだ」

「三日月が名付けたの?」

「うん。って言っても頭にふっと浮かんだっていうか、コイツがそう呼んでくれって言ってるような……」

「精霊に意思があるんですかね?」

「そういえば夏凛ちゃんの精霊は喋ってたよね。あれと同じなのかな?」

「ええ、菊幢丸のことね」

 

 バルバトスとバルバトス・ルプスはまたすぐに引っ込んだ。

 

「羨ましいな。私も牛鬼と一緒にいたいって言っておけば良かったかな?」

「ん〜、どうだろ」

 

 そして、祝勝会は和やかに進み、各自一旦病室に戻る。

 友奈はいつものように東郷の車椅子を押していると、

 

「友奈ちゃん……。もしかして体、どこかおかしいの?」

「えっ……」

 

 友奈は立ち止まる。

 

「どうしてわかったの?」

「さっきみんなで飲み物飲んでいる時に友奈ちゃん、様子がおかしかったから」

 

 それを聞いた友奈は苦笑いを浮かべた。

 

「えっへへ。さすが東郷さんだ」

「教えて。友奈ちゃん」

「……味、わかんなかったんだ。ジュース飲んでいる時もお菓子食べている時も」

「そう……」

「でも大丈夫だよ。風先輩と同じで少し体が無理しすぎたんだよ。少ししたら元に戻るよ、きっと」

「うん。そうだといいね」

 

 東郷の表情は暗かった。

 

 ーー夜中、東郷は病院で考えていた。友奈たちに起こっている症状をノートパソコンにまとめながら。

 

 数日後、まず友奈と夏凛とオルガが退院した。そして入院から一週間後には東郷を残してみんな退院した。その中で夏凛以外の五人は部室に集まる。

 

「アアアアア〜〜」

 

 風は声を出しながら扇風機の風を浴びている。まだ梅雨は明けていないが暑さが増してきた。

 

「暇だなァ……」

「そうねぇ。やっと退院できたのはいいけど。仕事の依頼は夏凛や東郷向けのものばかりだし」

「……それにしても部長。なんだその眼帯」

 

 オルガは風の左目にしてある黒の眼帯が気になった。

 

「くっくっく。これは先の魔王との戦いでーー」

『中二病をこじらせたみたいです』

「ちょっと樹! せっかく魔王との戦いで仲間を守り名誉の傷を負ったニヒルな勇者って設定を説明しようとしてたのにっ」

「なんだそりゃ。……ミカはしなくていいのか?」

「俺はいいや、別に何の問題もなかったし」

 

 三日月はつまらなさそうな顔でサプリを食べる。

 

「……そういえば友奈。夏凛は来てなかったの?」

「それが、夏凛ちゃん。授業終わるとすぐ帰っちゃうみたいで」

「むむ、サボりか。よし罰として腕立て千回やらせよう」

「夏凛ちゃんならやりそうですね」

「アイツはストイックだからな。ついでにスクワットや腹筋もしそうだ」

 

 樹はスケッチブックに文字を書きオルガたちに見せる。

 

『何か用事でしょうか?』

「うーん、ちょっと探してきます」

「俺も行くよ」

「俺も行くからよぉ。部長と樹はここで待っててくれ」

「ああ、うん。よろしくね三人とも」

 

 オルガは三日月と共に、二手に分かれて夏凛を探しに行く。

 

 

 ……友奈は海岸沿いで木刀を二本使って素振りしている夏凛をみつけた。友奈は三日月にメールで伝え夏凛の元へ駆ける。

 

「おーい、夏凛ちゃーー、ぐぇっ」

 

 友奈は躓いて転ぶ。

 

「ちょ、友奈!」

「夏凛ちゃん、受け止めてよぉ」

「無茶言うなよ……。で? 何の用?」

「夏凛ちゃんが部活に来なかったから風先輩怒ってるよ、今なら腕立て千回、スクワット三千回、腹筋一万回やらされるかも」

「ねぇ、桁おかしくない?」

「でも今から行けば全部チャラになります。どう? 行きたくなったでしょ」

「行かないわよ」

「えっ、どうして? 腕立て一万回やりたくなったの?」

「違うわよっ。ってか腕立ては千回でしょ」

 

 二人が話している姿をオルガと三日月は見つける。

 

「……大体風も何考えてんのよ。勇者部はバーテックスを倒すために作ったんでしょ? だったらもう部活なんで必要ーー」

「違うよ夏凛ちゃん」

 

 友奈は夏凛をまっすぐ見つめる。

 

「勇者部にはね。風先輩がいて樹ちゃんがいて東郷さんがいて、ミカくんがいて夏凛ちゃんがいて……あっあとイツカさんもいる。そのみんなで楽しみながら人のために頑張る部だよ。バーテックスがいなくても私たちは全員揃って勇者部なんだよ」

 

 友奈は指折りながらみんなの名前を挙げていった。

 

「で、でも、私は、これからどうしたら」

「そんなの決まってるじゃん」

 

 そこへ三日月とオルガがやってきた。

 

「夏凛はいつもどおり学校に来て部活に参加してみんなと居たらいいんだ」

「そうだ。バーテックスは殲滅した。お前の御役目は終わったんだ。だったらお前はこれからどうしたい? 大赦とか関係なく、お前自身はどうしたいんだ?」

 

 オルガは自分の左胸に親指をトントンとあてる。

 

「私……は、みんなと一緒に居たい……わよ」

 

 友奈はパァと表情が明るくなり夏凛の手を取る。

 

「だったらもう答えは出てるよ。みんなと居ればいい! 私も夏凛ちゃんがいないと寂しいから!」

「夏凛が来ないと、俺は寂しいよ」

「うっ……。うん……」

「じゃあ、部活! 行こうっ!」

「……うん……」

 

 夏凛は頬を染め、俯きながらそう口にした。

 

 

 ーー風は部室で東郷と電話で話していた。

 

「そう、明日には退院できるのね」

「はい。予定より早まって良かったです」

 

 しかし、そこで東郷の声色が変わる。

 

「風先輩。大赦から何も聞いていませんか? その、満開の後遺症、とか」

「満開の後遺症? なにそれ?」

「実はですね……」

「あっ、ちょっと待って」

 

 風は樹に会話が聞かれないよう廊下に出る。

 

「……で? どういうこと?」

「友奈ちゃんは味覚を感じなくなっていたんです。そして私は少し前にニュースをイヤホンを使って聞いていたんです。道路陥没事故の」

 

 風たちの戦いは道路陥没事故として現実世界にフィードバックされていたのだ。そのニュースを聞いている際、東郷の左耳が聞こえづらくなっていることに気づいた。

 

「友奈は味覚、東郷は左耳、満開を起こしたものは全員……」

 

 東郷が言うには夏凛とオルガ以外の五人はみんな体のどこかに不調がある。その五人は先の戦いで満開を起こしたメンバーだ。

 

「ちょっと待って。だったらミカのあれは……」

「そうです。ミカさんが乗っていたあの機械兵器は''満開''ということになります」

「でも彼は初陣の時に……」

 

 風は初陣のことを思い出す。三日月は確かにあの機械兵器に乗り戦っていた。東郷の仮説が正しいなら三日月は体のどこかに不調があるはずだ。

 

「もしかしたらミカさんは気づいていないのかもしれません。もしくは私たちに内緒にしていたのかも……」

 

 東郷はイヤホンで聞いて。友奈は食べることで発覚した。三日月の場合は本人に気づかないレベルの後遺症なのかもしれない。

 

「そう、かもね」

「その不調ですが大赦からなんの連絡もないんですよね?」

「うん、ごめん」

「風先輩の責任じゃないですよ。大赦も知らなかったのでしょう」

「そうだと思うわ」

「……じきにこの症状も治ると思うので、詳しいことは大赦の連絡待ちですね」

「そう……ね」

 

 東郷は次第に元気がなくなっていく風の声を察したのかそれ以上は話を進めず電話を終える。

 

「……満開の後遺症って、何よそれ……」

 

 風はスマホをぐっと握りしめた。

 

 ーーその後、夏凛を加え部室に六人が集まる。

 

「きたわねぇ夏凛」

 

 風はさっきの暗い表情を微塵も見せず夏凛と接する。

 

「こなきゃ腕立て千回やらせるんでしょ?」

「アンタそれ本気で信じてたの?」

「いや、そんなこと、ないけど」

 

 勇者部のメンバーにはいつもの空気が流れる。三日月もオルガも微笑みながらみんなを見た。

 

 

 ーーそして次の日、東郷が退院し勇者部は全員揃った。

 

「東郷美森! 勇者部に帰還しました!」

「ご苦労であるッ! 東郷准尉‼︎」

 

 ビシッと風は東郷に敬礼する。それを見てオルガも敬礼する。

 

「まったく……。変な奴らねアンタたちは」

 

 夏凛はそう言いながら笑う。

 

「そうだ! 全員揃ったから記念にシュークリーム買ってきたんだぁ!」

 

 友奈は箱からシュークリームを取り出した。

 

『それ駅前の有名なやつですね』

「ビンゴ! 樹ちゃん正解!」

「ありがとう友奈ちゃん」

「あっでも友奈は味が……」

「え? 風先輩気づいてたんですか?」

「うん、ゴメンね友奈。みんなも」

 

 風は頭を下げる。

 

「気にしないでください。こんなのすぐに治りますから」

「部長のせいじゃないよ」

『そうだよ、お姉ちゃん』

「はい、だからもう謝らないでください」

「……みんな、ありがとね」

 

 風はみんなの言葉に安堵した。

 勇者部のメンバーは笑いながらシュークリームを食べた。友奈もシュークリームの食感と喉越しを堪能する。

 

(夢みたいな戦いは終わったけど、私たちの日常は終わらない。私たちはみんなと一緒に、この日常を精一杯楽しんでいく! 時間はいくらでもあるんだ!)

 

 

 ーー彼女たちはこの勝ち取った日常を明日も明後日も満喫していくだろう。

 

 

 

 ……その日常にわずかな亀裂が入っているとも知らずに……




次回予告

『こっちの体は出来上がってるわ!』
『すごく……可愛い』
『瀬戸の人魚と呼ばれた私が格の違いを教えてあげるわ』
『ミカ……、介錯を頼めるか?』
『勇者部の未来は明るいわね』
『上上、下下、左右左右、B A!』

 ーー第十二話 水平線上の牧歌ーー
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