あと、彼女はハナヨでもハヤナでもなくソノコです。ソレスタラァ! ではない。
『私たちは一体いつから●●●していたのだろうか。大赦の言うことが●●だと』
大赦書史部・巫女様 検閲済
オルガたちはいまだ状況が飲み込めないでいた。
目の前にいる二人は東郷とオルガを見て微笑んでいる気がするが、オルガには金髪で背丈が自分と同じの男など会った記憶がない。
包帯を全身に巻かれた少女、だと思われる人物などもってのほかである。
「……オルガ、ダンチョ? ああ、ダチョウ?」
三日月は男が口にした言葉に疑問を持ち瀬戸大橋にいる鳥を見た。
「ミカ、あれはダチョウじゃなくてカラスだ」
「……そっか。じゃあ、ダンチョって何?」
「さあ、知らね」
「あの、あの人たち、私たちっていうか、イツカさんと東郷さんを見ているような気がするんですが……」
友奈は少女が言った『ワシ』も男性が口にした『ダンチョ』も意味がわからなかったが、二人が東郷とオルガを見て何かを感じていることはわかった。
「えっと、お知り合い……ですか?」
「そうなの? オルガ」
友奈と三日月の言葉に、東郷とオルガは顔を見合わせる。そして、二人とも首を横に振った。
「いいえ、初対面だわ……」
「俺も、知らねぇやつらだ」
その言葉を聞いた二人から、途端に笑みが消えた。
「……ああ、そっか」
「……なるほど」
少女の声は途端に低くなり、男性は目を閉じ微かに呟いた。
「……えっへへ」
すると、さっきの低さは微塵も感じさせず少女はまた普通の声で笑った。
「わっしーってのはね。昔いた私の友達のことなんだ。……いつもその子のことを考えていてね。つい口に出ちゃうんだよ。ごめんね〜」
「誤解させてしまったね。私が言ったのもそうさ。たまたま君と同じ名の知り合いがいたんだよ」
男性はオルガを見て微笑む。
その笑顔にオルガは違和感を感じた。
「あ、あの。お二人が私たちを連れて来たんですか?」
友奈の問いに男性は答える。
「そうだよ。……と言っても呼んだのは彼女だけどね。そこにあるほこらを使って」
友奈たちはほこらを見る。
「これ、うちの学校にもある……」
「うん、同じだね」
「バーテックスとの戦いが終わった今なら、それを使って呼べると思ったんだ〜」
バーテックス。勇者や大赦の人たちでしか知り得ない言葉に四人は驚く。
「……バーテックスをご存知なんですか?」
「ああ、知っているとも」
「私たちはね。一応、あなたたちの先輩ってことになるのかな? 奇妙な話だけど」
友奈は首を傾げた。
「私は乃木園子。二年前に''勇者''としてバーテックスと戦っていた内の一人なの。四人で力を合わせて、えいえいおーってね」
「……え⁉︎」「何ィ⁉︎」
四人は衝撃を受けた。が、乃木園子と名乗った少女に男性は口を挟む。
「三人、だよ。私は君たちの戦いをただ傍観していただけだからね」
「またまた〜。マッキー先生は最後に一緒に戦ってくれたでしょ?」
「それでも、結局は三人で、だよ」
二人だけで意味不明な会話をする。
「……まっきー先生?」
三日月は乃木園子の言葉を繰り返した。
「申し遅れたね。私の名はマクギリス・ファリド。元大赦の神官で、今はしがない彼女の専属医さ」
「だから先生か」
「マッキーというのは彼女からの愛称さ。私は案外気に入っていてね」
「ふふふっ」
マクギリス・ファリドと名乗った男性と乃木園子はまた二人で微笑む。
「あ……。わ、私は結城友奈と言います」
「俺は……、オルガ・イツカだぞぉ……」
「三日月・オーガス……ぁです」
友奈たちも名乗る。
「友奈ちゃん、三日月くん。……イツカ、さん」
東郷も最後に自分の名を口にした。
「東郷美森です」
「……東郷、美森ちゃん、か……」
乃木園子は少しだけ寂しそうな表情をした。
「あの、もしかして、乃木……って」
「……? 知ってるの東郷さん」
「え、ええ」
東郷は戸惑いながらそう答えると、二人は驚いたように彼女を凝視する。
「乃木、というと大赦の中で名家のひとつにあたるわ。ちょっと前に私の両親が乃木家の関係者に挨拶してたのをちらっと見て、随分礼儀正しくしていたのを覚えているわ」
「そうなんだ」
「「……」」
二人はまたすぐ真顔に戻った。
……本当に奇妙な二人なのだが、オルガたちはその雰囲気に段々と慣れてきた。
「あれ、あんたもしかして俺にスマホくれた、クジの人?」
「……⁉︎」
三日月の言葉にオルガは驚く。
「君は、覚えていてくれたようだね。嬉しいよ、三日月・オーガス」
「あの人がミカくんにスマホを……?」
「確かに、特徴が一致してますね、日本人には見えないですし」
「そう、私が彼にスマホを渡した者だ。抽選だと偽って必ず当たるように仕向けてね」
「なんでそんなことを?」
「彼が神樹に選ばれる存在だと確信したからだよ。四国内で行われた一斉調査では利用価値が無いにしても男性にも行っているからね。そこから見つけ出した」
マクギリスはコネクションを使って今なお大赦に所属している者たちから三日月のことを聞いたらしい。
「まあ、ミカのことを問うのは後だ……」
オルガは話の本題を聞き出そうとした。
「……で? アンタらが俺たちを呼びつけた要件を聞こうか」
「えっとね〜。何から話そうか〜」
乃木園子はゆっくりと、そして静かに話し始めた。
「あ、そうだ。友奈ちゃんは''満開''したんだよね? わーって咲いて、わーっと強くなっちゃうやつ」
「え? は、はい。しました。満開」
「私もしました」
「多分、俺も」
友奈に続いて東郷と三日月も満開をしたことを告げると、乃木園子は一瞬だけ口をつぐんだ。
「……そっ、か……」
マクギリスは目を閉じている。
「咲き誇った花はそのあとどうなると思う?」
「え?」
「満開の後にね、''散華''と呼ばれる隠された機能があるんだよ?」
「さんげ……。華が散る、の散華?」
「そうだよ〜。貴女たちは満開した後に体のどこかが不自由になったはずだよ?」
「「!?」」「なっ……」
友奈と東郷は驚きのあまり声を出せず、オルガは目を見開き三日月を見た。
三日月は真顔のままである。
「満開して神樹様の力を存分に発揮できる代償として体のどこかを供物として捧げる。それが散華」
「く、供物……」
「私もね。二年前の戦いで結構無理しちゃてさ〜。その代償として今ではこんな姿になっちゃったんだ〜」
「私もその時の戦いで二回満開してね。一度目はこの指を持っていかれたよ」
マクギリスは左手に付けている白い手袋を外し、薬指をみんなに見せる。
「見てくれは何ともないだろう? だがこの指だけはもう動かせなくてね。……それと二度目の代償は不明さ。目には見えない''何か''を持っていかれたよ」
「私はね〜、覚えてないくらいしたよ〜。両手の指じゃ数えられないくらいね」
「じゃあ、その怪我はバーテックスにやられたわけじゃなくて……」
「うん」
その一言だけで友奈たちの周りの空気は凍りついた。
「いっぱい持っていかれたよ〜。右目が最初だったんだけど、''連華''することで代償も大きくなって。この包帯が無くちゃ肌もボロボロ崩れちゃうし、髪の毛も抜けちゃう」
「……っ」
「あ、あの今れんげって言いました?」
友奈は乃木園子の言葉にショック受け口を手で覆った。しかし、東郷はまた耳慣れない言葉を聞いて問う。
「あ、うん。連華っていうのはね。満開が一旦解除された後も、そのまま戦い続けると、いつもより早く短時間でゲージが溜まって即座に満開できる特殊な機能のことだよ。まあ、わかりやすくいえばバーテックスを倒し切るまで連続で満開できること、かな〜」
「君たちは一度の満開でバーテックスを倒し切った。だから連華を行うことはなかったはずだよ」
マクギリスは乃木園子の説明を捕捉した。
「私の場合はバーテックスがそれなりの対応をしてきてね〜。連華をして満開し続けなきゃいけなかったんだ〜」
「だが、もちろんリスクも存在する。連華を行って再度満開した時、散華で代償となる体の部位は通常時よりも深刻なものになる」
東郷はただ聞いているしかなかった。
「……なんで、俺らが、コイツらが、アンタらが、そんな目に遭うんだよ」
オルガは爪痕ができるほど拳を握りしめる。
「昔からね。神に見初められる者は、無垢な''少女''だけなんだよ。穢れなき身だからこそ、神への生贄に相応しい。……残酷な話だよね」
乃木園子が言い終えると、
「……いま、少女だけって言った?」
三日月はその言葉に疑問を持った。なぜなら彼自身が神樹の力を使える勇者で、満開を行い散華した''男''だからだ。
「それは私が説明しよう」
今度はマクギリスが主体となり説明を始める。
「確かに、満開を含め勇者システムは神樹に選ばれた少女だけが使える力だ。……だが現に我々男も勇者としてバーテックスと戦うことができていた。それはなぜか?」
マクギリスは少し間を置いて告げる。
「我々が300年前に行われた人体実験。その負の遺産だからだよ」
「負の、遺産?」
「バーテックス。奴らは300年前に突如として出現し、人類を絶滅の窮地に追いやった。しかし、そこへ神々の集合体である神樹が出現し限られた少女たちに力を与えた。……それが勇者システム、と呼ばれるものだ。……しかし、女より男の方が身体能力に優れているのは明白。勇者システムにより少女の能力が飛躍的に上がっているとはいえ、それが男ならその効果はさらに上。それ故、当時の人々はバーテックスと戦う戦力を求めてあることを行った」
マクギリスは親指を背中あたりにまわす。
「男の体。詳しくは脊髄だが、そこへ神樹の一部、霊的残滓を打ち込む手術を行い、人為的に勇者を作ろうとしたのだ」
「……な、なんだとォ⁉︎」
オルガは声を荒げた。三日月は無言だったが少し目つきが変わった。
「神によって生まれた力を勇者システムと呼ぶのに対し、人によって生まれたその力を……」
マクギリスはまた言葉を区切り、そして告げる。
「阿頼耶識システム、と呼んだ」
こちらもまた耳慣れない言葉だった。
「阿頼耶識システムの被験者は決して多くはない。内容が内容の非人道的なものだからね。私の知っている記録では百人もいなかった」
百人、その数を多いと見るのか、少ないと見るのか。
「その結果、悲惨なことに勇者として誕生した男はたった三人だけ。他は施術後まもなく死亡したケースと、死亡は免れたが体が不随となり戦力外となったケースに分かれた」
なんて胸糞悪い話だろうか。バケモノに対抗するためとはいえ当時の人々は本当にそんな非人道的なことを行ったのだろうか……。
「そして三人の中の一人。……その子孫が君だよ。三日月・オーガス」
「えっ……」
「300年先の君の祖先は実際に、男で勇者となりバーテックスと戦っていた」
「俺の祖先……?」
マクギリスは前髪をイジりながら話し続けた。
「満開したときに現れる君の機械兵器。それは当時の勇者が自身に降ろし使役していた神と同じ。……神樹となった神々の中でも歪な存在である七十二の内の一柱、名はバルバトス」
「バルバトス……!」
その名は無論、三日月が呼んでいた精霊。そしてあの機械兵器のことである。
「私の祖先は勇者ではなく、体が不随となりながらも辛うじて女性と子をなした誰か、だろうけどね」
マクギリスはその後に、そして、と付け加え乃木園子を見た。
「彼女、乃木園子も300年前の勇者の子孫だよ」
「……⁉︎」
オルガ、友奈、東郷はもう驚くことも億劫になりつつあった。
「その男の名は、アグニカ・カイエル。300年前の戦い。我々、大赦関連のハーフたちは''厄災戦''と呼んでいるが、その厄災戦で名を馳せた勇者の中でも一、ニを争う存在であったようだ」
「ふふっ。私はそんなの信じてないけどね〜」
「アグニカが阿頼耶識により使役していた神も七十二の内の一柱だよ。名は、''バエル''」
「私が満開した時も、君と同じような機械兵器だったんだよ〜。白銀っぽい色がベースのね〜」
「彼女が戦う姿は紛れもなく、伝説の一場面のようだったよ」
「私はあんなの、戦い辛くて嫌なんだけどね〜。操縦とか大変だし」
マクギリスはそう言った彼女を一瞥する。
(やれやれ。あの英雄の機体を操れるだけでも誇らしいものを……。困った女だ……)
「なぁ。奴らは、バーテックスは一体なんなんだ?」
オルガの問いにマクギリスは少し間を置いて答えた。
「聞かなかったかい? 奴らはウイルスから生まれたーー」
「そんなこと聞いてんじゃねぇ! 奴らはなんで俺たちを襲うんだ? 人類を滅ぼそうとしてんだァ⁉︎」
「……君たちは、アレをどう見た?」
突然マクギリスは質問を投げかけてきた。友奈たちは戸惑いながら答える。
「え、えっと。人類を滅ぼす敵、かな」
「そうね。バケモノだわ」
「白くて、鳥に似てた」
オルガは無言のままマクギリスを睨んでいる。
「フッ。鳥ではない。あれは……、天使だよ」
「は?」
マクギリスはまたわけのわからないことを言った。確かに白かったが天使にはとても見えない。
「……まともに答える気がねぇのかよ」
「そうではないのだがね。……なぜ、と問うたが理由なんて持ち合わせてはいない。奴らの行動理念、本能。としか今は説明できない」
「……そうかよ」
オルガは馬鹿らしくなり頭を掻いた。
マクギリスは三日月に話しかける。
「三日月・オーガス。……とにかく君の力。阿頼耶識システムは強大だ。しかし、リスクも忘れないでくれ。君はこれから戦うたびに戦いから逃れられなくなる。満開をし続けなければいけなくなってしまう」
「……? どういうこと?」
「君は初陣の時、満開したそうだね」
「……」
マクギリスは三日月の沈黙を肯定と受け取る。
「さらに君はもう一回、彼女たちと同じタイミングで満開した。つまり、神樹に持っていかれたのは二カ所になる」
「……」
「その部位は右目と右腕。ならどちらかが初陣の時の代償だ。私の予想では最初に目の方だと思うのだが?」
三日月は口を開かない。
「ミカ、ホントなのか?」
「……うん」
オルガの問いには答えた。
「なんで、言わなかったんだ……」
「その時はわからなかったんだよ。すぐ治ると思ったし。片目が見えないことにもすぐに慣れたから」
それに……と続けて三日月は口にする。
「バルバトスに乗っている時は正常だったんだ。右目が見えるようになった。治ったかとも思ったんだ……けど」
三日月はまた口を閉ざした。そこにマクギリスが付け加える。
「それは現在においての阿頼耶識システムの一番優れたところでね。満開すると過去に散華で持っていかれた部位が一時的に元に戻るんだ」
「そうなのかっ⁉︎」
「そうだよ〜。だから私もこんなになるまで戦えた。失っても失っても、満開すれば元に戻る。散華すればもっと失う。でも満開すればまた戻る。その繰り返しでね〜」
「結城友奈、東郷美森。君たちは違うよ。あくまで阿頼耶識システムを施された者の子孫だから起こる現象さ」
「……はい」
東郷は弱々しく返事をした。
「あっ、でも! バーテックスは全部倒したし、もう戦わなくていい! 満開もしなくて済むんだ!」
友奈はハッと思いついた。戦いが無いならこれ以上は失うことはない。
「ああ〜、倒したのは凄いよね〜。私たちの代は追い返すので精一杯だったんだ〜」
「そ、そうなんです。もう戦わなくてもいいんですっ!」
「……そうだといいね」
乃木園子は視線を落とし、そう言った。
「……失った部分はずっとこのままか?」
「そうだ。現に私と彼女は二年もこの状態が続いている」
ギリッ、とオルガは歯軋りした。
「……それをわかってて、なんでミカにスマホを渡したんだよ……」
「私は戦えなくなってしまったからね。それに勇者の力を私よりも使える男を、三日月・オーガスを見つけた。だから彼に託した……」
「……託したァ……?」
「君たちも同じだよ。先代勇者はもう満足に戦える状態ではない。だから大赦は四国中を調査し次代の勇者を探し出した。人類を守るため、バケモノと戦うため。何代かけようとも。たとえ君たちが成し遂げられなくともその経験を、データを、次の勇者に託して、ね。そうやってバトンを繋いでいくことでーー」
「勝手なこと言ってんじゃねェェ‼︎」
マクギリスの言葉をオルガは怒鳴りかき消した。
「勇者は大赦のオモチャじゃねぇんだッ‼︎」
「イ、イツカさん⁉︎」
オルガはマクギリスの胸ぐらを掴んだ。
「テメェら大赦の勝手な都合で、コイツらの人生弄んでんじゃねェ‼︎ 何が勇者だ! バトンだァ! エラそうな言葉使って惑わすんじゃねェよ‼︎」
「……ならばどうする? 気がすむまで私を殴るか?」
……オルガは体を震わせながら掴んだ手を離した。
「……それをするのは俺じゃねェ。ミカだ」
「俺はいいよ、オルガ……。もう終わったことだから」
「くっ……」
オルガはやるせない気持ちでいっぱいだった。
ここでマクギリスを殴っても何も変わらないことなど分かりきっているから。
「方法はっ‼︎」
友奈は二人に訴えかける。
「このシステムを変える方法はないんですかっ⁉︎」
「……どうにかしたいよね〜。私もどうにかしたい。治りたい。治って今すぐ友達を抱きしめにいきたい……」
すると、ポタポタっと彼女の左目から涙がこぼれた。
「でもね……。どうにもならなかった……。二年間ずっと、このまま……で。……私は、もっと友達と遊び、たかった……けど」
東郷は車椅子で彼女の側へ寄り涙を拭った。
彼女からはもはや体温すら感じない。
「……そのリボン、似合ってるね……」
乃木園子は東郷の髪に付けられている水色のリボンを見つめていた。
「こ、これは、私が事故に遭って記憶を失っていたときに握りしめていたものなの……」
リボンを触る東郷の手は震えていた。
「とても大切なもの、なんだけど……ごめんなさい。どうしても思い出せないの」
「ううん。仕方ないよ〜」
友奈たちはその光景を眺めているしかなかった……。
「ーー失礼します」
突然、仮面を付けた大赦の神官がマクギリスに話しかけた。
オルガたちは警戒する。
「ああ。心配はいらないよ。彼は私の協力者でね。……石動、皆に挨拶を」
はっ。と返事をし、石動と呼ばれた男は仮面を取った。
「大赦所属、石動・カミーチェと申します」
その顔に三日月とオルガは見覚えがあった。
「病院の……?」
「ええ。ファリド殿の指示で君たち二人の診察を担当しておりました」
「君たち男は、大赦にとって認知されていない存在だ。だから大赦と関わるのを極力避けていた。病院での検査、入院を彼女たちと別棟にさせ、個別に二人への旅費を提供」
「じゃあ、俺たちに旅費を払ってくれたモンタークってやつは⁉︎」
「フッ。彼も私の協力者だよ。宿の従業員も君たちのことを詳しく知らない下っぱの経営する旅館を手配した」
三日月たちの全てはマクギリスによって仕組まれたことだったのだ。
「さて。あまり時間もない。今は君たち二人は石動と街へ帰り給え」
「……?」
オルガと三日月はその言葉に首を傾げる。
「もうじきここへ、大赦の人たちが来る。彼女が東郷美森と結城友奈を呼んだことに気付いてね。しかし、さっきも言ったように君たちのことを知られるのは面倒だ。……君たち自身のためにもね」
「勝手に勇者にしておいてよく言うぜ」
オルガは不服そうにしていた。
「こちらへ」
「今は行こう。オルガ」
ちっ、と舌打ちをしてオルガは三日月と車に乗る。
ーー車は走り出し、乃木園子とマクギリスの前には友奈と東郷だけが取り残される。
「……すまないが二人はもう少しだけいてくれ。大赦の人たちに送らせる。……その方が先に行った二人への目を逸らすことができるからね」
「ごめんね〜。だけどお願い。もうちょっとだけこのままで居させて?」
いつのまにか涙が収まった乃木園子は笑顔を東郷に向けた。
「え、ええ……」
友奈と東郷は、驚きと哀しみとが混ざり合ったような気持ちのまま、時が過ぎるのを待った……。
次回予告
『何も悪いことなんか、してないのに……』
『なにやってんだァ! お前ッ‼︎』
『勇者は、死なない?』
『東郷、さん?』
『風を監視しろってこと?』
『止めますよ。精霊は、確実に』
ーー第十七話 不穏な風ーー