〜この作品が暗い話になってきたのでここだけでも明るくいこう〜
風「私、恋愛ゲームでは一番幼馴染キャラが好きなのよねぇ。このキャラがいるってだけで他のヒロインに波が立つの」
友奈「へぇ。どうしてですか?」
風「他のヒロインは主人公にアプローチしたいけど結局は幼馴染との距離感が近くて、なかなか踏み込めないって状況になる。あれ好きだわ」
友奈「風先輩のこだわりはわかりませんけど、つまりは他のヒロインのフラグを折ってくれる存在なんですね!」
風「そうよ。で主人公が幼馴染とくっつかなければ永遠の泥沼恋愛が誕生するの」
友奈「最凶のフラグクラッシャーですね」
風「アレ? この作品だと、夏凛と樹にたったフラグは……」
アトラ「あ! 勇者部の人だぁ! いつも三日月がお世話になってます!」
風「……幼馴染って怖いわ〜」
『勇者の武器にはそれぞれモチーフになっている伝説や実在していた物があるみたい。私の場合は''●●●''。旧世紀の戦において●●を、乗っている●ごと●●●●ために作られたんだって。大きいものと戦う私にはピッタリの武器だわ』
大赦書史部・巫女様 検閲済
少しすると、友奈と東郷の周りに大赦の神官たちがやってきた。神官たちは十人ほどの数で彼女たち四人を囲っている。
「え、あっ。大赦の人……」
「ファリド殿。なぜここに彼女たちが?」
友奈はその不気味さから軽い恐怖を感じていると、その中の一人がマクギリスに話しかけた。声からして女性だろう。
「私ではないよ、ジュリス殿。彼女が呼んだのさ」
ザッ、と神官は一斉に乃木園子へ体を向けた。
「そうだよ〜。あれほど言ったのに全然会わせてくれないんだもん。だから自力で呼んじゃった〜」
すると神官たちは彼女を敬うかのようにひれ伏した。
「あの、これは……?」
「ふふっ。今の私は半分神様みたいな物だからね〜。崇められちゃってるんだよ」
戸惑う二人に乃木園子は説明した。
「ねぇ、東郷美森ちゃん……」
乃木園子は東郷に耳打ちした。他に聞こえないような小さな声で。
「……!」
東郷の顔色は悪くなる。良くないことなのは確かなようだ。
「いつでも待ってるよ。こうして私と貴女が会った以上、大赦も貴女の''存在''を有耶無耶にはしないだろうから……」
乃木園子は最後にそう告げて、大赦の人たちに二人を送らせた。
ーー乃木園子とマクギリスは去っていく二人と大赦の神官を見送る。
「これから彼女たちはどうするだろうね?」
「んん〜。なりゆき次第かな?」
「ひょっとしたら彼女たちが反旗を翻し大赦と、君と戦うことになるかもしれない。……そうなった場合、君は勝てるか? いや戦えるか?」
「さあね。今の私はこの状態のままでもバケモノを倒せるほど強いと思うけど。……そうだね〜。万一戦うことになっても負ける気はしないかな〜」
乃木園子はニッコリと笑いそう答えた、が。あっ、と何か思い出したように言い直した。
「あの双剣の女の子いるでしょ〜?」
「ああ、三好夏凛だね」
「その夏凛ちゃんとは、やってみなきゃわかんないな〜。彼女は多分、あの子たちの中で一番強い。……ポテンシャルだけなら、わっしーよりも」
「そうなのかい? 私は三日月・オーガスこそ、君の天敵となりうるーー」
「彼の満開は、私の満開と相性悪いから。……でも夏凛ちゃんと組まれたら、確実に負けちゃうね〜」
「よほど買っているんだね」
「……ミノさんの魂を継いでるから、かな〜」
乃木園子は再度笑う。今日は本当によく笑った。''彼女''と会えたからだろう。
「まあ、どちらにせよ、あのまっすぐな瞳をした彼女たちが絶望に染まり苦悩の日々を迎えるのはすぐそこ……。''楽しみ''だ……」
「……そういうのは冗談でも良くないよ?」
乃木園子は声こそ明るかったが少し睨んだような目でマクギリスを見た。
「……それはすまなかったね」
マクギリスは悪びれた様子もなく空を仰ぎ見た。
ーーオルガと三日月は車に揺られながら三日月の家の近くまで来ていた。
「もうじき貴方の家ですよ」
「うん」
「……」
オルガは石動の言葉に応答はしない。
「……そういえば貴方達のリーダー、犬吠埼様ですが」
その言葉に二人ともピクッと体が反応した。
「満開の後遺症のことでこまめに連絡を取ってきていますね。クジャン公が対応しているのを聞きました」
(部長……)
おそらく風は樹の声をいち早く治らせたいため情報を求めているのだろう。
……治らないこととは知らずに。
「後遺症の話を隠すことで貴方達に普通に暮らしてほしい。という大赦のひとつの優しさではあるのですが、そのせいで今の彼女の精神は揺らいでいる」
「……」
車は讃州中学の近くを通り過ぎた。
「クジャン公が対応していますが、彼が逆に彼女を激昂させてしまう可能性もあります。……勝手なお願いですが気にかけてやってください」
「……それはそうしたアンタらのツケだ」
オルガはようやく口を開いた。
「その落とし前は、アンタらがきっちりつけるんだな……」
「おっしゃる通りだと思います」
そして、車は三日月の家につき、二人は家へ入っていく。
……一週間後、オルガと三日月は東郷の家へ呼び出された。
そこには友奈と風もいる。
「部長? なんでここに?」
「……それは……」
風の様子がおかしい。少し精神的に疲れているような。
「っ! あのことを言ったのか」
「はい、風先輩には伝えなければ、と思い……」
そう言った東郷の様子も少しおかしい。風以上に疲れているような、やつれているような。微かに目にクマができている。
「樹ちゃんや夏凛へは?」
「二人には言ってません」
「そっか」
三日月は少し安心したような顔をしていた。
「……で? 東郷さん。俺たちを呼びつけた要件を聞こうか?」
「……」
東郷は無言のまま近くの机に置いてあった短刀を手に持った。
「東郷、さん?」
友奈と風は困惑した表情で彼女を見る。どうやらここからは二人も知らない内容のようだ。
東郷は短刀の鞘を抜きーー
「ーーッ‼︎」
それを自分の首に当て、切り裂こうとした。
「な⁉︎」「東郷ッ‼︎」
しかし、首はかき切れず、卵型の精霊がいつのまにか現れバリアを張って守った。
「なにやってんだァ! お前ッ‼︎」
「あんた今精霊が止めなかったらッ‼︎」
「止めますよ。精霊は、確実に」
精霊は短刀を取り上げ、机に置いて消えた。
東郷は俯いたまま話し続ける。
「この数日間、私は様々な方法での自害を試みました」
「な、何言ってんの、よ……」
「七輪を使っての一酸化炭素中毒。縄で首吊り。遅効性と即効性のある毒物をそれぞれ服用。そして、お風呂場での溺死」
「だから、何言ってんのってーー」
「全て精霊に阻止されました」
「……⁉︎」
東郷以外の四人は驚き立ち尽くす。
「わかりますか? 精霊は勇者に致命傷となる攻撃を防いでくれます。それはこの日常生活でも変わらなかった、ということです。たとえ''自殺''だとしても」
「東郷さん……。アンタ正気か?」
オルガの言葉に応えず東郷は話し続けた。
「きっかけは乃木園子の顔に触れた時です。彼女からは体温を感じませんでした。まるで死人のような。……ですが、それは体温調整を行う機能が無くなってしまったからです」
そして、と東郷は少し間を置いて続ける。
「私は彼女から衝撃的な事実を聞きました。……それは、彼女には心臓が無かったことです」
「はぁ⁉︎」「ええッ⁉︎」
「正確には神樹様に持っていかれて機能していない。が正しいです。……今彼女は自分でも理解できない状況の中にいます。''かわりに精霊がなんらかの処置をしている''と推測していましたが」
東郷は友奈を見る。
「私がそれを聞いて確信を持ったのは、少し前に友奈ちゃんが屋上から落ちた時を思い出したからです」
「えっ、あの時の?」
オルガと三日月は話だけは聞いていた。二人が学校にこなかった時、友奈は猫の捜索の際、誤って屋上から落ちてしまったのだ。
「あのとき、友奈ちゃんは無事でした。怪我ひとつもなく……。おかしいですよね? ……そして、確信した時わかったんです」
「わかった?」
「精霊の目的は勇者が戦うのをサポートするのではなく、勇者を戦いという御役目に縛り付けることなんじゃないかって」
「精霊が……」
「そして、そのおかげで……。そのせいで私たちは決して死ぬことはない不死の体を手に入れたんだって」
「勇者は、死なない?」
三日月はぼそっと呟いた。
「で、でも死なないんならむしろ良いんじゃ、ないかな……」
「……そうね。でも気になるのは助けるタイミングなの」
「タ、タイミング?」
東郷は自分のスマホに目を向ける。
「私はさっき遅効性毒物の摂取と溺死を試みた、と言いましたが、まず即効性の毒は口に入る前に阻止されました。一酸化炭素中毒は私が酸欠で意識を失う手前で七輪を処理され窓や扉を開けられました。首吊りも直前に縄を切られました。……ですが、遅効性毒物の場合は口に入れても、いくら時間が経っても、精霊は現れませんでした。そのかわりに嘔吐、痙攣、高熱に襲われましたが。そして、溺死については気がつくと精霊によってお風呂場から連れ出されていました。大量に飲んだと思われる水も吐き出されて……」
オルガたちはただ黙って聞くしかなかった。
東郷の顔色や体調が悪く見えたのは、数日間''そんなこと''をしていたからだったのだ。
風も衝撃のあまり声も出ない。
総攻撃で風が水泡に囚われていた時に犬神が近くを漂っていたが、あれは''助けるタイミングを見計らっていた''のだ。すなわち助けられなかったではなく、助けなかったのだ。風の死が確定していなかったから。
「な、なんなのよ。それ……。私たちは……何も悪いことなんか、してないのに……」
風はガクッと膝を落とし、手を床につけた。
「……大赦はこのことを知ってたの、ね……」
風は床についた手を強く握りしめた。
「乃木園子という前例があったのですから、大赦は知っていて当然のはずです。しかし、それを知らせず私たちを騙し続けていた」
ポタッポタッと雫が風の右目から落ちた。
「うっ、うううっ、知らなかったの……。私は知らなかったのよ。……樹……」
ここにはいない名前を口にする。
当然、返事はない。
脳裏にいつか、樹とした会話を思い出す……
ーー風は買い物の途中でたまたま、友達と別れて帰る樹を見た。
「あれ? 樹、今の友達でしょ?」
こくっと頷いてスケッチブックに文字を書く。
『夏休みにどこか遊びに行かないかって誘われた』
「へぇいいじゃん。行きなよ」
樹は首を横に振った。
『カラオケとかライブとかが好きな子たちなの。でも私がいたらきっと遠慮しちゃう』
「あっ……」
樹は友達に気を遣って引き下がったのだ。
……樹の教師の言った言葉が現実になろうとしている……。
「だ、大丈夫よ! きっと……、きっともうすぐ治るわよ! そしたらまた友達と遊びに行きなさい! 夏休みは長いんだから」
樹は笑顔で頷いた。
(そう。治るわ……治るわよ。……治らなきゃ、樹はーー)
ーー治らないーー
……風は嗚咽混じりに嘆く。
「私のせいで……私が勇者部に誘ったから……」
「風先輩のせいじゃーー」
友奈の言葉をかき消すように、風は突然走り出して家を出た。
「風先輩ッ‼︎」「どこに行くんだッ⁉︎」
友奈たち三人は風を追いかける。
東郷は沈んだ目でその様子を見ていた。
ーー夏凛はその時大赦からのメールを見ていた。
「……どういうことよ?」
内容は、犬吠埼風の精神が不安定であり乱心の恐れがあること。また、そうならない様に三好夏凛が彼女の側に付きっきりで、風の言動に注意を払っておくこと。とのことであった。
「たまに連絡を寄越すと思ったら、何を訳のわからないことを……」
そう言いつつ夏凛の胸中はざわつく。
「風を監視しろってこと?」
気のせいだと信じつつ、夏凛は自転車で犬吠埼宅へ向かう。
「ーーあ、アレ? イツカさんは?」
風を追っていた友奈と三日月だが見失ってしまい、オルガもいつのまにか姿を消していた。
「東郷さんのところに戻ったのかな? ど、どうしよう?」
「いや、急ごう。もしかしたら……」
「えっ、あっ! 私もっ‼︎」
三日月は走り出した。あとから友奈も続く。
三日月は感づいていた……。様子がおかしかったのは風と東郷だけではないーー
ーー風は自宅へ戻り樹の部屋をノックする。
返答はないようだ。
「樹! 樹ッ‼︎ いないのッ⁉︎」
風は扉を開ける。そこに樹はいなかった。
樹に会ってどうするのか。何を言おうかなど風は考えていなかった。ただ樹に会わなければならない気がした……。
「……! これって」
風は樹の机の上に積まれた本を見た。そこには『のどの不調を治す本』『声が大きく響く発声法』『よくわかる発声のしくみ』『歌手になるために』など、歌や声に関する本ばかりであった。
「これ、樹がーー」
プルルル、プルルルと電話が鳴った。
風は部屋を出て受話器を取った。
「はい。犬吠埼です」
『突然のお電話失礼致します。私、イオノミュージックの柚木と申します。犬吠埼樹さんのご家族でよろしいでしょうか?』
電話の相手に全然心当たりがなかった。
「はい。そうですが」
『犬吠埼樹さんがボーカリストオーディションで一次審査を通過されましたのでご連絡差し上げます』
「えっ? 何のことですか?」
『あっ、ご存じないのですか? 先日弊社のオーディションにエントリーされました。樹さんからオーディション用のデータが届いておりまして……』
そこから先はもう耳に入ってなかった。
適当な受け答えをして電話を切ったのか、何も言わずに電話を切ったのかすら覚えてはいない。
風は樹の部屋を見渡し、ノートパソコンを見つけた。
風はパスワードを入力した。このパソコンは前に風が使っていたものでパスワードはそれから変更されていない。
デスクトップにある[オーディション用]と表示されたファイルを開いた。
そこには……。
『え〜っと。これ始まってるのかな?』
『始まってるよ』
『あっ! 三日月くん! 声入っちゃってるよ‼︎』
『大丈夫。後で編集してUSBに入れて送るんでしょ?』
『そっか。ここの部分は切り取ればいいよね』
樹と三日月の声が聞こえる。
『えっと、この度オーディションに応募しました。犬吠埼樹です。よろしくお願いします。私が今回応募した理由は、純粋に歌が好きだからです。それと、私は歌手を目指す事で自分なりの理由? みたいなものを見つけたいと思っているからです。……私にはとても大切な人がいます。お姉ちゃんですっ!』
「ーーっ‼︎」
『お姉ちゃんはしっかり者で面倒見が良くて、私の憧れの存在です! 私は反対の性格なので、いつもお姉ちゃんの後ろをついていくだけの毎日でした。でも、本当はお姉ちゃんの隣を歩いて行ける私になりたかったんです。だから……私は自分を変えたい! 自信を持ちたい! 何かを目指してひたむきに頑張ることで、私はお姉ちゃんの隣を歩けると思うからっ。そしたら!』
風のスマホが鳴る。……大赦からメールが来たようだ。
しかし、風は見向きもせずに声を聞き続けた。
『お姉ちゃんが一人で背負って苦しんでいる時に、私が手を貸してあげられる。今まで支えてもらったお礼に、今度は私がお姉ちゃんを支えていきたい。すぐ隣にいるのなら、それができると信じているからっ!』
そこで、風は自分のスマホを見た。
大赦からはーー
【To 犬吠埼風
勇者の身体異常については不明のままだ。調査中故今しばらく待ってほしい。
心配はいらない。医学的には何の問題もないとの報告だ。
もうじき治るだろう。だから、今と変わらずの生活を続けてくれたまえ。
これからも大赦のために励もうではないか。
From イオク・クジャン】
目で文面を追いつつ、耳は樹の声を……
『あっ。ごめんなさい。長々と……。それでは歌います。聞いてくださいーー』
そこで曲が始まる。そして樹の綺麗な歌声が流れてきた。
……もう聞くことは叶わない、その歌声がーー
「あっ……あ、ああ……」
手が震え、涙が溢れてきた。
「ああっ。うっああっ……」
風はよろけながら樹の部屋を出ていく。
パソコンからは樹の歌声が流れたままーー
『私も頑張る。叶えたいものがあるから!』
『叶えたいって?』
『今はまだ、お姉ちゃんには内緒……』
『わかったわ。じゃあ、いつか教えてくれるまで楽しみに待ってるから』
ーー総攻撃の時に風と樹で交わした会話がフラッシュバックされる。
「うっ、くっ、ううう、ああ……ああああああああァァァーッッ!!!!」
涙を流しながら、怒号に近い声が部屋の中に鳴り響く。
風の周りから花弁が舞い始め、勇者装束に変身していく。
そして、風は大剣を握りしめ、部屋から飛び出したーー。
ーー樹を悲しませる奴は、不幸にさせる奴は……誰であろうと許さないっーー
次回予告
『それでも俺は決めたんだ、決まったんだよ。オルガ』
『私は結局、アンタたちの仲間にはなれなかったのね……』
『こんなことがッ、許せるかァァァーッ‼︎』
『どけよ夏凛。テメェのくだらねぇお喋りを聞いてるヒマはねぇんだよ』
『だって私は……勇者だから』
ーー第十八話 この声が届くまでーー