おるがいつかは勇者である   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。いよいよ最高潮に向けて進んでおります。今回は少しだけのナゾトキ回。って言っても大体本編と同じ神世紀の真実。



『●●の無い世界なんて存在しない。……わかってるつもりだった。だって私たちは、●の海に●を浮かべ、そこから見上げる青い空を、仮に世界と呼んでいるのだから』

 大赦書史部・巫女様 検閲済


第二十話 愛ゆえに

 オルガを除いた友奈たち五人は東郷の家に来ていた。あの一件から自分たちの今後の方針を話し合うために。

 

「あれ? 留守なのかな?」

 

 友奈がいくら呼び鈴を押しても出る気配はない。

 

「おーい! 東郷さーーん」

 

 声で呼びかけても返事はない。

 

「留守、ね」

「……」

 

 夏凛は横目で風と樹を見る。

 風はいまだ立ち直れず沈んだ表情のまま樹の手を握っていた。

 

「ワリィ。遅くなっちまった」

 

 そこへオルガが合流した。

 

「どこ行ってたの? 野暮用って言ってたけど」

「ん? ああ、ちょっと学校でな……」

「ふ〜ん」

「夏休みだけど学校に入れたの?」

「他の部活が練習してっからな。校舎内はもちろん、体育館もな」

「それもそっか」

 

 夏凛もオルガの動向に疑問を抱いたが、まずは東郷に会うことが先決だ。

 

「東郷さん、いねぇのか?」

「そうよ。……どこ行ったんでしょうね……」

 

 

 

 ーー東郷は病院で乃木園子からこの世界の真実を告げられていた。

 

「……そもそもね。バーテックスとは、人類の増長を憂いた神が遣わした生物のことなんだよ」

「……えっ?」

 

 東郷は耳を疑った。散華で持っていかれた左耳のせいで聞き違いをしたとも思った。

 

「人類を滅亡の危機に追いやったのはウイルスじゃなくて''天の神''が粛清のために作ったのがバーテックス。300年前、突如として現れたソレは人間や人間が作った建造物、文化を破壊していき、1日足らずで日本人口の1/4を殺し尽くした」

「それ、が……バーテックス……」

「英語で頂点・天頂。または抗うことのできない運命という意味だって。……マッキー先生は天の神から作られ使役される存在として''天使''と呼んでたね」

「……っ」

 

 東郷は震え言葉を発せずにいた。

 

「そして、天の神に対抗して人類に味方した神様の集合体が神樹様。この世界はね、いわば神々の戦いの系譜とも言えるんだよ。そして今、神樹様は四国に強固な防御結界を築きその中で暮らす人々を守り続けている……、時折、結界に侵入し神樹様を狙うバーテックスを勇者たちに撃退させてね」

「そんな、ことっ……」

「信じられないと思うよね〜。私も最初はそうだった」

 

 辛うじて言葉を発した東郷だったが、乃木園子は冷静に告げた。

 

「答えは壁の向こうに行けばわかるよ。そこで真実の世界を貴女自身の目で見てきたらいい……。地獄と呼ぶに相応しい、あの光景を」

 

 東郷は無言のまま部屋から立ち去ろうとすると、

 

「ホントはね、この話を伝えるのは良くないかな〜、って思ってたんだ」

「……?」

 

 東郷は車椅子を止め振り返る。

 

「本来、私の役目は何らかの理由で反旗を翻した勇者を止めることなの。正直なところ散華のことも含めて、この事を告げて貴女たちが暴走しない保証はどこにもないから」

「貴女が止める……? そんな体で?」

「ふふっ、こんな状態でも戦えるんだよ。私の精霊の数は二十一体だからね〜」

「……⁉︎」

「武器もすごいよ〜。精霊の数だけ能力が増えるのは知ってるよね?」

「え、ええ」

 

 現に東郷は四体の精霊がおり、その数だけの武器がある。乃木園子の精霊が二十一体ということはその分だけ戦闘力も高いといえる。

 

「武器もね〜。槍を増殖させることも遠隔操作もできるんだよ〜。だから寝たままでも戦える。槍を通して戦況も把握できるから、遠くへ飛ばし過ぎても見失うこともない。他にもね、狙った箇所を必ず貫く能力、回避不可とか防御不可とか、数えきれないくらいの能力が備わってる。だから簡単には負けないと思うよ」

 

 でもね……。と彼女は続ける。

 

「私は貴女たちとは戦わないよ」

「え?」

「記憶が無くなったとしても貴女は大切な友達だからね。その貴女が大切に想ってる彼女たちは、私にとっても大切だから」

「……」

 

 東郷は何も言えなかった。二十一体の精霊、すなわち二十回も散華して体の機能を持っていかれたことになる。……それでもなお彼女は戦いへと誘われようとしていたのだ。

 

「……貴女がどんな答えを出そうとも、私は味方だからね」

 

 東郷はそれを聞いて暗い表情のまま部屋を出ていった。

 

 乃木園子はそれを見送る。そして、机に置いてあるチョコレートに視線を向けた。

 

「……結局、チョコレート持っていかなかったね〜」

 

 

 

 

 ーー東郷は勇者装束に変身して跳躍する。

 壁の上まで辿り着き、軽く跳びながら前進していく。

 

「瀬戸内海の向こうが見える……。綺麗な景色だと思うけど」

 

 また、前へ跳ぶと、

 

「えっ……」

 

 その瞬間、景色は一変した……。

 

「な、に、これ……」

 

 眼前に広がる光景は''絶望''という言葉で表現するのが相応しいと思えるものだった……。

 大地は溶岩のようなものに覆われて燃え盛っている灼熱の世界。所々から炎が噴き上がっている。その爛れた大地の一部には巨大な卵状のもので覆い尽くされている。

 見上げる空は夜中のように暗い。

 

「これ、が……、外の世界……? まるで地獄じゃないッ!」

 

 前に友奈と共に宇宙へ向かったことがあったが、宇宙から見下ろした景色はこんな地獄絵図ではなかったはずだ。

 

「壁の中は、宇宙規模の結界で守られていたの……⁉︎」

 

 東郷は暗い空を見上げ続けていると、そこに白い何かがいた。一瞬、夜空を彩る星々だと思ったが、よく見てみると無数の星々は水面を漂うかの如く蠢いていた。

 不規則に飛んでいる何かをずっと見続けていると……。

 ''それ''は突然東郷の元へ落下してきたーー

 

「ーーッ! きゃああああああーーッ‼︎」

 

 東郷はパニックになった。

 そいつは、不自然なほど全身が白く、人間より巨大で不気味な口に見える器官を持ったバケモノだった……。例えるなら深海生物のような、不完全な無脊椎動物のような……。例えたくはないがそのフォルムは''マシュマロ''に似ているとさえ感じた。

 バケモノは東郷に食らいつこうと口を開け、体をくねらせ突撃してきた。

 

「あ、ああああ、いやっ、いやああああああああああーーっ‼︎」

 

 完全に冷静さを欠いた東郷はハンドガンでバケモノに発砲するが、狙いが定まらない。

 不気味な口が目の前に迫った所でようやく弾が命中し、バケモノは消滅した。

 

「はぁ、はぁっ……、うっ、はぁ、はぁ」

 

 東郷は息を整えようとするが、上手く空気が吸えない。過呼吸気味に陥る。

 東郷に向かってきたのは一体だけだったが、空にはまだ同じモノが無数に飛んでいる。

 

「ーーッ⁉︎ あれは‼︎」

 

 東郷はまた信じられないものを目撃した。

 無数の白いバケモノたちが集結して巨大な物体を生成していたのだ。

 ……いや、あれは物体と誤魔化して呼べるものではなくーー

 

「友奈ちゃんが倒した……、バーテックス⁉︎」

 

 初陣の際、三日月のバルバトスによって御霊を引き摺り出され、友奈によってトドメを刺されたあのバーテックスが生まれようとしていた。

 ……いや、やつだけではない。二戦目で倒したサソリのような尾針をもつもの。鋏がついたもの。大小の口を持つ顔だけのもの。……大赦が命名した、『蠍座』『蟹座』『射手座』もまた無数のバケモノにより形成されていたのだ。

 そして、何のバーテックスかは判別できないが更に二体、形成されようとしている。

 

「バーテックスが生まれて、る……」

 

 すると初陣の時に倒したバーテックス。『乙女座』が完成され東郷の方を向いた。

 

「ーーッ‼︎ う、うわああぁぁぁァァァーーッ!!!!」

 

 東郷は恐怖のあまり、必死に壁の内側まで逃げた。

 壁の内側はいつもと変わらない四国の美しい光景……だが、今の東郷はそれどころではない。

 

「はぁ……、はぁ、うっ! ゴホッゴホッ……ううッ‼︎」

 

 東郷は口を手で覆い嘔吐く。

 今日は朝から何も食べていなくて良かった。食べていたら''それ''を出してしまっていただろうから。

 

「うっ、うううっ……」

 

 東郷は涙を流しながら倒れ込む。

 

「戦いは永遠に終わらない……。倒しても倒しても何度でも復活してくる……。私たちは体の機能を失いながら……」

 

 この戦いを続けていけば、いつか必ず乃木園子のように日常生活すら送れない体になってしまう。

 

「いや、いやよそんなの……。でもどうしたいいの? どうすれば……」

 

 必死で考える。この生き地獄からみんなを助け出す方法を。

 

「……‼︎ あった。ひとつだけ。その方法が……」

 

 東郷は起き上がり、ライフルを出現させた。

 

「友奈ちゃんたちをこの世界から救える方法がっ」

 

 

 

 

 

 

 

 ーー友奈たちは東郷の家の前で帰りを待っていた。

 すると、突然奇怪なアラーム音が鳴り始める。

 

「えっ⁉︎」「なっ‼︎」

 

 オルガも三日月のスマホを見る。

 三日月のスマホからも友奈たちとは別の気味の悪い音が鳴り響いている。

 

「アラームが鳴り止まないよ⁉︎」

「だんだん鬱陶しくなってきたな……」

 

 普段ならアラーム音は1分も経たずして鳴り止むが、今回は止まることなく鳴り続けている。

 数分後、アラームは止み神樹世界に包まれていった。

 

「ど、どうして⁉︎ 戦いはもう終わったはずじゃあ!」

「落ち着きなさい友奈。まずは現状をーー」

 

 夏凛はマップで攻めてくる敵を確認する。

 そこには壁側から無数の赤い点が迫ってきていたのだ。

 

「何この数……」

 

 夏凛が呆然としていると、友奈は壁に東郷の名前とマーカーが映っている事に気付いた。

 

「東郷さんっ⁉︎」

「えっ?」

「そんな所に居やがったのかッ!」

 

 オルガも友奈のスマホを覗き込んだ。

 

「とにかく、東郷の元へ行くわよ!」

 

 オルガ以外は勇者装束に変身する。

 そして、夏凛、友奈、オルガは壁へ向かった。

 

「……? 部長?」

 

 三日月が振り返ると変身後、風はその場に座り込んだ。

 樹は風の体を揺するが応答はない。

 

「ーーッ! あれが攻めてきた敵かッ」

 

 壁側から侵入してきた無数の白いバケモノは三日月たちに襲いかかってきた。

 三日月は銃でバケモノを撃っていく。

 

「部長、どうしたの?」

「……」

 

 風は黙り込んだまま動こうとしない。

 樹もワイヤーで向かってくるバケモノを切り刻んでいく。

 しかし、数が多くバケモノは口を開け樹に突進する。

 

「……!」

 

 危うく食われそうになる樹だったが、三日月が体を抱え助けた。そして、銃で撃ち殺す。

 

「大丈夫?」

 

 樹はこくっこくっと頷く。

 今度は別の敵が風の元へ突進していく。

 

「ーーッ‼︎ 部長に手ェ出すなッ!」

 

 三日月は樹を抱きとめたまま、銃を連射させ風に向かっていたバケモノも撃ち殺した。

 樹もまたワイヤーを飛ばし敵を切り刻む。

 三日月と樹は風を守るためその場でバケモノを殺し続けたーー

 

 

 

「東郷さん‼︎」「東郷っ!」

「友奈ちゃん、夏凛ちゃん。……イツカさん」

「何やってんだ。東郷さん」

 

 見れば、東郷の近くに不自然な大穴が空いていた。

 そこから、無数のバケモノが侵入してきている。

 

「なんだっこいつら……」

「気持ち悪いわねっ」

 

 夏凛たちに襲い掛かってくるがそれを夏凛は斬り伏せ、友奈は殴り、オルガは避ける。

 

「東郷さん! 壁に穴がっ‼︎」

「友奈ちゃん、壁を壊したのは……。私よ」

「え⁉︎」

「何よそれ。アンタ、自分が何やってんのか分かってんの⁉︎」

「わかってる‼︎ わかってるからやらなければならないの」

「どういうことよ⁉︎」

 

 東郷は跳躍した。

 

「あっ待て‼︎」

 

 オルガたちもそれを追う。

 すると、東郷の姿は突然消えた。

 

「東郷さんが、消えたッ⁉︎」

 

 三人はそのまま進んでいくと……。

 景色が一変し、灼熱の世界が眼前に広がった。

 

「ええっ⁉︎」「なんだコリャ⁉︎」「……ッ⁉︎」

 

 三人はそれぞれ驚愕している。

 

「これが四国を囲う神樹様の結界の外……。世界の真実の姿よ」

「これが、真実の世界、だとッ」

 

 オルガたちはあたりを見渡す。ここへ来る途中に倒してきたバケモノが無数に飛び交っていた。

 友奈は口に手を当て吐きそうになった。

 

「わかる? この地獄が。あれが」

「……‼︎ バーテックスが‼︎」

 

 夏凛の視線の先には六体のバーテックスが形成されていた。

 その中の一体、乙女座はすでに完成しており、四人に向かって下腹部から爆弾を発射させた。

 

「……⁉︎ 友奈! ひとまず退避するわよ‼︎」

「えっ‼︎ 夏凛ちゃん。東郷さんは⁉︎」

 

 夏凛は友奈を抱え、跳んで回避する。

 東郷も後ろへ跳躍し、回避。

 オルガは避けきれず被弾する。

 

「ウガァァァーッ‼︎」

 

 夏凛と友奈は壁の内側に戻る。

 吹っ飛ばされたオルガも内側に放り出される形になった。

 

「イツカさん‼︎ しっかり」

「夏凛、お前……。俺も抱えてくれよぉ」

「し、仕方ないじゃないッ。すぐ横にいたの友奈だけだったし……」

 

 オルガは左手人差し指を夏凛向けてうつ伏せで倒れ込んだ。

 

「だからよぉ……、止まるんじゃねぇぞ……」

「アンタのそれ、久しぶりに見たわ……」

 

 夏凛は抱えてた友奈を下ろす。

 

「……ってそんなこと言ってる場合じゃないのよね」

 

 夏凛は大穴を見る。

 穴からは依然、大量のバケモノが侵入し続けている。

 また、完成されたバーテックスが次々と壁の向こうから姿を現す。

 

「なるほど。私たちが戦ってたバーテックスはこの白いバケモノが構築した完成体ってわけね。で、神樹様の結界を越えられるのはその完成体。コイツら量産型は結界内に入れないから穴を通してしか来れないってこと」

「オイ! 呑気に眺めている場合かっ!」

「少し黙って。状況を分析するには冷静でいなきゃいけないの!」

 

 夏凛はオルガの言葉をはねのける。

 

「夏凛ちゃん……。私たちはこれからどうすれば……」

「決まってるでしょ? コイツら殲滅するの。そして、東郷を見つけ出して事情を吐かせる」

「この数の敵をかッ」

「そうよ。一匹だって神樹様に辿り着かせちゃいけない。それに、厄介なのはアイツら四体ね」

 

 完成されたバーテックス。その実力は戦った勇者が一番よく分かっている。量産型の方はさっき倒した手応えから大したことないはずだ。

 

「すでに神樹様の方へ向かったと思われる雑魚は風たちに任せておきましょ。だから友奈とアンタは穴から出てるやつ。私はバーテックスをやる」

「一人でやろうってのか⁉︎」

「大丈夫よ。私は強いし。それに……」

 

 夏凛は隣に現れた自分の精霊、菊幢丸を見る。

 

「コイツもやる気みたいだしね」

「出陣〜」

 

 菊幢丸は法螺貝を吹く。

 

「ダメだ。アイツらの実力を見誤ってる。お前だけじゃーー」

「いいから倒しに行きなさい。友奈……オルガ……。東郷を止められるのはアンタらなのよ。アンタらだけなのよ」

「夏凛ちゃん……」

「てゆーか、早く説得してきて、その後私たち四人で蹴散らしましょ」

 

 夏凛の目にはどうあっても引かないという固い意思が宿っていた。

 

「わかった……。いくぞ友奈ァ」

 

 オルガは友奈の手を引っ張り、再度壁へ向かう。

 

「夏凛ちゃん! 東郷さん連れてくるからッ。それまで持ち堪えてて!」

「わーかってるわ‼︎」

 

 夏凛は友奈とオルガを見送ると、四体に向き直るーー

 

 

 

 

 ーー三日月と樹は後方で戦い続けていた。

 

「ん? あいつら、倒したはずじゃ……」

 

 三日月は遠くに見えるバーテックスを睨んだ。

 ……と、樹に服の裾を引っ張られた。

 

「樹ちゃん?」

 

 樹は指をバーテックスに向けた。そして三日月に指を向けそのまま、またバーテックス方へ向けた。

 

「向こうのバーテックスを倒しに行けって?」

 

 樹は頷く。

 

「でも樹ちゃんと部長を残してーー」

 

 樹は首を横に振った。そして、右手のひらを胸にあて、ガッツポーズを取った。

 

「ここは任せろって。いいの?」

 

 三日月は正確に樹の身振りを解読している。

 樹は激しく頷いた。

 そして、ワイヤーを周囲の樹木に括りつけていく。

 

「そういうことかっ。わかった……。でも気をつけるんだよ?」

 

 樹はニコッと微笑み、三日月は壁の方へ向かう。

 

「……!」

 

 樹は無数ワイヤーを周囲に張り巡らせドーム状にした。

 そこへ馬鹿正直に突っ込んできたバケモノはワイヤーに切られていく。

 ワイヤーが二人を守る鳥籠になっているのだ。

 あとは、樹がドームの隙間からワイヤーを出して自分からも攻撃を行っていく。

 

「……」

 

 風はその様子を呆然と見つめていた……。

 

 

 

 

 

 ーー夏凛は四体の周囲を跳び回り通り過ぎ様に雑魚を斬っていく。

 

「……くっ、時間稼ぎなんて私らしくないのよねっ。でも……」

 

 夏凛は四体を翻弄すると同時に周りの雑魚の数を減らしているのだ。

 少しでも後方に行かせる数を減らし、風たちが楽できるように、と。

 すると、乙女座の爆弾と射手座による光の矢の同時遠距離攻撃が襲いかかってきた。

 

「マズッーー」

 

 雑魚の掃討に意識し過ぎて回避行動が遅れた。

 夏凛に攻撃が命中する……ところで三日月が爆弾を銃で撃ち落とした。

 

「ーーッ!」

 

 夏凛は爆弾が無くなった方向へ跳び矢の攻撃を回避した。

 

「生きてる?」

「アンタのおかげでねっ。……感謝しないこともないわよ?」

 

 夏凛はツインテールの片方をバサっと手で振り上げた。

 三日月が夏凛に合流する。

 

「樹と風の方は?」

「樹ちゃんが部長を守ってるよ」

「風はまだあんな調子なの?」

「うん、でも大丈夫だよ。樹ちゃんなら。戦ってる樹ちゃんを見れば、きっと……」

「そう? なら私たちはコイツらを倒さなきゃね」

 

 夏凛と三日月はバーテックスたちに向き直る。

 ……がなんと、壁から新たに別のバーテックスが現れた。

 

「……増えた」

「この、やろう……」

 

 四体のバーテックスに加勢したのは二体のバーテックス。

 一体は夏凛が前に瞬殺した四本の突起物を備えている『山羊座』そしてもう一体はクラゲに似た地中を移動する能力を持つ『魚座』

 

「全部で六体。六対二ってわけ……」

 

 六体のバーテックスは一列に並んでいる……が。

 

「あっ。二手に分かれるよ」

「ちっ、私たちを分断しようっての?」

 

 敵は、蠍座と蟹座と射手座のグループ、乙女座と山羊座と魚座のグループに分かれて移動している。

 

「二方向から。多分神樹様に向かう気ね」

「なら俺たちも分かれて戦う? 援護ができなくなっちゃうけど」

「それしかないでしょ……」

 

 夏凛は蠍座の方へ向く。三日月は乙女座の方へ向いた。

 

 ……と三日月の左手に何かが触れた。

 それは夏凛の右手だった。

 

「ゴメン……。ちょっとだけこのまま繋いでてくれる?」

「うん? いいけど」

 

 夏凛はふっと笑う。……夏凛の手は震えているように感じた。

 

「夏凛、もしかしてこわーー」

「ありがとね。じゃあいっちょやりましょうかっ‼︎」

 

 夏凛は三日月の言葉をかき消し手を離した。

 

「さて、と。私はあの三体をやるから……」

「死んじゃダメだよ? 夏凛」

 

 三日月は夏凛から少し嫌な予感を感じていた。まるでーー

 

「当たり前でしょ? 私にはコイツもついてるしね」

「諸行無常」

「……」

 

 菊幢丸はそう言い、夏凛の顔は歪む。

 

「ま、まぁいいわ。じゃあ……」

 

 三日月に顔を向けず歩きだす。

 

「そっちは任せたわよ。三日月」

 

 三日月はニヤッと笑う。

 

「ああ。任され、たッ!!」

 

 三日月はそう言いジャンプして三体の元へ向かう。

 夏凛は振り向かずに跳んでいく三日月の背中を見つめていた。

 

 ……そして、笑顔で右手を軽く振る。

 

「またね」

 

 夏凛は三日月に別れの言葉を告げた。またすぐに会えるかのような気軽さで。

 ……当然、その声は届いていない。

 

 

 ーーそして、夏凛はもう一方の三体へ向かっていくーー

 




次回予告

『好きなだけくれてやるから、見せてみろよ。お前の力』
『三好夏凛の生き様ァ! とくと見よォォーッ‼︎』
『あっぶねぇ、なァァァ‼︎』
『神ごときが……完成型勇者を、人間を、なめるなァァァーーッ‼︎」

ーー第二十一話 紅く散るーー
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