おるがいつかは勇者である   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。
 さぁフィナーレだ。ここまで読んでくれた方には本当に感謝しかありません。そして、これからもよろしくお願い申し上げます。
 最終話、実は9716文字ある。……最高記録の文字数だ。読むのもひと苦労だろう。
 ーー準備はいいか? 俺はできてるーー


『私たちは忘れないよ、あなたがいたことを。私たちはみんなで勇者部なんだからっ。……だからこの記録に、あなたの名前を記します。……今まで本当にありがとう!! ''オルガ・イツカ''さんっ』

 ※大赦書史部解体の為,検閲未実施


最終話 勇み歩き続ける者

 ……ここは一体どこなのか。

 あたり一面に真っ白な殺風景。周りにはいくつもの光の粒子が飛びかっている。周囲にホタルが飛んでいるような……。不思議な光景。

 

「……ここは? 俺は……確か」

 

 その光の中にぼんやりと浮かんでいる者がいた。

 その男の名は、オルガ・イツカ。

 七月末の戦いのあと、他の精霊と共に消えてしまったはずの彼がいた。

 

「もしかして、神樹の中、なのか?」

 

 根拠などはない。しかし、オルガは直感で理解していた。

 自分が精霊であり、御役目を果たした今、帰る場所は神樹であると思ったからだ。

 だが、彼がここで存在を保っている理由がわからない。

 ……もしかして、オルガにはまだやるべきことが残っているのだろうか……。

 

「……ん? あそこにいるのは、確か……」

 

 視線の先には羽の生えた牛、牛鬼が浮かんでいた。その他の精霊はいない。

 オルガは浮かんでいた体を正そうと両足を下へ伸ばす。

 すると、足は何かに触れ、立つことができた。

 一見、何もない所に立っているので不思議な感覚だった。

 

「おいっ。そこに何かあんのか?」

 

 オルガは牛鬼の元へ走る。

 近くまで寄ると、牛鬼の隣に不自然な光の塊があり、中に少女がいるのが見えた。

 

「……‼︎ お前……友奈、か?」

 

 そこにいたのは確かに友奈だった。

 彼女は目を閉じたままこの不思議な世界を漂っていた。

 

「おいっ。こんな所で何やってんだ?」

 

 オルガが彼女の手を掴むと、光の塊は静かに弾けた。

 

「ん、んん……。あれ? オルガさんだ」

「よお。……こんな所で何してやがんだ?」

「……え?」

 

 友奈は目を覚まし、オルガの言葉で周りを見渡す。

 

「……ここどこ?」

「多分だが、神樹の中ってやつ? まぁよくわかんねぇけど」

「えっ。じゃあ何で私はここに?」

「それを聞いたんだろうが」

「わかんない……。え、じゃあオルガさんはどうしてここに?」

「精霊は神樹の力によって生まれたものらしいからな。だから戦いの後、役目が終わったってことで帰ってきた、んだと思うぜ?」

「精霊……」

 

 友奈はオルガが精霊である、という事実をもう覆せないことに悲しむ。

 

「じゃあ、オルガさんはこれから消えちゃうの?」

「……じきにそうなるだろうな。……だが、その前にやらなきゃいけねぇことがある」

「……? それって」

 

 オルガは友奈の頭にポンっと手を置いた。

 

「お前をもとの世界に戻すことだ。じゃねぇと俺が安心して成仏できねぇだろーが」

「えっ?」

「えっ、じゃねぇよ。……俺はあの時、やっと守りてぇものを守りきることができたって思ったんだ……なのに、お前がこんな所にいたんじゃあ、あの言葉が嘘になっちまうだろーが」

 

 友奈は沈んだ表情で俯く。

 

「……私、帰れるのかな……」

「……は?」

「私は、神樹様に必要とされているからここにいるんじゃないかな。なのに、勝手に帰ったら怒っちゃうかな? 悲しんじゃうかな? ……帰る方法、あるのかな……」

 

 オルガはそれを聞いて、はあ……とため息をついた。

 

「お前、それ本気で言ってんのか?」

「……?」

「神樹が怒るから、悲しむからここに残るって、本気で言ってんのか?」

 

 友奈の頭をガシッと掴み、手を動かして髪をくしゃくしゃにした。

 

「神樹に対する異常なほどの信仰心は見上げたものだけどよぉ……。お前にゃもっと大切なもんがあんじゃねぇのか?」

「……あっ」

 

 オルガの言葉の意味を察した。

 

「ずっとそばにいるって約束したんだろ? アイツらと歩いていくって決めたんだろ? なら、その言葉嘘にすんなよ。戦いが終わって、やっと日常を取り戻せたってのにそこにお前がいないんじゃあ、アイツらの日常は永遠に訪れねぇんだ」

「……」

「なぁ、いつか浜辺で夏凛と話してた事覚えてるか? 戦いは終わった、お前の御役目は終わったんだ。……ならお前はどうしたい? お前のココはなんて言ってる?」

 

 トントンっとオルガは自分の胸を小突く。

 

「……居たいよ。みんなと一緒に居たい……」

「なら答えは出てるじゃねーか。みんなと居ればいい」

「でも! オルガさんも一緒じゃないとダメなのっ。オルガさんもみんなの中に入ってるんだよっ!」

 

 友奈の目から涙が溢れた。

 

「だって……! 勇者部には、風先輩がいて樹ちゃんがいて東郷さんがいて、ミカくんがいて夏凛ちゃんがいて……オルガさんがいて……。みんなで勇者部なんだよぉ……?」

 

 指折りながらみんなの名前を挙げていく。

 

「……それは、できねぇ……」

 

 オルガは歯を食いしばり、苦しそうに答える。

 

「俺は……。本来お前らの世界にいちゃいけねぇ存在なんだ。生きる時代が違うんだ。今を生きるお前らに、俺は……これ以上、関わっちゃいけねぇ」

「……そんなの……、あんまりだよぉ……」

 

 泣きじゃくる友奈をぐっと抱き寄せた。

 友奈の額はオルガの胸に押しつけられる。

 

「……ありがとな。お前らと過ごした時間。三ヶ月ぐれぇか? 短い間だったが、悪くなかったぜ」

「……離れたくないよぉ。オルガさんが来ないなら、私もここにいる……」

「お前……」

 

 

 

 ……と、そこへ二人の元に一羽のカラスがやってきた。

 

「……? カラス? なんでこんな所に?」

 

 友奈も振り返る。

 

(……? この子、どこかで……)

 

 友奈はそのカラスに見覚えがあった。……いや、カラスなどどこにでもいるのだから見覚えがあって当たり前なのだが、どこか他のとは違う。そんな気がした。

 このカラスには一度か二度、どこかで見かけたような……。

 

「ーーッ! まぶしっ」

 

 突然、カラスが輝いた。そして、その風貌は友奈より少し背の高い女性のようなシルエットに変わった。

 全身光に包まれていて顔はわからない。

 

「…………。…………。わ…………」

 

 その光のシルエットは声のようなものを発していた。小さく、途切れ途切れで何を言っているのかはわからない。

 

「なに? なんて言ってるの?」

「誰、だ?」

「その…………。今…………ない」

 

 徐々に言葉が聞こえてきた。

 

「けれ…………ほしい。……過ごしてきた友達や家族がいる」

 

 謎のシルエットが話す声にオルガは懐かしさを感じた。

 

(俺、は……。コイツを、この声を、知っている?)

「あなたは、誰なんですか?」

 

 友奈の問いに相手は答えない。しかし、だんだんと言葉が明確になってきた。

 

「多分、今のあなたはとても苦しんでいるのだと思う。痛い事や悲しい事、絶望する事……、頑張って、頑張って、それでも耐えられないくらい、つらいことがあったのだろう。だからこそ、私の言葉が届いている。……そんなあなたに今、私が言えることは『もっと戦え』でも『もう少し頑張れ』でもない……」

「……?」

 

「生きろっ」

 

「……!」

 

「ただ生きてくれっ。大切な人がいるのなら、その人のことを思い起こしてほしい。あなたがそのままでいたら、その人が悲しむことを思い出してほしい。あなたは、決して生きることを諦めないでほしい。……私たちは多くのものを失ってしまった。大切な友を……。その悲しい思いを、その人にさせないでやってくれ。あなたは必ず、大切な人の元へ戻ってあげてくれ……」

 

 そして、光のシルエットは一層輝いて、またカラスに戻った……。

 しかし、そのカラスは先程とは違い、鮮やかな青色へと変色し、後方へ飛び去っていった。

 

「……あれは、何だったのかな……」

「多分、どこかの誰かからのメッセージだな」

「メッセージ?」

「ああ。……お前宛のな」

 

 友奈は俯いて何かを考えているようだった。

 

「お前への叱咤激励だ。大切な居場所でお前を待ってるやつらがいる。そこへ戻れって。……ここにいたって誰も喜びはしねぇよ」

 

 友奈は目を閉じる。そして、自分の胸に手をあてる。

 

「だからよぉ、友奈ァ。お前は生きろっ。生きられなかった''俺たち''の代わりに……。生きることから逃げるんじゃねぇぞ」

「……うん。……うん」

 

 ゆっくりと目を開けて微笑んだ。

 

「オルガさん。私は戻るよ。……みんなと生きるために。さっきのあの人の想いや、オルガさんの想いを背負って、歩き続けるよ!」

「よく言ったァ。それでこそ友奈だぜェ」

 

 オルガもニカッと満面の笑みを浮かべた。

 

「さあ行けッ! お前の本当の居場所へ……」

 

 そして、左手人差し指を後方へ伸ばす。

 

「勝手口はあっちだぜ」

「うん!」

 

 友奈はオルガを通り過ぎてそこへ向かう……が、ふと足を止めて振り返る。

 

「ねぇオルガさん!」

「ん? どうしたァ?」

「面白い冗談、言ってあげよっか!」

「……?」

「私ねっ。もし、オルガさんがずっとここに居るのなら、一緒に居てもいいかなって思ってたんだよ……?」

 

 友奈は両手を後ろに回し、少し頭を下げて笑顔を見せる。

 

「オルガさんのこと、大好きだからっ」

「……!」

 

 オルガは呆気に取られていたが、ふっと吹き出す。

 

「あっはっはっはっは。そうかっ、そりゃ最高の冗談だなァ!」

「〜〜♪ でしょ!」

「ああ。世界一素敵な冗談だ。おかげで俺も、お前の想いを胸に抱いて歩き続けられるぜ」

 

 オルガは友奈に背を向ける。

 

「ねぇオルガさ〜ん! 気のせいかもしれないけどっ、オルガさんとはまた会える気がするんだぁ〜!」

 

 オルガは振り返らず歩き続けた。

 

「俺とまた会えるってことは、''そういうこと''だぜェー!」

 

 友奈もまた、オルガに背を向け歩き出す。すると、徐々に視界は真っ白になっていった……。

 

(もしかして、だけど……。オルガさんってーー)

 

 

 

 

 

 ーーいつの間にか八月も終わる頃になっていた。

 夏凛はギプスで腕を吊られたまま、病院の待合室にいた。

 

「さっすが夏凛。退院早いわねぇ」

「当然でしょ? なんせ私は、最強でスペシャルな完成型勇者だったんだからっ」

「その設定まだ生きてんのね」

「設定ゆーな!」

 

 風と夏凛は待合室の椅子に腰掛けた。

 これからまた、勇者部メンバーで友奈のお見舞いに行く。……といっても東郷は変わらず彼女の病室にいるので、待っているのは三日月と樹だ。

 

「あれ以来、大赦からは何の連絡も来てない。……あの女性神官も、貴女は精霊も勇者の力も失った。これからは勉学に励みなさいって、それだけ。偉そうな言い方よね」

「まあまあ、良いんじゃない? 私たちは解放されたのよ。あの夢みたいな戦いからね」

「……バーテックスの侵攻も当分の間無いっていうし、……私たちが在学中にはもう来ないのかしら?」

「……かもしれないわね」

 

 夏凛は心配そうにスマホを見る。……もう変身することも精霊を出すこともできないただのスマホを。

 彼女もまた、自身の精霊がいなくなったことに若干寂しさを感じていた。

 オルガと同じように菊幢丸もまた、明確な人格があったのかは確かめようが無いが、少なくともあの戦いで、夏凛が意識を失っている間に右腕を止血してくれたのは他でもない菊幢丸だったのだ。恐らく、意思はあったのだろう。

 ……と、暗い顔でいる夏凛の頭を風は撫でる。

 

「なになに〜。心配? 御役目が無くなって私はこれからどうしよ……って」

 

 夏凛は左手でそれを払う。

 

「……悪いけど、そういうやつはもう終わったのよ」

「ん? どういうこと?」

「前に似たようなことがあった……ってだけ」

「へぇ?」

「私は……、大赦所属の三好夏凛は、これからも勇者部に居続けるわ。……そしていつかまた、奴らが攻めてきたら、その時は後輩たちに託す。私たちの戦闘データは無駄にはならないんだからっ」

「……そうね。そうよねっ」

「ええ!」

 

 夏凛と風は立ち上がった。病院の外に三日月と樹が歩いてくるのが見えたからだ。

 

「来たわね……。あっ! そう言えば夏凛」

「なによ?」

 

 風は何かを思い出したかのように夏凛に問う。

 

「あんた、これからどうするの?」

「さっき言ったでしょ。勇者部にーー」

「そうじゃなくて、三日月のこと。……好きなんじゃないの?」

 

「えええっっ!!!?」

 

 夏凛は思わず大声を出してしまった。院内の人たちは驚く。

 

「夏凛、しーっ」

「だ、誰のせいよッ」

 

 夏凛は他の人たちに頭を下げ、小声で怒る。

 

「……で? どうなのさ?」

「んー」

 

 夏凛は頭に手を添えて考えている。

 

「思ったんだけど、私はそういう感じで三日月を見てないのよね」

「そうなの?」

「なんか……、例えるなら……弟?」

「ほ? オトート?」

「ええ。なんか三日月といると弟ってこんな感じなのかな〜って」

 

 風は大きくため息をついた。

 

「……? 何よ。ため息とか」

「いいやぁ。別にぃ」

 

(……夏凛ってば本当にそう思ってんのかしら)

 

 誰が見ても、夏凛が三日月に対して抱く感情は''アレ''以外考えられないのだが……。

 

(夏凛も、樹も……。なかなかどうして……)

 

 樹に関しても、風の企てで三日月と来させていたが、どうやら進展は無い様子……。

 風はやれやれ、といった感じで病院の入口で二人を迎えにいく……が。

 

「……あれ? 弟みたいだって……、夏凛は兄弟いるんだっけ?」

 

 夏凛は現在一人暮らし。あの日、風は夏凛に''あんなこと''を言ってしまったが、そう言えば夏凛の家族関係は不明のままだ。

 

「さあてねっ」

 

 夏凛は風を追い越し、二人と合流する。

 

「……まあ、いいや」

 

 風も二人のもとへ歩み寄り、四人は友奈の病室へ向かったーー。

 

 

 

 

 

 ーー友奈の病室の前に行くと、

 

「……魔王の圧倒的な強さの前に一人、また一人と、心挫ける人が出てきました。……けれど勇者は、それでも立ち向かいます。たとえ独りぼっちになったとしても戦うことをやめません」

 

 病室から東郷の声が聞こえる。ナレーションの練習をしているようだ。

 四人は静かに入室する。

 東郷は四人には構わず友奈に向かってセリフを読み続ける。

 

「……そう。諦めない限り、希望が終わることはっ、ない、から……」

 

 しかし、東郷の声は震えていた。

 

「何をっ失っても……、うっ、うっ……、それでも、それでも……」

 

 ポタっポタっと、台本の上に涙が零れ落ちていく。

 

「それでも! 私はっ……、大切な友達をっ。ううっ……。う、失いたくないッ!」

 

 ……その言葉は本来、台本には載っていない。

 

「ず、ずっとっ……、ずっと……、一緒にいるって……。ずっとそばにいるって言ったのにーッ‼︎」

 

(東郷……)

 

 風たちはどうすることも出来ず、立ち尽くす。

 

「嫌だっ。嫌だよっ! 焦らなくていい、だなん……て、無理だよぉ‼︎ はやく帰ってきてよッ! ずっとなんて待てないよッ‼︎ 友奈ちゃあん‼︎」

「「「友奈……」」」「友奈さん」

 

 五人は口々に……。風や樹は泣きながら、夏凛は涙を滲ませ、三日月も含めてみんなで友奈の名前を呼ぶ。

 

「ゆう、な……ちゃーー」

 

「……う、ん」

 

「ーーッ‼︎」

 

 東郷たちはハッと、声がした方向を見る。

 

 ……そこには……。

 

「……う、ん……。東……郷、さん。みん、な……。わたし、は……、いっ、しょに、いる、よ……?」

 

 その声を発したのは眠っていたはずの彼女だった……。

 

「友奈ちゃあん!」「「「友奈ッ!!」」」「友奈さんっ」

 

 五人は友奈のベッドを囲うように集まった。

 

「……えへっ。戻って、きたよ? みんなの声、聴こえて、きたから……」

 

 友奈は涙を流して笑った。

 

「うっ。うっ、ううっ……」

 

 東郷は涙を拭き、そして彼女もまた笑う。

 

「おかえりッ! 友奈ちゃん!」

「ただいまっ……。東郷さんっ。みんなっ」

 

 

 ーーそれは、8月30日。

 ……ちょうどあの戦いから一ヶ月経った頃だった……。

 

 

 

 

 

 ーーそれから友奈を含めた六人は文化祭に向けてそれぞれ準備していく。

 友奈はセリフを覚え、三日月もまた風や樹の指導のもと演技を猛練習。

 

 

「……そっか。オルガが友奈を連れ戻してくれたんだね」

「うん。オルガさんが意識を失ってた私を目覚めさせてくれた。手をとってくれたんだ」

 

 休憩の合間、勇者部メンバーは友奈が戻ってきた経緯を聞いていた。

 

「神樹様の中でオルガさんが『生きることから逃げるな』って」

「そう……」

「あとね。カラスがやってきて、その人も『生きろ』って私を激励してくれたんだ」

「カラスなのに人、ですか?」

「うーん……。そこはなんていうかぁ、説明しにくいや……」

「でも、色々あった中で、友奈はこうして戻ってきたわけね」

「うんっ」

「じゃあ改めて、オルガさんには感謝しないとだね」

「……うん。オルガさんには本当に感謝しかないよ……」

 

 

 

 

 

 ……そしてまた、月日はあっという間に過ぎ去っていき、文化祭当日……。

 

 

「おお……。こんなに集まってくれてるっ」

「緊張……します」

 

 舞台裏で準備をしているメンバーたち。

 

「……でも、少し寂しいわね……」

「……? 風?」

 

 本番前だというのに、風は少し落ち込んでいた。

 

「七人でこの劇をやりたかったなぁ……」

「あっ……」

 

 夏凛もその気持ちを察した。

 周りで聞いていた東郷たちも口をつぐむ。

 ……ここまで誰も、そのことを指摘しなかった。

 したところでどうにかなるものでもないから。

 

 しかし、

 

「みんな、ここでしんみりするのは違うよっ」

 

 友奈はみんなを元気付けようとする。

 

「この劇は、七人で作り上げたものだよ。……今いるのは六人だけど。でも、私たちは七人で勇者部だった……!」

「友奈……」「友奈ちゃん……」

「……オルガさんは、ちゃんと居たんだよっ。小道具がちょっと不恰好だったり、衣装も所々縫い目がずれてたり……。でもこれは、確かにオルガさんが作ったものなんだよ」

 

 それを聞いていた三日月は友奈の元へ寄る。

 

「そうだよ……。この劇は七人で作り上げたものだ」

「三日月くん……」「三日月……」

「……オルガはもういない。けど、オルガの言葉が俺たちの中にまだ残ってる。心の中でその言葉が、想いが生きている。なら、俺たちはその想いと共に歩む。……この劇はその証なんだ」

 

 友奈も頷く。

 

「うんっ。みんなで精一杯やろう。……私たち勇者部のこれまでの歩みと、これからの歩みをっ! 観客の人たちに、オルガさんに届けようっ」

 

 その声に、全員は笑って賛同する。

 

「ええ、やりましょう。みんなっ円になってっ」

 

 風のかけ声で円陣を組む。……三日月と友奈の間は一人分だけ空けて。

 

「勇者部、ファイトォォーーー‼︎」

「「「「「おぉーーー‼︎」」」」」

 

 そして、劇の幕が上がるーー

 

 

 物語は順調に進んでいく。

 村人の願いを聞き入れた勇者が魔王に立ち向かう。だが、その圧倒的な強さの前に仲間が一人、また一人と挫けてしまうが、それでも勇者は挑み続ける……。

 

『勇者は自分が挫けないことがみんなを励ますのだと信じていました』

 

 東郷のナレーションが体育館中に響き渡る。

 

『そして、みんなが居るから、みんなを信じているから、自分は負けないのだと……』

 

 劇のフィナーレ。

 舞台には勇者役の友奈、魔王役の風、下手には囚われの姫君役の三日月がいた。

 

「なあっはっはっはっは‼︎ 所詮、この世界は嫌な事だらけだっ! お前もこんな苦しみから解放されたいだろっ! さあ! 我の前に跪けェ‼︎」

「嫌だ。私は絶対に屈しない!」

「何ィ⁉︎」

「私は今、大切な仲間と、友達と共に戦っているから!」

「馬鹿かお前はッ。今のお前には仲間一人だっていやしないッ!」

「ここにいなくてもっ。みんなの想いは、確かに私の胸にあるんだ!」

 

 そこで、東郷の合図で夏凛がスイッチを押し、舞台に無数の花びらが舞い踊る。

 

「たとえ遠くに居たとしても、この想いがあれば私はどんな困難にも負けはしないっ。その想いで私は何倍にも強くなれる! 無限に根性が湧いてくる。……確かにこの世界には嫌な事や辛い事がたくさんある。でも、大好きな人が居るから、決して挫けたりしないっ。諦めたりしない!」

 

 観客はもちろん、東郷たちも友奈の言葉に耳を傾ける。

 

「……大好きな人が居るのだから! 何度だって立ち上がれる。だから、私はっ……!」

 

(私たちは……!)

 

「絶対に負けないッ‼︎」(負けなかったっ!)

 

 そして、勇者は魔王に斬りかかり魔王はその刃に倒れた。

 

「……勇者様ッ‼︎」

「……大好きな人が、私を強くしてくれるっ」

 

 勇者は魔王を倒した後、姫君を助け起こす。

 

 ……この後は、勇者と姫君が互いに愛を語り合い、エンディングを迎える……のだが。

 

「……うっ。あ、れ……」

 

 三日月の手を取る友奈が突然、舞台に座り込んだ。

 

「勇者様?」「「友奈ッ⁉︎」」「友奈ちゃん‼︎」「友奈さん⁉︎」

 

 傍にいた三日月は友奈を支える。そして風は起き上がり、舞台袖にいる東郷たちも友奈に駆けつける。

 

「……ごめぇん。ちょっと立ちくらみがーー」

 

 その時、観客から拍手と声援が贈られる。

 

「ブラボー」「良かったよー」「勇者ぁぁ」「カッコ良かったー!」「姫君かわいい〜」

 

 友奈たちは照れ、頭を下げる。

 

(脚本とは違った終わり方だけど、これはこれで……)

 

 すると、勇者部メンバーの元へ、一筋のスポットライトが照らされた。

 

 えっ? っと東郷たちは舞台袖を見る。

 みんなは舞台にいるのでスポットライトの操作などできないはずだ。

 

 ……舞台袖には誰もいなかった……が、今度はエンディングの曲が流れ始め、東郷の声ではなく、男の声でナレーションが入った。

 

『……こうして、勇者は人々の想いを胸に、魔王を倒し姫君を救いました。そして、二人はこの世界で幸せに暮らしましたとさ……』

 

 その声に友奈たちは聞き覚えがあった。……忘れるはずもない、その声。

 

『そうだ……。お前たちが今まで積み上げてきたものは、決して無駄にはならねぇ。……これからも、お前らが立ち止まらない限り、道は続いて行くんだからなァ……』

 

「こ、この声……は」

 

 友奈から涙が溢れ落ちる。

 東郷も風も樹も夏凛も涙目になっていた。

 三日月は目を閉じ、静かに笑っている。

 

『俺の想いはお前らに託す。そして、お前らはまた次の者たちへ想いを託せ。……そうして創り上げていくんだ。希望を、願いを、なァ……』

 

 そして、誰も操作するはずが無いのに舞台の緞帳は下り、劇は幕を閉じた……。

 

 

 きっと、この体育館の中で、あの声が聴こえた者はごくわずかだろう……。

 でも心配はいらない。届いて欲しい者たちに、確かに届いたのだから……。

 

「……素敵な劇だったね〜」

「ああ。実に素晴らしかった」

 

 観客席で観ていた男女はエンディングの後、出口へ向かう。

 

「あのさっ」

「どうしたんだい?」

「私、素敵な転校先を見つけたよ〜」

 

 少女が笑うと、つられて男性も笑った。

 

「奇遇だね。私もだよ。良い就職先が見つかった……」

 

 

 ーー幕が完全に下りたあと、友奈は涙を流しながらも満面の笑みを浮かべた。

 

「……ありがとっ! オルガさんっ」

 

 

 

 

 

 ……周りが光の粒子で覆われた不思議な世界の中で、男は立っていた。

 その頭には、羽の生えた牛が乗っかっている。

 

「……確かに届いたぜ。お前らの想いが」

 

 男は真上を見上げる。

 

「なあ神樹。お前はもしかして、不安だったんじゃねぇのか? 自分の力を行使する勇者が人じゃなくなっていくのが……。バケモノに対抗する為にバケモノになっちまうんじゃあ、意味ねぇもんな」

 

 その声に当然、返答は無い。

 

「だから代償として体を持っていった。人間である勇者が神にならないように、人であることを忘れない為に……。けどな、お前も見てたか? アイツらの想いを、歩みを。……たとえ神の如き力を与えられてもアイツらは人のままでいられた。それはなんでか……」

 

 そこで少しだけ間を空けて続ける。

 

「誰かを想う心を、捨てなかったからだ。一人じゃなくて、みんなと居ることに幸せに感じているからだ。人を大切に想う心。それこそが、人が人でいられる証なんだ。……アイツらは神なんかにゃならねぇよ。お前の守りたかった人のままでいる。……だからもう供物なんざ要らねぇだろ? 代償なんて求めるな」

 

 すると、チカッチカッと何かが光ったような気がした。

 オルガはそれを見てニィと口角を上げる。

 

「友奈ァ、東郷、風、樹、夏凛、そしてミカァ……。お前らの戦いは、とりあえずは終わった。だがまだ気を抜くなよ? その世界で生きている限り、辛い事や苦しい事が必ず起こる。……バーテックスがいなくてもなァ。でも仲間が居ればその辛さを支えてやれる。そして、乗り越えられる。……そうやって人は色んなやつらを支えて、支えられて生きているんだ。だから、お前らも歩き続けろッ! ……勇み歩き続ける者。それが勇者なんだからな」

 

 そしてその男は歩き始めた。……体は一層眩い光に包まれる。

 

「俺は止まんねぇからよぉ……。お前らが止まらねぇ限り、その先に俺は居るぞぉ‼︎」

 

 そして頭上高く、左手人差し指を掲げた。

 

「だからよぉ……止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー Someday, Oruga is a hero.  ーー

 





 さて、この物語はこれでおしまい。次の話へ進むと、章末おまけとしてこの作品におけるキャラやバーテックスの説明など記してます。
 ぜひご覧ください。
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