「君の作品と被ってしまった... だが私は謝らない」
『私は完成型勇者! 大赦直々に訓練された、模擬戦でも負けなしのスペシャル様なのよっ! ほ、本当よ‼︎ ……ちょっと待って! 勇者に●がいるなんて聞いてないんだけど‼︎』
大赦書史部・巫女様 検閲済
オルガと三日月は樹海が解け、讃州中学校の屋上にいた。
「戻ってきた。ってぇことはあいつら倒したんだな」
「……うん。そうみたいだね……」
「? ミカ。元気がねぇな。……よいせっっと」
オルガは三日月を背負い屋上を後にする。足を捻挫した三日月を家まで送らなければならない。
あえて病院へ連れて行かないのは、無関係な人に怪我の理由を説明できないのと、捻挫ほどの怪我ならあの二人に任せればいいと考えているからだ。三日月と住んでいるアトラと藍那。二人は大赦と関係があるので都合が良い。
「今回は、あんまり役に立てなかった」
「……何言ってやがる。十分やってくれたろ?」
落ち込んでいる三日月にオルガは答える。しかし、担がれている三日月は首を横に振る。
「あれじゃ、全然ダメだ」
「ミカ……」
「オルガにまた助けられた。東郷さんに……勇者部のみんなに助けられた。今回、バルバトスを使えなかった」
三日月は初陣の際、バーテックスを叩き潰したあの機械兵器を自身の精霊と同じバルバトスと呼んでいる。
「もっと頑張らないと……。オルガたちに見捨てられないように」
「……なぁに言ってやがる」
担いでいる三日月にコツっと軽い頭突きをする。
「見捨てるとか見捨てないとかそんなんじゃねぇだろ。……仲間ってのは」
「仲間……?」
「おうよ。俺はあいつらの話に乗って勇者部に入った。んで戦いを経て互いを無条件で信頼し合える仲になった。助け、助けられて、またその繰り返し。それを仲間って呼ぶんだぜ。……お前は違うのか?」
三日月はふっと笑う。
「そうだね。みんな勇者部の、大切な仲間だ」
「なら良いじゃねーか。頼るのも頼られるのも。いつだって一人じゃできねぇことなんだからよ」
三日月はもう吹っ切れている。二人はのんびりと帰路に着いた。
ーー翌日ーー
三日月の足は一晩経って回復し、二人は勇者部に顔を出す。と、薄い茶髪をツインテールにした見知らぬ少女がいた。
「おい、誰なんだソイツは一体⁉︎」
オルガは風に尋ねる。表情から察するに四人は彼女を知っているようだ。
「えーとね。簡単に言うとーー」
「私は大赦から派遣されて今日、転校してきた。完成型勇者! 三好夏凛様よ‼︎ 褒め称えるがいいわ‼︎」
風の言葉を遮り、少女は名乗る。
「……またなげぇ名前だな。縮めて、わてかみほ、さんで良いか?」
「どこ略してんのよ‼︎ 三好夏凛が名前に決まってるじゃない‼︎ アンタばかぁ⁉︎」
オルガのわざとらしいボケに舌を捲し立ててつっこむ。ノリがいい……。
「部長たちはコイツのことどれだけ知ってんだ?」
「それはね。昨日の戦いの最後、この子が助太刀にきたの。聞けばバーテックスが侵攻を開始してきたときに備えて、大赦側で訓練されたエリートなんですって」
「! そ、そうよ! 私はアンタたちトーシロじゃ手に負えないだろうからって二年ほど前から訓練と調整を繰り返し、洗練されたモノホンの選ばれし者なんだから」
三好夏凛という子は、仕切り直して説明を始める。
「部長はこのことを大赦から聞いてたのか?」
「そんな話聞いてないわよ」
「そりゃ、四国中の勇者候補にいちいち説明する暇なんてないでしょうよ」
夏凛の言葉に風はむっとする。
「……つっても俺らだけでもあのバケモノをちゃんと倒してるし、手に負えないってレベルでもねぇぞ?」
「フン! どうかしらね。昨日の戦闘、後半からしか見てないけど随分苦戦してたじゃない」
「どこから見てたの?」
「こいつがみっともなく叫んでいるところからよ」
三日月の問いに、夏凛は風を指差して答える。
「何を〜。みっともなくって何だ! それに先輩に向かってこいつとは何だ!」
風はプンスカ怒るが、夏凛は無視して話し続ける。
「私がきたからには先遣隊であるアンタたちの御役目は終わり。これからは、私が一人で残りの敵を倒すから。学校生活を楽しんで〜。あ、ちゃんとスマホは返却しなさいよ〜」
夏凛は四人にそう告げる。
「勇者システムだけアンインストールしてもらったらスマホは返してくれーー」
そのとき、三日月が夏凛の胸ぐらを掴んだ。夏凛は、ピギュっと変な声が漏れた。
「ごちゃごちゃうるさいよ……」
「な、何よ……。は、離しなさいよ……!」
夏凛は三日月の手を払おうとしたが、微動だにしない。夏凛が涙目になってくると、
「あ、ああ……、け、喧嘩しないで……」
「ミカ、少し落ち着け」
樹とオルガに諌められ三日月は手を離す。
「ごめん。オルガ……。樹ちゃん……」
「フ、フン! まあそういうことだからーー」
「だが、三好夏凛さんよぉ、今まで俺らに命張れって言っておきながら、準備ができましたからお払い箱ってのは虫が良すぎるんじゃねぇか?」
「そんなの大赦に言いなさいよ。……ってかアンタたち二人、これは私たち勇者の問題なのよ。口を挟まないでくれる?」
夏凛はどうやらオルガと三日月も神樹世界でバーテックスと戦えることを知らないようだ。
「? 俺らはあのバケモノと実際に戦ってんだぞ。さっきも言ったろ?」
「え⁉︎ 何言ってんの。どうせマネージャーとか、雑用とか、そういう後方支援って意味でしょ?」
オルガと三日月は首を横に振る。夏凛は他四人を見ると、四人とも首を振った。
「うそよ……。勇者は少女しかなれないって大赦は言ってたのよ!」
「私も大赦からそう言われてた。でも実際、イツカとミカは私たちと共に戦ってる」
風の言葉に夏凛は口をあんぐり開けている。……がすぐに我に帰る。
「ま、まぁいいわ。後は私が全部片付けるから大した問題じゃないしね」
「いや無理でしょ」
「無理じゃないわよ! アンタたちのような口だけは達者なトーシロとは違って私とコイツなら瞬きする間に……皆殺しよ!」
夏凛は指をパチンと鳴らすと、彼女の横に赤と黒が際立つ小型の武者が現れた。
「これが夏凛ちゃんの精霊? かわいい〜」
「夏凛ちゃん⁉︎ ま、まあいいけど……」
友奈が夏凛の精霊に興味津々なので夏凛は少し嬉しそうだ。
「コイツ、菊幢丸はね。私にピッタリのスペシャルな精霊なのよ」
「へ〜菊幢丸って名前なんだね〜」
「名付けたのは大赦だけどね、菊幢丸。コイツらに挨拶しなさい」
菊幢丸と呼ばれた精霊は礼儀正しくお辞儀した。
「優秀な子なんだ〜。あ! でも東郷さんは精霊を三体持ってるよね」
友奈は東郷を見る。東郷はスマホを触ると三体の精霊が現れた。東郷から見て右から、卵型、二足立ちの狸、青白い火の玉。
「全員、敬礼!」
ビシッと三体は敬礼のポーズをとる。卵型と火の玉の精霊は小さな手が出ていた。
「すっごいでしょ‼︎」
「フン。数は関係ないのよ! 菊幢丸、なんか言ってやんなさい」
「……諸行無常……」
「……」
菊幢丸の一言に夏凛は顔を歪めた。
「達観してますね……」
「でもでも、喋る精霊なんて初めてだよ。凄いよ」
「……! そ、そうよ。スペシャルなのよ!」
夏凛は急に誇らしげに胸を張る。テンションの上下が激しい。
「えーっと、つまり、これからは私に任せればいいのよ」
夏凛は脱線した話を戻す。
「でもね、あいつら相手に一人とかやっぱり無謀だと思うわ。ね? 樹」
「……夏凛さんのこれからは……」
風は夏凛の話をそっちのけに。樹は机の上でタロットカードを並べる。
「ちょっと‼︎ 何勝手に占ってんのよ‼︎」
「死神のカードが出てます」
「不吉ですね……」
「何勝手に負のレッテル貼ってんのよ!」
夏凛はムキィーと怒る。勇者部はより一層賑やかになった。
「見てなさいよぉ。もし敵が攻めてきたら私と菊幢丸の力を見せてやるから‼︎」
夏凛はそう言い、隣を見るが、そこにいるはずの菊幢丸は消えていた。
「アレ? どこに行ったの、よォォォォォォーーッ‼︎」
夏凛が周りを見ると、菊幢丸は牛鬼に食べられている最中だった。夏凛の悲鳴が廊下まで響き渡る。
「何やってんのよ‼︎ この腐れ畜生ーッ‼︎ アホンダラァァーッ‼︎」
「……外道メェ……」
夏凛は必死で牛鬼から引き離すと、牛鬼と友奈に向かって怒る。
「外道じゃないよ。牛鬼だよ」
「牛鬼は勝手に出てきては私たちの精霊を根こそぎかじっていくんですよ」
「精霊の躾もできてないなんて。ホントただのカカシねェ!」
牛鬼はかじっていた対象がいなくなると辺りを見回す。すると東郷の精霊と目があう。しかし瞬間三体とも消えた。
「……このとおり、私の精霊たちもすっかり怯えてしまって……」
東郷は手を頬に当て困り顔をする。
「待ってくれ牛鬼! あいつらはお前と仲良くしたいだけなんだ。頼む! 俺ならどうにでもかじってくれ! 何度でもかじってくれ! 首をちぎってそこらに晒してくれてもいい‼︎ だからあいつらのことはァ‼︎」
「必死すぎでしょ‼︎」
オルガの意味不明な懇願に風はつっこむ。すると牛鬼は大きな口を開けてオルガに食らいついた。
「うああああぁぁぁーーッ‼︎」
オルガの頭は牛鬼の口の中に収まった。……数秒後、牛鬼はオルガを吐き出す。
「だからよぉ……、止まるんじゃねぇぞ……」
オルガは左手人差し指を夏凛に向けて動かなくなった。
「何を見せられているの?」
「……茶番」
「三日月くん……」
呆れる夏凛に三日月が冷めた目で答え、樹は困ったように糸目をする。
「……! じゃあ夏凛。証明してもらいましょうか。あなたの実力を」
「? それって……、!」
風の言葉の後に夏凛はハッと周囲の状況に気付く。風景が止まっているのだ。
「三日連続だわ」
「今日もいくしかないねっ」
「次は何体で来るんでしょうか?」
東郷、友奈、樹が口々に言う。その中で夏凛は生き生きとした顔をする。
「上等よ。やってやろうじゃない!」
部室の中で奇怪なアラーム音が鳴り響く。そして、神樹世界へと包まれていった。
七人の前にバケモノが現れる。それは四本の角のような牙のような突起物を下部に有するバーテックスだった。
「また、変なフォルムねぇ」
「足、かな? 尖って歩きにくそう」
「友奈ちゃん、浮かんでいるから関係ないよ」
バーテックスはその四本の突起物を彼女たちに向けた。
「ねぇ、これやばいんじゃあ……」
「みんな退避ッ!」
夏凛以外のみんなはその場から逃げる。東郷はいの一番に変身して後方へ跳躍。オルガ以外は逃げながらスマホを操作して勇者装束に変身する。
バーテックスは逃げなかった夏凛に向かって、体全体を回転させながら突進してくる。
「え? 夏凛ちゃああんーッ!」
変身を終えた友奈は叫ぶ。みんなが逃げているときに変身したのか、いつのまにか夏凛の体は赤色を主体とした勇者装束を纏っていた。
「こっちよ! ノロマッ!」
夏凛はすんでのところで上へ飛び上がる。そして、両手に持っている剣をバーテックスへ投げつけた。
剣はバーテックスに刺さると、たちまち爆発を起こした。
「コイツもチョロい‼︎」
夏凛の両手には新たに剣が備わっていた。そして、それを今度は一本だけ修復中のバーテックスの足元へ突き刺す。
着地した夏凛と剣とで挟んだ形になる。
「封印開始ッ‼︎ リアルオブクラッシャアアーーッッ‼︎」
詠唱なのだろう。夏凛が叫ぶと、足元から花びらが舞い始め、バーテックスから御霊が出てくる。
「早いっ!」
「⁉︎ 夏凛ちゃん、何か噴きだした!」
出てきた御霊は紫色の煙を吐き出していた。
「うっ何コレ? ガス?」
「見るからに吸ったらマズそうだよ」
「前が、見えない」
御霊はあたりを紫色の煙で充満させる。オルガ以外の勇者は精霊バリアで煙を防ぐ。
「うっ、おえええぇぇぇーー‼︎」
煙を吸い込んだであろうオルガは思いっきり嘔吐く。
「オルガ⁉︎ オルガッ‼︎」
「だからよぉ……、止まるんじゃねぇぞ……」
オルガは左手人差し指を御霊に向けて動かなくなった。
「こんなものッ‼︎ 目眩しにもなんないのよォー‼︎」
夏凛は煙の中を突き進み、御霊を袈裟斬りにして真っ二つにした。
瞬間、バーテックスは砂になり消滅していった。
「滅・殺」
「諸行無常……」
他のみんなは圧倒され声が出なかった……。
「完全勝利よ」
どう? と夏凛はドヤ顔気味に胸を張る。
「……予想以上じゃねえか」
「ほえ〜。大したもんね」
「あんなの、俺らにだってできない」
「夏凛ちゃん! 最速記録だよ‼︎」
オルガたちは夏凛を褒める。
「そうよ! やっとわかってくれたのね」
夏凛は今度は堂々と胸を張って高らかに言う。その後、神樹世界はもとに戻った。
今回は敵が単体であったことに夏凛以外は安堵する。
「終わったわね。じゃあ、私は帰るわ」
「夏凛ちゃん、お疲れ様! また明日からよろしくね」
夏凛は立ち去ろうとするが、友奈の言葉で立ち止まる。
「え? よろしくって、アンタたちの御役目は終わりって言ったでしょ?」
「今回は敵が一体だけだから夏凛ちゃんも楽に勝てたけど、でも今後、協力しなくちゃ倒せない敵が現れるかもだよ?」
「来たら、の話でしょ? 私は一人でも戦えるってーー」
友奈は夏凛向かって右手を伸ばす。握手を求めているようだ。
「勇者部へようこそ!」
「へ?」
夏凛からまのぬけた声が漏れた。
「いいから入っちまえよ。……っていうか、俺らが頼りないならお前が指導してくれればいいんじゃねぇか?」
「あっ、そうだよ! 私たちも夏凛ちゃんみたいに強くなりたい」
「……い、いやよ。なんの義理があって……」
「あらあら〜。完成型勇者様にもできないことってあるのね〜。人を導くのも勇者に大切なことだと思うんだけどな〜」
オルガの提案に友奈も賛同する。
嫌がる夏凛に、風がニヤニヤしながら挑発した。
「! で、できるわよ。やってやるわよ! この三好夏凛にできないことはないんだから‼︎」
あっさり乗った。チョロい、と風は内心ほくそ笑む。
「ハイ。じゃあもう一度」
「……仕方ないわね。バーテックスを全部倒すまで、だからね」
そう言いながら夏凛は握手をする。……夏凛がうっすら微笑んだのを三日月は見逃さなかった。
ーー学校で別れ、帰宅した夏凛はベッドに横たわり、大赦へメールを送る。内容は讃州中学校に転校したこと、バーテックスを倒したこと、友奈たち既存の勇者に不安要素があること、そして三日月やオルガのこと。
「はあ……。なんかどっと疲れたわね」
夏凛は目を閉じる。バーテックス戦より友奈たちに振り回されている方が疲労感を覚える。
「……ま、こういうのも悪くない、かな……」
夏凛はそのまま眠りに落ちてーー
『皆も貴女も甘いのよ‼︎ そんな中途半端な覚悟じゃ、勇者になんてなれっこ無いッッ‼︎』
「ーーッ‼︎」
夏凛は目を見開く。……危うく寝るところだった。脳裏に、いつか、誰かが言っていた言葉を思いだす。
「……」
夏凛はベッドから起き上がり、木刀を二本持って部屋を出た。
……その表情は重く、暗いものだった……。
次回予告
『大赦からは何の連絡も来てないのよ』
『忙しいんだろうな』
『アンタ……、よく今まで生きてたわね……』
『あの、実は……』
『ごめんな……?』
『アプリに説明がのってるよ?』
『ハイどうぞ。夏凛ちゃん!』
ーー第六話 結束ーー