また気になる点があれば、気軽に質問してくださぁい。
今回はオルガと三日月側にスポットをあてた話で彼らの周りをさらっと回収したいと思います。ところで今回は友奈たちの出番はほぼありません。あっちはあっちで色々してます。
『●●●●●●●、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。●●●●●●、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。……●●、●●●●●●●●●●●●●、●●●●●●●●●●●●……』
大赦書史部・巫女様 検閲済
五月半ばの朝、三日月は家の布団の中で横になっている。少しだけ苦しそうだ。
「三日月、 具合はどう?」
三日月と同じくらいの背丈で灰色に近い髪の色をした少女が部屋の中に入ってきた。
彼女の名は、芙蓉アトラ。中学三年生で、家では家事全般を担当している。家には二人以外にもう一人、藍那・バーンスタインという大学生兼神官見習いの女性がいるが家にいない日がたびたびである。
そんなわけでアトラは家にいる時間が少ない藍那と家事がてんでダメな三日月の代わりに家を切り盛りしている。
この家は全員が親のいないハーフで構成されており、将来は大赦関連に就職することを条件に生活資金を賜っている。アトラも小学校・中学校と大赦関連の学校に通っており、高校を卒業すれば藍那と同じ女性神官を目指す。
一応、三日月も大赦関連に属するつもりだが本人はそういうのは気にしていない。
「よお、アトラ。ミカのことは俺に任せて、学校行っていいぞ」
「ありがとね。オルガさん」
「つーか、心配しすぎだ。ミカだってガキじゃねぇんだ。看病なんていらねぇさ」
オルガはアトラを促す。早くしないと遅刻してしまうからだ。
「わかった。よろしくね」
「おう!」
アトラはテキパキと準備をして学校に向かう。
「ミカ……」
「オルガ……? アトラ行った?」
「行ったよ」
「そっか……」
三日月は体を反転させてオルガの方に向く。
「熱は?」
「……まだ、ちょっと」
三日月は昨夜から体調が悪く、朝測ると37.8℃の熱が出ていた。なので、今日は学校を休みオルガに看病されている。
「……オルガ、俺はさ。勇者としてもっと強くなりたいんだ……」
「? どうしたんだ突然」
熱のせいだろうかいつもと違い三日月はしおらしい。
「東郷さんは、俺と同じ武器を持ってた。でも俺よりも威力は強くて、狙撃の技術も……」
三日月はそう呟く。脳裏に東郷との会話がよぎるーー。
「東郷さんは訓練とかしてたの? 射撃、すごくうまかったから」
あれはおそらく夏凛が転校した次の日だった気がする。
「三日月さん? いえ、訓練などはしてないです。銃を持ったのもおそらくあの時が初めてだったかと」
「初めて武器を持って、怖いとか思わなかった?」
「いえ、武器を持ったら、自然と……。今思えば不思議ですね」
東郷はバーテックスと戦った時のことを思い出しながら説明しようとする。
「……すみません、自分でもうまく言語化出来ないんです。ただ、最初は怖かったこと、武器を持ったらなぜか安心したこと、それだけなんです」
「そっか……」
三日月の武器である拳銃は、当然近距離で撃つもので、対象の的は大きすぎるため撃つ気さえあれば当たる。しかし、細部を狙うとなるとそれなりに技術を必要とする。現に、東郷が勇者として覚醒した二戦目では、尾針のバーテックスの針に命中させるのは至難だった。
しかし、当の東郷はいとも簡単にハンドガンで針を撃ち落とし、遠くにいた顔だけバーテックスの高速回転している御霊をライフルで撃ち抜くという離れ技をやってのけたのだ。とても素人とは思えない活躍である。
「俺は嫉妬してたんだ」
三日月はぼそりと呟いた。
初陣で活躍した手前、二戦目であまり役に立てなかったこと。東郷にとっては初陣で、しかも三日月と似たような武器でめざましい活躍をしたこと。
人は自分と似た特徴を持つものを必要以上に意識してしまう。身近にいる人ならなおさら。
「……でも、それはもう過去のことだから……」
三日月はオルガに向かってニコッと口角を上げた。熱で辛そうだが。
「オルガは言ったよね? 仲間ってのは頼る、頼られるの連続だって。無条件で信頼し合えるものだって。俺は''過去に''そう感じただけで、今はもう違うから……」
オルガは黙って三日月を見つめる。
「……それに東郷さんは味方なんだ。なら心強いことこの上ないよ。……奴らよりもおっかないし、もし東郷さんが敵だったらって思う、と……」
三日月そう言いかけて、目を瞑った。
「……ちげぇねぇや」
オルガも半笑いで眠ってしまった三日月を眺めていた。
(ミカ、俺もな、似たようなことを考えていたんだぜ?)
オルガはずっと自分が勇者なのか不安だった。戦える力があるのか。
戦場に立ちながら戦える力が無ければ、それは足手まとい以外何ものでもない。オルガはみんなと共に戦える力が欲しかった。
だから先日、夏凛宅で樹が言ってくれた仮説はオルガにとって、とても嬉しいことだった。たとえ、自分の知らないところで何があったとしても、何かされたとしても、オルガはこれで自信を持ってみんなと戦えるからだ。
「俺はな、ミカ……。きっと、羨ましかったんだ。お前が」
オルガは眠っている三日月の頭を撫でながらそう告げた。
「お前はすげーよ。強くてクールで度胸もあって。初陣での活躍もそうだが、二戦目の後のお前の姿を見た時に俺は思ったよ。……コイツはどこまで強くなるんだろうって。満足せずさらに上を目指そうとしてやがる。俺はお前になりてぇよ」
オルガはそこで一旦黙り、
「だがこうも思った。……コイツとならどんな奴だって立ち向かえる。勇者部のみんなとなら、あのクソみてぇなバケモノを倒すことができるってよ……。だから俺は、みんなを、お前を守ってやるんだ。死なせないようにすることが俺の役目だ。俺は最強の盾になって、お前は最強の矛になるんだ」
オルガは独り言を呟き終えると、部屋を後にした。
部屋を出た後、三日月がうっすら笑った気がした……。
夕方、三日月の家に呼び鈴が鳴った。アトラが帰ってきたのか、いやそもそも家の人なら呼び鈴は押さない。オルガは玄関が映されたモニターを覗くと、夏凛が映っていた。
「なんだ? 夏凛じゃねぇか……。へっ」
オルガは扉を開けて出迎える。
「よお、どうしたんだ? 学校のプリントか? 勇者部の伝言か?」
「……りょ、両方よ。アイツは?」
「さっき飯持っていったら起きて食ってた。……まあ上がれよ」
オルガは夏凛がよそよそしいのをニヤニヤしながら家に入れた。夏凛が後ろに隠し持っているものはどう見てもプリントではない。
「ミカ? 入るぞー」
「いいよー」
オルガと夏凛が部屋に入ると三日月はお粥を食べ終わっていた。
「その様子じゃあ、大丈夫だなぁ?」
「うん、だいぶん軽くなった……、? 夏凛?」
「じゃあ俺は下にいるからよぉ……」
オルガは部屋を後にした。
夏凛は少々ぎこちなさそうにしている。
「どうしたの?」
「……これ! アンタが今日休んだって聞いたから。持ってきて……。でも元気ならいらないわね」
夏凛は隠していた袋を三日月に見せる。
「なにそれ?」
「……別に、大したものじゃないわよ」
夏凛はそっぽを向く。
「……俺のために?」
「〜〜っ! い、言っとくけど、大した意味はないわよ! ただ、栄養満点だからちょっとは病気に効くかなって……思っただけで、その、えーと……」
夏凛は慌てて早口で説明をするが最後の方はよく聞き取れない。
夏凛を見て、三日月は笑みを浮かべる。
「でも、治ったんでしょ‼︎ だったらいらないわねッ! うん! これは燃えるゴミ行きね!」
夏凛は袋を乱雑に扱う。すると三日月は頭を抑えた。
「あ〜。なんだか頭が痛いな〜。まだ熱があるみたいだ〜」
三日月の誰にでもわかるような棒読みの台詞。それを聞いて夏凛はプッと吹き出す。
「フフッ、そう。なら大事にしないとね」
夏凛は笑いながらくしゃくしゃにしようとした袋を直し、三日月に向ける。
「はいこれ、あげるから……。それ食べて元気出しなさい」
言いながら夏凛は三日月に向かって投げる。三日月はそれを右手でキャッチ……できずに落としてしまう。
「あ、ごめん」
「ちゃんと取りなさいよね。……やっぱりまだ治ってないのね。ゆっくり休みなさい。みんな待ってるから」
夏凛は微笑みながら言うと、あっ、と何かを思い出したような顔をする。
「そうだ。みんなと言えば今日ちょっと大変なことがあったのよ? 勇者部の依頼で猫探してたら他県の女子生徒が尾けてきてて……。んでその子の事情聞いたり、勇気付けたりしてたら猫を見つけて、友奈が危うくね……っと、そうだオルガにも伝えなきゃね!」
夏凛は勢いよく、階段を下りてオルガを呼びに行った。
三日月は袋の中のものを取り出した。
「なんかの実? 種?」
黒っぽいしぼんだ、一口サイズの干し柿みたいだった。三日月はそれを食べる。
「……なんかよくわかんない味だ……」
と言いつつ、二個、三個と口にしたーー。
翌日の勇者部にて。
「おつかれさまで〜す‼︎」
「お疲れ様です」
「おう、友奈。東郷」
愛想笑いを浮かべながら友奈と東郷が入ってきた。
「あ! 三日月くん、体調は良くなったんだね! よかった〜」
「うん、……でもそっちは昨日大変だったって聞いたよ?」
「いや〜、昨日は何が何だか〜」
「もう、友奈ちゃんは……。本当に危なかったんですよ」
「ふふふ、友奈に万一があったら責任取って死のうかと思ったわ……」
笑ってはいるが、風はマジなトーンで話す。……目が笑っていない……。
「聞いたぜ。他校の生徒が勇者部に来たらしいじゃねぇか。そんで色々あって探してた猫見つけて、保護しようとしたら屋上から落ちたってよぉ」
「友奈さんが無事で何よりでしたよ」
「本ッ当にごめん! 心配かけました」
友奈はペコリと頭を下げる。
「まあ、無事なら良かったよ」
「うん‼︎」
友奈は元気よく返事をする。本当にわかっているのかはわからないが、それが友奈の良いところでもある。
「ハイ。じゃあ話はここまでにして。猫の依頼ね。みんなで里親を見つけるわよっ!」
風の号令に勇者部のみんなは元気に返事をする。
勇者部は、今日も今日とて誰かのために勇んで頑張る。
……バーテックスの進行は未だ来ず。
三日連続で攻めてきた敵が一旦侵攻をやめ、なにをしているのかは、当然まだ、彼女たちは知らない……
次回予告
『夏凛ちゃん、すごい!』
『最強は私よ』
『それ三日月が気に入ってるやつよ』
『俺はその場所を見てみたいんだ』
『私の理由なのよ』
『理由なんて何も無い……』
『叶えようぜ。その夢を』
ーー第八話 未来への一歩ーー