武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

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最強の傭兵

 

 

 

 

ーーー僕は、武器商人と旅をした。

 

主人公である少年兵、ヨナことジョナサン・マルの独白から始まる物語〝ヨルムンガンド〟は女武器商人、ココ・ヘクマティアルとその私兵たちが織りなすガンアクション漫画だ。

 

武器商人としての裏世界におけるビジネスと、その利権や妨害に群がってくる敵の排除、ガンバトルや複雑な人間模様。レーム率いるココの私兵たちの物語や、ココの兄であるキャスパー・ヘクマティアルの魅力。

 

そして主人公であるヨナとココの関係。

 

彼女が語る〝計画〟への答え。

 

その全てが絡む壮大な物語を見て、俺はヨルムンガンドという作品が好きになった。彼女らが扱う武器の怖さと逃れられない魅力に感化され、サバゲーやモデルガン、果てはハワイに出向き実弾での射撃体験など趣味は大きく変わり、部屋には集めた武器が壁に掛けられるほどになっていた。

 

ヨルムンガンドという作品は、まだ思春期だった俺に多大な影響を与えた。魅力的な強い兵士たち。美しい女武器商人。戦う女性や、不運にも巻き込まれた悲しい少女。

 

殺し屋オーケストラの師匠と同行するチナツは、とくに印象に残っている。彼女は大切な人を殺した師匠と共に狂った殺しの世界に生きることを選んだのだ。そうしなければ彼女は死んでいたのだ。武器というのは人を殺す呪いを与え、撃てば二度と手放せなくなる。

 

人を救うために武器を持ち、人を殺すことを許容するのもまた武器なのだ。

 

そんなイタチごっこな世界に嫌悪感を覚えながら武器を売るココの歪な在り方にも美しさを感じた。それを許容できずに逃げ出したヨナの人間臭さも深く感情移入ができた。

 

そして、俺は久々にヨルムンガンドの物語を見返してから……。

 

 

 

なぜか、中東のいずこかの国に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ココ。ジョーカーって誰?」

 

昼食時、ヨナの言葉に隣にいたココが飲んでいたコーラを盛大に吹き出した。気管に入ったのか、激しく咽せるココの背中をこれみよがしに撫でるバルメを横目に、レームたちはココの醜態をいつものようにからかって笑っていた。

 

場所はコーカサス山岳地帯に位置するアルメニア首都、エレバン。

 

手頃なバーガーショップでの昼食。ヨナの突然の問いに落ち着いたココは傍にあったミネラルウォーターをグッと飲み干した。

 

「ヨ、ヨナ?その名前、どこで聞いたの?」

 

「キャスパーが前に命を助けてもらった恩人だって」

 

あのクソ兄……余計なことをヨナに吹き込むなんて!ぐしゃりと空のペットボトルがココの手で握り潰される。

 

ココ・ヘクマティアルの兄であるキャスパー・ヘクマティアルは、血の繋がった兄妹で仲は悪くはないが……武器商人としてライバル関係にある。同じHCLIなので武力衝突をしてまで排除しようとは考えてないが、たまに横合いから商談を掻っ攫われるときは、ヘラヘラしている似た顔に鉛玉をぶち込みたくなったりする。

 

ブツブツと兄への恨み言をいう機械になってしまったココにヨナが不満げに顔を顰めていると、隣のテーブルで食後のタバコを楽しんでいたレーム・ブリックが口を開いた、

 

「おいおい、ヨナくん。じゃあ君はジョーカーってやつをそんな公明なやつと思っているのかな?」

 

「違うの?レーム」

 

ココの私兵の中でも古兵であるレームも、ヨナの純粋な問いに思わず言葉を濁す。その様子を見て、ココやレームにとっても、〝ジョーカー〟という存在は複雑なものなのだとヨナは直感で理解した。

 

「違わねぇっていうか……なんというべきか。みんなはどう思う?ジョーカーってやつ」

 

そう言って、レームはテーブルに座る仲間たちを見渡す。彼らは余ったナゲットやポテトの争奪戦を繰り広げていたがその言葉に手を止めて各々が答えた。

 

「戦場で遭遇したくねぇやべぇやつ」

 

「吹っ飛んで道端に落ちた頭のネジって感じ」

 

「優秀な戦士」

 

「倒すなら国規模の戦力が必要なやつ」

 

上から、メンバーのワイリ、アール、バルメ、トージョである。評価はバラバラであるが、レームもその答えに異論は無いようだ。ちなみにアメリカのFBIブラックリスト入りを果たしている爆弾魔のワイリ・コヨーテからやべぇやつ認定をされている時点で色々とお察しだったりする。

 

「んー、よくわかんない」

 

「ジョーカーはひとつのあだ名だよ。いろいろ呼び名がある。オーディンだとか、サラマンダーとか、ヒューマンハリケーンとか」

 

どれもこれも中東や、紛争地域で聞く話ばかりだとココは付け加える。どうやらジョーカーと呼ばれる人物は相当やばい相手らしい。聞けば何人もの殺し屋をたった一人で撃退、もしくは討伐をしている人物で、腕も神域に達してるとか。

 

私兵の中でも随一の戦闘力を誇るバルメも過去に体術で負け、撃ち合いになったときには肩と脇腹に一発ずつ見舞われた上に、接近されて気絶させられたとか。

 

ソイツどんなバケモンだよ、と話を聞いていたメンバーであるルツが顔を青ざめさせていた。

 

「へっへっへっ、ロクな呼び名がねぇな」

 

さらに顔を顰めるヨナ。2本目のタバコに火をつけようとしたレームだが、そのライターをバルメがガシッと掴む。ココの前で吸えるのは一本までですと殺気のこもった目つきに、レームは無言のまま出していたタバコを箱に差し込むのだった。

 

「彼はたった一人の傭兵。しかも金を積めば雇えるようなやつじゃない。中立者、あるいは天秤、あるいは調律者……とりあえず、関わってもロクなことにならない相手ってことだよ」

 

「ちなみに、ココが生涯雇用のために全財産の半分積んでも首を縦に振らなかった変人でもあります」

 

「まじかよ」

 

ここで新たな事実に全員が声を上げた。新入りのヨナは知らないが、この私兵たちはジョーカーと面識があるのだ。敵として、そして味方としても。傭兵である彼を一時的に雇えたことを好機と捉えたココが、私財を投げ打ってでも彼を囲いに行こうとしたのも、数々の伝説を聞けば頷ける話だ。

 

もらえば一生遊んで暮らせる金を積んだのだが、それでもジョーカーはココの私兵になることを受け入れなかった。

 

最終的に私兵メンバーvsジョーカーの模擬戦を行い、勝ったら言うことを聞くという理不尽な要求もしたのだが、結果は惨敗。

 

最後の砦だったバルメも射殺判定を貰い、ココが子供のように駄々をこねる中、ジョーカーはココとの契約期間を終え、去っていったのだ。と言っても、ジョーカーと明確に敵対することはない。バルメが肩と腹に受けたのも不運が重なった結果であるし、彼女の治療費と慰謝料もきっちりジョーカーが支払ったのでココもバルメも手打ちにしているのだ。

 

「まぁ、この世界に居れば近いうちに会うことになるかもねぇ」

 

この世界は広いけど、銃を持つ者たちからすれば狭すぎる。意味深な言葉を紡ぐココに、ヨナは問いかけを続けた。

 

「ジョーカーって今どこにいるの?」

 

なんとなく、ヨナはココがそれを知っているような気がした。ココはうーんと少し考えてからいつもの笑顔で答えた。

 

「んー、今頃きっとドイツ……かな?」

 

きっと今頃、自分の勧めた仕事に邁進しているのだろうとポテトを食べるココ。ふと、ヨナの頭には彼女と仲のいい、一人の博士の姿が思い浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでこうなったのか、自分でもよくわからんというのが、ジョーカーこと俺の本音だった。

 

何を面白がったのか、CIAのブックマンことジョージ・ブラックにそう呼ばれるようになってから、この世界での俺の異名はジョーカーになってしまったのだ。それまではオーディンだとか、ヒューマンハリケーンとか、サラマンダーとか……ろくなあだ名がないから死にたくなる。

 

さて、中東で突っ立っていたのが、俺がこの「ヨルムンガンド」の世界で最初に経験したことなのだが、俺はあれだ。いわゆる異世界転生、原作に介入したオリ主というオタクの夢を掴んでいたらしい。

 

夢かと聞かれたら、そんな夢など今すぐ覚めてくれ!と悲鳴を上げる自信があるというか、実際は最初の頃はずっと上げていた。

 

神様特典とやらなのか、それとも悪魔特典なのか。運がいいのか、悪いのか。俺は今まで生き延びているし、裏世界での名声もそれなりに稼いでしまっている。

 

ジョーカーと言われれば、バットマンのスーパーヴィランを思い出すのだが、俺はそこまで気狂いではないと自負している。

 

中東で突っ立ちスタートからというもの、反勢力組織の中でこの世界で初めて銃を握り、それからは戦って戦って寝て戦ってを繰り返した。中東地域の弾丸ツアーを全制覇しようとしたあたりで、賊に襲われている白人を助けたのが、俺の人生の分岐路だった。

 

助けた男の名は、キャスパー。

 

キャスパー・ヘクマティアル。

プラチナブロンドの白人男性で、ヨルムンガンドの中核人物、ココ・ヘクマティアルの実兄。「双子でもないのにソックリ」とはバルメとチェキータ談。

 

終始笑みを浮かべている胡散臭い……というか、ヤバいやつの命を救ってから、俺はジョーカーと呼ばれるまでの修羅の道を歩むことになった。

 

まぁ簡単に言えば、キャスパーにヘッドハントされて戦って、傭兵として独立してからは中国の秘密部隊に雇われたり、要人護衛で向かったオペラ座で殺し屋による無差別の現場にかち合ったり、CIAのブックマンと知り合いになったり、その彼の左腕である魔女と殺し合ったりとか色々。

 

話し始めるとキリがないので詳しくは割愛する。

 

そんなことをしていたら、いつのまにかジョーカーと呼ばれるようになっていて、俺を狙う勢力もいたり居なかったり。狙われるのはいい加減に慣れたが好きではないので一度知り合ったココ・ヘクマティアルに「安全で給料高い仕事ない?」と聞いたところ。

 

「ドイツにいる友達の護衛しない?報酬は……これくらいで」

 

「乗った」

 

という現金なやり取りを経て、俺は今はドイツに身を置いている。仕事内容はもちろん、ココの友人であり、彼女と共に計画を始めた……アマダ・ミナミ、通称Dr.マイアミの護衛だ。

 

「モコエナさんも苦労してますねぇ」

 

「クラヴィスさん、そう思うならDr.を止めてくださいよ!」

 

博士の研究施設があるドイツ郊外で、俺は彼女の護衛であるモコエナの苦労を労った。なんでも先日、雪山で蝶を見つけるために登山に付き合わされたとか。しかも博士の命を狙う者たちが追ってきているという状況で。

 

その時はココたちもDr.マイアミに会いに来ていたので、彼女の私兵たちが追っていた勢力を蹴散らしてくれたおかげで大事にはならなかったらしい。

 

その時の俺はブックマンからの頼みで、スケアクロウとショコラーデの国外脱出の手伝いをしてた。ちなみにスケアクロウと俺は腐れ縁。中東戦争の最中、彼の命を助けたことから時には狙われ、時には利用し、利用されの関係が続いている。彼からはココの破天荒さの愚痴を聞かされ、ショコラーデには屋台飯をたかられた。お前らほんとに何しにドイツに来たんだよ。

 

そんなことを思い出しながら、それなりに人通りの多い筋を行くDr.マイアミに続く。順番としてはDr、モコエナ、そして俺だ。

 

「無理無理、あの人こうって決めたら絶対だから。モコエナさんも知ってるでしょ?」

 

なんならプロの俺たちの目を掻い潜って脱走する人物だ。雇われ護衛の俺が何を言っても彼女が行動を自制するとは思えない。

 

「ねぇー!見て見て!この子!」

 

その矢先、前を歩いていたDr.マイアミが俺とモコエナを呼びつける。何事かと向かうと、黒髪の女性が大きな門の前で座り込んでいるのが見えた。ひと目見てピンと来たから拾う!と宣言するDrに、俺はため息をついた。

 

「ミナミ、また拾ったんですか?元の場所に戻してきなさい」

 

(そんな子猫みたいな感じで……)

 

モコエナがそんなことを思っているだろうが、実際Drが連れてくる拾い物は多い。現に彼女のラボにいる手伝いさんは大半が拾ってきた人材ばかりだ。そして全員が何かを抱えていて、そして優秀。人を見る目はあるのだが、なぜこうも尖っている人材を拾ってくるのか。

 

折れる様子もないDrに、俺は腰を下ろして彼女が拾おうとしている膝を抱えた女性を見た。そして気がついた。

 

「って……おいおい、マジでか」

 

特徴的な黒髪と黒目。虚な表情のまま彼女が俺を見ると、途端目を見開いた。

 

「……あ、貴方は……」

 

人民解放軍の秘密部隊に所属していた、カレン・ロウ中尉。なんでこんなところに?そう思う前にカレンは抱えていた膝を解いて、目線を合わせるために屈んでいた俺に抱きついてきた。

 

「ジョーカー……チェン・グオメンが……わたし……わたし……うわぁああん」

 

人民解放軍にいた頃の冷徹な戦士がまるで子供のように泣きじゃくっている。そんな様子に俺は何も言えず、とにかくあやすように俺はカレンの髪の毛を優しく撫でた。艶のあった髪はゴワゴワで、彼女が数日間野宿をしていたのがありありと分かった。

 

「おぉ、よしよし……ミナミ。この子、俺が預かっても?」

 

「おけおけ〜落ち着いたら秘書で雇用してもいい?」

 

「了解です」

 

(そんなあっさりと……!?)

 

泣きじゃくるカレンの解答を聞くこともなくさっさと今後の方針を決める俺とDrの息はまさに阿吽の呼吸であった。

 

完全に置いてけぼりなモコエナくんには申し訳ないが、ひとまず俺は泣き疲れて眠ったカレンを背負ってマイアミの研究所に足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

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