武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

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イケオジ社長と傭兵

 

戦争の民営化とは、人類が軍需に目覚めた時から始まっている。

 

ココ・ヘクマティアル

 

 

 

 

 

 

「お仕事お疲れ様〜〜!!」

 

チェコ。プラハにある高級ホテルの個室の一室。

 

今日はアフリカで武器輸送の仕事を終えたCCAT(カリーズ・カンパニー・アエリアル・トランスポート)社から招待され、俺はチナツとレイチェルを連れてきていた。

 

ココたちのイラクの仕事が終わった後、惜しまれつつも次の依頼があったため俺は単身アフリカへ向かった。

 

仕事を依頼してきていたのはCCAT社のカリー社長である。

 

現在のアフリカは、キリスト教系武装組織の「アンチ・バラカ」、「変革のための愛国者連合(CPC)」などなど、今や内戦や紛争で激アツ地帯となっているのだが、アフリカは中東と違って内地が広いため、海運よりも空路から陸送のほうが需要があるらしく、HCLIの武器売買市場はそこまで広くはないし、その点に関しては一日の長があるCCAT社が幅を利かせているのが実情だ。

 

今回の仕事はシエラレオネまで兵器を輸送し、そこから各国に拠点を置く反政府組織や政府軍部へ武器売行脚を行うCCAT社の護衛の依頼で……まぁ色々あったわけだ。

 

反政府組織でもギャング化してるやつもいるし、支払いをアフリカ特産品となりつつある麻薬で済ませようとするバカもいたため、何件か密林戦や市街戦に発展した上に、案件もポシャってしまったのだが、その分スーツを着た政府関係者が多めに発注をくれたらしく釣り合いは取れているらしい。

 

そんな地獄のアフリカ巡りの旅を終え、契約を終えたわけだが、カリー社長から個人的にお礼がしたいと打診されて、今日はプラハに来るわけになった。任務中にあれこれと身の上話をしていたからか、拠点を置くプルゼニから2時間ほどのプラハをセッティングするあたり、カリー社長の見る目は確かなようだ。

 

「ジョーカー!次の仕事も付き合ってくださいよー!」

 

「よさんか、ミルド!次の仕事はそこまで旨みがないし、クラヴィスくんの手を煩わせるほどでもない」

 

「ジョーカーさん。ワインをお注ぎしますね」

 

上からミルド、カリー社長、ルーさんである。この三人とも色々と付き合いが長い。キャスパーさんやココにとっては商売仇ではあるが、傭兵業を営む俺にとっては大切な顧客だ。まぁHCLIと市場が被ってるアフリカの地域や、中東、アジア圏の仕事は断ることもあるのだが、そこはお互いに事情があるのである程度は察してくれてる。

 

ただ、あの、ミルドさん?そんなにベタベタしないでほしいんだけど。ほら、ヘックス……じゃなかった。レイチェルがすんごい目で見ているからさ。俺、イラクとアフリカとハシゴして仕事して帰ってみるとレイチェルにめちゃくちゃ絞られたんだから。ほんとに、もう……ものすごく絞られた。死ぬかと思ったわ。チナツと会うたびにすごい目で見られるし。ほんとにごめんて……教育に悪いから控えてって言っても聞いてくれないんだもんマジで。

 

あと何故かチナツもベタベタしてるミルドさんを睨みつけてる。すげぇー迫力があるんだけど、あのミルド?ミルドさん!?胸押し付けるのをやめろってつってんだろ!?

 

「すいません、いやあの、ほんとにすいません……」

 

「いえ、ルーさんが悪いわけじゃないんで」

 

凄まじく申し訳なさそうにしているルーさんがひたすら謝ってくれてるけど、これは二人を連れてきたのはミスだったかなぁ……。

 

「ミルド。いい加減に離れなさい。彼のご家族も不愉快だろう」

 

「はぁーい。けど、ジョーカー。バルメの奴に勝ったんでしょ?どんな技使ったの?てゆーか、私がジョーカーに勝てばバルメより強いってことかなぁ?どう?今から外でいっかいヤラナイ?」

 

ニヤニヤと狂ったような笑みを浮かべるミルド。その言葉と同時にダァン、と高級なステーキにレイチェルがフォークを突き刺した。しかも逆手で持って。たぶんあれ、皿ごと貫通してなくないか?

 

「どうしましょう、チナツ。この女狐をスープにしたくなってきたわ」

 

「止めるつもりはないのだ、レイチェル。私も是非参加するのだ」

 

「ミルド。死にたくないなら早く離れなさい」

 

殺気を隠そうとしないレイチェルと、なぜかそれに呼応するチナツに、若干引き攣った顔をするカリー社長の言葉を聞いてすごすごと自分の席に戻るミルド。このクソバーサーカーめ。アフリカ行脚中もしこたま相手してぶっ飛ばしてやったのを覚えてないのか。

 

「あーまったくもぉー、なんで社長ビビるのかなぁ。尻尾巻いて鉄火場から逃げたこんな女に」

 

「よし、ココで殺すわ」

 

「レイチェル。武器なし暗器なし締め技骨折り技なしな。殺したらダメ」

 

「その範疇でなんとか殺すわ」

 

「いや、それをやめろって言ってんだけど!?」

 

そう言いながらガンをつけ合うミルドとレイチェル(そして何故かついていくチナツ)が個室を後にする。女三人寄れば姦しいっていうけど……あれはもうグラウンドゼロだな。アフリカを歩き回った時より死を身近に感じるわ。

 

それから、カリー社長とルーと、普段の仕事の愚痴とか、ミルドの突撃の愚痴とか、最近運送費の単価上がったよなーとかの話とか、ミルドのせいで密林で孤立した話とか。ほんと、ミルドのやつヤバいな。よく生き残ってるよね二人とも。

 

そんな話を聞いて、プラハの夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

「カリー社長。プラハとはいえ一人で居るのは危険ですよ」

 

食事を終え、ホテルに帰る道中。ふらりと立ち寄ったバーで一人飲んでいると、さっき別れたはずのジョーカーこと、クラヴィス・トレインが、私の隣の席に腰を下ろした。

 

「ミルドとルーさんは?」

 

「ミルドはMs.レイチェルとMs.チナツにボコボコにされたからね。ルーはその介護で先にホテルに戻ったよ」

 

「なるほど、だからルーさんは「貴方が行くなら問題ないでしょう」と言ってたのか」

 

そう答えつつ、クラヴィスも軽めの酒を注文する。彼の連れは明日プラハの観光をするので、先にホテルに帰っているのだとか。一人で街を歩く私を見て、放っておけなかったと。優しさを持ちながらも戦場では無類の冷徹さを見せるクラヴィス。

 

彼との出会いは、最初は商売仇としてだった。キャスパー・ヘクマティアルと仕事がブッキングした時、私は初めて彼と出会った。最初はイケすかないHCLIのキャスパーに目を向けていて、クラヴィスは彼の取り巻きの一人程度としか思ってなかった。

 

だが、状況は一変。キャスパーを狙ったCIAのパラミリと戦闘となり、私たちもなし崩し的にその戦いに巻き込まれた。その時ばかりは私は自分の運の無さを呪ったものだ。

 

だが、今思えばその時こそが私が幸運に恵まれた瞬間だったのだろう。クラヴィス……ジョーカーと出会い、彼を雇える権利を得た瞬間でもあったのだから。

 

「なぁ、クラヴィスくん。君はこれからの世界をどう見るかね?」

 

ウィスキーを口に含み、私は問いを投げる。すると彼は考える時間もなく答えた。

 

「まぁ、このまま行けばロクデモナイ未来が待っているでしょうな」

 

「ハッハッハッ。そんなロクデモナイない未来こそが、我々武器を売買する者にとって望ましい未来なのかもしれないがね」

 

「悩んでらっしゃるのですね」

 

ぴたりと言い当てられた。私は思わず口にしようとしたグラスを止める。今回のアフリカでの仕事。クラヴィスに同行を頼んだのは、自分の推測が大まかに当たっているかを確認するためだった。そして、その推測は今や確信に変わりつつある。それをゆっくりと自分で考えるために、こうやって二人から離れてバーと洒落込んでいたのだが……見破られていた。

 

私の顔に笑みが宿る。

 

「やはり、君を私の部下にできなかったのが、私の人生で最も大きな損失だったよ」

 

「私は誰の下にもつきませんよ。傭兵ですので」

 

「そういうところも気に入っているのだがね」

 

戦場を渡り歩く武器を売買する者たちこそが、今後の世界がどうなっていくかをいち早く察知することができるのかもしれない。

 

武器商人。どんな綺麗事を言っても、我々が売るのは混沌と栄誉、そして破滅だ。

 

たとえば喧嘩をし、石を投げ合う二つのグループがあるとしよう。

 

片一方に武器を売りつければ武器を持つ方が優位になる。

 

対抗するために残りのグループも武器を求める。優位になるべく武器を、より圧倒的な武器をと求め、最後は互いを滅ぼしあう。

 

その荒廃した場所を眺め、懐が潤った武器商人はこういうのだ。

 

「新たな顧客を探しにいくか」と。

 

だが、今日の戦争形態は過去のものより変化し、歪になり、複雑化している。それもこれも戦争の民営化のせいだ。国家が戦争という負荷に耐えきれないから、ダメージコントロールしようと負荷を市民や自由な権利を持つものたちになすりつけている。

 

故に現代の営業方法と経営者は日々変わる。

 

それは近代の戦争を見ていてもよくわかる。

 

戦争で儲けられる時代は終わりを迎え、不安定な市場だけが今の戦争に残されている。

 

「クラヴィスくん。君も感じているだろう?旧世代の戦場、砂漠の熱砂や密林の疫病、ナパームの嵐や銃弾が飛び交う鉄の地獄などは消え、全てはデジタルに管理されるようになった」

 

兵士の位置情報、兵器の稼働状況、弾薬の消費量、いつ誰がどのエリアで怪我をし、亡くなり、兵力として使い物にならなくなったかもリアルタイムで更新され、会議室でスーツを着た高官たちがデジタルの上で兵員を死地へ送り込み、国家に仇なす敵へ無人機による爆撃を行う。

 

戦争で儲かった時代はもはや過去のものへと成り下がった。

 

豊かさの裏側で起こっていた人為的な地獄の戦争は、その戦争による利益を享受していた戦線の遥か後方に位置する一般市民の全てを引き摺り込こんだ。

 

「結果的に今の戦争は全員が貧しくなるためにやっている負の戦争だ。借金をなんとかするために戦争をして、戦争をするために借金をして、負の連鎖に陥る戦争がずっと続いている」

 

国家の安泰のため、家族のため、未来のために戦うはずの兵士たちはそんな負の消費のために戦争に駆り出され、本当の戦う理由もわからず、自分の命がぞんざいに散る様にも疑問を持ったまま戦場へと赴く。

 

「だから、命の価値を金に変える傭兵や民間軍事会社なんかが幅を利かせるんだ。まったく、妙な世界へとなってしまったものだ」

 

「社長はこの世界がお嫌いですか?」

 

クラヴィスの問いに私は首を横に振る。

 

「いやいや、面白いと思っているさ。ただ……私が富を成した戦争は、もう戻ってこないのだろうな」

 

「誰が何をやっても、こうなることは止められなかったでしょうな」

 

そう言って酒を口に運ぶクラヴィスの言葉に私も同意する。

 

戦争のデジタル化。

 

たとえば戦闘機の戦いが制空権をいかに確保しているか、デジタルの力をどれだけもっているかが重要視され、パイロットの腕を賞賛しなくなった形態に変化してから……戦争という国家間の行動そのものが負債になる。訪れるその未来は、避けようがなかった。

 

「まさに語るに落ちるというやつかね。まったく、ままならないものだ」

 

チェコの定番おつまみ「ナクラーダニーヘルメリーン」を一口食べる。ヘルメリーンという白カビでコーティングされているチェコのチーズをオイル漬け(マリネ)にした料理で、チーズの塩味と共にオイルの香りがふわりと口の中に広がる。

 

「カリー社長。貴方はなぜ、この道を選んだのですか?」

 

唐突に、クラヴィスはそんな質問を投げかけてきた。何も答えない私に、彼は続けてこう言ってくる、

 

「貴方ほどの経歴があれば、空軍の軍事顧問や、パイロット育成の道もあったでしょう?なぜ武器輸送のビジネスを?」

 

確かに、私はもとイギリス軍のパイロットだ。自分で言うのもなんだが、エースとも呼ばれていた。そんなのだから当然、クラヴィスの言ったような話がなかったわけではない。今でもヨーロッパ圏の空軍基地やパイロット、管制官の中にも仲がいい友人は多くいるし、私のビジネスに協力してくれることもある。

 

だが……そこまで信頼されていながら、なぜこの道を選んだのか。振り返る時間を与えられた私は、隠し事や取り繕うこともなく、正直に話をすることにした。

 

「単純な話、儲かったから……というのは嘘だな。まぁ、あれだ。楽だったからだ」

 

パイロット……とくに軍部の中枢に近いところにいると色々な面倒ごとがあった。たしかにクラヴィスのいうとおり、私には選択肢はあった。汚れないキャリアの積み方もあったのだろう。

 

「だが、それはしんどいのさ。肉体的なものじゃなく精神的なものでな。まぁぶっちゃけて言えば、私は私より偉い奴に頭を下げたくなかった。だからパイロットをやめて、私は私が知る世界で一番偉い座に座っていたかった。だから、そうできる一番楽な手段が、この仕事だったというわけさ」

 

そのビジネスが、どう言うわけか……なまじ上手くいったものだから、こうやって今まで続けてこれたわけだが……そろそろ潮時だということもわかっている。

 

「良し悪しはさておき……社長が愛した鉄火場は戻ってはこないでしょうね。それこそ、人類が一度退化しない限り」

 

デジタルの世界。電子の世界がこの現実世界と密接に繋がっている以上は、もうあの頃のようなギラギラとした戦いは……戻ってこないのだろう。

 

「さて、じゃあ次はなんの事業を始めようかな」

 

ここで武器と身を共にするのもやぶさかではないが、あいにく私には私を慕ってついてきてくれる相手が二人ほどいる。彼らを路頭に迷わせるわけにはいかない。するとクラヴィスは少し思考するような顔をしてから、人差し指を出して私に提案をしてきた。

 

「そうですなぁ、エンタメ業界なんてどうです?こんな時代だ。娯楽に飢えた人がわんさか出ますよ」

 

「ハッハッハッ!それはいいな!ミルドにネットアイドルでもやってもらうとするかな」

 

「いや、彼女はどちらかというとこいつヤバい奴系のVtuberとかの方が受けるんじゃないですかね?」

 

「なんだね、そのぶいちゅーばーというものは」

 

「デジタル社会の産んだ魔の巣窟みたいなもんですな」

 

まぁ、こうやって世界の鉄火場を渡り歩いてきたのだ。今から魔窟に入り込むくらい、端金で命のやり取りが行われたり、弾丸飛び交う塹壕にいるよりは100倍マシだろう。

 

ホテルまで送ってくれたクラヴィスと別れた私は、次をどうするべきか、今持てる手札で何ができるかを考えながら、二人が待つ部屋へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、一部界隈でカルト的な人気を誇るヤバい系Vtuberとして、カリー社長率いる会社はエンタメ業界で名を残すのだが、それはまだ未来の話である。

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