武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

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チナツと傭兵

 

 

 

チェコ。

 

オーストリア、ポーランドと隣接する中央ヨーロッパに位置するこの国は、ヨーロッパの中でも比較的治安が良く、首都プラハから幹線道路でつながるプルゼニはドイツのニュンベルクやドレスデンまで車でいける市街地だ。

 

ドイツのハンブルク空港からヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港までは1時間15分程度、そこからバスでプルゼニまで2時間ほどで、俺は愛しの我が家に帰ってくることができる。

 

さて、俺の荷物といえばDr.マイアミのところで雑に詰められたボストンバッグ一つくらいで、ほかに荷物はない。普通なら、武器や弾薬、装備があるのでSUVクラスの車が必要になったり、専用の秘密輸送ルートが必須になるわけだが。

 

軽装の理由は、俺がこの「ヨルムンガンド」の世界にやってきてから発現した【特典】という一種のスキルがあるからだ。ぶっちゃけ、リアルなガンアクションを舞台にしたヨルムンガンドの世界でスキルだとかチートとかどうなのかと思ったことも一度や二度ではないが、その度に戦場で生き残るにはこの能力がないと無理だと思い知らされてきた。

 

【特典】とはFPSの機能を有するもの。

 

簡単に言えば、照準の自動補正や、索敵能力、マッピングに、果てはキルレートをポイント化して武器やスキルを調達できるといったものだ。

 

この【特典】が無ければ俺はきっとココやキャスパーに関わる前にあの世に召されていたに違いない。

 

最初の頃はとにかく支援に徹した。索敵やトラップの解除。仲間の蘇生やバリケードの展開など、仲間をアシストするためのスキルをとにかく集めまくった。

 

結果、俺が所属した武装組織の被弾率や死亡率がガッと減り、そして恩恵にあやかりたい奴等に西へ東へ引っ張り回されたのだ。

 

スキルポイントはキルアシストでも取得できるため、仲間の救助や支援をするだけでもポイントはガンガン貯まるし、貯まったポイントはスキル向上や新規の支援スキルに割り振っていた。まぁ、俺が頭ぶち抜かれたら即ゲームオーバーのオワタ式FPSなので生きた心地がしなかったけどね!!

 

そんな戦いの日々の中。

俺は、初めて戦場で人を撃った。

 

あの時のことは今も覚えている。敵勢力に制圧された街の解放戦だった。苦戦はしたが、俺のアシストスキルのおかげで街の敵勢力は排除され、俺たちは街を解放することに成功した。

 

地下壕に避難していた人々の手助けをしている時に事件が起こった。一人の現地少女を隠れていた敵が人質にしたのだ。

 

俺は咄嗟に腰に装備していたグロックを引き抜き……アシストに導かれるまま、男の眉間を撃ち抜いた。

 

女の子は無事に解放され、仲間からは賞賛され、街の人々にも感謝されたが……俺は、夜も眠れないほど震えた。

 

その時の分隊長は「そのうちに慣れる」と言っていた。そして、数日鉄火場に立てば確かに震えることは無くなった。

 

それから俺はさまざまなスキルを獲得し続けた。支援はもちろん、攻撃的なスキルも。

 

武器も仮想空間内に格納できるため、弾薬管理も随分と楽であった。使いすぎると消費量の差が激しくなるので、弾薬については定期的にココやキャスパーから購入するようにしているけど。

 

Dr.マイアミの護衛任務などでは手荷物は少なくて済むから楽だ。

 

こう言った仕事なら全然構わないけど、キャスパーに「ごめーん、集合地点にパラミリが三チームいるみたいで適当にあしらってくれない?生きてたら報酬は高く払うよ」なんて言われて、愉快なパラミリチームと死闘を繰り広げるのは二度とごめんだ。

 

スキル頼りだった戦い方を、キャスパーの地獄オーダーで経験に基づいた戦い方に変えることができたのは感謝しているが、もう一度彼の元で働けと言われてもごめん被りたい。

 

キャスパーから離れた俺はさまざまな雇用主と出会った。それが国家だったり、独裁者だったり、民主主義者だったり、社会主義者だったり……離れる時には裏切り者とか言われて追われたり、罠に嵌められたり……あれ?よく生き延びているよな、俺。

 

そんなこんなで今じゃCIAの秘密部隊からもオーダーが来るとこまで来てしまったりする。ちなみに俺の苦手な人物1位はキャスパー、2位がCIAのブックマンである。

 

身軽な格好のまま、バスを降りた俺はトレース(尾行)している者がいないことを確認してから、プルゼニ郊外に位置する自然豊かな住宅街。そのアパートの一室に到着した。

 

呼び鈴を押してしばらくすると、ドタドタと足音を立てて一人の少女が俺を出迎えてくれた。

 

「クラヴィス、お帰りなさいなのだ!」

 

「ただいま、チナツ」

 

出迎えてくれたのは淡い茶色の髪が特徴的な少女……チナツだ。荷物を受け取ってくれた彼女に続いて、俺もアパートの中へと入る。

 

「今回はどこにいってたのだ?南米?それとも中東?」

 

「んや、ドイツ。これお土産」

 

わぁ!ソーセージだ!今日ボイルするね!と言って保冷剤入りの袋を受け取ってキッチンへと向かうチナツ。ここで彼女が暮らし始めて、もう三年ほどだ。

 

彼女との出会いは、その三年前に遡る。

 

当時の俺は、とある政府関係者に依頼され「オーケストラ」の討伐という仕事を受け持っていた。俺は依頼通り、指定された場所にいたオーケストラのメンバーを殺した。

 

あのサングラスをかけ、チナツを殺し屋へと導いた「師匠」と呼ばれる男も抹殺対象であったが、奴にはまんまと逃げられてしまった。

 

それが俺の致命的なミスにつながった。

 

唯一の生き残りである師匠を追った俺は、彼を殺しはしたがすでに師匠は劇場を襲撃したあとで、チナツは両親を奪われたあとだった。

 

『なんで……なんで……わたしだけが助かったの……!なら……わたしも死にたかった……!』

 

堕ちるはずの狂気も奪われて、全てを失った彼女は保護した俺を散々罵った後、そう言って泣き崩れた。本来なら、そのまま警察関係に引き渡すべきだったのだが、驚くことにオーケストラの狙いにチナツの両親も含まれていたのだ。

 

チナツの過去はアニメでは多く語られていなかったが、彼女の両親は裏世界にも精通する貿易商の重役であり、反対派閥の者たちによって雇われた殺し屋によって殺害されたのだ。おそらく会社の利権関係絡みの犯行なのだろう。

 

つまり、チナツをこのまま警察に預け故郷に帰せば間違いなく、生き残りであるチナツも始末しようと動くだろう。

 

泣きじゃくったあと、放心状態のチナツ。もう少し、俺が早く到着すれば……いや、オーケストラを全員殺し、師匠を逃さなければこんなことにはならなかったはずだ。

 

このまま放っておけば、彼女は間違いなく不幸になる。ココの仲間であるレームに撃ち抜かれて終わる人生とは別の地獄を味わうことになる。

 

俺は、そんな未来を彼女に強いたくはなかった。

 

『もし、君がよければ……俺と一緒に来ないか?』

 

その言葉が俺とチナツの始まりだったのかもしれない。放心状態の彼女を引き取り、俺はチェコに拠点を構えた。仕事のこともあるし、チェコの首都であるプラハは比較的安全だと思ったからだ。

 

しばらくは口も利かなかったチナツだが、食事を兼ねて外に連れ出してから少しずつ回復の兆しを見せ始めた。まぁあまり話そうとしなかったが、それでも前の状態と比べればマシと言えるだろう。

 

その後、チナツが生きていることを知った反対派閥の奴らが再び殺し屋をけしかけてきたので、返り討ちにするなどあってプラハからプルゼニに引っ越したりとかあったけど、今じゃチナツも明るい性格に戻ってくれたと思う。

 

「あと、クラヴィスの知り合いの人がきてるけど?」

 

ジャケットを脱いでると鍋を片手に持ったままチナツがそう言ってくる。なんでも上の客室で待たせてあるのだとか。

 

「……ねぇチナツ、それを早く言ってくれない?」

 

「テヘペロ」

 

「はいはい可愛い可愛い」

 

「んーむ、扱いが雑なのだ。あと訪ねにきた知り合いの人、めちゃ美人だったよ」

 

めちゃ美人ってロクデモナイ予感しかしないんだよなぁ!チナツの言葉が顔に出てたのか、彼女は面白そうに笑ってキッチンへと戻ってゆく。

 

とりあえずどれだけ待たせてたのかもわからないので俺は、そのまま二階へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

チナツにとって、一緒に暮らす男……クラヴィス・トレインは、最初は憎むべき相手であった。

 

彼がもっと早くオペラ座に来ていれば、父も母も命を落とすこともなかったし、自分の人生が無茶苦茶にされることもなかったはずだ。

 

一緒に住もうと言ってきたときなど、警戒心と憎悪で気が狂いそうになっていた。けれど、クラヴィスは終始紳士的だった。

 

対価などいっさい求めないし、肉体的な要求も何もなかった。毎日街で買ってくる惣菜を用意しては、気が狂いそうな私をクラヴィスは献身的にケアしてくれた。

 

街に一緒に出かけた時は、またあの時のように狂った殺人鬼が襲ってくるのでは?と恐怖もあったが、クラヴィスの案内や街の活気に触れて、荒れ狂っていた自分の中の感情が和らいでいくのがわかった。まったく、現金なものだと今でも思ってしまう。

 

けれど、それほどまでに彼との生活は私に安心を与えてくれた。

 

『君から奪ってしまったものは計り知れないだろう。けど……それを少しでも取り戻してやりたいと思ってるよ』

 

プラハの夜景の中でクラヴィスに言われた言葉だ。その時は「なら父と母を返して」と心の中で思うほどで、悲しげに笑う彼のことなど……どうでもよかった。

 

私は死にたかった。彼が与えてくれる安心のある生活が苦しくて、つらくて、どうしようもなかった。死んでしまえば、死ねれば、きっともう一度両親にも会えると思った。

 

けど、その思いはただの現実逃避であると思い知らされた。

 

自分の面倒を見てくれる彼は、仕事で家を空けることがあった。その時も彼は仕事で一人で部屋で過ごしていた時だ。

 

「……お前がチナツだな?」

 

配達人だと名乗る相手を不用心に信じた私は、玄関先でそう言った怖い気配を晒し出す男を目にして……私の脳裏にはオペラ座の光景がフラッシュバックした。

 

恐怖と濃厚な死の気配。男の笑い声がこびりついて離れない。ガチガチと歯を鳴らして座り込んだ私に、男は拳銃を突きつけた。

 

「悪いな、あんたが生きてると……邪魔で仕方ないと思う奴がいるのさ」

 

ゴリッと頭に触れる感触。いやだ……いやだ。いやだいやだいやだ!!私はまだ何も取り返してないのに!私は何もできていないのに……死にたくない……誰か。助けて……。

 

私の恐怖がピークに達した瞬間。

 

プシュと空気が裂くような音が響くと同時に、目の前にいた男が倒れた。

 

「……え?」

 

震える体をなんとか抑えて目を向けると、さっきまで殺気を放っていた男の眉間には風穴が空いているのが見えて、その体からは濃厚な死が漂っているのがわかった。

 

「チナツ、無事か!?」

 

呆ける私の前に、男の死体を跨いだクラヴィスが現れた。

 

後になって説明されたが、私の生存を知った父の会社関係者が再び殺し屋を差し向けたようで、それを知ったクラヴィスは大急ぎで家に帰ってきたのだ。

 

来るのが少し遅れたのは、一緒に暮らすクラヴィスを襲ったチームもいて、そいつらを返り討ちにしていたようで、とにかく間に合ってよかったと震える私をクラヴィスは優しく抱きしめてくれた。

 

「今度は……間に合った……よかった……」

 

そう言ったクラヴィスの言葉に、わたしは今まで彼に言い放ってきた数々の言葉を思い出した。彼が間に合えば助かったのに。

 

間に合えば、間に合えば。

 

ずっと、クラヴィスは後悔していたのだと私は分かった。

 

彼が間に合わなかったのは、彼のせいじゃないのに。私は何も考えずにひたすらにクラヴィスを責めていた。

 

それなのに、彼は私を助けるために仕事を断ってでも引き返して来てくれたのだ。

 

その時、プラハの夜景の中で言われた言葉を思い返した。彼は今まで、私が失ったものを少しでも取り戻せるようにしてくれていた。

 

その日、初めてクラヴィスの前で涙を流した。彼の胸に飛び込んで泣きじゃくる私を、クラヴィスは優しく抱いてその頭を撫でた。

 

クラヴィスにとっては襲われた恐怖と安堵からの涙だろうと思ってたが、事実は異なる。私は今まで彼に抱いていた警戒心や怒り、憎しみを恥じた。彼の思いを馬鹿にしていた自分を激しく罵った。

 

(ごめん……お母さん……お父さん……私、この人と一緒に……まだ生きていたいから……)

 

それからというもの、私は今までの態度を改めてクラヴィスと共に生きてきた。当面の身の安全のためにプラハからプルゼニに引っ越してからというもの、積極的に彼の買い物についてゆくようになって、気がつけば市場の人たちからも顔を覚えられるようになった、今では買い物に行くと市場のおばちゃんやおじさんたちにおまけをしてもらったり、優しくしてもらっている。

 

そして、今度は私が街にクラヴィスを連れ出したりして、いろいろなものを見るようになった。

 

そして、夜の誘いも。

 

「あー、チナツ?なんでノーパンなの……」

 

わざとクラヴィスの前で前屈みになると、ブフッと吹き出す音と共にクラヴィスが顔を背けながらそう言った。計画通り、とチナツはニマリと妖艶な笑みを浮かべる。

 

「こないだ作ったシチュー、美味しいって言ってくれたでしょ?あれは下着を履かずに作ったのだ」

 

「なにゆえ?」

 

「替えのパンツを洗濯し忘れてたのだ」

 

うそ。実際はクラヴィスを誘惑するための手段である。私のことを守ってくれる……強いクラヴィス。そんな相手に恋をしないわけがない。

 

チナツはあれこれと理由をつけてクラヴィスを誘惑するのだが、なかなかに反応が悪いというのが戦果であった。

 

クラヴィスの仕事は謎が多い。なかなかに手強い相手に今日はどんな手を使おうと考えを巡らせるのも、彼との生活の楽しみになりつつあった。

 

 

 

 

 

「……今度、新しい下着を買いに行くぞ」

 

「えー、クラヴィスが選んでくれるのぉ?」

 

「自分で選んでください……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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