武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

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CIAと傭兵

 

 

 

「よぉ、クラヴィス。久々だな」

 

それは俺がヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港に到着した時の話だ。プルゼニ行きのバスが出るまでの数時間、俺はプラハの裏通りにあるバーに一人やってきた。

 

カウンターには人の良さそうな笑顔を浮かべた白人のイタリア男……アールが入店した俺を見つけて軽く手を上げている。彼はココ・ヘクマティアルの私兵の一員であるが、その実はブックマンこと、CIAのジョージ・ブラックと繋がり、オペレーションアンダーシャフト……つまり、ココの監視と篭絡を目的とした計画によって潜入したスパイでもある。彼との交流は以前、ココに雇われて南米の武器売買に何件か護衛で参加したときだ。

 

レームやバルメ、ワイリ、そして当時はエッカートことエコーも私兵に加わっていて、俺が護衛に参加して2件目の商談の時に、CIAの部隊に襲われたんだっけ。

 

その時に被弾したエコーをスキルの応急措置で蘇生させて病院に担ぎ込んだのだが、あたりどころが悪く後遺症が残り、エコーは私兵を離脱。その補填要因として参加したのがアールだった。

 

元イタリア陸軍情報担当少尉ということになっていたが、彼が参加して俺がココの元から離れてすぐに、ブックマン経由でアールを紹介されたのだ。ちなみに、その時に襲ってきたCIA部隊だが、俺がキャスパーのとこにいた時に襲ってきた3チームのパラミリの生き残りらしく、めちゃくちゃ俺にご執心だったとか。

 

「アールも元気そうで何よりだ。マスターは元気か?」

 

「あぁ、新しいちびっ子新兵にお熱ってところだ」

 

そっか、ヨナくんがついに加わったか。俺はアールと同じ酒を頼んでココの思惑の中にある〝計画〟に思いを馳せる。そして、その引き金には指が掛かっているのだ。

 

「話はある程度、ブックマンやスケアクロウから聞いてるが……かなり参ってる感じはあるな、マスターは」

 

「やっぱり、お前もそう思うか?」

 

俺の言葉にアールが食いつく。どうやらアールもヨナに構い倒すココの様子に思うことがあるらしい。ココの企てる計画にヨナは深く刺さっているとアールも直感的に理解していたのだろう。俺は運ばれてきたグラスを傾けて息をついた。

 

「伊達にマスターとの付き合いは長くないさ」

 

ココと俺の付き合いはそれなりに長い。出会いは最悪だったが、彼女も強かなのだろう。もしくは利用できるものは何でも利用する主義故か。

 

俺が政府組織に雇われている時、反対勢力に武器を売りつけていたのがココだ。俺自身はあくまで政府高官の護衛だったのだが、この高官はココの暗殺計画も秘密裏に進めていたようで。俺が同行していた部隊がココの私兵たちの襲撃を受けたのだ。なし崩し的に戦闘に巻き込まれた俺は自衛のために攻撃。

 

結果、バルメの肩と腹に一発ずつお見舞いすると言う大惨事になったのだ。

 

そこから、政府高官が吊るし上げられて俺のことをゲロしてココたちに場所を割り出されて奇襲されたり、戦闘になったりと色々あったわけだが、今もこうやってなんとか生きていたりする。あの時はキャスパーからの連絡がなければ俺はココの手によって殺されていたかもしれん。

 

「……なぁ、クラヴィス。お前はどう思う?」

 

「何が?」

 

アールはどこか神妙な顔をしていて、言葉を詰まらせている様子だった。彼もブックマンからあれこれと聞いているのだろう。この〝チェコ〟で何が起ころうとしているのかも。近いうちに、プラハの市街地で銃撃戦が始まる。それも単なるごろつき同士ではない。CIAの暴走した一つのチームによる銃撃事件だ。

 

「……いや、なんでもない」

 

「揺れてるんだろ?CIAの諜報員でいるより、マスターのチームにいることが」

 

普段は優男なアールの顔が強ばったのがわかった。ははぁん、図星だな?アールは変なところで義理堅くて真面目だからな。そういうと、アールはグラスを傾けたまま中に入る氷とウイスキーを見つめていている。

 

「俺は国を……組織を裏切ることは……」

 

「そういう考えを持った時点で、お前はマスターにゾッコンになっちまってるってことだよ、アール」

 

マスターはそう言う人だ。俺はそう言って最後の一口を呷った。ココ・ヘクマティアルはある一定の人材に特化した人たらしと言える。しかも対象はかなり濃い奴らばかりだ。結果的に、ココの私兵たちは一癖も二癖もある奴らばかり。

 

そんな愉快なメンバーに囲まれていれば、居心地もいいだろうし、なにより自分がどう言う立場の存在かも忘れがちになってしまう。

 

事実、俺もそうだった。レームやバルメ、ワイリたちは愉快で痛快で。あんなチームと世界を渡り歩ければ楽しくて悔いのない人生を歩めるなんてふうにも思ってしまうほどだ。

 

「……お前は気楽でいいよな、ジョーカーなんて気楽な記号をもらえて」

 

店を後にして、チェコの夜道を歩いているとアールがふとそんなことをつぶやく。

 

言ってから俺を見て「しまった」なんて顔をするんだからおそらく諜報員としてのアールではなく、レナート・ソッチとしての本音だったんだろうな。

 

たしかにジョーカーなんてあだ名を貰ってから、俺はクライアント関係なく色々なことをしてきた。だが、それが気楽かと言えば違うだろうな。

 

「……俺はいつも守れないものだらけだ。守れなかったから、こうやって一人で適当にやってるのさ」

 

もっと上手く立ち回れたのかもしれないと思うことは少なくない。チナツの両親も救えたかもしれない。俺の前で撃たれた仲間もいる。腕の中で死んだやつも。もっともっと、救えるはずだったのに……俺はそれができなかった。自惚れているとは思うけれど、それでも手を伸ばしてしまうのが、人のサガというべきか、わがままとでも言うべきか。

 

「アール。お前には守るものがある。それが偽りの関係だろうが何だろうが。お前が命をかけてでも守りたいと思ったなら、それは紛れもなく、どうしようもなく、本物なんだ」

 

彼が自分の立場で苦悩している段階で、答えは出ている。けど踏み込めばもう元には戻れない。一緒にココと同じ道を進むしかない。そのために、自分を良くしてくれた者たちを裏切ってもいいのか、自分の今までしてきたことを台無しにして、全てを捨ててまで行くべきなのか。

 

今のアールは、その踏み込む勇気を躊躇っているに過ぎない。死ぬ覚悟ができたときに踏み込めるなんて言えば聞こえはいいだろうが、それじゃあ残された相手の寝覚めが悪すぎる。

 

「だから守れ。それと、俺みたいになりたいなんて言うな。隣の芝生は青いどころじゃないぞ?」

 

そう忠告すると、アールは驚いた顔から吹き出して大いに笑った。笑い終わってから、彼の目には迷いがなくなっていたように思えた。

 

「ははは、わかったよ。でも、アンタには憧れるさ」

 

「憧れる?冗談言え。パラミリ3チーム相手にするなんて地獄以外の何者でもないぞ」

 

あんなクソゲー仕様な市街戦は二度としない。絶対にだ!!

 

「その、パラミリ激戦でアンタはブックマンと知り合ったんだろ?詳しくは俺にも伏せられていたけど」

 

「そりゃあ伏せるだろ?パラミリ全員捕虜にしてブックマン脅したんだから」

 

ブックマンとの接点も、実はそこからだったりする。壮絶な市街戦の果てに全員を行動不能にした上に武器破壊までしてふん縛ったのだ。相手の軍事端末から電話した時のブックマンの絶句は今でも忘れられない。

 

「はぁ!?え、じゃあ、ペンタゴンの役職数名を首にした悪魔って……」

 

「え、俺そんなこと言われてんの?」

 

諜報部の教本にも載ってると言われて、俺は頭を抱えたくなった。できることなら忘れたい過去だが、ブックマンやアールと付き合っている以上、それは無理そうな気がする。

 

適当なところでアールと別れて、俺はプルゼニ行きのバス停へと向かった。

 

ふと、思い出す。エコーが撃たれたあの襲撃の時にいたCIAの諜報員のことを。その後にブックマン依頼の仕事で何度か共闘もしたけど、今まで出会った中でダントツにやばい奴だった。

 

ココが「どっかで死んでてくれないかな」と言うのも頷けるほどに。

 

今頃、彼女も準備を進めてるのだろうなと思いながら、俺は乗り込んだバスの中で過ぎ去ってゆく夜景を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

そして俺は自宅の二階で、思い出していた人物と遭遇した。

 

「はぁい、ジョーカー」

 

部屋を開けて、にこやかにそう言ってくる女性を見て、俺はすぐにドアを閉めた。ヤベェよヤベェよ、なんであいつがここにいるんだよ。すぐに部屋を後にしようとしたが、すぐに閉めたドアが開いて、隙間から出た女の手に掴まれるとそのまま部屋の中へと引き摺り込まれた。

 

「ひどいじゃない、何も言わずに裸の私を見て扉を閉めるなんて」

 

扉に壁ドンして、相手が下から覗き込んでくる。その目はドロリとした闇めいたものを孕んでいるのがよくわかった。

 

「……なんでお前ここにいるんだ、ヘックス」

 

「あら、ジョーカーと魔女のセットがお気に召さない?」

 

「ハーレークインに改名してから出直してこい馬鹿野郎……!」

 

相手の女のコードネームは「ヘックス」。魔女と言う意味を持ち、本名は一切知らない。

 

ただ、この女。相当やばい。CIAの抱えるテロリスト相手の実働部隊なのだが、やり口がまんまテロリストやゲシュタポなんよ。そのせいで仲間内からもかなり怖がられてる人物なんですけど、なんでここにいるんですかねぇ!! 事と次第によってはブックマンにチクるぞ!!

 

「えぇ〜、愛しい彼に会いに来るのがそんなに悪いこと?」

 

お前がやってくると殺戮と蹂躙もセットでやってくるんだよ……!そう心の叫びを浴びせると、ヘックスは面白そうに笑ってから、そっと壁ドンをしてきた体勢を解いた。

 

「今日は本当に何もないわよ。ただ、貴方の顔を見にきただけ。本当の本気よ?」

 

「まぁ、丸腰なのはわかる。そもそも着てないし。さっさと服を着ろ」

 

ドアを開けた時から、ヘックスはショーツ以外何も着用してなかった。ブラもしてない。大変刺激が強いお格好なのだが、本人が劇薬すぎて俺はそれどころじゃありません。というか、堂々としすぎててエロいとかそんな感情も湧かないんですが、それは。

 

「んもう、つれないのね相変わらず」

 

「髪の毛に隠してる暗器をもっと綺麗に隠してから言ってくれない?」

 

そう言うと、ヘックスは一瞬真顔になってからウェーブのかかった髪の毛から細い針金状の暗器を引き抜く。おそらく強い神経毒が塗り込まれた刺し凶器だろうが残念だったな!前にも使われたの忘れてないからな!

 

「……ほんと、隙がないのってつまんないわね」

 

そう言ってつまらなそうにしているヘックスは、床に落ちていたブラをいそいそと装着し始める。着けるなら最初から着けといてください……!だいたい、なんで俺にこだわる。お前から見たら俺なんて首切りの対象だろう?

 

「貴方はそうはならないもの。私が生粋の愛国者であると同じように、貴方は生粋の中立者だもの。殺しも生かすも貴方の天秤次第。信念に沿わぬ者にはノーと言い、道を踏み外した者に死をもたらすジョーカー。貴方の信念はとてもよく似てるわ……私の愛した唯一の人に」

 

疑問をぶつけると、ヘックスは何食わぬ顔でそう言ってきた。ヘックスのフィアンセはテロ事件……911事件で犠牲になっている。それ以来、彼女はテロリストへの底知れぬ憎悪によって突き動かされてきたのだが、なぜか俺には憎悪以外の何かをぶつけてきている様子だった。

 

ヘックスは俺がフィアンセに似ていると言っているのだが、真実は定かではない。

 

そして、今日の彼女はいつも以上に……何か、狂気的なものを孕んでいるように思えた。その時点で色々と察した。彼女は実行するつもりなのだろう。命令を無視した〝暗殺計画〟を。

 

「ヘックス……。悪いことは言わない。手を引け。今ならまだ間に合う」

 

「何が間に合うと言うの? 全てを失った私に残ったのは愛国者であるプライドだけよ」

 

「プライドに死ぬのは勝手だが、そんなの……悲しすぎるぞ」

 

絶望と憎悪。それだけで走ってきた彼女にとって、愛国心というプライドだけが心の拠り所なのかもしれない。けど、彼女は憎悪によってその国すらも捨てようとしている。まさに破滅の闘争だ。そんな真似をすればただでは済まないし……事実、ヘックスの最後は国にすら裏切られた悲惨な末路だった。

 

するとヘックスは俺をベッドに押し倒して下着姿のまま上に覆いかぶさってきた。ウェーブの髪がカーテンのように彼女の背中からこぼれてシーツに伝う。

 

「貴方は、私が死んだら泣いてくれる?」

 

濁り切った眼差しで見つめてくるヘックス。彼女の頬を手で触れて、俺はあえて微笑んで言葉を返した。

 

「一緒に戦ったのは短い時間だったが、それでも俺は仲間を大切にする主義でな」

 

すると彼女もにこりと笑みを浮かべて徐々に顔を近づけてくる。

 

「そういうとこ、嫌いじゃないわよ?」

 

そう言って鼻先が触れ合えるほどの距離になった時だった。

 

「クラヴィスー!ボイルしたソーセージができたのだ!!」

 

「ゲェー!チナツ!?入ってくる時はノックしなさい!!」

 

「ノックしてもしもし!!」

 

「遅ぇ!!」

 

音もなく二階へと上がってきたチナツがドアを蹴り破る勢いで開いた。思わずヘックスをどかして立ち上がり、すぐに部屋を後にした。

 

やべぇ、変な雰囲気に飲まれてた……。チナツに幻滅されただろうな。一階に降りながら、我ながら空気に流されやすいところに俺は一人絶望しながら夕食の準備を進めてゆく。

 

一方、2階ではチナツとヘックスの火花が散っていた。視線だけではなく、銃を構えるという物理で。ヘックスはタウルス PT24/7、チナツは背中に隠していたベレッタM84である。実はこの二人割と知り合いで、クラヴィスが外出時にヘックスが彼女を丸め込もうと何度かアプローチを仕掛けたのがきっかけ。

 

チナツは守られるままは嫌だとヘックスに銃の扱い方を学び、ヘックスはチナツからクラヴィスのことを聞き出すというwin-winの関係。しかし、手を出すと言うなら話は変わってくる。

 

「……全く、良いところだったのに」

 

「彼に手を出すなら私を倒してからにするのだ」

 

バチバチと火花を散らす二人だが、下から用意を終えたクラヴィスの声が響いた。

 

「ボイルしたソーセージは熱いうちに食べるのがいいんだぞ。ヘックスにはドイツビールも出すから」

 

その声に、二人は銃を収めて一階のダイニングへと降りてゆく。もちろんヘックスは上下ともに服を着ている。

 

「クラヴィス!私も!ドイツビールがいいのだ!」

 

「お前はオレンジジュースか、ジンジャエールで我慢しなさい」

 

「えぇー!」

 

そんな会話を楽しみながら、夜は更けてゆく。だが、運命の日はすぐそこに迫りつつあった。

 

 

 

 

 

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