武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

5 / 14
魔女と学者と傭兵

 

 

アールこと、レナート・ソッチにとって、クラヴィス・トレインは不思議な人物だった。

 

敬愛するジョージ・ブラックこと、ブックマンから「俺の切り札」と自慢げに紹介された時のことはよく覚えている。当の本人は物凄く嫌な顔をしているのがとにかく印象的だった。

 

クラヴィスは元中東の欧米派閥の武装組織出身であり、イラクでのアメリカ支援や、各要人救出、テロリストに制圧された街の開放などで米軍やCIAと何度か共闘したこともある異色の経歴を持つ。当然、武力衝突をすることもあり、ブックマンも何度か手痛い目に遭っているようだが、そこは諜報部の人間らしく持ちつ持たれつで上手くやっているらしい。

 

しかし、ブックマンも組織のリーダーも、クラヴィスがどこの出身なのか知らない。気がつけば戦場に現れていたと言わんばかりに、彼は戦場を駆ける戦士だった。

 

負傷し、リタイアを余儀なくされたエッカートとの入れ替わりでココの部隊に加わることになったアールの正体を看破したのはクラヴィスのみだった。最初は冷や汗ものだったが、後日ブックマンに紹介されたときは唖然とするしかなかった。

 

だが、彼がパラミリ三チームを撃退した上に捕虜にしたと言う話は、内心では眉唾物だと思っていた。

 

パラミリタリーオペレーションオフィサー……通称、パラミリは、アメリカ合衆国の情報機関である中央情報局(CIA)の中でも軍事的な武装が許され、その武力を行使することが認められた実働戦闘部隊だ。構成されるメンバーはグリーンベレー、ネイビーシールズ、デルタフォースなどエリート部隊を経験した者たちで固められており、統制、火器使用練度、兵士としてのスキルも最高峰に位置する諜報部の最強戦力だ。

 

そんな人員で構成されるチームを三つも相手取って、果たして生還できるのだろうか?いや、そもそも五体満足で生き抜けるかも怪しい。アールがその立場になった場合、数分と持ち堪えられずに死ぬ確信があった。

 

後日、ブックマンに会った際にも問い詰めてはみたが、彼はいつものように大食らいをしながら話を華麗にはぐらかしてしまった。

 

確かに、ジョーカーことクラヴィスはココの私兵の中でも人外染みた強さを持つバルメ相手に二度も勝利している人物。共に護衛任務に当たった時は、彼の強さを目の当たりにしたこともあるが……それでも、アールはどこか信用できないものを感じていた。

 

そもそもの話が馬鹿げているのだ。世界でも最も危険なスパイ活動をするパラミリが三チームもブッキングすること自体が不自然だ。たとえその対象が、武器商人のキャスパー・ヘクマティアルであったとしても。

 

馬鹿げているのだ。アールはそう決めつけていた。

 

あの瞬間まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヘックス……!)

 

チェコ、プラハ市街で勃発したヘックスと呼ばれるCIA諜報部の最強の女戦士率いるパラミリ部隊が、プラハを散策していたココとヨナを襲撃したのだ。

 

この事を察知したアールは、単身で二人の援護に向かった。情報源がアメリカのCIAである以上、仲間たちに知らせてもアールが裏切り者であることの証明にしかならない。ブックマン曰く、暴走状態となったヘックスたちの暴挙は、CIA側も予想外だったらしく、彼女の行動はオペレーション・アンダーシャフトに致命的な欠陥をもたらしかねないものであった。

 

CIAの増援も望めない。ココの私兵たちに助けを求めることもできない状況の中、アールが現場に駆けつけた時には、ココとヨナは窮地に陥っていた。

 

「お嬢!!」

 

「アール!?」

 

マグプルMASADAこと、ブッシュマスターACRを掃射しながら車の影に逃げ込んだココとヨナの元にたどり着いたアールは、ヨナの容体を見て思わず舌打ちをしてしまった。

 

聞いた話の通り、ヘックスの目的はヨナの暗殺。ヨナの様子から見てかなり強い神経毒を打ち込まれているに違いない。脂汗を流しながら震える手で銃を握りしめるヨナ。その様子にいつもは飄々と笑っているココも顔を歪ませて取り乱している。

 

どうする。このままじゃ、お嬢とヨナ坊が……!そうアールが考えた時、プラハのバーでクラヴィスから言われた言葉を思い出した。

 

〝そういう考えを持った時点で、お前はマスターにゾッコンになっちまってるってことだよ、アール〟

 

違いねぇな。そんな事を思いながらアールは笑顔をココに向けた。この場は自分が責任を持って押さえる。CIAの諜報員としてココを裏切り続けてきた自分の罪滅ぼしだと覚悟を決めて。

 

だが、その覚悟は果たされることはなかった。

 

突如として響く爆音。咄嗟に身を屈めてココとヨナを庇うアールが車の影から見たのは、今まで好き放題撃ち放っていたパラミリが用意した武装トラックが爆発し、炎上している様子だった。

 

「カットスロートを入国させてるなんて穏やかじゃないなぁ、ヘックスよぉ」

 

ガシャン、とポンプアクション式のチャイナレイク・グレネードランチャーをリロードする男が、ココたちが籠城する車の歩道側から、まるで街を散策するかのような気楽さで歩いてくるのが見えた。間髪入れずにもう一発グレネードが放たれ、パラミリたちが盾にする車の後部座席あたりを軽々と吹き飛ばした。

 

更に二発、三発と後ろのビルや歩道を容赦なく制圧爆破してから、空になったグレネードランチャーを捨てたクラヴィスは、呆気に取られる三人に笑顔を向けた。

 

「久しぶりだな、マスター」

 

「クラヴィス……?」

 

次いで背中に背負った小型の防弾シールドと、胸のチェストリングに備えていたM4カービンを取り出し腰だめに撃ち放つ。何発かがクラヴィスの持つ防弾シールドに当たるが、彼の体に被弾はない。それどころか腰だめに撃ったM4の銃弾は的確に相手の肩や足を貫き、地面に無様に転がしている有様だった。

 

「え、おま……クラヴィス……!?なんでここに」

 

「んー、ちょっと野暮用でな。アールは二人を連れて離脱してろな」

 

後ろにバンがあるからそれでとりあえず逃げろと、クラヴィスは指を差して三人を護衛しながらバンまで後退する。突然の襲撃に相手も対応できていない。ヘックスの構築したココとヨナの包囲網はあっけなく崩壊したのだ。

 

とりあえず何も言わずにさっさと行け、そう言ってバンに三人を押し込んで車を発進させる。何人かのパラミリたちが立ち上がって走り去ろうとしたバンに銃口を向けたが、途端にライフルの側面から弾丸が叩き込まれ、ある者は銃ごと倒れ、ある者はライフルを弾き飛ばされていた。

 

「ジョーカー……私の邪魔をするの?」

 

部隊の統制を取っていた女性、ヘックスは付けていたインカムを外して投げ捨てる。彼女の計画は完全に失敗した。本来なら撤退すべきだろうが、それよりも計画を邪魔した男……ジョーカーへの怒りが全てに勝っていた。

 

「邪魔じゃねぇな」

 

怒りの形相を浮かべるヘックスに、クラヴィスは白い弾痕が幾つも穿たれた防弾シールドを捨てて、腰からグロック17のカスタムモデルを引き抜いた。その姿を見て、ヘックスは戦慄する。

 

ジョーカーの標準武装は、M4カービンとグロック17。それは彼が本気で相手をするという合図と覚悟のほかになかったからだ。

 

「言うこと聞かない魔女を、叱りにきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘックスにとってのジョーカーは、まさに悪夢だった。

 

「なんだかしらねぇが、お前邪魔だなぁ!」

 

「ま、まちなさ……」

 

自分の静止も聞かずにアサルトライフルとハンドガンを持つジョーカーに舌舐めずりする部下は、銃を構えた瞬間に利き手と両足に一発ずつ叩き込まれてすぐに戦闘不能に陥った。

 

誰しもの危機察知を司る神経が警鐘を鳴らした。ヘックスと隣にいた副官は運が良かった。屈めばとりあえず射線から逃れられる。燃えて使い物にならなくなったトラックの近くにいた仲間は絶望的だった。

 

「ひ、な、なんだあいつ……速すぎ……がぁっ!?」

 

「空を飛ぶバットマンがいるなんて聞いてな……ぎゃあ!?」

 

車の影にまで聞こえてくる仲間達の悲鳴にヘックスは顔を顰めることしかできなかった。南米の悪夢。ヘックスがまだパラミリチームの構成員の一人でしかなかった時代に出会った彼は、まさに悪夢そのものだった。

 

簡素な市街地での攻防戦。そういえば聞こえはいいだろうが、あれは攻防戦ではない。一方的な蹂躙だった。銃撃戦のセオリーは言ってしまえば陣取り合戦である。どれだけ敵から有利な位置で安定して射撃を行えるかが焦点になる現代の銃撃戦において、後にジョーカーと呼ばれる男の動きは異常だった。

 

こちらが二次元の銃撃戦を展開した途端、彼は三次元の戦いを展開したのだから。

 

「空を飛ぶって……アイツ、本物なんですか!?隊長!!」

 

普段は冷静沈着で余裕すら見せる副官がまったく正気ではない様子でヘックスにそう問いかけてくる。認めたくはないが、ヘックスには確信があった。

 

「ええ、本物のジョーカーよ」

 

プシュ、とガス圧で放たれるワイヤーアンカーと、背中に背負う小型の姿勢補助バックパック。一度、そんな技術をどこで手に入れたのかと聞いたことがあるが、ソ連やドイツ帝国とはぐらかされてばかりだった。

 

ブックマンが付けた名は、ジャンプスーツ。

 

何度かアメリカでも兵士にジャンプ(簡易的な姿勢補助機構)の要素を入れた装備の研究開発はされていたが、ジョーカーが身につけるものは別格であった。

 

いわゆる軌道補助装置というものだろうか?その動きは通常の人体では不可能な「二段ジャンプ」や、「壁走り」などを可能にし、ジョーカー自身の身体能力も合わさって、その脅威度は何倍、何十倍にも跳ね上がった。

 

加えて、彼の勘は人知を超えている。まるで弾丸の軌道が見えているのではないかと思える時もあるほど、その勘の鋭さは半端ではない。いっそエスパーだとか、超能力と言われた方がマシだと思える。

 

ジョーカーには、現代の制圧、銃撃戦術が全く通用しない。故にジョーカーというコードネームがCIAの中で付けられたのだ。悪い冗談、道化師、そして切り札。さまざまな意味合いで呼ばれる彼の存在。

 

アメリカの精鋭部隊が一ヶ月も陥落させられなかったテロリストのアジトをたった一晩で制圧した悪夢。

 

数チームのパラミリと正面衝突して全員生還させた上で行動不能にした悪魔の夜を作り上げた張本人……。

 

ダメだ、勝てない。

 

そんなビジョンがヘックスの脳裏を過り、彼女は顔を横に振って自分のイメージと弱さを追い出した。そんなはずはない。そんな馬鹿げたことがあるわけがない。

 

何のために、私はここにきた!!そのプライドが彼女の屈強な憎悪を奮い立たせたが……。

 

「ヘックス、大人しくすれば仕置きは優しめにしてやる。どうだ?」

 

濃厚な死が、自分の頭上に覆いかぶさった。副官と共に見上げると、ワイヤーで体を固定し、まるでビルの壁を床にしているような膝を折った姿勢でM4カービンを構えるジョーカーの姿があった。

 

横を見ると、わずかに生き残っていたチームは肩や膝、足を丁寧に撃ち抜かれて完全に無力化されていた。

 

ジョーカーは完全に王手をかけていたのだ。だが、ヘックスも諦めるわけにはいかなった。あの女と子供をのさばらせていてはいけない。パラミリとして、そしてテロリストを憎み続けた怨念を抱えた自分がそう叫んでいるのだから。

 

「今更引けるものか……!」

 

「なら、覚悟するんだな」

 

ヘックスが銃を向けたと同時、彼女が盾に使っていた車体から金属を打ち付けるような甲高い音が響き、そして手に持っていたライフルのマガジンが吹き飛んだ。

 

跳弾……!?そんなデタラメな真似で私の銃のマガジンを!?

 

「チェックメイトだ」

 

ワイヤーを解除し、壁を蹴ってジョーカーはヘックスたちのいる車の向かい側に着地する。副官と彼女の足元には、安全ピンが外されたグレネードが転がっていた。

 

「グ、グレネー……」

 

副官の悲鳴のような言葉は、猛烈な炸裂音と爆風によってかき消され、そしてヘックスも意識を刈り取られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あぁ、ブックマン?お久し、ジョーカーこと俺だけど依頼されたオーダーは終わったよ。いつもの口座に振り込みよろしく。え?なんで軍事機密用の端末で電話してきてるかって?そりゃあ、この端末ヘックスのやつだし》

 

久々に助けを求めた友人は快く、私のオーダーを聞き入れてくれてすぐに行動を起こしてくれたようだった。作戦司令部からオフィスに戻ったあたりでタイミング良く電話をかけてくる彼は、やはりこのペンタゴンの中に居るのではないか?と錯覚を起こしてしまうほどだった。

 

ある程度、ジョーカーからの報告を聞き終えて私もヘックス……自分の左腕である彼女の暴走の経緯を伝える。

 

《あー、やっぱり?命令違反で行方くらましてたかぁ。え?ヘックスはどこかって?今、お仕置きしてるとこ》

 

耳をすましてみると少し遠くから濁点まみれの艶やかな女性の声が聞こえてきた気がしたが、私はすぐに意識をジョーカーの声に集中させた。おそらく、たぶん、とんでもない仕置きが行われているのだろう。

 

ちなみにヘックスが率いていたカットスロート部隊は全員、チェコの警察に捕まった。

 

なんと2名を除いて全員生存。

 

犠牲になった2名は、ココ・ヘクマティアルの私兵たちの仕業であることは把握しているが、残りのメンバーはまさに神業といわざるを得ない。現地にいるアールが確認したところ、全員が命に別状はないものの、体の関節の重要部を破壊されているので現役復帰は困難だろうとのことだ。

 

手口は悪魔の夜の時そのものだ。

 

《とりあえず、それなりに仕置きはしておくから三日後にロスの空港に迎えに行ってくれない?正規ルートで送り返すから。うん。あー、護衛は数人でいいんじゃない?たぶん、本人それどころじゃないだろうし……え?お手柔らかに頼む?ブックマン……それは無理な相談だわ》

 

その通話を最後にジョーカーからの通信は途絶えた。逆探知用に通話情報は残しているが、踏み込んだ頃にはもぬけの殻だろうな。

 

とにかく、彼が施す仕置きを受けるヘックスの処遇をどうするか。いっそ死亡扱いにしてジョーカーになすりつけるのもいいな、なんてことを考えながら、私は現実逃避をするために社員食堂でステーキを食べに席を立つのだった。

 

 

 

 




イメージはタイタンフォールのジャンプキットみたいな感じ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。