武器商人と最強傭兵   作:紅乃 晴@小説アカ

7 / 14
亡霊と傭兵(2)

 

 

 

 

日本。

 

安全で清潔で平和で、そして何もかもが高い国。銃という武器や、戦場から最も遠ざかった前線の遥か後方に位置するこの国で、異変が起こりつつあった。

 

兄であるキャスパーに呼び出される形ではるばるヨーロッパから日本へとやってきたココ・ヘクマティアル率いる私兵たちは、日本で起こりうる有事に備えて……。

 

「諸君!昨日はランドを制覇し、今日はシーである!!存分に遊び尽くそう!!」

 

「イェーイ!!」

 

日本の代表的なアミューズメントパークを堪能していた。そりゃもう存分に。

 

まぁ子供向けのテーマパークだしぃ、と侮るなかれ。作成したのは世界でも有数の変態国家である日本である。その世界観や没入感は海外の本家ランドにも劣らないクオリティであり、若年層から高齢まで幅広いファンが連日訪れる夢の国なのだ。

 

入園ゲートをくぐったが最後、朝から夜のパレードまで体力が続く限り遊び尽くし、はしゃぎまくるココ。最初は付き合い程度でついてきたメンバーたちも各々の何かに突き刺さった面白みを感じ、ひさびさに戦場の緊張感から解放されて純粋にアミューズメントパークを楽しんでいる様子だった。

 

(プラハでの一件で神経が立っていたメンバーをリラックスさせるためにランドに来ましたが、想像を絶する楽しさにテンション暴走気味なココ……なんて可愛いのでしょう……!)

 

早速入口の売店で買った髪飾りをつけてポップコーンを頬張りながらパークの世界観を味わうココに、お揃いの髪飾りをつけているバルメは悶えていた。だが、そんなことも気にならないほどパークは素晴らしかった。普段仏頂面のヨナも目を輝かせながら夢の国のシーを楽しんでいる。

 

「キャスパー兄さんが来るまではまだまだ時間があるからねぇ!日本はいいなぁ、安全だし、水もそのまま飲める!なによりランドとシーがある!大阪のスタジオジャパンも行きたいなぁ!」

 

予定が合えば、明日にも大阪に飛んでハリウッドシネマをテーマにしたスタジオジャパンも堪能したかったが、キャスパーが到着するのは明日の午後以降。さすがに兄を放置して遊び呆ける訳にもいかない。ココ・ヘクマティアルはビジネスウーマンなのだ。そう堂々と言うココに、メンバーたちは「おぉー」と声を上げてまばらな拍手を送った。

 

「お嬢本当に楽しそうで何よりだよ」

 

その様子を後ろから見ていたのは、部隊に残る選択をした……アールだった。

 

プラハの市街戦にアールだけが駆けつけたと言うことは、彼はその襲撃が何を意味しているのかを知っていたのだ。CIAのパラミリによる襲撃と、単身で自分の救助に来たアール。そんな簡単なことバカでもわかる。事実、アールはココとヨナを病院に連れて行った後は隙を見て姿をくらますつもりだった。

 

だが、ココがそれを許さなかった。

 

【私を裏切るな、アール】

 

病院に到着して、ヨナが処置を受ける中。ココはアールの《正体》を知りながらもそう言ったのだ。裏切る?そう言うならとっくの昔に裏切っている。ブックマンの息が掛かった状態でココと接触をしたあの時から。

 

しかし、それでもココは【裏切るな】と言ったのだ。その言葉だけでココの覚悟と、自分や仲間たちがどれだけ大切に思われているのか……理解できない方がどうかしてる。

 

アールもヘックスも、ココが思惑する計画はヨナがキーマンだと思っていた訳だが、結局のところアールを含め、彼女の私兵全員がキーマンになりうる可能性があるのだ。アールが自身の私情を優先してココの前から去れば、今度こそブックマンやCIA、各国の情報機関をココは警戒する。影も踏ませなくなるだろう。

 

アールはココが目の前にいるその場で機密用端末でブックマンに連絡を取った。何回かのコールの後、いつものぶっきらぼうな声が聞こえ、アールは開口一番にこう言った。

 

「悪い、ソウ。俺はアンタを裏切ることにしたよ」

 

何気ないような声でアールはそう言った。目の前でそんな真似をしたことに目を見開くココ。それを気にしないでアールは長い沈黙を待った。ふぅーと疲れたようなため息をついたブックマンは重い口を開く。

 

《……お前がそう言う選択をした以上、我々は君を見過ごすわけにはいかなくなったよ、アール》

 

なにせアメリカ合衆国を裏切ったのだからな。そう言っているくせにブックマンはどこか楽しげで、どこか羨ましそうな声をしていたのが印象的だった。その場で端末を壊して、アールは両手を上げてココに降伏。CIAのエージェントだったことを認め、処罰を受けると伝えた。

 

それでも身勝手でわがままで都合のいいことだろうけど、俺はお嬢と旅を続けたい。それだけは紛れもない本心だった。

 

結果的に、ココはレームや他のメンバーにアールの正体を漏らすことはなかった。アールがただ一人で現場に駆けつけたのは、たまたまココがアールと通話していたからと嘘までついて、彼女は裏切り者であったアールを守り通したのだ。その決断に勘付いていながらも反論するものはおらず。アールはそのままココの私兵メンバーとして過ごしている。

 

最初は妙に居心地が悪いと思っていたが、そう思っていたのは自分だけで、いつもの調子で飲みに誘ってくるトージョやルツ、射撃訓練を見てくれるレーム。バルメに色目を使って投げられたり、ヨナに授業を逃げられると嘆くマオをワイリと一緒に慰めたり、車を洗うウゴの手伝いをしたり……。

 

そんな日々を送っていたら、あのプラハの出来事が遠い過去に思えるようになってしまっていた。パークを存分に楽しむココの姿を見て思う。

 

自分の雇い主はとんでもない人タラシであるということを。

 

(悪いな、ソウ。俺は俺が思っている以上に……お嬢に絆されていたらしい)

 

パークの賑わいの中、穏やかな青空を見上げながら裏切ってしまった人物へそんな思いを浮かべていると、誰かがアールの体にぶつかってきた。ダセェ、感傷に浸ってよそ見をした上にぶつかるとは。すいませんと、思わずぶつかってしまった相手にアールは頭を下げた。

 

ぶつかってきた相手はハイスクールに通っているような年齢の女性だった。小ぶりな麦わら帽子とフワッとしたシャツ、そして動きやすいパンツ。そしてなにより美人だった。アールは仕事には真面目だが、美人には目がない。事実なんども巨乳で美人なバルメに挑んではぶん投げられている。

 

「おいおい、アール。日本に来てまでナンパか?……って」

 

ニヤニヤしながら近づいてきたレームが思わず固まる。その様子を見てただ事ではないと誰もが察したのか、レームが目を向ける先に視線を向けると……。

 

「あーっ!クラヴィス!!」

 

「なんでマスターたちがここにいるんだよ……いや、普通に考えているか……」

 

ココが人差し指をむけて思わず叫んだ。この平和な日本に似つかわしくないイレギュラーこと、ジョーカー。クラヴィスが顔を手で覆って突っ立っていた。隣には長いチュロスを食べるボブヘアの女性もいる。

 

アールにぶつかったのはチナツだった。彼女はニコリとアールに微笑んでからクラヴィスの隣へと収まった。

 

クラヴィスの物言いに、ココは自慢げに胸を張って答える。

 

「まぁ東京遊び尽くしてる途中だからねぇ。フーフフ♪」

 

「いつも以上に上機嫌だな、マスター」

 

そうとも!なにせここは夢の国だからな!そう言って笑うココに連れられ、一同は休憩できるカフェテリアエリアへ移動する。プラハでの一件の話もあるのだから、クラヴィスは連れの二人に自由に回ってきていいと伝えたが、なんだかんだと離れることなく二人もカフェの席に着いた形となった。

 

「先日のプラハの一件は大いに助かったとも。私とヨナとアールの恩人なのだから。たとえ君が私以外の者からのオーダーを受けていたとしてもね」

 

「まぁ、それが傭兵だからな」

 

そういう本音で言ってくれるところ、私は好きだよとココはニコニコと笑う。ココとジョーカーの付き合いは本当に長い。まだ彼女が海運王の娘として戦場を歩き回り始めた頃からの知り合いで、ルツが隊に加わったときもココからの依頼で愚かにも武器売買に手を伸ばした南米の麻薬カルテルの殲滅に協力してくれたりしている。

 

ココ個人としては付き合いが長いと言うのもあるが、ジョーカーの個人戦力は大変魅力的であり、何度か私兵に抱え込もうと画策したが、どれも袖にされていたりする。こうやってカフェテリアに来たのも、先のプラハの一件の謝礼と、彼の勧誘もセットでしてしまおうと言う魂胆なのだろう。

 

「ところで、なんでジョーカーくんはこんなところに?君も休暇かな?」

 

「まぁ家族サービスみたいなもんだ」

 

嘘である。クラヴィスが日本に来たのはココの兄であるキャスパーから彼女の護衛を依頼されたからだ。それもココに勘付かれないようにという範囲で。そこが難しいポイントだ。ココの手元にある私兵はエキスパート集団。そんな彼らに気づかれずに護衛をするなど神技に等しい。

 

というわけで、クラヴィスはココが行きそうなところを予測した上で自由に観光することにしたのだ。観光を楽しむ名目なら護衛されてるなんて夢にも思わないし、何より連れであるチナツたちもいる。あと先制攻撃とか言って武装組織の拠点を一夜にして壊滅させたり、アンブッシュを狙う相手の裏から単騎で奇襲をかけて排除したりと、普段のぶっ飛んだやり方をしているジョーカーの言葉をココは深読みしないで聞き流してしまった。

 

「へぇー、君がクラヴィスが言っていたチナツくんか。そしてそっち……がっ!?」

 

注文したソフトドリンクを飲むチナツに笑顔を向けたまま、横にいるボブヘアの女性に視線を向けた瞬間、ココの表情がフリーズした。あ、気づいた?とジョーカーがそんな顔をすると、別の席にいたアールも気がついた様子だった。

 

「あら、やっと気がついた?」

 

柔らかめのサングラスで目元を隠していたことと、長かった髪をバッサリ切ったことで印象が変わっていたから気づかなかったが、ジョーカーを挟む形で座る女性はにっこりと絶句するココに微笑んだ。

 

「ヘ、ヘ、ヘ、ヘックス……!?」

 

パラミリのヘックス。ココが死んでいてほしいと思う人物上位に食い込む狂人。そんな相手が何食わぬ顔で目の前に座っているのだ。驚愕しない方がおかしい。ずざっと後ずさるココと警戒心を全面に出すココとバルメに、ヘックスは食べていたチュロスを下ろして手をかざした。戦う意志はないと示しているのだが、もちろんココ側は信用ならないと言った態度だ。

 

「安心しなさい。ここはシーだし、銃なんて持ってないわ。あと私の名前はヘックスじゃなくてレイチェルよ」

 

そんな一行に向かってしれっとそんなことを言えるヘックスはとても強心臓だと思う。バルメなんて殺気ガンガンの目つきだし。ただ、彼女は今やヘックスではなく「レイチェル・トレイン」であるわけで、丸腰なのは俺も確認済みで髪の毛もボブヘアになったので暗器を隠すスペースもないので安心。ただし、本人が徒手空手とかめちゃくちゃ強いので扱いには注意が必要。素手で強いのも考えものである。

 

それだけ言うとレイチェルは頼んでいたパンケーキをチナツとシェアして楽しみ始めた。パシャパシャとデジカメで写真を撮っている姿を見れば姉妹にしか見えない。と和やかな光景を見てるとココが凄まじい形相で問いただしてきた。

 

「どいうことだ、クラヴィス!?」

 

「あー、まぁプラハの後に色々あって……ブックマンに押し付けられた」

 

「……はぁ!?」

 

思わず素で答えてしまったが、聞いたココもとても驚いた様子で遠目にいたアールもびっくりしている感じだった。一から説明しろと言われるが、シーのカフェテリアで話せる内容でもないし、仮に話したら色々とダメになる気がする。特に年齢制限とか。

 

あと、話せば確実にチナツがブチギレて、レイチェルと喧嘩をおっ始めるのでその旨を伝えたらココも渋々了承してくれた。お互いに夢の国を血まみれにはしたくないという利害の一致である。

 

「クラヴィスはいつまで日本に?」

 

怒涛のカフェテリア休憩に全員がゲンナリする中、ココがふとそんなことを聞いてきた。俺は予定表をさらっと確認する。キャスパーの仕事もあるが、旅行も兼ねているので一週間くらいは日本にいることになる。

 

「番号いるか?」

 

そう言って俺は使い捨てのプリペイド携帯を出すとココは喜んで親指を立てた。基本的に通信は足がつくので使い捨てか、お金を払って利用する貸出タイプに限る。

 

「では諸君!引き続きシーを楽しむとしよう!」

 

こちらからココに連絡を取ることはまずないので、プリペイド携帯の番号を聞き終えたココは意気揚々と踵を返した。去り際にレームとバルメが殺気のような警戒心を向けてきたあたり、さすがはプロフェッショナルである。

 

「よかったの?ほんとのこと言わないで」

 

ココたちが完全に去ったのを確認してから隣にいるレイチェルが口を開いた。実を言うとこのシーに来たのは単なる観光や娯楽ではない。前半は本心から楽しんでいたが、ここからは少しお仕事タイムだ。

 

「言ったらキャスパーに恨まれる。何せSR班の利権も絡んだ話だからな。それに関してはココたちが単体で動いた方が都合がいいのさ」

 

そうだろう?日野木一佐?俺がそう言って振り向くと、そこにはシーの客に紛れて立つ、私服姿の日野木陽介が立っていた。

 

彼こそが今回の首謀、SR班の班長であり……砂の城の主人でもあった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。