配信家族 番外編!   作:桜桃 

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配信家族! 力を合わせて頑張ります!

 ~状況説明~

 

 よく分からないけど悪い奴らが街を襲って来た!

 頑張れ! 配信家族!

 

 ~状況説明終了~

 

 

 

 家の庭に集合した家族一同は険しい表情をして……いなかった。

 父、くろひつじはいつも通りの穏やかな表情。

 母、千聖はほんわかと笑っている。

 兄、読み猫は何かを諦めたような様子。

 姉、蒼空は携帯端末を片手に周囲の状況を分析している。

 そして妹、桜桃は握りしめた拳を振り上げて奇声を上げて何やら叫んでいた。

 

「おっしゃああああ! やるぞおらああああ!」

「こらこら。近所迷惑になるから落ち着きなさい」

「あっ! ごめんなさい!」

 

 大音量で叫ぶ桜桃に注意しながらくろひつじが状況の説明を始める。

 

「あと少しで結界が完成するから、それまでの時間稼ぎをお願いしても良いかな? 結界が完成したら壊れた物も全部元通りに出来るからね」

 

 世界有数の結界術師であっても、町全体を囲む結界を作り上げるためには時間が掛かる。

 その言葉を聞いて読み猫が分かりやすく肩を落とした。

 

「私、まだ体調治ってないんだけど……まぁいいんだけどね」

「お兄ちゃんは留守番してても良いよ! 私がぎったんぎったんにやっつけてくるから!」

「はいはい。可愛い妹に無茶をさせたくないから私も頑張るよ」

 

 優しく妹の頬を撫でて微笑む読み猫の背後から、青いペンギンフードがぴょこんと顔をのぞかせた。

 

「パパ。そろそろ時間が無いですよ」

「そうだね。じゃあ、みんな気を付けてね」

「はぁい! 行ってきます!」

 

 桜桃の大声が響き、彼らは四方へと走って行った。

 

 

 ■SIDE:桜桃■

 

 砂煙を上げて走る少女。紅い髪を揺らし、オッドアイを輝かせて全力疾走。

 はち切れんばかりの笑顔で駆ける少女の脳裏には、活躍した自分をほめてくれる家族の笑顔が浮かんでいる。

 いつもみんなに助けてもらってばかりいるのだから、こんな時くらいは活躍したい。

 だからこそ、桜桃はいつにもなく……いや、ある意味いつも通りに張り切っていた。

 凄まじい速度で爆走していると、その進路に無数の妖しい影が立ちはだかる。

 それを目にした途端、桜桃は懐から一枚の札を取り出した。

 

「おいでスザク! きゅうきゅう! にょりつりょー!」

 

 人差し指と中指で札を挟み上げ唱えると同時、指から札がするりと外れて顔に貼りつく。

 そして次の瞬間、桜桃の顔面に丸っこい鳥が貼りついていた。

 突如生まれた重みに首ががくりと後ろに流されるが、そこは根性でカバー。

 

「ぐぬぅ!? スザク、重い重い!」

「こけ?」

 

 召喚者の悲鳴に首を傾げる丸い鳥。

 どうやら言葉が通じるらしい。

 

「いいから早く行って!」

「こけぇぇぇええええ!」

 

 禍々(まがまが)しい雄叫びを上げ、凶鳥(きょうちょう)紅蓮(ぐれん)の翼を広げる。

 得物を見定める鋭い眼がきらーんと光り。

 

「ぶわぁっ!?」

 

 広げた翼によって大きくなった空気抵抗によって召喚者はすっころんだ、

 

「こけっ!?」

「いいからはよ行けぇぇえええ!」

「こっ、こけぇぇえええ!」

 

 偉大なる召喚者の命を受け、丸っこい鳥こと四聖獣・スザクは(ほむら)をまき散らしながら敵の集団へと襲い掛かる。

 宙空に赤々とした軌跡を遺しながら滑空し、次から次へと炎の雨を降らせていく。

 その様は正に神の使い。邪悪な敵を飲み込む火焔はしかし、街には一切の被害を出していない。

 破壊の対象を選び、善なる者を蘇生(そせい)させる。それがスザクの持つ能力だ。

 その力を存分に発揮しながらスザクが舞う中。

 桜桃はその後ろで偉そうに腕を組んでケラケラと高笑いしていた。

 

「はぁーっはっはっは! やっちゃえスザクー!」

 

 背後から迫る敵の存在に気付かずに。

 

 

 ■SIDE:読み猫■

 

 ふらりふらりと青年が歩く。

 弱弱しく、儚く、その様はまるで春に降る雪のようだ。

 美少女と見まごう程に美しい彼の目線の先には、街を襲う邪悪な敵達。

 こちらは一人。対して、あちらは数え切れないほどの大群。

 明らかに無理のある戦力差に対して、読み猫は一つ、溜息を吐いた。

 

「あぁ、本当に。ついてないなぁ」

 

 右手を力なく前に伸ばす。

 

「おいで、『トツカミノツルギ』」

 

 宣言と共に顕現する一振りの剣。

 飾り気の無い実用性重視な剣の柄を握りしめ、読み猫は切っ先をぶらりと揺らしながら立ち尽くす。

 

「できれば帰ってくれないかなぁ。来るなら相手するけどさ」

 

 そんな呟きに帰って来たのは、奇声。

 それを切っ掛けにして無数の敵がなだれ込んでくる。

 

 一つ、大きな溜息を吐く。しかし次いでの呼気は鋭く、彼は瞬時にして十メートルもの距離を詰めた。

 斬撃。横に薙ぎ払われた一撃は複数の敵を巻き込んだ。

 そこで止まる事無く、読み猫は次々と流麗な銀閃を遺して踊る。

 鋭く、しなやかに。止まらず、一切の無駄のない連撃を繰り出していく。

 足りない力を技術と速度で補っている剣撃を阻むものなど無く、見る間に敵の数は減っていく。

 

「――――ッ!!」

 

 苦し紛れに振りかざされた拳。しかし、それが彼に当たることは無い。

 ゆるやかにすら見える動作で攻撃を受け逸らし、生まれた隙に致命の一撃を繰り出す。

 血の代わりに黒い何かを噴き出しながら倒れる敵を見やり、彼は再び大きくため息を吐いた。

 

「私は肉体労働は苦手なんだけどな……それでも、退けないんだよね」

 

 スラリと切っ先を水平に向け、悲しそうに微笑む。

 それはまるで絵画の一ページのような美しさを持っていた。

 

「さぁ、次は誰かな?」

 

 怖気ずく敵の波。しかしその中から一つ、大きな影が歩み寄って来た。

 他の影の二倍ものサイズ。その手には巨大な道路標識。

 歩くたびにアスファルトに穴が空く程の重量を引きずりながら、ゆっくりと間合いを詰めて来る。

 

「これはまた大きい奴が来たなぁ。しんどそうだ」

「アアアァァァアアアアッ!!」

 

 彼の言葉に被せるように叫び、振りかぶる。

 長大な鈍器と化した道路標識が大気を切り裂いて縦横無尽に繰り出される。

 縦、横、斜め、あらゆる角度から襲い掛かる質量の暴力。

 周囲の壁や地面を抉り取る威力を持つ怒涛の連撃は、しかし。

 読み猫の身体を透かしているかのように、一度たりとも当たらない。

 

「大振りだね。こんなのに当たったらパパに怒られるな」

 

 卓越された先読み能力と無駄のない体捌き。

 その二つを以て必要最低限に行われる回避行動は、人知を超えた域に達している。

 一見危うげに、しかしその実は不可逆なほど適切に。

 行われた回避行動から連なる一閃は、襲い掛かる道路標識を半ばから両断した。

 だが。

 

「……あ、やば。折れちゃった」

 

 読み猫が持つ剣も同時に半ばから折れ、ガラスのように光を反射する破片が足元に捲き散らされる。

 それを好機とみて、敵の群れが読み猫に押し寄せる。

 逃げ場はなく、武器も無い。

 そんな己の状況に、読み猫は深いため息を吐き出した。

 

 

 ■SIDE:蒼空■

 

「見えました。アレが敵ですね」

 

 青いペンギンパーカーを着た少女、青空が呟く。

 同時、背部に背負っていたリュックの『スイッチを入れた』

 激しい駆動音。揺れる大気。そして並んだ噴出口から溢れる爆熱。

 

「では、いきますよ」

 

 至極冷静な口調で宣言した少女は、黄色いメッシュの入った青髪を風になびかせながら『背部のロケットブースターごと』敵に突っ込んで行った。

 その勢いはすさまじく、余波で周囲の建築物にヒビが入っている。

 衝突した方もただではすまず、衝撃で遥か航空へとはねとばされていく。

 そんな大事故を巻き起こし続けながらも少女は無傷。

 きりっと吊り上げられた愛らしい眼に闘志を燃やし、次々に突撃を繰り出していく。

 何故無傷なのか。そんな事は誰にも分からない。

 彼女の父曰く『ギャグ補正だね』という事だが、世界の深淵(しんえん)に触れる事柄なので詳細は不明だ。

 事実なのは、背中にロケットブースターを背負ったペンギンパーカーの美少女が敵を跳ね飛ばしているという現象。

 それ以上でも以下でもない、非常にシュールな光景が展開されていた。

 

「そいやぁぁあああ!」

 

 凛々しい叫びと共に無限に続いていく衝突事故。しかしそれは突如として終わりを迎えた。

 ポスン、と間抜けな音を立て、突如としてロケットの炎が消える。

 燃料切れだ。個人携帯できるサイズである以上、中に入る燃料も少なくなってしまうのだろう。

 その辺りはちゃんと物理法則に従っているようだ。

 いきなり推進力を失った蒼空はかくんと体制を崩し、そこを狙って敵が殺到する。

 ロケットが無ければただのか弱いペンギン少女でしかない青空に、もはや成すすべは――

 

「てぇいっ!」

 

 ――あった。

 背負っていたロケットを手に持ち替えて振り回し、ばったばったと敵をなぎ倒していく。

 明らかに少女の腕力で振り回せるような代物では無いのだが、そんな事などお構いなしだ。

 物理法則とは何だったのだろうか。

 理不尽な光景に悲鳴を上げる事も無く吹っ飛ばされていく敵の群れ。その様はいっそ哀れに感じてしまう。

 ぶんぶんと振り回される鉄塊によって巻き起こるホームランの数々。

 もはやホラーのような様子だが、それでも敵の数が減ることは無い。

 無限に続くように思われる敵の増援に、蒼空は勇ましく立ち回りながらも内心で焦りを感じていた。

 

 

 ■SIDE:千聖

 

 千聖は押し寄せる敵の数々を前に、まるでゾンビ映画のようだと感じていた。

 それならば自分に相応しい場所だと思い、自らが握る巨大な十字架をそっと撫でた。

 

「これを見て逃げてくれれば良かったんだけどね」

 

 言いながら、隠されていたレバーを全力で引いた。

 ガシャリと重厚な音が鳴り響き、ロザリオの機構が作動する。

 先端部分が開き、一回り大きくなったシルエット。

 神々しさすら感じる十字架の先端には、鈍く光るガトリング砲。

 その横側に力強く弾倉を叩き付けると、空いた左手で小さく十字を切り、微笑む。

 

「gott ist tot(神は死んだ)」

 

 有名な哲学者が残した言葉を呟くと同時、十字架を水平に構えてトリガーを引く。

 次第に高まる音階。吐き出される銀製の弾丸。濁流(だくりゅう)の如き排莢(はいきょう)の数々。

『不殺』の概念(がいねん)を付与された連弾は敵を決して殺すことは無く、しかし決して許す事も無い。

 視界に入る動くものすべてがターゲットだ。外す事などあり得ない。

 鼓膜がおかしくなりそうな轟音をまき散らしている本人はしかし、聖母のような笑みを浮かべたままだ。

 普段家族に接している時と同じ笑顔で破壊を積み重ねている様は、娘が見たら悲鳴を上げている所だろう。

 あの子が居なくて良かったわ、などと呑気に考えながら、彼女は弾幕を跳び超えて来た敵を蹴り落とした。

 弾丸を撃ち出しながら十字架を振り回し、怒涛(どとう)の勢いで殲滅(せんめつ)戦を繰り広げる。

 既に戦闘ですらない。ダメ押しとばかりに空になった弾倉を入れ替えると、巨大な十字架で最寄りの敵を殴り飛ばして優しく語り掛ける。

 

「ごめんなさいね。ここを通すわけにはいかないものだから、手は抜けないの」

 

 その微笑みは正に聖書にて語られる氷結地獄。神に祈りを捧げる形をした殺戮(さつりく)兵器を振り翳し、再度殲滅(せんめつ)を開始する。

 終わりの無いような暴力を振り回す中、ふと間の抜けたメロディが流れてきた。

 テレビCMなどで馴染みの着信音を聞いて腰のスマホポーチに手を伸ばすと、画面を確認して通話に出た。

 

「もしもし?」

『お疲れ様です千聖さん。結界の準備が出来たので終わらせてもらって良いですよ』

「あら、そうですか。了解しました」

 

 電話口から聞こえた穏やかな声に応えるや否や、十字架をぐるりと持ち帰る。

 先端を地面に突き刺して手元を操作。攻撃モードを銃撃から砲撃へ変更。

 重々しい音と共に巨大なロザリオの表面が一斉に開く。

 そこに並んでいるのは法儀礼済銀製ベアリング弾を仕込んだ指向性炸裂弾。

『不殺』の概念を付与されているが、そうでなければあらゆる存在が灰燼(かいじん)と化すであろう火力を展開し、微笑む。

 

「おやすみなさい、良い夢を」

 

 直後。世界を噛み砕く銀弾が解き放たれた。

 轟音と同時に撃ち出された大ぶりなベアリング弾は前方百二十度にわたる広範囲に渡って敵を食い尽くす。

 その間、僅か数秒。掃射が終わった時、その場で動いているものはもはや千聖のみだった。

 

「さてさて。あとは家で子ども達の帰りを待つとしましょうか」

 

 気軽な様子で巨大な十字架を肩に担ぎ上げ、千聖は何気ない足取りで帰路へと着いたのだった。

 

 

 ■SIDE:桜桃■

 

 背後からの奇襲を受けたのは彼女では無く、彼女の札から飛び出した亀だった。

 非常に丸っこいフォルムをしており、非常に眠そうな表情をしている。

 

「ゲンブ!? うわっ、ありがとごめんね大丈夫!?」

「かめぇ~!」

「ごめんてぇえええ!」

 

 謎の鳴き声を返した亀に対して謝罪を返す桜桃。

 そんな一人と一匹の後ろではスザクが見る間に敵をやっつけている。

 勢いは勇ましいのだが丸っこいフォルムなので何とも言えない空気になってしまっているのはある意味悲劇だろう。超がんばってるのに。

 

「! かめぇ~!」

「にゃんと! あ、ほんとだ! いつの間にかパパの結界が張られてる!」

 

 ゲンブの鳴き声に周囲を見渡し、桜桃が何故か腕を組んで高笑いを始める。

 

「はぁーっはっはぁ! これでもうキミたちに勝ち目はないね! 何せこの私が! 全力を出す時が来たようだからな!」

 

 叫びながら胸元に手を刺し込み、二枚の札を取り出す。

 

「おいでセイリュウ、ビャッコ! きゅうきゅう! にょりつりょー!」

 

 ピカーっと札が光ったかと思うと。

 そこに表れたのは二体の丸っこい何かだった。

 右は白くて虎っぽいなにか。こちらは名前的にビャッコなのだろう。そこはまだ分かる。

 しかし左は白銀の西洋風ドラゴンをデフォルメしたっぽいなにか。

 こちらはセイリュウというよりはブルーアイズホワイトドラ〇ンみたいな見た目をしている。

 いや、龍には違いないが、それでいいのか。

 

「さぁいくよみんな! やっつけちゃえぇぇえええ!」

 

「こけぇぇえええ!」

「かめぇ~!」

「とらあぁぁああ!」

「GYAORYAAAA!」

 

 一匹だけ明らかに異様な咆哮を上げているが誰もお構いなしに突撃していく。

 スザクが燃やし、ゲンブが守り、ビャッコが切り裂き、セイリュウ(?)が滅びのバーストスト〇ームっぽいビームで敵を薙ぎ払う。

 

 その様は正に圧巻! 強い! 強すぎる!

 召喚者本人は大笑いしながら逃げ回っているだけなんだけど! 

 

「わはははは! あ、ちょ、セイリュウ! やりすぎちゃダメだってうぎゃぁぁあああ!」

 

 地味にビームに巻き込まれそうになりながらも、桜桃は見事に敵をやっつけたのだった。

 

 

 ■SIDE:読み猫■

 

 無手の己に襲い来る敵の群れに、薄っすらとした笑いを向ける。

 

「ごめんね。隙だらけに見えたよね」

 

 振るわれたのは素手の右手。その効果は、切断。

 音も無く走った紫電の如き一閃が空間を引き裂き、敵の群れの一部を巻き込んで消失させた。

 次いで訪れたガラスの破砕音。否、空間が歪む音。

 

「――ッ!?」

 

 その場に驚愕の波が走る。明らかに何も持っていないにも関わらず繰り出された鋭い一撃に、足並みを揃えたかのように一歩ずつ後退した。

 

「『トツカミノツルギ』はね、剣の事じゃ無いんだ。剣を出せるのはただの副産物なんだよね」

 

 するりと指を中空に滑らせると、その線を追うように大小さまざまな古剣が姿を現す。

 その中の一本を左手で掴み、右手の人差し指をそっと添えた。

 

「空間を斬り裂く。それが『トツカミノツルギ』の能力なんだよ」

 

 十掴みの剣。或いは、十津神の剣。神代の剣を指し示す言葉を付けられた異能力を使用する中世的な青年は、眼を伏せながら囁いた。

 

「さてと。パパの結界も発動したみたいだし、本気を出しても大丈夫かな」

 

 右手を掲げ、眼を見開く。眼前に群れる敵全てを視界に入れ、能力を発動させる。

 空間が悲鳴を上げるかの如き甲高い音が鳴り響き、明らかに異質な何かが世界を覆う。

 

「これで……終わりだよ」

 

 優しく振り下ろされた指先。しかしそれが生み出した破壊は周囲を巻き込み、あらゆる物を切断していった。

 

「やっぱりこうなるか。だから戦いは嫌なんだよね」

 

 巻き散らかされた崩壊の爪痕を前に、読み猫は悲しそうに微笑んだ。

 

「早く家に帰ろう……あまり、ここに居たくないな」

 

 背を向けて悠々と歩きだす。その背中越しには、もはや『何もない』風景が広がっていた。

 

 

 ■SIDE:蒼空■

 

 蒼空は既に鉄くずになってしまったロケットを放り投げつつ、全く数を減らしていない敵の群れを見て額の汗を拭った。

 

「ふう。まったく、パパも無茶を言うものですね。いくら私が『くーるびゅーてー』だからってものには限度というものがあるのですが」

 

 大き目なペンギンパーカーを被ったまましれっと言い放つ青空だが、何気にドヤ顔である。

 

「全く、仕方のないパパです。ここは私が頑張ってあげないと……って、おや?」

 

 腰に手を当てて控えめな胸を張っていると、遥か上空を透明な何かが覆う感覚があった。

 肌に馴染んだ感覚ににんまりと笑みを浮かべ、両手を静かに下ろす。

 

「あーあ、ようやくですか。時間稼ぎって大変なんですよね、ほんと」

 

 (うつむ)きながらゆっくりと歩みを進める。一歩、一歩。確かめるように踏み出された足元には、白々しい霧が纏わり付いている。

 パキリ、パキリ。彼女が歩む度、薄い何かを踏み割る音が鳴る。

 ピキリ、ピキリ。彼女が歩む度、大気が凍り付いていく。

 ほんの僅かな音が明確に響き渡る程に、この場は静寂に支配されていた。

 蒼空が吐き出す息は白くたなびき、一筋の雲となって大気を流れる。

 やがて辿り着いたのは自らが投げ捨てた鉄塊。その表面を撫でると、青いペンキで塗装されたボディが蒼白に霞んでいった。

 霜が降り、凍て付き、そして、少しの力で容易く崩壊する。あらゆる熱運動が失われた空間では硬度など何の意味も成さない。

 そのことにくすくすと笑いながら、蒼空はようやく視線を上げた。

 

「この力は『アブソリュート・ゼロ・グラウンド』と言うそうです。能力を使った時は名乗るように言われていますので、形だけですけど約束を果たしておきますね」

 

 彼女のイタズラな言葉に対して、反応はない。

 あらゆる物体が停止する絶対零度の爆心地で言葉を発するものなど、彼女以外に存在しえない。

 語り掛けるのは、先ほどまで敵として戦っていた者達。その成れの果て。

 氷像と化した彼らは最早呼吸をすることすらなく、無機物と同様に命を持たない物へと化していた。

 

「それでは皆様、また来世でお会い致しましょうね」

 

 優雅な一礼。深々と下げられた頭が元の高さに戻る前に、一帯に散乱していた氷像は全て霜となって消え失せていた。

 凍る前髪を指先で弄りながら蒼空はスマホを取り出しポチポチとメッセージを送信する。

 

「これで良し。あとはパパにお任せするとしましょう。帰ったらアイス食べたいなー」

 

 腕を大きく振って軽快に歩き出す。

 彼女の足元では、パキリと凍った地面が踏み割られていた。

 

 

 ■SIDE:くろひつじ■

 

 以上! 書いていて疲れたのでここまでに致します!

 続きは気が向いたら書きますね!

 

 

 くろひつじ作 続く………????

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