狙われた相棒   作:日之谷

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お待たせしました。
胃腸炎でダウンしてた事と、イラストも描き始めた事でペース落ちてました。
次回で最終回です。


STAGE3

廃ビルの中へと踏み込んだユズ、中は人の気配も無かった。

 

(誰もいない?)

 

見張りが何人かいるかと思っていたので拍子抜けである。

女騎士の気配を追おうとしたが、薬の効果が切れたらしく見えなくなってしまった。

ひとまずエレベーターのボタンを押してみるが反応は無い、カードキーを読み込ませる端末がありそれが無いと稼働しないみたいだ。

 

(階段で行くしかないみたいね…)

 

ユズは気配を殺しながら階段を上がっていく。

3階へと向かう踊り場にたどり着くと、上から話し声が聞こえて来た。

 

「魔力ポーションの備蓄はどうだ?」

 

「あまり残ってないわね」

 

どうやらここにいるサキュバスが話をしているようだ。

 

「ここも大所帯になってきたからな、追加購入が必要だとサキュラ様に相談してみるか」

 

「そうしましょう」

 

話し声と共に足音は遠ざかっていく。

 

(サキュラって誰?今の会話だとここのまとめ役みたいだけど、その人に聞けば相棒の場所も分かるかな…)

 

「こんにちは!」

 

「!!」

 

突如背後から声をかけられ驚くユズ、上階を気にするあまり下階に意識を向けていなかった。

 

(見つかった!)

 

ユズが振り向くとそこには1人のサキュバスがいた。

 

「巡回の戻りですか?」

 

内心焦るユズ、だが相手のサキュバスはユズの事を仲間だと勘違いしているようだ。

 

「見ない顔ね、新入りさん?」

 

「え?ええそう…です」

 

「「…」」

 

ユズはひとまず話を合わせる事したが会話が続かない。

 

「そうだ!魔力ポーション!」

 

「えっ?」

 

ユズは先ほどの会話を思い出し、怪しまれる前に話を切り出す。

 

「魔力ポーションの備蓄が無くなりそうだからサキュラ…様に報告しないといけないんです」

 

「あら、だったら急がないとですね、引き止めてすいません」

 

サキュバスは頭を下げると、ユズの前を通り過ぎようとする。

 

「まっ待って下さい!」 

 

「はい?」

 

「サキュラ様は今どこにいるか分かります?」

 

「ええと…今の時間だと、執務室にいるんじゃないかしら」

 

困った、執務室と言われたところでこのビルの何処にあるかなんて分からない。 

 

「あら、もしかして場所を忘れちゃったの?」

 

「そう、そうなんです」

 

「しょうがないわね、案内してあげるから着いてきて」

 

 

執務室へと向かう2人。

 

「あの…」

 

「キリエでいいわ貴方の名前は?」

 

「ユ…ユーリです、キリエさんはここは長いんですか?」

 

「そうね、ここに来て2年くらいかしら」

 

着いていくキリエの背中の羽をよく見ると、古傷だらけで穴まで開いていた。

 

「この羽の傷が気になるの?」

 

「あっ…いえ、その…」

 

「大丈夫よ、まあ昔色々あってね、ここにはそんな事情を抱えた娘が沢山いるの、サキュラ様は良い人よ、私達みたいな力のないサキュバスに手を差し伸べてこうして住まわせてくれてるの」

 

「あの…」

 

「着いたわ、ここが執務室よ」

 

もう少し話を聞こうとしたが、目的地に到着してしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「サキュラ様、キリエです、少しよろしいでしょうか?」

 

「キリエ?いいわ、入りなさい」

 

キリエがドアを開け、2人は執務室へと入っていった。

そこには書類を眺めている深紅の瞳のサキュバスがいた。

 

「失礼します、こちらの新入りから報告したいことがあると…」

 

「新入り?」

 

サキュラはユズを見ると、一瞬だけ驚いた表情を見せるがすぐに微笑みへと変わる。

 

「ありがとうキリエ、私も新入りちゃんに用があったのよ」

 

「そうだったんですか?」

 

「ええ、2人きりで話をしたいから席を外してもらえるかしら?」

 

「は…はい」

 

キリエは部屋から出て行くのを確認したサキュラはユズを見る。

 

「さて…何の用かしら、ユズさん?」

 

「私の事を知ってるんだね」

 

「当然よ、何せ貴方は有名人、養成学校を首席で卒業後、サキュバスとしての道ではなく、冒険家としての道を選んだってね」

 

笑顔のまま話を続けるサキュラ、ユズはそんなサキュラに一歩近づく。

 

「…相棒はどこ」

 

「何のことかしら」

 

「とぼけないで!ここにいる事は分かっているんだから!」

 

ユズは今まで出したこともないような大声を出し、サキュラを睨む。

 

両者は目を合わせたまま動かない。

 

「ふぅん…確信はあるんだ、まあここを突き止めた時点でバレているようなものか…ならやる事は決まってるわね」

 

椅子から立ち上がるサキュラ、ユズは剣を構え身構える。

 

「話し合いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

応接用のシンプルなテーブルにお菓子と入れ立ての紅茶が置かれる。

 

サキュラは紅茶を一口飲むが、ユズはソファに座ったままテーブルの上の物には手をつけない。

 

「あら飲まないの?せっかく淹れたのに、安心なさい、毒なんて入ってないわ」

 

「貴方こそ護衛も無しに私と2人きりでいいの?私が貴方を襲って相棒の居場所を言わせるとか考えてないの?」

 

「それはあるけど、私に何かしたら貴方の相棒ちゃんに何かあるかもしれないわよ?そう考えたら困るのはそっちだと思うけど?」

 

「くっ…」

 

サキュラの言葉にユズは無意識に拳を強く握りしめていた。

 

「意地悪はここまでにしてお話といきましょうか、私達の仲間にならない?」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に固まるユズ、だがすぐに気を取り直す。

 

「ふざけないで、なるわけないでしょ」

 

「ふざけてなんかないわ、本気よ」

 

カップをテーブルに置き、ニッコリとこちらに微笑むサキュラ。 

 

「なら相棒ちゃんに会わせてあげる、その方が話も早そうだし」

 

(何?なんなの一体?)

サキュラの行動にユズは疑問しか浮かばない。

 

「それにしても、貴方よく彼女を見つけられたわね、羨ましいわ」

 

サキュラの後を着いていくユズ、サキュラはエレベーター横の端末にカードキーを読み込ませる。

そのままエレベーターへと乗る2人、どうやら地下へと向かっているらしい。

 

「まあ、貴方が手放したく無い気持ちも分かるわ、何たって彼女は夢魔からしたらどんなお宝だって霞む希望そのものなのだから」

 

「希望?」

 

サキュラの言葉の意味を聞こうとしたとき、エレベーターが止まる。

扉が開き、先へ進むと武装したサキュバスや研究服を身に包んだサキュバス、そして大量の機械が設置されていた。

 

「さあこっちへ来なさい、相棒ちゃんに会わせてあげる」

 

ついていくと、巨大な魔法陣の中で鎖に繋がれていた女騎士を見つけた。

 

「相棒!」

 

ユズは駆け寄ろうとするが、武装したサキュバス達が立ち塞がる。

 

「どいて!」

 

「何をするつもりかしら?」

 

「そんなの、相棒を助けるに決まってるでしょ!」

 

「助けるなんてまさか、本当は独り占めしようと考えているのでしょう?」

 

「貴方さっきから何を言ってるの!相棒の事を宝だとか希望だとか、全然分からない!!」

 

先程から訳の分からない事を言うサキュラにユズは力の限り叫ぶ、ユズの言葉を聞いてサキュラは固まっていた。

 

「まさか本当に知らないというの?彼女が私達にもたらす力を?出会ったのも偶然で、一緒にいたのも奪われないためではなく仲間だから?」

 

ぶつぶつと呟くサキュラ、途端に大声で笑い始めた。

 

「アハハハッ!私たちが必死になって探していた存在をそんな簡単に手に入れるなんて!成程ね、話が合わないと思っていたらそういう事!分からないなら彼女の力について話してあげるわ」

 

「相棒の力?」

 

「その前に…私達サキュバスが生きていく為には人々からの精気が必要だというのは貴方でも分かるわよね?そして精気はその生物が持つ生命力によって生成されるもの、ゆえに生命力の高いものは必然とその純度も高くなるの」

 

魔法陣の近くを歩きながら説明を続けるサキュラ。

 

「強い生命力を持つ者は精気として吸収するサキュバスに力を授ける、貴方の相棒ちゃん…ガーディアンは見事その力を持っていたという事よ」

 

話の途中でエレベーター開く音がする。

 

「サキュラ様、御用ですか…ってユーリちゃん?」

 

やって来たのは先程案内をしていたキリエ、ユズがこの場にいる事に驚いているようだ。

 

「キリエ、その娘の事は良いからこっちへ来なさい」

 

キリエは女騎士が拘束されている魔法陣に気づく。

 

「サキュラ様!?これは一体?」

 

キリエは女騎士を見て驚く、どうやら地下の存在は知っていてもこの状況は知らないようだ。

 

「キリエ、彼女から精気を奪いなさい」

 

「えっ…でも」

 

「いいから」

 

ユズは咄嗟に動こうとしたが、警備のサキュバスがユズを囲み、剣を突きつける。

 

「邪魔されると困るの、黙って見てなさい」

 

キリエは女騎士に近づき、両手に力を込める。

強い光が女騎士から放出され、それがキリエへに取り込まれる。

 

「さあ、どうかしら?」

 

キリエは自分の体を見回す。

 

「…!羽が!羽が治ってます!」

 

先程までボロボロになっていた羽は嘘のように傷ひとつ無くなっていた。

 

「何が起きたか分からないって顔をしているわね、キリエの羽を見たでしょ?彼女はね、サキュバスとしての力は弱く、ドリームセラピーとしても、野良サキュバスみたいに戦う力も無かったの、それゆえ悪徳な店で碌な休みもないまま働かされてたの」

 

サキュラはキリエの過去について語り始める。

 

「キリエはね、同じ様に良いように使われ弱った後輩の子を庇い、そこのオーナーから鞭を打たれ、ボロボロになっていたところを私達が保護したのよ、結局…私達では店から救う事しか出来なかったけど…」

 

サキュラはユズの方へと体を向ける。

 

「本来なら治せない傷まで治療し、サキュバスとして持つべきだった力も与えてくれる、ガーディアンはね、ただ利用されるだけだった彼女達にとっての希望なのよ!これで分かったかしら?貴方にガーディアンを返すわけにはいかないの」

 

ユズはサキュラの心からの言葉に耳を傾けていた。

 

「貴方達の事情は分かったわ、でも相棒を誘拐して人生を奪う事は見過ごせない」

 

「ふうん…」

 

「こんな事をしなくてももっと他に方法があるはず、だから…」

 

ユズが言い切る前にナイフが飛んでくる。

咄嗟に剣で弾く。

 

「他に方法?貴方らしい言葉ね、今まで何の苦労も無く、幸せな生活を送っていた平和ボケそのものの模範解答ね」

 

サキュラは持っていたナイフを両手に持ち、構える。

 

「自分が悪い事をしている自覚くらいあるわ…でもね、ようやく手に入れた私達の希望、奪われてたまるものですか!」

 

周りにいた他のサキュバス達もユズに斬りかかろうとした。

 

「待ちなさい、私一人で相手するわ」

 

サキュラが皆を止める。

 

「しかし…」

 

「良いから」

 

「はっ!」

 

武装していたサキュバス達はユズから離れる。

 

「一人でいいの?」

 

「ええ、貴方は私の手で倒すと決めたわ、それより精気はサキュバスの力の源と言ったわよね?」

 

「それがどうしたの?」

 

「つまり…」

 

サキュラは魔法陣に触れると精気を吸収する。

女騎士の苦しそうな声がユズの耳に入る。

 

「相棒!」

 

声を上げるユズ、いつの間にか視界からサキュラが消えていた。同時に背後から尋常ではない殺意が迫る。

 

ガギィン!

 

「ぐっ…!」

 

大剣で防ぐが、とても短剣とは思えない凄まじく重い一撃が全身に伝わる。

 

サキュラは防御で体勢を崩したユズの懐に蹴りを入れる。

 

「ガハッ…‼︎」

 

そのままの勢いでユズは壁に叩きつけられる。

意識が飛びそうになるが何とか耐え、立ち上がりサキュラの方へと走る。

 

サキュラはこちらを見据えたまま動かず、ユズからの攻撃を左手に持ったナイフで軽々と受け止めた。

 

「そんな!?」

 

「質の高い精気はサキュバスの力にも直結する、つまり吸収していればこうして身体能力を向上させるって訳、貴方にも覚えはない?」

 

確かにサキュラの言う通り、女騎士から精気を貰った日は体の調子が良かったがそういう事なのかと今になって分かった。

 

「ぐっ…でも私は!」

 

力を込めるが、サキュラはびくともしない。

 

「もういいわ、死になさい」

 

サキュラの刃がユズの首へと迫る。

しかしユズに刃は届く事なく、何処からもなく飛んできた氷塊に弾かれた。

 

「何者!?」

 

サキュラが見たのは深く被った帽子にサングラスとマスクの変装をした謎の人物だった。

 

「…本当に誰?」

 

「はぁぁ!」

 

謎の人物は持っていた大剣を地面に突き刺す、瞬く間に凍てつく寒さが周囲に広がる

 

「さささ寒い!」

「足元が凍って動けない!」

 

サキュバス達はあまりの寒さに狼狽し始める、その瞬間を逃さず謎の人物はユズの手を握り出口へと向かう。

 

「逃さない!」

 

サキュラは2人のところへ向かうが突如、警告音が鳴り響く

 

「ガーディアンのバイタル低下…やはり戦闘時の消耗は激しくなるのね、彼女に死なれては困る…いいわ見逃してあげる、どうせガーディアンは私達の手の中なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

謎の人物はユズの手を引きながら非常用の階段を登る

 

「ね…ねぇビアンカ」

 

「!?」

 

バレると思ってなかったのか驚くビアンカ、ひとまず変装を解く。

 

「どうして私が地下にいるって分かったの?」

 

「ペギーに頼ったのよ」

 

あの後、なかなか戻らないユズを心配したビアンカもビルへと乗り込んだ。

その際にペギーから貰った気配を可視化する薬を使ったところ、地下に続いていたので非常口から地下に向かい、ユズが苦戦していたところに出くわした。

 

「ビアンカ…相棒が…」

 

「詳しい話は後で聞くわ、今は逃げましょう」

 

「でも…」

 

「よく見なさい、今の貴方ではガーディアンを救えないわ」

 

ビアンカから見て今のユズは満身創痍だ、そんな状態で戻ってもむざむざ死にに行かせるのと変わらない。

 

「安心して、必ず私達でガーディアンは助ける、その為には貴方もいないと駄目、分かってくれる?」

 

ビアンカは真っ直ぐとユズを見る。

 

「うん…」

 

「ひとまず私の屋敷に戻るわ、ペギーもそこで待ってる」

 

(待ってて相棒、必ず戻ってくるから!)

 

確かな決意のもと、ユズとビアンカはビルを後にした。

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