感想は長編書ける人、凄いなと痛感です…
これにてユズが主人公の小さな冒険譚は終わりです。
「あれから1週間、助けは来ないわね」
サキュラは拘束されている女騎士に話しかける。
「何よその目…まさか本当に助けが来るとまだ思っているの?」
女騎士は何も言わないがただ瞳は光があり、諦めなど一切考えてない事が分かる。
「まあいいわ、この後も貴方の力を必要としてる子がいるのだから大人しくしてなさ…」
「サキュラ様、大変です、異常事態が発生しました!」
武装したサキュバスが2人の前に現れる。
「[[rb:ユズ > あの子]]が来たの?」
「いえ、そういうわけでは…とにかく外を見て下さい!」
地下から地上へと戻り、外の様子を見るサキュラ。
「な…何よこれ!?」
「「「サキュバスの労働環境の改善を!!」」」
「「「待遇の改善を!!」」」
大勢のサキュバス達が建物を取り囲むようにデモ活動を行っていたのだった。
「お前たち!何をしている!」
武装したサキュバスの1人がデモを警備している男に怒鳴る。
「見て分からないか?デモ活動だ、ここでは珍しくはないだろう」
「ここでする必要はないはずだ、他へ行け!」
「いや、ここでのデモの許可は出ている」
「隊長!」
隊長と呼ばれる人物が現れると、サキュバス達に書類を見せる。書類には[ダンジョン王国 活動許可書]と書かれてあった。
「この通り申請が行われ、今日1日はこの場所でデモを行う許可が出ている。もし妨害をするようであれば警護担当の我々も黙ってるわけにはいかない」
「許可がおりてるですって?」
「確かに言ってました、恐らく書類は本物かと」
許可が下りているとなると迂闊にこうなると手が出せなくなる。そもそも自分達はサキュバスの保護と改善の為に動いている、妨害など出来るわけがなかった。
「サキュラ様!!」
「今度は何?」
「屋上からスライムが!」
屋上へ向かうと、大量のラヴァスライムが溢れていた。
「何故ここにスライムが…」
「分かりません!急に空から大量に降ってきまして」
「ちょっと!通れないんだけど!」
「いやぁ!ベタベタする!」
スライム達は襲ってくるわけではないが、ヌメヌメベタベタなスライム達により屋上の警備達は狼狽していた。
「すぐに階下の人員を屋上に回しなさい!」
サキュラの持っていた通信端末から連絡が入る。
「たっ大変です!研究施設に侵入者が!」
「侵入者…規模は?」
「侵入者は赤髪のサキュバスが1名、手当たり次第に設備を凍らせて…うわぁぁ!!」
「返事をしなさい!」
「…」
端末からは返事は無い。
「くっ…やってくれたわね、ユズ!!!」
サキュラは怒りからか、持っていた端末を強く握りしめていた。
遡る事数日前、ビアンカ邸
「さて、ユズさんの怪我の具合も良くなってきたところで作戦会議といきましょうか」
ペギーがどこからか持ってきたホワイトボードに地図やら写真を貼り付けていく。
「やはりと言いますか、警備は相当強化されています」
「空からの侵入は出来ないの?」
ユズの質問にペギーは首を横に振る。
「ドローンを飛ばしてみましたが、相当な数の警備がいます。たとえ強行したところで、別の警備が集まって瞬く間に制圧されてしまうかと…」
「戦力をいくつかに分散出来ればいいのだけれど、戦えるのが私とユズの2人だけとなると難しいわね…」
3人は色々と考えるが良い作戦が浮かばない、どう考えても人員が足りていないのだ。
コンコン
「入りなさい」
「ビアンカさま、少しよろしいでしょうか?」
扉がノックされ、使用人が3人の前に現れる。
「先ほどご友人のジョイ様がお見えになられまして、お会いしたいと承りました」
「ジョイが来てるの?良いわ、通しなさい」
「かしこまりました」
しばらくすると、ジョイがやってきた。
彼女は養成学校卒業後、村の案内役を務めている。
「やっほービアンカ!帰ってきたなら連絡をくれてもいいのに…ってあれ?ユズもいる!」
「ジョイ、久しぶり…」
「元気がなさそうね、何かあったの?」
「ええと…」
「私が話すわ」
ビアンカはジョイに今までの出来事を話し始めた。
「何それ!てことは今も捕まったままなの?」
ユズの話を聞いて憤慨するジョイ。
「人員を分散させる事なら多分できるわよ?その為にはビアンカ、貴方の力が必要になるけど」
「どういうことかしら?」
「つまりね…ごにょごにょ…」
「なるほど!確かにそれならいけるかも!」
ジョイの言葉にユズが頷く。
「では私の研究も役に立つかと…」
「その後は私達の出番ね」
「うん!行けそう!」
4人は作戦に向けて動き始めた。
ジョイの作戦、それはサキュバスが行っているデモ活動、それを相手のアジトの前で行う事だった。それも大規模で。
顔の広い彼女が声をかけた事、またサキュバスカフェで多くのサキュバスを救ったユズ達のお願いにより、多くの仲間を得られた。
時間のかかる申請はビアンカがコネを使い、最速で許可をおろすことが出来た。
第2段階として、視線を階下に注目させる事により僅かだが屋上の警備が疎かになる。
近づきやすくなった事で今度はペギーが研究していたラヴァスライム達を袋一杯に詰め込んでペギーとジョイの2人が上空から落とす。
羽の生えているサキュバスだからこそ出来る作戦だろう。
屋上のスライムの群れ、地上のデモ、ある程度の人員を割かなければならなくなる。
第3段階に、ビアンカがデモに乗じてビルに侵入、赤いウィッグを被り、地下で手当たり次第に暴れる。
戦力の多くがビアンカに向かうので、後はユズが単身で女騎士を救出するといった作戦だ、捜索はペギーの開発した薬で行う。
「侵入者は地下だ!」
「屋上じゃないのか?」
「それはスライムだ!」
「今入ってきた話だと2人組がスライムと一緒に屋上で暴れていると…」
「どっちにしろ人手が足りない!」
「デモが邪魔で外にいた人員が戻れないだと!?」
案の定、建物内は混乱を極めていた。
それこそ、変装したユズとすれ違っても気づかないほどに。
(よし、みんな上手くやってくれてるみたいね、私も早く相棒を見つけないと)
ユズは単身、地下を走り出した。
気配を辿ると女騎士の気配を強く感じる扉の前にたどり着く。
(うん分かる、ここに相棒がいる)
扉を開けると何もない広間だった。そして部屋の中央では女騎士が倒れていた。
「相棒!!」
ユズは真っ先に女騎士のもとへ駆け寄り、抱き上げる。
弱っているが呼吸は安定していた。
「良かった…」
安堵の表情を浮かべるユズ、ユズの声に反応したのか女騎士が目を開けた。
「相棒!助けに来たよ!」
憔悴している女騎士は虚な瞳でユズを見つめていると、残った力でユズを突き飛ばす、それと同時に飛んできたナイフがユズの髪を掠めた。
「あら外してしまったわね…相棒ちゃんを置くことで寄ってきた貴方を仕留める予定だったのだけれど、弱った体を動かして助けるなんて…貴方、相当に大切に思われているのね」
「サキュラ…」
「大人数によるビル前のデモ活動、屋上でのスライム、建物内でも侵入者の対応で手が回らない中、混乱に状して貴方が救出を行う、見事としか言えないわ、いったいどんな手を使ったのかしら?」
「仲間達が協力してくれたのよ」
「仲間が…そう、本当に恵まれているのね貴方。でもこっちも譲れないの、ならするべき事は分かるわよね?」
「うん、でも少し待って」
ユズは女騎士を抱き上げると壁際にそっと座らせる
「これでよし。相棒、もう少しの辛抱だから待ってて」
ユズは女騎士から離れると剣を構え身構えた、サキュラも両手でナイフを持ち、構える。
「私は負けるわけにはいかないわ!誰にも助けを求める事が出来ず、ただ虐げられる者たちの為にも!」
サキュラはユズの前から消えると、一瞬で背後へと移動し、ナイフを振り下ろす。
ユズは攻撃を大剣で全て受けるのではなく衝撃を逃がすようにいなしながら防ぐ。
それにより体勢が崩れないので二手の回し蹴りを躱す事が出来た。
「あら、やるわね」
「同じ手は2度も食らわないよ!」
「なら…これはどうかしら?」
サキュラはあらぬ方向にナイフを何本か投げる、するとユズの真横と背後から同時にナイフが現れ飛んできた。
「はあっ!」
その場で回転をし、飛んできたナイフを大剣で薙ぎ払う。
サキュラは上空から現れ、再びナイフを投げるが、予想していたユズはそれも躱す。
「さっきまでの威勢はどうしたの!守ってばかりではなく堂々と戦いなさい!」
「そっちこそ、最初の攻撃以降、飛び道具ばかりで近づいてこないじゃない」
「くっ…」
ユズは突入前の作戦会議を思い出す。
「テレポーテーション?」
「ええ、ユズさんの話を聞く限りだとサキュラはテレポーテーションを使えるのでしょう」
ペギーはそう結論付けた。
「空間魔法だなんてそんな高等魔法を使えるサキュバス聞いたことないわ?」
「ジョイさん、いないのではなく使えないのです」
「どういう事?」
ジョイは頭に疑問符が浮かぶ。
「空間魔法とはその名前の通り、ある地点からある地点までの空間に穴を開けることで距離を短縮する、ワームホールとも言いますね。当然、空間を操るわけですから消費する魔力は大きいものです。精気から魔力を得て生きている我々サキュバスとは相性が良いとは言えません」
「確かに、私のような力のある者でない限り、すぐに魔力が枯渇して生きてはいけないはずよ」
ペギーに賛同するようにビアンカが頷くが、すぐに質問をする。
「でもサキュラは使えていたのよね?それも連続発動して」
「それは騎士様の生気を吸収したからだと思われます、ですよねユズさん?」
「うん、精気を吸収してから使ってきたかな、もし始めから1回でも使えていたのなら、何も知らない私を背後から襲っていたはずだから」
「騎士様の力で彼女は短期決戦をしてくるはずです、ユズさん、なぜ騎士様が高い生命力…もとい強力な精気を持っているかは調べなければ分からないでしょう。ともあれ魔力とは有限ではありません、相手の魔力が尽きるその時までは防御に徹する、それが唯一の戦法でしょう」
ペギーはとある箱を取り出し、ユズに渡す。
「それともし騎士様に触れる事が出来たのであればこれを使ってください、急ごしらえですが役に立つはずです」
「ぐっ…この!!」
サキュラはユズに攻撃を行うが、防御に徹しているので決定打は与えられていない、それどころか徐々に攻撃の勢いが落ち、瞬間移動の頻度も減っていた。
サキュラは女騎士の方へと瞬間移動をした。
「残念ね、魔力が尽きれば私に攻撃できると考えていたんでしょうけど、彼女がいる限り私は負けないの、さあもう一度精気をーーー」
ピッ…ピッ…ピッ…
「な…何の音?」
サキュラが音のする方を見ると、掴んでいた女騎士の体に小さな機械がついていた
ブシュ―――――――!!!
機械は音と共に煙が発生した。
「…っ!!!ごほっごほっ!!これは毒ガス!?」
まともに吸ってしまったサキュラは女騎士から手を離し、せき込み始める。
「はあああああ!」
その一瞬の隙を逃さなかったユズは距離を詰め、大剣を振り下ろす。
「きゃああああ!」
確かな一撃はサキュラの体を大きく切り付けた。
「私の勝ちね、貴方の事だからきっと相棒に近づくと思ってた」
「ぐっ…まさか…彼女に近づいたら毒ガスが出る装置を付けていたなんて…私も貴方が彼女もろとも私の事を倒そうとするなんて思わなかったわ」
「あれは毒ガスなんかじゃないわ…少なくとも相棒にとっては」
「なるほど…聖水ね…確かにそれなら私にしか害はないわ…ね」
ユズは女騎士を助け起こす。
「相棒、動ける?」
頷く女騎士、自力で立てるくらいには回復していた。
「「「サキュラ様!」」」
手下のサキュバスが駆け寄ってきた、ユズは大剣を構える。
「大丈夫よ、その子達は武装解除させてるから戦えないわ」
「ビアンカ!、それにみんな!」
ビアンカを始め、ジョイとペギーも現れる。
手下のサキュバス達はサキュラの周りに集まる
「みんな…ごめん…貴方達を守るって約束…果たせなさそう」
「そんな!サキュラ様がいたから今の私達がいるんです。貴方がいなかったら悪徳のドリームセラピーで一生働かされるか、そのまま野垂れ死ぬしかなかったんです」
「家族や友人が酷い目に遭わされても見て見ぬふりをしていた連中とは違かった!貴方は私たちに手を差し伸べてくれました、お願いです…死なないで!」
涙を流し、サキュラに縋り付くサキュバス達。
女騎士はユズに何かを告げる。
「相棒…分かったよ」
ユズは女騎士の胸に手を当てると少しだけ精気を貰いサキュラに近づく。
「何よ…とどめでも刺しにきた訳…」
「貴方のことは許せない、でも貴方のおかげで救えた人たちもいる。それに目の前で困ってい人を放っとくのは私の目指す冒険者じゃないわ」
「ふん、貴方も相棒ちゃんに似てお人好しね…」
「そうね、でもそこが相棒の良いところだから」
ユズはサキュラの体に触れると精気を送った。
「うう…緊張していた」
「ほらほら、キリエさん落ち着いて!スマイルスマイル!」
「はいっ!」
「みんな、準備は良い?それじゃあ…せーの」
「「「いらっしゃいませ!サキュバスカフェ浮遊城店へようこそ!」」」
あれから数週間が経った、回復したサキュラはその場で組織の解散を宣言。
サキュバス達は女騎士達の手配でみな、浮遊城へとやってきた。
ユズとビアンカは浮遊城の空きスペースを利用して、サキュバス達の社会復帰に向けての施設や、治療施設、そして新たなる働き口として前々から予定していたサキュバスカフェの2号店を建設した。
ジョイは村の案内役を続けており、身寄りのないサキュバス達を見つけては浮遊城の事を教えている。
ペギーはダンジョン王国の研究があらかた片付いたのか、今は浮遊城にいる。何でも女騎士の精気とサキュバスの適合に興味を持ち協力を求めているが、女騎士には断られている。
サキュラは治療後、即座に降伏。
ユズ達にみんなを託し、彼女らが困らないようにこれまでの誘拐や破壊活動などの悪事は全て1人でやった事だと告げ、ダンジョン王国の憲兵に出頭した。
彼女のもとには毎日のようにサキュバス達が面会に来ておりキリエ曰く、今までのような張り詰めた表情は無くなったとの事。
サキュバスカフェ浮遊城の初日営業を終えた夜。
空中庭園
「相棒、ここにいたんだ」
ベンチで座っていると、スーツ姿のユズがジュースを2缶持ってやって来た。
「はいどうぞ」
女騎士はユズからジュースを受け取ると、ユズは隣に座る。
「2号店、初日の営業は大成功!みんな頑張ってくれたよ!」
「それとね、お店の子が言ってたんだけど、最近はダンジョン王国の方でもサキュバスの労働環境を改善してくれる動きになってるんだって」
ユズはジュースを一口飲むと再び話し始める。
「あのさ相棒…前に相棒を助けようとしたときに私、逃げちゃったじゃない、あの時は助けられなくてごめん…」
震えるユズの手に女騎士はそっと自分の手を添える。
『ユズならどんな事があっても絶対に助けに来てくれるって信じてた、あの後だって、みんなと一緒に私を助けに来てくれてとても嬉しかった、助けてくれてありがとう』
女騎士の言葉を聞いたユズは暫くすると照れたのか頬をかく。
「そっか、うん、そっか、ならどういたしましてだね!」
「それじゃあ今度も相棒の危機ならどこにいたって駆けつける!何たって私は君の相棒なんだから!あっ…もちろん危ない事にならないようにはするから心配しないで!」
いつも通りの明るいユズの笑顔を見て、ヘラヘラと笑顔を返す女騎士であった。