ハングオーバー!!?魔法少女☆と史上最悪最後の二日酔い   作:明暮10番

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目覚めた頃には忘れていた 2

 謎の少女──「ゆま」を宥めた後、男たち三人は作戦会議の為、ミニバーのカウンター周りに集まる。

 ゆまはひとりぼっちを嫌がる子らしい。なので男たちの隣で椅子に座らせ、オレンジジュースを飲ませておいた。

 

 黒猫のミリセントは、窓際で日向ぼっこ中、恭介の指はとりあえず冷凍庫の中に。

 

 

「……すっかり恒例になっちまったが……」

 

 

 フィルはそう前置きすると、アランとステュアートに言う。

 

 

「それぞれ、ポケットの中にあるモンを出し合うぞ」

 

「本当に恒例になったもんだな……馬鹿みたいな値段書かれたレシートが出ない事を祈るよ」

 

「なんか逆にワクワクしない!?」

 

 

 空気を読まないアランを無視し、二人はズボンのポケットを弄り、入っていた物全てをカウンター上に出す。

 

 

「えぇと、俺は……なんだこりゃ? ネジ……いや、『ボルト』かぁ?」

 

 

 まずフィルのポケットから出て来た物は、明らかに工業用のボルトだ。

 その他は自分の財布と、飴やグミと言った物の袋。そして、くしゃくしゃに丸められた紙。その紙は何なのかと開いてみれば、どうやら「ハンバーガーの包み紙」だと分かる。少しケチャップやチーズが付着している。

 

 

「俺たち、どっかのバーガーショップに行ったみたいだぞ。マクドナルドじゃない……どこの店だこりゃ?」

 

「フィル! 僕のポケットからこんな物が……」

 

 

 ステュアートのポケットからはお菓子の袋と一緒に、「ウォークマンのような端末」が出て来た。その端末の液晶には色々な数値が表示され、一定間隔で延々と小さな変動を繰り返している。

 

 

「なんだそりゃ?」

 

「僕にもさっぱり……あ、いや。これは……どうやら心電図っぽいぞ?」

 

「心電図ぅ? なんでそんなモン……」

 

「それはさっぱり分からない」

 

 

 ともあれ、まずは持ち物の確認が優先事項だ。

 次はアランの番だと二人が顔を向けるが、彼はコーラ瓶を持って来ては蓋をカウンターの角を使って開け、そして向かいに座っていたゆまと乾杯していた。

 

 

「良き日に!」

 

「? えへへ! おデブのおじさんかんぱーいっ!」

 

 

 呑気にそれぞれジュースを飲む二人に呆れながら、ステュアートは顎で示しながらアランに言う。

 

 

「それより……君の持ち物は?」

 

「おっと、そうだった!」

 

 

 一旦瓶を置いてから、急いでアランは自分のポケットを弄った。まず出て来た物は、二人と同じ飴やグミ、チョコと言ったお菓子の袋。

 

 

「なんか、やけにお菓子の袋が多いな……」

 

 

 疑問を口にするフィル。その袋を見てゆまが話しかけた。

 

 

「キョーコ、沢山お菓子くれたね!」

 

 

 残念ながら日本語は三人に通じない為、フィルの微笑みと一緒に聞き流されてしまったが。

 その他にもアランのポケットからは細々としたゴミばかり出て来るが、尻ポケットから取り出した物を見て彼は驚き顔となる。

 

 

「……なにこれ? うわ! なんか凄いモノ入ってた!」

 

 

 そう言って彼は、その「凄いモノ」をカウンターの上に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは実に不思議な物で、エッグスタンドのような装身具に、卵型の「白い宝石」が乗せられたような代物だ。

 大きさは手の中にすっぽり収まる程度のサイズで、内部にライトの類でも入れられているのか、ずっと乳白色の光をぼんやり灯し続けていた。

 

 思わず見惚れてしまうほど、奇麗で豪華、されど装飾は控えめで、慎ましささえある逸品だ。

 およそ見た事のないそれを前に、フィルもステュアートも目をしばつかせた。

 

 

「なんだぁこりゃあ? オイ……マジの宝石じゃないのか!?」

 

「こ、コレは君のだよな……?」

 

 

 ステュアートの問い掛けに、アランは「知らない」と首を振った。すぐにステュアートは頭を抱える。

 

 

「こんな見るからに高そうな奴……もしかしたら、僕ら……ぬ、盗んだんじゃ……!?」

 

「マイク・タイソンから虎盗んだ時みたいに?」

 

「やめてくれ……思い出させないでくれアラン」

 

 

 その時の惨劇を思い出したのか、ステュアートは顰め面で顔を撫でた。

 もしかして盗んだかもと冷える空気感の中、必死にフィルは良い方向に考えるよう訴える。

 

 

「……ま、まだ盗んだとは限らないぞぉステュ! 多分、ラリった勢いでどっかその辺の宝石屋で買ったんだろ! ほら! レシートが残ってるハズだ! アランも良くポケットを探せ! 俺はもう何も持ってな──」

 

 

 途端、フィルの顔から色が消えた。

 焦った様子で身体中のポケットを弄り、次には自分がそのポケットから出したゴミの中を探し始める。それでも探し物が見つからなかったのか、大慌てで部屋中を探し回り始めた。

 

 

「ど、どうしたんだいフィル?」

 

 

 様子がおかしい彼にステュアートが尋ねると、フィルは絶望しきった顔を向けた。

 

 

「……ない……な、無くした……」

 

「……え?」

 

 

 腕をワナワナと震わせ、たまらず叫んだ。

 

 

 

 

「指輪だよッ!? 怪我縫う時に外した『結婚指輪』がッ!? どこにもッ!!」

 

 

 少し傷が開いて血が滲んでいる、その包帯まみれの左手を見せつけ訴える。

 それを聞いたアランも、自分も何か無くしている事に気付いたのか、服を弄ってから叫んだ。

 

 

「嘘だろぉ!? 俺も『デジカメ』無くしてるぅっ!!」

 

 

 次には二人揃って、部屋中を探し回り始めた。

 そんな彼らを見て不安になったのかステュアートも改めて持ち物を確認し、自分にも無くした物がある事に気付く。

 

 

「……あぁ、なんて事だ……僕は『スマホ』がない……」

 

 

 大事な物が消え、また自分の身体に彫られた淫紋タトゥーを思い出しては項垂れた。彼はスマホと尊厳を無くしている。

 

 

 

 

 三者三様に絶望する中、オレンジジュースを飲み終えたゆまが、目の前に置かれていた白い宝石についてキョトンとする。

 

 

「あれ? これ、キョーコとおんなじの……キョーコ以外の、初めて見た」

 

 

 宝石に反応を示す彼女に、ステュアートが気付く。

 

 

「……それ、何か知ってるのかい?」

 

 

 英語で問いかけたところで、ゆまには通じない。案の定ぽかんとしている彼女に伝わるよう、宝石を指差したり首を傾げたり、ボディランゲージで「これは何なのか」と伝わるよう努めてみる。

 

 ゆまは賢い娘のようだ。パッと、ステュアートの言いたい事に気付いたようだ。

 

 

「えっとね……それ、『ソウルジェム』ってゆうんだよ」

 

 

 日本語は分からないものの、辛うじて「ソウルジェム」の単語は聞き取れた。しかし聞き取れたとは言え、全く聞き覚えのない言葉の為に疑問は尽きない。

 

 

「そ、ソウル……ジェム? なんか凄そうな名前だけど……あ。これ、君の物かい?」

 

 

 指差しで「君の物か?」と伝える。しかしゆまは首を振った。

 

 

「キョーコのは紅いから……別の人のだよ」

 

「なんだ、違うのか……」

 

「でもそれの持ち主、大変だと思う。『魔法少女』になれないと思うし、返してあげた方が良い!」

 

「……あー、参ったなぁ……この子が英語を話せれば……」

 

 

 言語の壁を改めて感じ、困ったように額を押さえてからまた項垂れる。

 

 

 

 あらかた部屋を探し終え、見つからなかったと諦めた二人が、疲れた顔でまたミニバーに戻った。

 

 

「マジでどうしよう……ステファニーと仲直りどころじゃないぞぉ……!」

 

「ストリップクラブのお姉さん沢山撮ったのに! 俺のオカズぅーっ! 見抜きフレンズーっ!!」

 

「フィル、アランを黙らせてくれ、全く……言葉通じないとは言え、子供の前だぞ」

 

 

 そう吐き捨ててからステュアートは、三人がポケットから出し合った物を俯瞰する。

 

 

 お菓子やハンバーガーの包み紙や袋、工業用のボルト、心電図を表示する機械、ソウルジェムと呼ばれる宝石。全てが全て、一貫性のない代物ばかりだ。しかも自分たちがいた場所を示す物が一つもない。

 

 

 

 

 

「……あぁ、いや。一つあるな」

 

 

 そう言ってステュアートは、「ハンバーガーの包み紙」を取る。

 

 

「……フィル! アラン! 聞きたまえ! とりあえず僕らは、このハンバーガーを買った店に行くべきだと思うんだ!」

 

 

 彼の提案を聞き、フィルは顔を上げた。やっとショックから立ち直りつつあるようだ。

 

 

「その、マクドナルドでもバーガーキングでもない店の奴か?」

 

「紙になんか書いてないの? 店の名前とか?」

 

 

 アランに聞かれ、すぐに包み紙を広げて見てみるも、ロゴマークらしき物があるだけで店名は書かれていない。パンズの代わりに、切り分けたオレンジで具を挟んだハンバーガーデザインのロゴだ。周りに様々な花も描かれている。

 

 

 

 

「それ、『ハナミチバーガー』だよ」

 

 

 そう言ったのは、ゆまだった。

 三人は一斉に彼女の方を向く。ゆまはハンカチで、口元に付いたジュースをぐしぐしと拭っていた。

 

 

「ゆまたちとおじさんたちが初めて会ったとこ。覚えてないの?」

 

「……お、オーケー! もう一回言ってくれお嬢ちゃん!」

 

「え?」

 

「あー……One、More……」

 

 

 簡単な単語で意思を伝えるフィル。ゆまも、One moreが「もう一度」と言った類の英語だとは知っていたようだ。

 

 

「もう一回聞きたいの? えっと、ハナミチバーガー」

 

「は、ハ・ナ・ミ・チ、バーガーだな!? 良しステュ! MCSで検索するんだ!」

 

「僕スマホ無くしてる」

 

 

 そうだったと口パクで言ってから、フィルは自分のスマホを開いて見滝原・シティサービス(MCS)アプリを開く。

 ふと、ステュアートが思い出したように尋ねた。

 

 

「確か、MCSは検索履歴が残るハズだ! それで昨夜の僕らの動きを探れないかい!?」

 

「履歴か? えーっと、待ってろ……あー駄目だ! 昨日アランと行ったバーとコンビニぐらいしかない!」

 

「まぁ……ラリってたらマトモにアプリなんて使わないか……失礼、続けたまえ」

 

 

 再びフィルが、アプリでハナミチバーガーを検索。

 その間アランは、床に這いつくばって、日向ぼっこ中のミリセントと鼻先でキスをしていた。

 

 

「ちゅっちゅっちゅ……あはは! めちゃくちゃ可愛い! もう飼っちゃおうかな!? だったら首輪買わないと! ねぇステュ!?」

 

「…………」

 

「わっ! ビックリした……」

 

 

 ステュアートから見れば、こちらにお尻を向けてる彼の、その後頭部にあるヴォルデモートと目が合う。ゆまもそれに気付き、驚いたように身体を跳ねさせていた。

 

 

 すぐにフィルが、ハナミチバーガーの検索を終える。結果、ヒットしたのは一件。

 

 

「よぉし! 見つけたぞ! どうやら個人経営のバーガーショップみたいだ!」

 

「場所は!?」

 

「そんな遠くない! よしっ! すぐに出るぞ! 支度しろ!」

 

 

 手を叩きながらフィルが全員を急かし、すぐに各々が準備を開始。

 

 

 バスローブ姿のステュアートは服を着ようとそのローブを脱ぎ、ベッドルームに行こうとする。その際に露になった彼の背中を、フィルは二度見する。

 

 

 

 その背中にも、悪魔の羽根をモチーフにした、派手で大きく禍々しいタトゥーが彫られていたからだ。更には腰の中心から尻の方へ伸びた矢印と、「MAXIMUM INSERT NOW!!」と書かれた文字のタトゥーも。

 

 

「…………」

 

「なんでメガネのおじさん、からだにお絵描きしてるの?」

 

 

 ゆまには見せないよう、手で視界を遮ってやった。

 

 

「おまたせ」

 

 

 振り返ると、頭をバスタオルでターバンのように覆ったアランが立っていた。腕の中にはミリセントがいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはー、まど……えぇ……?」

 

 

 いつもの待ち合わせ場所に着くと、そこにはゲッソリとしたまどかと、その彼女を慰める、共通の友達である「仁美(ひとみ)」の姿があった。

 

 

「ど、どうしたのまどか? この世の終わりみたいな顔してますけど……?」

 

「あぁ、さやかさん…あの、『昨日の子』にちょっと大変な事が起きたみたいで……」

 

「き、昨日の子? なにがあったの!? ちょ、ちょ、ちょっとさやかちゃんに言ってみ!?」

 

 

 まどかは項垂れたまま、まず溜め息を溢し、少し泣き出しそうな表情でぽつりぽつり話し始めた。

 

 

「……昨日の……猫ちゃん……」

 

「へ? ね、猫ちゃんって……あの、黒猫?」

 

 

 一昨日の事。マミとの「魔法少女体験コース」の後、トコトコとまどかの元に現れた黒猫。妙に懐いており、何と彼女の家まで付いて来ていた事を思い出す。

 

 結局あの後、一晩中まどかの家の軒先にいて、学校に行く彼女に気付いた途端にまた追って来ていた。なので仁美も黒猫の事を認知している。

 

 

「昨日の子って黒猫の事か……あれ? そう言えば今日はいないじゃん? アレ、学校帰りもずーっと付いて来てたよね」

 

 

 そうさやかが尋ねた途端、まどかは一層泣きそうになる。

 

 

「ちょちょちょちょ、なな、なに!? どしたの!?」

 

「ふぇ……あのね……」

 

「うん!」

 

「昨日の夜ね……」

 

「う、うんうん」

 

「天気予報、雨だったから……」

 

「そ、そうだったの」

 

「外れたんだけどね……」

 

「まどか。落ち着いて要点だけ言おっか」

 

 

 気が動転していて、どうにも話が纏まっておらず回りくどい。仁美と二人がかりで宥めさせ、落ち着かせてからまた話させる。

 

 

「……雨が降るかもって心配になって、夜ちょっと猫ちゃんの様子見に行ったの……そしたら……」

 

「そしたら?」

 

「……知らない人たちが猫ちゃん連れてっちゃった」

 

「え、何事?」

 

 

 一度聞いただけでは困惑する内容だ。続けてまどかは詳細を話してくれた。

 

 

「お外に出たらなんか……暗くて良く見えなかったけど、凄く騒いでる外国人の人たちがいて……怖かったから玄関で様子を見てたんだけど……そしたらお家の軒先まで入って来て、猫ちゃんを抱き上げて行っちゃって……」

 

「思った以上に内容が怖かった」

 

「まどかさんの身に何もなかったのが不幸中の幸いでしたけど……」

 

 

 仁美が労うものの、まどかは更にズーンと気落ちするばかりだ。

 

 

「猫ちゃん……うぅ……今頃酷い事されてたらどうしよう……」

 

「と、とと、とりあえず落ち着こうかまどかっ!? 大丈夫だって!!」

 

 

 思った以上に心労している彼女にタジタジとなりながらも、何とか励ましてやろうとさやかは頑張る。

 

 

「元々野良猫だったんだし、そんな弱い猫じゃないってさ! ねっ、仁美!?」

 

「そ、そうですわよ? 今頃逃げ出して、迷っているだけかもしれませんわよ?」

 

「車に轢かれたらどうしよう……」

 

「重症だなコレは」

 

 

 それでも尚、まどかの心配性は止まらない。

 困ったように頭を掻いてからさやかは、グッと彼女の肩を叩きながら頼もしげに言う。

 

 

「分かった分かった! じゃあ、このさやかちゃんが、今日中にっ!……黒猫を探し出してあげるから!」

 

 

 俯きがちだったまどかの顔がやっと上がり、驚いた表情でさやかを見やる。

 

 

「きょ、今日中……?」

 

「そうっ! だからまどかは、()()に乗ったつもりで安心しなよ!」

 

()()だよさやかちゃん……でも今日中なんて……無茶じゃないかな?」

 

「大丈夫大丈夫! 何てったってあたし──」

 

 

 ピタリと、さやかの動きが止まる。その目は誰かを見つけたかのように、一点に向けられ止まっていた。

 街角よりちらりと、ほむらの姿があった。こちらを監視するように、遠巻きから見ている。そしてさやかの視線に気付いたのか、サッと身を翻して消えた。

 

 

「……あいつ……言ってやらないとね」

 

「……さやかちゃん?」

 

 

 彼女の変化を怪訝に思うより前に、さやかはパッとまどかから離れ、仁美に話しかけた。

 

 

「……仁美! 悪いけど、まどか連れて先学校行っててくれない!?」

 

「え? あの、どうなされて……?」

 

「えーっと……わ、忘れ物取りに行くだけーっ!」

 

 

 そう言い残し、彼女は颯爽と去って行く。

 その後ろ姿を呆然と、二人は見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 走って行ったさやかは角を曲がり、嫌味の籠った声音で、そこにいた人物を呼び止めた。

 

 

「よぉ〜、ほむらさ〜ん?」

 

「…………」

 

 

 ほむらは鬱陶しそうな目付きで振り返る。

 

 

「……なに? 美樹さやか」

 

「いや。改めて忠告しとこって思って」

 

「……忠告? あなたが?」

 

 

 やけに余裕のある態度だ。さやかのその態度を疑問に思い、ほむらは質問した。

 

 

「……巴マミもいないのに強気ね。何か魂胆でも?」

 

 

 途端、彼女は腕を組み、得意げに鼻を鳴らす。

 

 

「ふん! まぁ、これからはマミさんだけじゃなくて、あたしにも気を付けるべきだって言いたい訳!」

 

「質問の答えになっていないわ」

 

「あれー? 賢いあんたならすぐ察せるかと思ったんだけど?」

 

「は?…………」

 

 

 ほむらの目が一瞬大きく丸くなり、次には一層その目付きを鋭いものにした。心なしかその挙動と表情には、動揺が走ったようにも見える。

 

 

「…………あなたまさか……」

 

「まどかとマミさんにはまだ報告してないんだけど……実は昨日、『契約』してさぁ?」

 

 

 するとさやかはポケットから何かを取り出す。

 

 

 

 

 それは蒼く輝く、卵型の宝石。

 

 

「……ソウル、ジェム……」

 

「ふふん! どうよ?」

 

 

 自信に満ちた顔でそれを見せ付けるさやか。

 

 

「これであんたも、あたしも……対等じゃん?」

 

 

 

 

 宝石──ソウルジェムの蒼い光を微か浴びながら、ほむらは苦々しく呟いた。

 

 

 

 

「……やけに早いじゃない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MCSの案内に導かれるまま、フィルたち一行はハナミチバーガーへと向かう。

 ステュアートはタトゥーを見られないよう、上条に会った時に使用していたスーツを着ている。アランも同様で、後頭部のヴォルデモートを巻いたバスタオルで隠しつつ、抱いたミリセントを撫でながら後に続いている。

 

 一方のフィルは、逸れないようゆまと右手を繋いで歩いていた。左手には店までの地図が表示されたスマホが握られているが、傷口が開いて痛み出したのか、時折その左手を忌々しげに睨んでいる。

 

 

「ハンサムのおじさん……手、大丈夫?」

 

 

 ゆまはそんな彼を心配し、声を掛けてくれた。言葉は通じないものの、心配そうな眼差しと声音で、気を遣ってくれている事を容易に理解出来た。

 

 

「ダイジョーブだゆま! 何てったっておじさんは、スーパーマンとスパイダーマンと同じアメリカ出身だぞぉ? とても頑丈なんだ!」

 

「フィル……父性を発揮してるのは結構だが、言葉は通じてないからな? それに、その子を早く親元に返さないとマズイ……」

 

 

 呆れた顔でステュアートが忠告する。

 

 

「君だって自分の息子や娘がいなくなったら、すぐ捜索願いを出すだろ?」

 

「……あぁ、確かにそうだ……バーガーショップに寄ったら、適当に通訳出来る奴を探そう。で、聞きたい事聞き出せたらとっとと送り返してやろう」

 

「それが良い」

 

 

 問題は、ゆまがマズイ事を口走っても通報しないような、正義感もなく他人の事情に無関心な通訳者がいるのかどうか。正直二ヶ国語を話せるほど教養のある人間でそんな人物はいるのかと思いたいところだが。

 

 

 三人の後ろをトコトコと付いて来ているアランは、ミリセントに頬擦りしながら白い宝石を取り出した。

 

 

「それにしてもコレめちゃくちゃ綺麗だよね……なんか光ってるし。多分コレは神様がくれたプレゼントなんだ!」

 

「みゃー」

 

「ミリセントもそう思うだろ?……俺は恐らく、神に選ばれたんだ」

 

「アラン、僕の後ろでぶつぶつ言うのはやめろ」

 

 

 背後で妄想を展開する彼を邪険に思いながら、ステュアートは憂鬱そうに首を振る。

 暫くフィルの案内が続いたが、やっと目的地に辿り着いたのか、機嫌良くスマホの液晶を叩いてから「ここだ!」と彼は声を上げた。

 

 

 フィルが指差した先には、例のバーガーショップ。店頭の看板には、包み紙にあった物と同じロゴマークが描かれている。

 そしてこの店のある通りは通学路のようで、制服を着込んだ多くの学生で少し混雑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……猫ちゃん……」

 

「か、鹿目さん、そろそろお気持ちを切り替えましょう?」

 

 

 二人の女子生徒がアランの後ろを通り過ぎる。ふと振り向いたアランの目が、その少女らの足に釘付けとなる。

 

 

「……ミニスカ……黒タイツと白ソックス……ヤバい。日本のJKヤバいよ」

 

「ジロジロ見るなアホ」

 

 

 邪な視線を遮った上で、ステュアートは彼の肩を掴んで歩かせる。

 フィルもゆまの手を引き、二人に続く。途中、彼女は楽しそうに話しかけた。

 

 

「キョーコはこのお店にいるんだよねっ?」

 

「え?……あー……そうだな! 今日はここで朝飯でも食うか!」

 

「わーい! ()()ハンバーガーパーティーだぁ!」

 

 

 無邪気な笑顔に和みながら、フィルは店の方へ進む。

 

 ふと、前を通りかかる二人の女子生徒に気付き、一旦歩みを遅らせた。

 

 

 

 

「……あなたいつまで付いて来るの?」

 

「とりあえず教室まで。まどかに何かするか心配だし?」

 

「…………襲うにしてもこんな往来じゃ出来る訳ないでしょ」

 

「どーだか?」

 

 

 険悪なムードを醸す二人が通り過ぎると、すぐにフィルは元のペースで歩き出す。

 一方ゆまは一瞬、その二人を不思議がるような視線を向けた。

 

 

 

 

 そんなこんだで行き交う学生らの間を縫って、四人はバーガーショップ「ハナミチバーガー」のドアを開ける。

 ちりんちりんと、アンティーク調のドアベルが揺らされて鳴った。

 

 

 

 

 

「いらっしゃ──うわっ!? また来やがったッ!?」

 

 

 早速店員に身構えられてしまった。




【解説】
・ステュアートが上条父に促した事で、恭介は原作軸よりも早く、自身の腕が治らない事を知る。
 伴って、彼の激情を受けたさやかがキュゥべぇと契約を交わすイベントも早めに発生。
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