ガチの悪役は世界観的に禁止スよね   作:ポッキー

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双子の妹

 

 

 

 そのウマ娘を知ったとき、私の胸中に生まれたのは焦燥感だった。

 

 数週間前に転入してきた彼女は、病弱ながらトレセン学園の適性試験を問題なく突破したという、異例な経歴の持ち主。

 ライジングホッパー。

 それが彼女の名前。

 転入早々にオグリキャップというウマ娘から併走を申し込まれ、走った際に七バ身も差をつけて先にゴールをしたことから、その少女は周囲から注目を集めるようになった。

 噂は瞬く間に広がり、当然私の耳にもそれは入ってきていた。

 

 曰く、天才だとか。

 転入してきたばかりとはいえ、互いに手を抜かないようにと前置きしてから走ったらしいのだが、オグリキャップが言うには『追い付けるビジョンが見えなかった』とのことで。

 そんな鮮烈な学園デビューを果たした彼女の話の一つに、個人的にどうしても見過ごせないものが存在していた。

 

『あの転入生のライちゃん、すっごくアヤベさんに似てるよね!』

 

 生徒の誰かが、何の気なしにそんなことを呟いていて。

 気になって別のクラスへ確認しに行ったとき、なるほど確かにと納得してしまった。

 似ている。

 瓜二つ、と言っても過言ではないかもしれない。

 顔はもちろん、耳の長さも、目の色も。

 唯一違うところを挙げるとすれば髪だろうか。

 私に比べると明るめな亜麻色の髪で、加えてかなりのくせっ毛だ。

 日頃の手入れが大変そうだな、なんて思いつつ、私は心のどこかで別のことを考えていた。

 

 ──とても母に似ている、と。

 

 私の母も、地毛が明るい亜麻色で、毎朝クシで梳かすのに苦労するほどのくせっ毛だった。

 反対に父親は落ち着いた髪質で色も黒く、どちらかと言えば私は父に似たらしい。

 死産した双子の妹の話を母をしたとき、もし生まれていたらその子はお母さんに似た明るいくせっ毛だったかもしれないね、などとつい口にしてしまったことがあるのだが、事実双子として生まれていたらそうなったに違いないとも思っていた。

 だが、妹はこの世に生を受けなかった。

 まるであり得ない、ただのIFの話だ。

 妹の代わりに私が生まれた。

 だから、私は勝利をあの子に捧げるためにレースを──そう、思っていたのに。

 

『あの子、アヤベさんの従姉妹とかだったりするんですか?』

 

 同室のウマ娘にそんな質問をされてしまって、ついに彼女を他人の空似では片づけられなくなってしまった。

 そっくりだ。

 あまりにも似すぎている。

 もし私の双子の妹が無事に生まれていたなら、きっとあのような姿になっていただろうと、そう考えることができてしまうくらい転入生は私と母の特徴を併せ持っていた。

 

 だが、現実として私と彼女は他人同士だ。

 ライジングホッパーという名前も初めて聞いたし、なんならまだ初めましてという挨拶すら交わしていない正真正銘の他人だ。

 関係ない。

 きっと関係ないはずなのだ。

 世界には三人自分とそっくりな人がいるとか、そんな話だって聞いたことがある。

 彼女の特徴に引っかかる部分があり過ぎるなんて、こちらの勝手な思い込みに過ぎない。 

 だというのに、なぜか彼女が気になってしまう。

 ライさんと一度話がしたい。

 それで無関係を証明して、心の平穏を取り戻したい。

 両親に『実は妹は一緒に生まれていて、どこか別の場所で生活させていたんだろう』だとか、荒唐無稽で無知蒙昧な質問をしてしまう前に、はやく自分の中の思い込みを解消したい。

 

 そう思って……でも、どうやって話しかければいいのか分からなくて、結局時間だけが過ぎていく。

 今日もそんなことを考え続けていたせいで時間を忘れてしまい、いつの間にか寮の門限ギリギリの時間までトレーニングしてしまっていた。

 こんなんじゃダメだ。

 改めて彼女に話しかけるためのきっかけ作りを、まじめに考えることにしよう。

 そうやって頭の片隅で今後の作戦を練りながら、自分の担当トレーナーが用意してくれたトレーニング器具を片付けようとして──

 

「……あっ」

 

 ──私は、不審者と出会ったのだった。

 

 

 

 

 

 

『誤解っ! 彼は私の部下であり、ウマ娘を守る影の騎士である!』

 

 誤解されかねない場面をアドマイヤベガに見られ、案の定大きな誤解を招いてしまったあの夜は、理事長室から急いで駆けつけたやよいさんによって一旦治められた。

 現場を見られてしまったアヤベさんには、やむを得ず俺が()ットマンとして秘密裏にウマ娘たちを守護している事実を教えた。

 というか、そうするしかなかったのだ。

 コレはやよいさんの判断だが、少なからず巻き込む形でアドマイヤベガをこちら側に引き込むことでしか、事態の収束は図れなかった。

 

 教えた項目は大きく分けて二つ。

 俺が日夜変な格好をしてウマ娘たちを守っているヤバいコスプレ野郎だということと、街で暴れている怪人をウマ娘に戻す使命を帯びているという事実だ。

 美少女ウマ娘に変身できることだけは隠すことになったわけだが、これが吉と出るか凶と出るかは定かではない。

 どのみち俺はやよいさんに従う以外の選択肢は残されていないのだ。

 

「……理事長先生の言葉を疑うわけじゃないけれど、やっぱりあなたは怪しすぎるわ」

 

 放課後。

 俺は例の件で不可抗力的につながりが生まれてしまったアドマイヤベガに同伴されながら、商店街での買い物に勤しんでいた。

 声が低い。

 こわい。

 

「本当にあの場で、あのウマ娘の体を触ったりしなかった?」

「してません……」

「見てる人がいないのをいいことに良からぬことをしてたり──」

「やっていません……」

 

 先ほどからずっとこの調子だ。

 一応やよいさんから一通りの説明は受けたはずだが、俺に対しての最悪な第一印象が抜けきらないのか、アドマイヤベガはとにかく俺に質問を投げかけ続けて、失言を引き出そうとしている。

 

 いや、彼女の気持ちはわかる。

 確かに怪しいのはそうなのだ。

 事実人気のない場所で半裸の少女を抱き上げようとしていたのは寸分違わぬ真実です。

 しかし、これからどうしたものか。

 崇高なる秋川理事長大先生におかれましては、昨晩『彼が怪しいと思うのなら間近で観察し、見極めるといい』と仰られており、その通りアヤベさんは俺を監視することにしている。

 別に普段の行動を見られる分には構わないのだ。

 俺だってウマ娘たちのことは普段から眺めまくってるわけで、その代償と考えれば受け入れられなくもない。

 

 問題は変身ができなくなることだ。

 俺が変身しているウマ娘は、様々なデータをもとに"この世に存在しないウマ娘"をコンセプトとして作られたモノなのだが、秋川理事長に判断により、俺はそのウマ娘に変身できることをアヤベさんに隠している。

 

 改めて考えてみれば、確かに女の姿に扮した成人男性が自分の通っている女子高に在籍している、というのは不気味極まりないものだ。

 そこをボーダーラインとしている理事長の考えも分からなくはない。

 あくまでウマ娘は守るけど線引きはしっかりしていて、女の子に変身して女の子にしか入れないような場所まで出入りできるようにさせているだなんて無法なことをしていませんよ、というスタンスを崩さないように振る舞うことを、理事長は俺に求めているわけだ。

 実際の理事長はこの通り、ウマ娘を守るためならなりふり構わずどんな手でも使うという、大人も腰を抜かす恐怖のロリっ娘なのだが。

 ともかく、アヤベさんの前で変身できない以上、もし街中で怪人に遭遇したら、俺はこの身一つで戦わなければならない、ということが問題なのだ。

 

 冷静に考えて、普通に凶器を持った人間や、暴れ狂う野生動物の数十倍は危険な相手を相手にして、何の訓練もしていない一般人が無事で済むはずないと思うんだけども。

 やよいちゃんホント何考えてんの。死ぬよ俺? そこ何とか頑張れって話?

 

「……あっ」

 

 頭を唸らせながら歩いていると、アドマイヤベガが足を止めた。

 彼女の視線の先には──ぬいぐるみ。

 商店街のくじ引きの景品であるらしく、そのフワフワなぬいぐるみを狙ってクジを引き、ティッシュをもらって帰っていく女児の姿などが見受けられた。

 

「気になるのかい、あのぬいぐるみ」

「えっ。……い、いえ別に。なんでもないわ」

 

 照れてる~! かわいい~!!

 なるほどそうか。

 アドマイヤベガってぬいぐるみが好きなのか。

 元の世界じゃゲームでも育成してなかったし、簡単なキャラの概要くらいしか知らないが、フワフワなものが好きという話は、思い返してみれば確かにあったような気がする。

 

 あとは何だっけ……あぁ、アレだ。

 双子の妹とかがいたんだっけか?

 キャラストーリーについてちょっとだけ何かで目にした覚えがある。

 あのぬいぐるみも、自分が好きなだけではなく、双子の妹にあげたら喜びそうとか、そんな感じのことを考えていたのかもしれない。

 

「やってく? さっきくじ引き券一枚だけもらったけど」

「結構です。監視のためについてきただけだから」

「……そ、そうすか」

 

 やらない、と言われたので素直に手を引いた。

 たぶん好感度マイナス100くらいだろうし、そんな状況で無理やりクジを引かせたところで意味はないだろう。

 あと雰囲気が怖かった。

 

 ……それにしても、彼女は俺がどんなことをすれば怪しい人物ではないと納得してくれるのだろうか。

 ぶっちゃけウマ娘を盗撮魔よろしく性的な目で眺めてるのは事実なわけで、怪しい人物であることに変わりはないのだが──

 

 

「み、みんなー! 逃げろォー!!」

 

 

 商店街を抜ける直前に、向かい側から八百屋のおっさんが焦燥の表情でこちらに走ってきた。

 それに釣られて商店街の人たちは、俺たちの進行方向とは逆のほうへ駆けていく。

 あぁ……。

 うわ、たぶんこれ怪人が出てるな。

 昨日の今日なのに、マジもぅほんと勘弁してほしいんですけど卍。

 

 語彙がギャルになるくらいウンザリしながら横を見ると、隣にいるアドマイヤベガが困惑していることに気がついた。

 

「なっ、なに……?」

「恐らく昨日街で暴れていたような怪物がこの先にいる。きみは先に避難しなさい」

「っ、言われなくても、逃げるつもりだけど……あなたは」

 

 いやまぁ、物理的に逃げるわけにはいかないんで。

 敵前逃亡すると生活ができなくなるから戦うしかないんですね、お兄さんは。

 戦わなければ生き残れない!

 本当はめちゃくちゃ逃げたい!

 

「理事長から聞いていただろう。俺は怪人にされたウマ娘を助けに向かわなければならない。危ないから君は先に帰るんだ」

 

 アヤベさんがいなくなれば変身できるから! 

 早く帰ってくださいお願いします!

 

「で、でも、あなた一人じゃ」

「俺の心配は無用だ。それより君に怪我をさせるわけにはいかない」

 

 押し問答をしてても埒が明かない。

 とりあえず強めに言って、まずこの場を離れてもらわなければ。

 

「さっさと行くんだ、怪物と相対すればどうなるか分からない。……妹に会えなくなってもいいのか! はやく行けっ!」

 

 よーしこんなもんだろ。

 強めに意見されたせいで怯んだのか、アヤベさんも固まったし、そろそろ走って現場に向かおう。

 

「…………えっ」

 

 そう思って駆けだしたのだが、なぜか後ろからアドマイヤベガが追いすがってきている。

 人間の脚力で振り切れるはずもなく、彼女はあっという間に俺と併走をしてしてしまった。

 

「ま、待って……! あなた、あの子の事を知ってるのね! 最近転入してきたライってウマ娘、やっぱりなにか──」

「おいおいオイちょっと待て付いてくんなってぇ!!?」

 

 学園で彼女の艶めかしい太ももを眺め続けた罰なのか、結局俺はアドマイヤベガを連れたまま、現場へ急行することになってしまうのであった。泣きそう。

 

 

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