ガチの悪役は世界観的に禁止スよね   作:ポッキー

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 街道を駆けながらビームを放つ怪人を視認して、まず最初に感じたのは『そんなバカな』という動揺だった。

 

 容姿はトレセン学園指定の競泳水着を身にまとった、キツネの面を被った少女なのだが、俺には身体のある一部分に強烈な既視感があった。

 ──胸だ。

 彼女のデカ過ぎるその胸部を俺は知っている。

 なんならあのモッサモサなボリュームたっぷりの長い黒髪にも覚えがある。

 まさかとは思ったが、やはりどう考えても間違いない。

 

「んんンンンンンッマーベラァァアアスッ!!!!」

 

 エコーのかかった特殊な声音で咆哮し、仮面の少女は指先から眩いレーザーを発射する。

 その攻撃に当たった者は──

 

「きゃあっ!? ……ひっ! なっ、なにこれェ!!」

 

 怪人に背を向けて逃げていた女性がビームに直撃し、一瞬で一糸纏わぬ姿になった自らの格好を見て悲鳴をあげた。

 どうやら当たった対象の衣服を消滅させてしまうという、恐ろしい攻撃をまき散らしているらしい。

 先日の怪物が火災の化身であるなら、今日の敵は社会的にヒトを滅殺する怪人、と言ったところだろうか。

 能力に落差があり過ぎて逆にリアクションが取れなくなってる。

 服を消すなどギャグのような能力だが、実際に公衆の面前であられもない姿になってしまったら、おそらくどんな人間でも羞恥心で精神的に再起不能になるに違いない。

 これは昨日よりももっと急いで片付けなければいけない案件だ。

 

「マママッ☆★」

 

 あの敵怪人、正体は間違いなくマーベラスサンデーというウマ娘だろう。

 卑劣なほどの巨乳で俺を失意の底から救ってくれた恩人であり、いつかそのマーベラスなマーベラスをこの手で掴むと心に決めたウマ娘でもあるのだが、まさか俺の目の届かないところで組織に狙われていたとは思わなかった。

 小柄、モサモサな黒髪、かつバレーボールみてぇなデカ乳とあれば、該当するウマ娘は彼女しかない。

 ムチッ♡ ムチッ♡ なんて効果音が聞こえてきそうな彼女だが、怪人になって正気を失っているのか、競泳水着で路上を闊歩していることなど露ほども気にせず破壊活動に勤しんでいる。

 彼女の名誉のためにも早急に事態の解決に向かわねば。

 

 警察が現場に到着し、怪人に発砲する──といった事態だけはどうしても避けなければならない。

 正体は隠しているものの、俺も一応お国の協力者であるため、警察にも『コスプレした変なやつは味方』という情報は共有されている──が、立場としてはやはりグレーゾーンだ。

 怪人にされたウマ娘のプライバシーを守るため、警察による逮捕も連行も事情聴取も取り調べも、その何もかもをやらせないよう先回りする必要がある。

 つまり危ない橋の上を歩きながら、なんとか現状がギリギリ成立しているだけなのだ。

 猶予はほとんど残されていない。

 

「……あの子を助けるのは分かるけど、まず何から始めるの?」

 

 路地裏に隠れてリュックを下ろすと、アドマイヤベガが訝しんだ表情で質問してきた。

 

「まず着替える。よいしょ」

「えっ。──キャッ!?」

 

 時間がないためさっそくシャツを脱いで上半身を露にしたのだが、前方からかわいらしい乙女な悲鳴が聞こえてきた。

 めっちゃ意外だ。

 アヤベさんってあんな声出せるのか。

 

「……脱ぐなら先に言って」

「見るなよ、えっち」

「み、見てないわよ!」

 

 素っ頓狂な声を上げたのが恥ずかしかったのか、アヤベは少々赤面しつつ恨めしい表情で横に目を逸らす。

 いやぁ初心ですね。

 こんな声が聴けるならこれからも目の前で着替えをしていきたいところですわ。

 

「……その恰好は」

 

 全体的に暗いブラウン色で統一されている戦闘スーツに着替えると、彼女は品定めするように俺を凝視した。

 

「戦う際にいつも着てるんだ。正体を隠すためにな」

「それに武装が付いているの? 見たところ、ただの薄手のスーツ……というか、どこかのヒーローのコスプレにしか見えないのだけど」

 

 どこかのヒーローのコスプレです……。

 冷静に女子高生の前でマント姿のヒーローコスチュームに着替えてんの恥ずかしくね?

 

 いや、ひとつだけ言い訳させてほしい。

 俺が毎回正体を隠すために着ているこの服に特殊な機能が備わってないのは、そもそもヒトの身体で戦うことを想定しているわけじゃないからだ。

 いつもならアホみたいな身体能力を有しているウマ娘に変身して戦闘を行うわけで、その時に装着するだけのこのスーツに身元隠蔽以上の役割は求められていない。

 防刃機能やちょっとした耐熱耐水の性質こそあれど、この格好はウマ娘状態の時の顔と耳と尻尾を隠すための、正真正銘ただのコスプレ衣装なのだ。

 伸縮機能のおかげで男の状態でも着れるが、これがなかったら本当にお手上げだった。

 

「立場上あの怪人らを止める役だが、ウマ娘はむやみに傷つけてはならない、って上司に釘を刺されててな。危険な武器なんかは所持できないんだ」

 

 要求値が高いよね! 理不尽。

 

「ともかく、この怪人化を解く腕輪を彼女に装着させることができればそれで終わりなんだ。どうあれやるしかない」

 

 唯一の対抗手段である腕輪を取り出し、変声器を起動してから路地裏を飛び出していく。

 

「くれぐれも邪魔しないように!」

 

 そう強めな口調でアヤベに待機を命じ、俺は恐怖の衣服溶かし怪人のもとへ急行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 …………困ったことになった。

 

「い、痛っ! もっと優しくやってくれよぉ~」

「うるさい我慢して。……まったく、無茶しすぎなんだから」

「あはははっ、マーベラスだね☆」

 

 場所は閑散とした人気のない公園。

 俺の目の前には三人の少女がおり、内一名は暢気にブランコで遊び、残りの二人は怪我の応急処置をする側される側に分かれている。

 

 

 ──事の顛末を振り返ろう。

 

 まず路地裏を飛び出して怪人のもとへ向かうと、現場にいながらも未だに逃げていない市民が残っていることに気がついた。

 服溶かし怪人と正面切って向かい合っていたのは、学生服を着たウマ娘。

 あまりにも見覚えのあり過ぎる彼女は、驚くことにその身一つで怪人と戦おうとしていたらしい。

 

 彼女の名はビコーペガサス。

 先日怪人の脅威から助けたばかりの、ヒーローでも何でもないただの一人の学生が、泣いて動けなくなっている子供を守るためにその身を挺して立ちふさがっていたのだ。

 あたしは逃げない、キャロットマンみたいに──そう言って両手を広げていた彼女は、他者から見れば無謀だの蛮勇だのと揶揄されてしまう姿をしていたかもしれない。

 だが、彼女が背後に庇っていたその子供にとっては、間違いなく彼女はヒーローだった。

 その姿を見た俺もそう思った。

 ラドンもそうだそうだと言っています。

 

 怪人化したウマ娘はもちろん、彼女たちに襲われる可能性のある市民も守るのがミッションであるため、ビコーペガサスだけではなく守られている子供も、まとめて俺が助けなくてはいけなかったのだが、事態は意外な方向へと進んだ。

 キーとなったのはアヤベだ。

 あまりにもおっぱいデカ過ぎ怪人が、俺とビコーに気を取られた隙を突き、アドマイヤベガが走って子供を救出してくれたのだ。

 隠れていろと警告していたはずなのだが、彼女の善性は危険な目に逢っている子供を見過ごすべきではないと判断したらしい。

 

 アヤベのおかげで庇うものがなくなり、衣服を溶かすビームも怖くないと判断したのか、ビコーペガサスはすぐさま怪人のほうへ駆けだして。

 一度転倒して膝を擦りむいたものの、彼女は見事背後に移動し腕を回して怪人を拘束してくれたため、俺は攻撃を食らうことなく怪人に鎮静化の腕輪を装着することができた──というのが事の真相だ。

 

「はい、とりあえずはこれで。念のため学園に戻ったら保健室へ行って」

「ヘヘッ、ありがとう! ……アヤベさん、なんだかお姉ちゃんみたいだな!」

「ハァ……あなたみたいな妹を持った覚えはないのだけど」

 

 ビコーの擦りむいた膝を水で軽く洗い、常備していた絆創膏で応急処置を施したアヤベは、続いてブランコに乗っているマーベラスサンデーのほうへ向かっていった。

 

「マーベラスさん、よかったら私のジャージを着て。そのマントだけじゃ薄着すぎるでしょう」

「わっわっ、いいの?」

「後で返してくれたらそれでいいわ」

「~~~ッ!!! なんてマーベラスなの! 好きっ!」

「きゃっ。……ちょ、ちょっと、抱き着かないで……」

 

 マーベラスサンデーはボディラインが出まくってる競泳水着しか身に着けていなかったため、怪人化を解いたあとはとりあえず俺のマントを羽織らせていたのだが、アヤベが気を利かせてくれたようだ。

 ジャージ姿に着替えたマベちゃんは改めてアヤベを抱擁し、この空間の百合指数向上に一役買っている。

 すると、彼女たちを見ていたビコーペガサスがこちらへ近づいてきた。

 何でしょうか。

 

「あの、ットマン。……助けてくれて、ありがとう」

「う、うむ」

 

 脳が解けるような可愛すぎる声で話しかけられ、思わず動揺してしまった。

 前から思ってたんだが、このビコーペガサスってウマ娘、声があまりにもかわいい。

 スタイルは平均的で見た目も至って普通な分、ステータスを声に全振りしたんじゃねえのかってぐらい声がとてもかわいいんだが。

 贅沢は言わないから、せめて耳元で囁きASMRしてほしい。それだけお願いします。

 口角が吊り上がりそうになるのを堪えつつ、未だに仮面とスーツを纏って正体を隠している俺は、変成器を通して返事をした。

 

「こちらこそ、協力感謝する」

「へ、へへっ。ヒーローに感謝されるなんて、こんなに嬉しいことはないよ」

「……私はあくまで怪人化を解き、君たちをここへ運んだだけだ。あの場にいた者のなかでヒーローと呼ばれるにふさわしい存在は、子供を救ったアドマイヤベガと──君だ。ビコーペガサス」

「えっ……」

 

 目を丸くした彼女に、一拍置いて続ける。

 

「子供を守り、突破口を開き、高潔なる勇気を見せてくれた。君こそヒーローだよ」

ットマン……」

 

 目を輝かせるビコーペガサスは、まるで初めてヒーローショーで憧れのヒーローを実際に目にしたときのような、少年のような眼差しだった。

 ていうか、前から思ってたんだけどそのネーミングなに……?

 自分から名乗ることがなかったとはいえ、まさか聞いたことのあるヒーローと似た名前を付けられるのは予想外だった。

 

「な、なぁ、ットマンはどうして正体を隠しているんだ? あんたが誰なのか気になるんだ」

「すまないが、教えることはできない。私は──」

 

 アヤベには知られてしまっているが、元々は他人に喋れるような内容ではない。

 ので、正体を口外できない理由を説明しようとした、その瞬間。

 

「マーベラスッ!!」

 

 いつの間にか背後から迫っていたマーベラスサンデーに、勢いよく俺のマスクを外されてしまった。

 

「…………」

 

 ……。

 …………。

 

「ばっ、ットマン!?」

「あーっ☆ やっぱり清掃員のお兄さんだ☆ 口元が似てるからもしかしてって思ったけど、マーベラス大正解!」

 

 突然のことで驚きのあまり一歩後ずさるビコーペガサス。

 助けてくれて大感謝マーベラス☆ と言いながら背中に張り付いてくるマーベラスサンデー。

 そして遠くのほうで頭を抱えているアドマイヤベガ。

 

 そんな三人を目の当たりにして、俺は改めて思う。

 守る対象が無軌道すぎる。

 なんでウマ娘ってこんなに行動力に溢れていて、しかもみんな言うことを聞いてくれないのだろうか、と。

 一応国家機密に抵触する程度には重い俺の正体を暴いたマーベラスサンデーに対しては、ちょっとヤンチャが過ぎるのでお仕置にそのデカ過ぎるおっぱいを揉ませろとも思ったが、衝撃の事態で逆に冷静になっていた俺は別のことを考えることにした。

 

 声がかわいいビコー。

 ロリ爆乳マーベラス。

 ツンデレ優しいアヤベさん。

 この三人は俺の正体を知ってしまった。

 それはつまり、知ったほうにもその情報を持つだけの責任が発生するということだ。

 こうなったら責任を取ってもらい、これからも俺と関わってもらおうじゃないか、と。

 

「……俺の正体を知ったからには、そのまま返すことはできないぞ」

「マっ?」

 

 なにその語彙。マ?

 

「脅すわけじゃないが、俺のことを口外したら君たちの身に何が起きるか分からない。……自分だけではなく、他の二人も守るという意味で、君たちには俺の正体の黙秘を徹底してもらいたい」

 

 バレたら理事長に怒られるんで、そこら辺はマジで。

 

「命の恩人のお願いならもちろんマーベラス☆」

「あっ、アタシもちゃんと黙ってるよ! ヒーローに秘密はつきものだし……へへっ」

「……はぁ。面倒なことになったわね……」

 

 ほら、あれだ。

 いわゆるギャルゲーで言うところのヒロインってやつだ。

 三人いるしちょうどいい。

 秘密の共有をしたのだから、繋がりとしては十分だろう。

 この世界に来てから目標も目的も何もなかったが、いまは明確に『コレをやろう』というのが浮かんでいる。

 この三人には逆に秘密を通して意地でも俺と関わってもらう、って感じでどうだ。

 彼女らと日常を送り、この三人のうちの誰か一人を必ず攻略し、あわよくば元の世界へ戻るときにお持ち帰りするぐらいの気持ちで、このTS美少女とットマンと清掃員のお兄さんの三重生活をこなしてやる。

 この共通ルートを突破して、美少女三人のうちの誰か一人との個別ルートを切り拓くんだ。

 

 何を言っているのか分からないが俺も分からない。

 ヤケクソで考えてるだけなので、細かいこととか気にしていられんのだ。

 よーし、やるぞ……えいえい、むん。むんむんむん!

 

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