最新巻(現時点では新約10巻)のネタバレを含む可能性もあります。ご注意ください
「……ま」
「あの……インデックス、さん?」
突然だが、上条当麻は平凡な少年である。
右手には普通の人間とは違う特異な能力が宿っているとはいえ、それでも名目上は一般人である。
右手一つで第三次世界大戦を切り抜けた実績の持ち主とはいえ、本質はただの男子高校生なのである。
ただ、あえて何か他と違う所を挙げるとするならば、
「とーうーまぁあああああっ!!」
「ちょっとまてまた何か勘違いしてぎゃあああっ!」
彼は尋常ではない不幸の持ち主である、という所だろう。
*****
話は少々遡る。
上条当麻は学校での授業を終え、夕方の学園都市を一人帰路についていた。
その最中、彼は真後ろから女性の叫び声を聞いた。
「きゃあああっ!」
「…っ!?」
すぐさま振り返る上条。すると、黒のジャンバーに灰色のニット帽を被った男が女物のバッグを抱えてこちらに走ってくる光景が目の前にあり、その背後には叫び声をあげたのであろう若い女性が倒れていた。
引ったくり。すぐさまそう判断した上条は、進路を塞ごうと犯人の男を正面に見据える。
男は上条に気がつくと慌てたように進路を変え、上条を抜きさろうとした。
「こんのっ…!」
上条の行動は早かった。
手に持っていた鞄を男の後頭部へと投げつけ、よろめかせたところへと突撃。ラグビーの如きタックルで犯人を押し倒したのだ。
その後、周りにいた人々の協力によって男を抑え込み身柄を拘束。駆けつけた
上条は取り返したバッグを持ち、未だに地面に手をついていた女性へともう片方の手を差し出す。
「あの、大丈夫ですか? ケガとかは?」
「は、はい。ありがとうございます。怪我は特にないんですが、その……」
苦い表情をしながら女性が指差したのは、地面に落ちた衝撃で片方のレンズが割れてしまったのであろう眼鏡。
「あっちゃあ……これはもう使えないな。眼鏡がないとほとんど見えないんですか?」
「はい。お恥ずかしいながら……」
恥ずかしそうに、申し訳なさそうに顔を伏せる女性。
暫しツンツン頭を掻きながら考えていた上条は、やがて意を決して口を開く。
「じゃあ、家まで送りますよ」
「え?」
「見えないままじゃ危ないし、ここまで来たら最後までお付き合いします」
でも……と渋る女性を宥め、手を引いて起こす。
正直これ以上帰るのが遅れると暴食シスターさんが冷蔵庫内の食料を全て食い尽くしてしまいそうなのだが、こればかりは仕方がない。
(はぁ、また買い物に行かなくちゃならないのか。昨日買い出しに行ったばかりだぞ……)
などとぼんやり考えていた上条だったが、次の瞬間、彼は左腕に何やら妙な感触を覚えた。
「?」
一瞬理解が追い付かなかった上条だが、すぐに状況を把握する。
そう、立ち上がった女性は上条の左腕へとすがっており、その胸(しかも大きい)が彼の腕へと密着していたのだ。
(や、柔らかい……じゃなくて!)
「すいません、本当に見えなくて……お願いします」
彼女の方に他意は無いらしく、ただ単純に支えとして上条の体を借りているようだ。自分の胸が少年の腕にくっついている事などまるで気にしていない。
対する上条はと言うとあくまでも冷静を貫こうとしていた。
(落ち着け、落ち着くんだ上条当麻。そんな事よりも早く任務を遂行することだけを考えろ!)
残念なことに、このような思わぬハプニングも彼にとっては憂うべき事態でしかない。こんな所で時間を食っていては例のシスターさんに見つかって何やってるのとうまガブッ!やら学園都市第三位の
冷静に、紳士的に女性を連れて歩く上条。彼女の述べるルートを進むと、ものの数分で家の近くらしいと地点までたどり着いた。
(ふぅ、何とか事無く済みそうだな。さすがの上条さんの不幸パワーもここでは発揮されないみたいだ)
ホッと息をつく上条。だが、事件というのは油断をしたころにやってくるものである。
もう少しで到着すると言われたその直後。ヤツは現れた。
「……とうま?」
目の前の曲がり角から出てきたのは、ティーカップのような金の装飾の施された白い修道服を纏い、三毛猫をその腕に抱いた銀髪の少女。
きょとんとした様子の少女の出現により、場の空気が一瞬で凍りつく。
「……あ」
「まったく、なに道草を食っているのとうま! 今まで何を――」
憤慨して上条へと詰め寄ろう老とした少女――インデックスは、そこでようやく上条の様子に気付いた。
厳密には、上条の左腕へと密着してさらに胸(大きい)を押し付けていた(ようにインデックスには見えた)女性に、である。
「……」
急に黙りこくる少女。
……終わった。そう思いつつも、ツンツン頭の少年は最後のあがきとして弁明を試みる。
「違うぞインデックス! これはあれだ、人助けなんだ! だから俺は称賛されることはあっても決して責められるようなことは――」
「……ま」
「あの……インデックス、さん?」
ギラリ、と少女の小さな口から姿を見せる犬歯。その腕に抱えられていた三毛猫が、野生の生存本能で危険を察知したのか彼女の腕から逃れる。
「とーうーまぁあああああっ!!」
「ちょっとまてまた何か勘違いしてぎゃあああっ!」
少年の絶叫が、夕刻の学園都市に響いた。
*****
そして時は元に戻る。
上条当麻とインデックスの二人は、家である学生寮へと歩いていた。
「ったく、何で人助けをしたのにこんな目に遭わなくちゃならんのだ。不幸だー」
空を仰いでぼやく上条の片手にあるのは氷の入ったビニール袋。先程の女性が癒えに到着した後に渡してくれたものだ。
彼女は二人を見て「仲がいいんですね、羨ましいです」と終始ニコニコしていた。上条として笑いどころではないのだが。
「とうまが悪いんだよ! いつもいつも知らない間に女の人を手籠めにして!」
「人聞きの悪いことを言うんじゃありません! まるで俺が節操ないヤツみたいじゃねぇか!」
「その通りなんだよ! というわけで今夜は私を怒らせた罰としてご飯にすき焼きを要望します!」
「何で祝い事みたいになってんだ! 大体そんなもんを作れるような食材は買ってないっての」
「ちなみに冷蔵庫の食材なら既に私の胃袋の中なんだよ」
「さりげなくとんでもない事言いやがったよこの人! 明日じゃなくて今から買い出しに行かないといけないじゃねぇか! というかなぜ胸を張る!?」
予想していたとはいえそれが現実になったことに頭を抱える上条。対するインデックスの態度はさも自分は悪くないかのように泰然としている。
すると突然、銀髪のシスターの腕の中にあった三毛猫が突然泣き声をあげ、彼女の腕をほどいて道路を駆けだした。
「あっ! こらースフィンクスーっ!」
慌てて三毛猫を追いかけていくインデックスの後姿を見ながら、上条はやれやれと首を振る。
だが、不自然だったのはスフィンクスだけではなかった。
「あれ……人が、いない……?」
ようやく気付いた異常。
インデックスとのやり取りのせいで周りにほとんど目が向いていなかったが、彼らの周囲からはいつの間にか人々の姿が消え去っていた。帰宅する人間が多いはずの、この夕方の時間帯にである。
「これは……」
不気味なほどの静けさ。これまでの経験から、この状況の原因はすぐに予想できた。
人払い。魔術によって一般人をこの場所から遠ざけたのだ。
だとすると、この後に待つ展開は一つ。
「……っ!?」
静寂を破り、『それ』は突如として起こった。
直感的に真横に飛び跳ねた上条。次の瞬間、鈍く重い音と共に、彼が今までいた地面に亀裂が走り、アスファルトが砕け散った。
「よく躱したな。前兆の感知、というやつか」
背後からの声に、立ち上がった上条はゆっくりと振り返る。
十数メートル先に立っていたのは、上条よりもやや年上に見える青年。珍しい緑の髪の間から、冷たく冴えた瞳が上条を捉えていた。
「お前は……?」
「ヴィーザル。『グレムリン』の一員と言っておけばある程度の要件の目途はつくか?」
『グレムリン』。その単語に、上条の身体へと瞬時に緊張が走る。
サローニャ=A=イリヴィカやマリアン=スリンゲナイヤー、そして雷神トール。今まで何度かグレムリンのメンバーとの戦闘は繰り広げてきたが、どれも一筋縄ではいかない強敵揃いであった。
右手を強く握りしめ、上条は尋ねる。
「何の用だ」
「一々教えてやるとでも?」
「だろうな」
想定通りの答え。ならば自分のやるべきことは、迫りくる脅威を打ち払う事。
青年、ヴィーザルへと踏み出そうとした上条。だが、
直後。上条の体は、勢いよく地面へと叩きつけられていた。
「が、はっ……!?」
状況の処理が追いつかず、ただ腹から息を吐く。
起き上がろうにも、少年の体は余りにも重く、腕や足などを僅かに動かすので精一杯であった。
(あいつの魔術っ……!? にしてもこれは一体……?)
何とか立とうと、右手を地につけて力を入れる。
すると、何かが砕けるような感覚と共に、上条の体は何事もなかったかのように自由になった。
「くっ……」
「打ち消したか。これが
よろよろと起き上がる上条を眺める青年の表情は変わらず、淡々と続ける。
「だが、ただ打ち消すだけでは俺には勝てないぞ」
――くる。
上条が前に飛び込むと、案の定元いた地面は轟音と共に砕けた。
(あいつの魔術は一体何なんだ。特定の地点に衝撃波を放つとか……?)
頭を回転させる上条。今までの魔術師達との戦闘で得た経験から、ヴィーザルの魔術を分析しようとする。
しかし、彼の思考は中断させられる。目の前にいる魔術師によってではなく、もっと以外な人物によって。
「とうま!」
聞き慣れた声。
勢いよく振り返った先には、白い修道服の少女がこちらへと駆け寄ろうとする姿。
「禁書目録、か」
緑髪の魔術師の視線が、上条ではなくインデックスへと向かう。
(まずい!)
背筋に悪寒が走る。
考える間もなく、全力で駆けだす上条。立ち止まったインデックスを抱き抱え、そのまま勢いよく倒れ込む。
刹那、案の定インデックスがいた地面が砕け、その破片が上条の頭に降りかかった。
上条は起き上がると、倒れ込んだ際に負った傷などいとわずに、目を見開いているインデックスへと携帯電話を渡し、
「今すぐここから離れるんだ。危なくなったらこれで誰かを呼べ!」
「で、でもとうま……」
「いいから行くんだ! あいつは危ない!」
突き飛ばすようにインデックスを放し、再び魔術師へと向かい合う。
未だに表情を一切変えないヴィーザルは、やや意外そうに、
「禁書目録の知恵を借りなくていいのか?」
「……ああ」
そう答えるや否や、上条は右手を握って青年へと駆け出した。
「……」
ヴィーザルは動こうとしない。
時折彼の魔術によって地面が砕けてゆくが、上条は直前に横や前後に飛び込むことによってそれらを躱してゆく。
(いける)
あと少しという所まで迫り、上条には勝機が見えていた。
(きっと、あいつの魔術の範囲はそこまで広くない。急いで避ければ何とかなるし、最悪すぐに打ち消しちまえばいい!)
勝負を決めるべく、己の右手を強く握り直す上条。
そんな少年を一瞥をくれ、ヴィーザルはつまらなさそうにため息をつき、身体を動かすそぶりを見せる。
魔術の発動。そう予想した上条が真横へと飛び込む。
そして、
「がっ……!?」
ドゴォ!という鈍い音と共に、転がり込んでいた上条の体が、地面へとめり込んだ。
魔術は回避したはずだった。なのに、現実には上条の体は地面へと叩きつけられていた。
理由は明確。
ヴィーザルの魔術の及ぶ範囲は、本来ならば上条が想像していたよりもずっと広かったのだ。
「う……ぐ……」
全身に走る激痛。悲鳴を上げる身体に鞭をうち、上条は右手で地面を叩く。
たちまち身体を襲う圧迫感は消え、もう一度攻撃をしかけるべく起き上がろうとする。
だが、
「無駄だ」
「ごふっ!」
冷徹な言葉と共に、再び上条の体は地面へと押し付けられる。先程よりも強く、頭も上げられないほどに。
辛うじて右手を地面に添える事で一瞬の自由は得られるが、次の瞬間にはさらに強い力で抑えつけられる。
「どうした、その程度か」
歩み寄り、半ば失望した様子で上条を見下ろすヴィーザル。その瞳は変わらず怜悧で、感情を表していない。
「……っ!!」
「一つ忠告しよう、上条当麻」
あくまでも淡々とした様子で、彼は告げる。
「グレムリンを、甘く見るんじゃない」
魔術師は軽く上げた足をとん、と地につける。
そして、
今までとは比べ物にならないほどの圧力が身体全体へと加わり、上条の意識は完全に消え去った。
読了ありがとうございます。ほとんどの方は初めまして。LUCEです。
前回は別のサイトに掲載した作品をコピペした形となりましたが、今作はリハビリも兼ねて最初から作ったオリジナルストーリーです(まあ二次創作なのですが笑)
初めてとあるシリーズの二次創作を書きました。
あらすじの通り、時系列的には新約6巻~8巻の間での話となります。
グレムリンのメンバーは新約10巻でほぼ全滅してしまったので、他にどんなメンバーがいたのかを妄想(!?)し、そのキャラを中心に話を作ってみました。
次回説明されますが、簡単に言うとヴィーザルは北欧神話でオーディンの子である神様で(参考:ウィキペディア)、タイトルを象徴する存在です。
ちなみに、少なくて2話、多くて4話かかる予定です。
鎌池先生っぽい文章を書きたいのですが、なかなか難しいです。すぐに単調な文になってしまいます。
正直上条さんがあまり頭使ってないな―と自己反省。
さて、いきなりボッコボコにやられてしまった上条はどうするのか
グレムリンの目的は何なのか
次回もお目にかかれることを願って、ここで失礼します。
あとがきも少し真似してみました(苦笑