地球過剰防衛軍   作:APHE

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火星も魔境だよね…


遥かなる外来人ー火星降下阻止作戦

火星 企業連会議室

 

 

()()とは随分違うようだが」

 

会議室の窓からは閃光煌めく火星の宇宙(そら)がよく見える。

旧ジオ・マトリクス、現企業連会長はそんな美しくも恐ろしい輝きを眺めて不満げに言う。

 

「通達された侵攻予測から3ヶ月前倒しだ、勘弁して貰いたい」

 

「EDFに文句を言っても仕方がないことだ」

 

「動くアームズフォートは3機しか無いんだぞ」

 

「我々は信用がないのだ、彼らの指示には従わねばならない」

 

会長の言葉に皆が黙り込む。

 

「…まぁ、侵略者が定刻を守る訳もないのだがな」

 

害を持って近づく存在が予定を守るはずがない。

役員たちは当たり前の認識に頷き、ひとまずは対策を進める。

 

「出せるACは無いのか」

 

「ネクストは予定に合わせて全機オーバーホール中、ノーマルもすぐには出せない」

 

「とすれば、やはり…」

 

「全ての企業が息を揃えてもなお傭兵(レイヴン)頼りとは」

 

「奴ら以上に頼りになるものがあるか?」

 

「頼りにせねばならん事がおかしいのだ」

 

カタカタカタ…

 

机上のティーカップが細かく揺れる。

役員たちが目線を窓に移すと、大気圏離脱用ブースターを装着したマゼラン改級が多数飛び立とうとするのが遠くに見えていた。

 

「自前の戦力が使えんでもいい、今は迎え撃つ時だ」

 

「この大地に奴らの装甲の一片でも触れさせはするな」

 

会議は終わった。

侵略者を迎え撃てとの総意を得て。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

火星 成層圏

 

 

バリバリバリ!

 

苛烈な攻撃にエネルギーシールドが悲鳴を上げる。

ドローンによる火星を覆い隠すほどの飽和攻撃で今まで一方的だった航空戦力の均衡が押し返されかけている真っ只中、単騎奮闘していたシルフィードもその熱線の嵐に晒され手玉に取られていた。

 

〈こちらシルフィード687!敵の攻撃苛烈!もう持たない!〉

 

6層あったシールドはやがて4層となり、みるみるうちに1層となり…抜群の強度を誇るキャノピーにもヒビが入る。単騎で宇宙巡洋艦と同等の火力を持つSA-08といえど無敵ではないのだ。

 

〈救援を…!〉

 

刹那、巨大な爆炎が煌めき赤い装甲片が砕けて散らばる。

ドローンの波が確かに止まり、無数に切り裂かれる。

そこにはシルフィードと同じ純白の装甲を纏う機体(ホワイト・グリント)がいた。

…その中身が何色であろうと、シルフィードのパイロットにとっては幸運。戦力を多数失った、またこれから多数失うことになるフォーリナーにとっては不運。

殺戮が始まった。

 

レーザーブレードで両断され、動力部を打ち抜かれ、異星人の機体が爆ぜてゆく。

敵機の一つを蹴りつけて舞い上がり3機を射抜くと別の機体に舞い降りながら2機を切り裂き、足場とした機体も残さず破壊する、そんな人外じみた動きには人外たるドローンもついてゆけず爆散。

戦場を見渡せばそのような気持ちの悪い動きをする人型兵器がごまんとおり、フォーリナーの部隊は完全に押し返されていた。

 

〈奴ら、めちゃくちゃにやりやがる!〉

 

〈いいぞ!ぶっ壊せ!〉

 

〈俺達もやるぞ!〉

 

パイロットたちはそんな味方の善戦に奮い立たされて戦闘を再開する。

消えていたブースターの火が点き、シルフィードが、ダイダロスが、コアファイターが、再び空を舞う。

一時は降下を許すかと見られていた火星防衛戦は企業連の要請により一斉参戦したACにより状況を巻き返しつつあった。

 

 

そんな主戦場からやや離れた地点、打ち上げ途中のマゼラン艦橋から戦闘を眺めていた艦長はほっと胸を撫で下ろすとともにこの短時間での劇的な戦況変化への戸惑いを隠せずにいた。

軌道上の防衛線が一部決壊したという警告が発せられたのは火星沖での防衛戦が佳境に入ったあたり。そこからゆうに数分もかからずドローンの大群が大気圏へと突入し流動的な防衛戦が起こり、レッドカラーの大量投入による戦線崩壊が発生。さらに防衛部隊の苦戦を受け企業連が援軍を要請するまでにせいぜい30分、それから戦況が打開されるのに10分もかからなかった。

 

事態が目まぐるしく動きすぎている。

フォーリナーの冥王星到着から突破時点ではここまで急速に戦況が動くことは無かったのに、これは何なんだ。

敵は何かを焦っていると言うが、焦るのはむしろ侵略され滅亡の危機にあるこちらではないのか。なぜ今になってここまで動かす必要があるのか。艦長には理解できなかった。

 

〈敵が…敵がみんな赤いです!すべてのドローンが赤い!レッドカラーです!〉

 

直掩についていたコアファイターの最後の通信がフラッシュバックする。

このマゼランの打ち上げが少々遅れた理由がそれだ。

絶対防衛圏を一部突破し流れ込んできたドローンの正体は全てがレッドカラー・ドローンで構成された部隊であり、通常の混成ドローン部隊とは比にならない攻撃力および機動力を有していたのだ。

 

地球の戦力が進化したことでレッドカラー・ドローンですら通常のドローンと変わらなくなった、確かにそうだ。しかしそれは単体での話。

部隊規模ですべての機体がレッドカラーならば話が違う。

他の鈍重なドローンの機動力に合わせることなく次々と突出し光線をばら撒くそれは十分な驚異となり得た。

 

だがフォーリナーは今の今までそれをしなかった。何故か?

EDFが回収したレッドカラー・ドローンの残骸を解析した結果、一機の製造に通常ドローンの何百倍ものリソースを使用する所謂『少数生産機』であることが判明。

大量の投入は(いままでの戦いからとてもそうは見えないが)消費コストを気にするというフォーリナーには不可能だったのだろう。

 

だがそれを惜しげもなく、数万単位で使い捨ての弾薬のように突っ込ませてくるというこちらの思考の虚をつく一点突破戦法。認めたくはないがこれはよく効いた。

絶対防衛権を抜けてきたレッドカラーの大部隊はすべて火星の大気に触れる前に破壊されたのだが、その代償としてシルフィードの編隊3つが犠牲となり、後続の部隊も通常のドローンが億単位でなだれ込んだことにより苦戦を余儀なくされ…戦力再編中の企業連が無理をしながら参戦して初めて空を取り戻すことができた。

戦線全体への影響は少ないにしても効果的に摩耗させられた嫌な事態、これで味をしめただろうフォーリナーは多少無理をしてでも同じ戦法を取り始めるだろう。

 

『火星守備隊全部隊へ、我々はM-E3地区において大気圏内での主導権を取り戻した。火星艦隊追加戦力は軌道上の外敵の撃退に集中せよ』

 

『火星沖の戦況は安定、UNCF統合軍連合艦隊は累計1万2000隻のマザーシップを撃墜。されど戦闘継続中、火星包囲艦隊への対処はできない。火星守備隊の奮戦を期待する』

 

火星沖の艦隊決戦も優勢なれど進展はなく、ひっきりなしに撃破報告が舞い込むのみ。

現状、敵はただこちらの戦力を縛り付けるためだけに、やらせて時間を稼ぐためだけに戦力を送り込んでいる。

そこまでして地球を奪おうとする動力が何なのかは知らないが、我々の星をみすみす奪わせる訳にもいかない。艦長は部下にブースターの出力を最大にするよう命じて艦の進路を見守る。

火星沖艦隊の詳しい状況を知るためにもすぐさま戦線に上がらなくては…

 

「3時方向に敵機!」

 

「11時方向に敵編隊!レッドカラーです!」

 

「生き残りか!対空戦闘!」

 

しかしどこからともなくドローンが押しかけ艦隊の上昇を阻む。

命令を受けるまでもなく対空砲が全力で撃墜しようとするも頑丈なレッドカラーを破壊しきれず制御を失った数機が艦体へと接触する。

 

「衝撃に備えろ!」

 

「クソッ…ダメコン急げ!」

 

すぐに隔壁が作動し酸素の薄い高空の外気に晒されたことで火災は鎮火、構造材へのダメージも少ない。しかし息つく間もなく第二、第三の敵編隊が現れたことで艦長の眉間には深いしわが寄った。

すぐさま対空砲が唸り、副砲のメガ粒子砲も直接照準で放たれる。メガ粒子砲の直撃を受けた数機が空中で爆ぜ、対空砲にからめとられたものはきりもみ回転しながら落下していくがそうでないものは高速機動を始めレーザーをばら撒く。

打ち上げ中の大気圏内で回避行動をとれるはずもなくレーザーは全弾命中、副砲は細かい穴がいくつも空いた次の瞬間に吹き飛び爆散。砲塔をなくし歪んだターレットリングが残された。

対空砲も打撃を受けて沈黙する物が出始め、直掩の戦闘機も戦線が離れていたために間に合わない。

 

〈手こずっているようだな〉

 

と、ドローンの一機がレーザーに翼をもがれて墜ちてく。

その射出元は黒いAC。3つ又の砲身からレーザーを乱射し次々とドローンに打点を与えて巧みに軌道を乱している。

撃墜数そのものは少なくともドローンの攻撃対象が分断されたことでマゼラン艦隊にも余裕が生まれ、対空砲がふたたび仕事を始めた。絶妙なタイミングでの救援に艦長とクルーの顔色が明るくなる。

そこに現れる新手のAC。パイルバンカーを装備したそれは背部ユニットから猛烈な噴射を行い距離を詰めるとドローンを串刺しにし、腕部の武装でそれを吹き飛ばして別のドローンを撃墜。さらに現れるAC。戦車型の下半身を吹き飛んだ副砲のあった場所へと固定し肩部の大型武装で砲台のような戦いを始める。地味にも見えたがその射撃によってドローン編隊が一つ壊滅していた。

 

「彼らはいわゆるノーマルのACですが…」

 

「技量がずいぶんと高いようだな」

 

企業連の抱える傭兵団、その威力を目前に見せつけられたマゼラン艦隊は一隻も欠けることなく大気圏突破へと差し掛かる。ノーマルのACでは直掩できるのはここまでになるだろう。

 

〈貴様!〉

 

パイルバンカーのACが最初に現れた黒いACを踏み台にして上昇、ブリッジへと迫っていたドローンを破壊しそのままどこかへ消えていく。

宇宙の漆黒が近くなってくると戦車型のACもドローンをもう1編隊壊滅させてから離脱し、黒いACも直掩機のコアファイターが集まってきたのを確認して離脱した。最後まで魅せてくれる彼らの頼もしさに戦線の不安が若干薄れた艦長だったが、すぐに切り替えて大気圏離脱の手順を踏むよう命令を飛ばす。

 

護衛をしてくれた彼らの期待に応えるためにも、この艦隊は一刻も早く最前線へ向かわねばならない。馬鹿げた遅延戦闘はそろそろ終わらせる頃合いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一部の突破を許しつつも火星圏でのこちらの優勢は揺るがず」

 

「火星包囲部隊の圧も減り、追加戦力は火星沖艦隊との合流に成功」

 

「……」

 

「……」

 

「違うな。奴らが火星への興味を失ったまでだ」

 

「ああ。もう背後を気にする必要もなくなったのだろう」

 

月面基地の窓から、徐々に大きくなる赤い光を睨みつける。

 

「お前たちは…地球をどうしたいんだ…」

 

 

フォーリナー、月軌道に到達。

 




MS-「人型兵器」
一つの世界の在り方を大きく変えた金属の巨人。
レーダー妨害とともに行われる"白兵戦"は統制を乱された艦隊にとって致命的であるが、人形兵器が陳腐化したこの世界では文字通りの万能兵器ではない。
しかし艦隊や基地の直援機として右に出るものは少なく、宇宙において戦艦が戦車ならば彼らは歩兵として諸兵科を組むことで非常に効果的な運用が可能。

AC-「武装コア」
一つの世界の在り方そのものと言える鉄騎。
ヘリ、戦車、航空機などの既存兵器を塗り替える存在としてMTから派生したモジュール型兵器であり、各部位の換装によりどこまでも汎用性を高められる。
パイロットの腕次第では"鉄屑"にも、"死神"にも、"悪魔"にも、"天使"にもなれる。
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