冥王星沖
「何かの間違いじゃないのか!?」
『嘘をつく意味がないだろう』
「しかし…8万とは…」
『あなたも見えているはずだ』
「………」
冥王星艦隊の中核を飛ぶマゼラン改級戦艦。
その艦長はある事実を認めることをためらっていた。
艦橋の窓から飛び込んでくる
レーダーを見ても、艦載機部隊からの悲惨な戦況報告を聞いてもそれを推察することはできるだろう。
しかし。
赤い光の点が前方を埋め尽くし、宇宙を覆い尽くすこの光景。
彼は何よりこれが事実であることを認めたくなかったのだ。
それはそのすべてがフォーリナーに属するもの。
マザーシップとドローンの数々。
これではまるで先程の戦闘が無駄足だ。
「艦載機隊、押されています…」
ここから見るとマザーシップから放たれた繊細な光線が布を織るかのごとく宙空を覆い尽くしているように見える。
いや、実際そうなのだろう。
歓喜に湧いていた無線が今度は止まらない被害報告と絶望を含んだ凄惨なものに変わってしまった。
「友軍航空隊の4割は既に撤退中です」
ときおり紅い点の合間に極光が輝き、僅かばかりの戦果が上がるが全体を押し留めるほどのものではなく、8万のマザーシップはじりじりとこちらへ押し寄せてくる。
「戦力を再構築し艦隊決戦…か」
冥王星基地、そして地球のEDF本部から下された作戦内容は総力を持って迎え撃てとのシンプルなものだった。
そこに込められた思いや事の重要さを含めると到底シンプルとは言い難い何かであるが。
それが何なのかわかっている身ではもはや返す言葉などない。
「敵は8万のマザーシップだ!連携し迎え撃つぞ!」
「「「了解!」」」
陣形の最終調整と直援機の発進を行う連合艦隊に敵はすぐそこまで迫りつつあった。
「モビルスーツ隊発進!」
「EFFM1〜299番、出撃します!」
「一隻たりとも通さんぞ!」
◆ ◆ ◆
冥王星沖 前線
激しい閃光が宇宙に散りばめられてゆく。
それはドローンの爆発、マザーシップを葬る光、そして堕ちた戦闘機の最後の光。
8万のマザーシップから織りなされる対空砲火はもはや冗談のようなレベルでとてつもないことになっており、数億いた戦闘機隊の2割が数分で失われてしまった。
戦線を下げて艦隊決戦に望むため彼らは撤退してゆくが、後方より放たれる追撃をいなしきれずに爆散するものも少なくない。
徐々に戦力を減らしつつもようやく辿り着いた防衛ラインから振り返ると、先程よりも赤さを増したフォーリナー艦隊が広がっているのが見える。
多量のドローンに小型船まで展開しているらしい。
敵を少しでも押し留めるために戦略兵器をまだ抱えていた戦闘機が小出しに撃ち込んではいるものの、マザーシップの1つ2つ堕ちたところで今更その流れが遅くなることはなかった。
「全砲門開け!」
艦隊の構成艦すべての砲塔が敵艦隊の方を向き、狙いを定める。
有/無砲身の多種多様な砲がそれぞれのターゲットを捉え終わったとき───
「撃ち方、始め!」
「ぶっ放せ!」
「撃ちぃ方、始めぇ!」
「撃ち方始めぇ!」
「撃てーっ!」
一斉に閃光が放たれた。
それらは敵を穿ち、貫き、爆炎に飲み込む。
返ってきた閃光が装甲にぶつかり鑑が激しく揺れる。
艦隊戦が始まった。
金剛級から放たれた3連高圧増幅光線砲の光がマザーシップ表面の装甲を切り裂き爆沈させ、村雨型の2連高圧増幅光線砲の光も煌きと破壊を与えてマザーシップを葬る。
溶断された装甲片が漂う中に再編成されたコスモゼロの編隊が飛び交い機銃掃射とミサイルを浴びせてゆく。
近づくドローンを手当たり次第に落としながら艦隊の全身に付き添い、近接防空を担う機動甲冑のスラスター光に紛れて飛び回る。
緑色の光線の中にときおり改型から放たれる青白いショックカノンの光が混じり、それは照射を必要とせずただ一撃でマザーシップを貫通し爆沈させていった。
前進しながらの機動戦術をとるUNCF艦隊の背後を固めるはEFSF艦隊、マゼラン、サラミス級から次々と放たれるメガ粒子砲の光はマザーシップに直撃すると激しい爆炎とともにその船体を大きく削りとり落伍させてゆく。
主砲攻撃や通常のミサイル攻撃に混じって放たれた大量の核ミサイルが定期的に火球の隊列を形作り、"本来の"火力で多数の敵を殲滅、強烈な支援攻撃でマザーシップの濁流を押しとどめた。
モビルスーツ隊が敵ドローンを撃ち抜き、斬り伏せ、艦船に近づけさせない。
と、そこに迫る多数の光線…は目標のペガサス級に命中することはなく、立ちふさがったTRT艦隊のヘイムダル級戦艦の巨体に弾かれた。
その頑丈な船体を盾として他艦隊を守りながら放たれた強力なレーザー主砲。それはマザーシップの装甲をまるごと貫通し中枢を破壊、爆沈させる暇も与えずに巨大な残骸を作っていく。
ニーズヘッグ級から発射された多数のミサイルの数々が巻き込んだ敵を確実に葬る爆炎を宇宙に散りばめる。
連続発射された大型ミサイルがドローンの一群を一掃し、射線が開けた所に次の主砲攻撃が叩き込まれまた新たな残骸を作っていった。
追い打ちに飛び込んだR戦闘機がフォースレーザーと強力なミサイルでまとめて敵を葬り、戦線に穴を作る。
そこに突撃をかけるのは統合軍艦隊のオーベルト級駆逐艦、放たれた多種多量のミサイルがそれぞれの標的を捉えて炸裂し、とくにドローンを殲滅してゆく。
わずかに確保された制空権を見逃さず、補給を終えた可変戦闘機が一斉に飛び立つと反応弾を撃ち込みマザーシップもろとも溢れ出したドローンを処理し格闘戦へと持ち込む。
後ろに控えるマクロス級戦艦から放たれるビームはマザーシップに次々と大穴を開けて強制的に機能停止へと追い込んだ。
最初の砲声が宇宙に響いてからわずかに数十秒間、この間にマザーシップをこちらの戦力と同数の2万隻撃沈。
残敵は6万。
このままゆけば殲滅は容易に思えた。
だが敵は黙ってその状況を受け入れるような相手ではなく、当然ながら反撃をする能力を持っており躊躇いなくそれを行ってきた。
「あれはジェノサイド砲!」
マザーシップ下部に展開される巨大な砲台。
それは一度光れば廃墟が増えると言われるフォーリナーの殲滅兵器。
かつて地球の主要都市を尽く煤塵に変えたこの兵器は宇宙でもその威力を存分に振るう。
キィン…ビシッ!
被弾した村雨級の船体がひしゃげて航行不能になった。
それをかばった金剛級の船体にも黒く大きな穴が穿たれている。
残骸と化したサラミス級の影でメガ粒子砲を放ち続けるマゼラン級、そこに飛来した光線が砲塔を吹き飛ばし誘爆で船体の半分を持ってゆく。
自身と同等の火力を持つ相手と正面から殴り合う防御力を持つヘイムダルも集中砲火を受けて構造体がボロボロになり、背後のニーズヘッグ級をかばいきれずにいた。
空母を落とさせまいと前面に出るマクロス級とオーベルト級に多数の閃光が襲いかかり、装甲の薄いオーベルト級から順番に離脱してゆく。
各艦隊の司令は相手と互角以上に渡り合う力を持っていても決して油断できない相手であることを確認していた。
このまま純粋な撃ち合いをしていても未だに数で3倍の優位がある相手方に軍配が上がる危険性が残っている。
だがそれは想定以上にやる相手を見て今の今に認識を変えたわけではない、既に矢は放たれている。
『ブルドガング砲チャージ完了!』
『TR戦隊、波動砲3ループチャージ完了!』
UNCF艦隊が道を開けた先に現れたのはTRT艦隊の中核艦、その全てが艦首に光を集めてすぐにでも解き放たんとしている。
高エネルギー反応に攻撃が集中するが、その頑丈な船体に阻まれて、あるいはフォースに阻まれて届くことはなく───
『放て!』
ズオッ!
ヘイムダル級艦首に据えられた最大火力、ブルドガング砲より陽電子の迸流が迸った。
それはマザーシップを呑み込み、喰らい、爆沈させてゆく。
その光線自体は比較的すぐに放散し、フォーリナー艦隊中核目前まで食い込んで止まったが与えた損害は計り知れない。
逃れた者にもR戦闘機より放たれた波動粒子の塊が襲いかかり、その船体に大穴を開けて漂う事しかできない巨大なデブリを量産した。
艦隊に開いた大きな穴を修復せんと集まるマザーシップ、それぞれジェノサイド砲を展開し一矢報いようと密集陣形を取る。
しかしそこにさらなる破壊が向けられた。
『対閃光、対ショック防御!』
斉射を終えたTRT艦隊が退いた後ろには冥王星UNCF艦隊旗艦の金剛改二の姿があった。
その艦首には次元を歪めるほどのエネルギーが集積し青白いプラズマが漂っている。
TRT艦隊の一撃に気を取られていたフォーリナー艦隊はその真の目的にようやく気づいて密集したマザーシップを散開させ、前方にドローンを集めて盾を形成し始める。
が、もう遅い。
『波動砲…』
そう、TRT艦隊の艦首砲掃射の真の目的はUNCF艦隊の誇る最終兵器、波動砲のチャージを悟らせない事だった。
『発射!!』
キュピィィィィン…
カ ア ッ !
宇宙を震わせて放たれた小型波動砲、光速を超える超光速のタキオン粒子の迸流が次元爆縮の余波と共に空間を切り裂き、フォーリナー艦隊を破壊した。
直接巻き込まれたものはもちろん、僅かに掠ったもの、その余波に少しでも干渉されたものでさえ全て、一つの例外もなく粉々に砕け散り爆砕。
最早密集した数億機のドローンからなる盾やマザーシップ自体で構成される壁すらも関係はなく空間ごとフォーリナー艦隊を貫通しその戦力の大部分をチリへと変換した。
『命中!敵艦隊は壊乱状態です!』
フォーリナー艦隊に開いた穴はもう修復不可能なものとなり不用心に開け放たれた窓のような格好の突入経路と化していた。
次々となだれ込む戦力に対応できず撃ち落とされていくマザーシップとドローン。
こちらも無視できない被害を負ったもののあとは敵が殲滅されてゆくのをただ待つだけとなった。
「……」
しかし等の波動砲を放った金剛改二の艦長はこの状況を見ても不安を捨てきれずにいた。
航宙決戦での戦略兵器一斉射で葬ったマザーシップの数も決して少ないものではなかった。
EDFの記録に残るマザーシップ侵攻データの数百倍の数さえも尖兵に過ぎなかったという事実に少なからず驚きを覚えて今回の迎撃戦に臨んだものだ。
しかし、いやこんな事があったからこそ何か隠しているのではないかという気分になる。
「これは……ワープ信号?」
「何ッ!?」
マザーシップの一部が妖しい光を放ち始める。
それは数秒もしないうちに敵艦隊の全てに広がりを見せ、なにか良くないことの発生を示した。
『敵は短距離跳躍を行うつもりです!』
「悪あがきか!?」
艦長は往生際の悪い敵の行動に顔をしかめる…が、すぐに先程まで考えていたことを思い出して最悪のパターンに行き着き、今度は驚愕の表情を浮かべた。
「行かせるな!なんとしてでも押し止めるんだ!」
「波動砲はまだ使えません!」
「機関が駄目になってもいい!とにかくやれ!」
フォーリナー艦隊の目的に気がついた冥王星艦隊は次々と急ぎの対応を行う。
『反応弾をあるだけ撃ち込め!早く!』
『亜空間バスターを実行!』
統合軍艦隊から放たれたありったけの反応弾は一部が敵艦隊を捉えて火球に飲み込むが、全ての火力が発揮される前にマザーシップが空間跳躍で逃げ去ったために意味のない爆炎を宇宙に散らすのみとなり、TRT艦隊の亜空間バスターはワープ中のマザーシップのいくつかを超空間内で圧壊させ食い止めることに成功するもそのすべてを止めることはできなかった。
「やられた…」
艦長の振り下ろした拳がコンソールを叩きつける。
奴らはこの段階でいくら被害を受けようともさほど関係がなかったのだ。
マザーシップは、フォーリナー艦隊は飛び去った。
より地球に近い場所へと。
冥王星防衛ライン、突破。
TRT「TEAM R TYPE」
統合系組織の中では最も小規模であるが、それでいて最高水準の戦力を有する。
本拠は日本国の石川県に構え、戦力は地球軌道上の防衛衛星、木星軌道上の巨大プラントに集中。
同組織の顔とも言える『R』とそれに追随可能な戦闘艦を主要戦力としている。
優秀な慣性制御技術と次元系技術を持つ。
UNCF「国連宇宙軍」
統合系組織で最大規模の戦力と数的を有する。
優秀な宇宙技術と永久機関技術、そしてその出力を利用した強力な戦略兵器を多数保有。
航空、近接戦闘力も高水準、宇宙での主力を務める。
生産能力が飛び抜けて高く、他の防衛勢力の兵器増産も請け負っている。
現在は日本の地下シェルターに本拠を構える。