選抜レースに勝利して沖野トレーナーからスカウトを受けた次の日、ライオンボスはアフリカンゴールドと話していた。
「私やっとスカウトされたんだよ!チームスピカってところ!知ってる!?あのスペシャルウィークやトウカイテイオーが在籍している凄いチームなんだよ!?」
目を輝かせてアフリカンゴールドに話している。
「よかったじゃん。でもチームスピカかぁ…」
「どうしたの?」
「いやぁ…あのチームなんかその…クセが強いというか…変なチームとして有名だよ?ほら、あのゴールドシップって人も在籍してるらしいし…」
「ゴールドシップ……あまり聞かないなぁその人」
「マジ?2連覇してた宝塚記念で出遅れた人だよ。ほら、この人」
アフリカンゴールドはゴールドシップの出遅れの動画をライオンボスに見せる。場内のどよめきと解説者の悲鳴がスマホのスピーカーから聞こえて来る。
ライオンボスはその動画を見ると少し難しい顔をした。
「これがゴールドシップって人かぁ……」
「あとさ、結構この人変わってんだよね。学園じゃいい意味でも悪い意味でも有名人だ」
「そうなんだ。まぁでも他にもいるでしょ、メジロマックイーンにサイレンススズカ、あとダイワスカーレットにウオッカ。みんな強いウマ娘だし私そんなところに入れるなんて夢みたいだなぁ……」
ライオンボスは幸せそうにニヤけている。それを一目見たアフリカンゴールドはすぐ様スマホを見た。
(ボス知らないっぽいな…昨日の選抜レース、実は色々妙だって事……)
アフリカンゴールドはウマッターに出されていたとある呟きを見た。恐らく昨日の選抜レースの関係者なのだろうと思われるものだ。
『この選抜レース……出走者はみんなスカウトされている。全員だ。奇妙な事に普通1位になったウマ娘にトレーナーが殺到して残りの順位のウマ娘は声をかけられない事が多いのにトレーナーはみんな各ウマ娘一人一人にスカウトへ行った。1位も最下位もみんなトレーナーが一人づつだ。さらにレース参加者や観戦しているトレーナーに黒髪のウマ娘が話しかけてたりしてた。このレース……なんかまるでみんなスカウトされる前提で作られてる出来レースなのでは?○松かな?』
そんな不穏なツイートを見ながらライオンボスを見た。ツイートなんか露知らず喜んでいるのを見て
(ボスには見せない方がいいな…)
アフリカンゴールドはスマホをポケットにしまった。
授業が終わって放課後になり、ライオンボスは昨日言われたチームスピカの部室へ向かった。
ノックして中に入ると中には誰もいなかった。
(誰もいないのかな?)
辺りを見渡すとロッカーが見えて、そこに自分の名前が書かれているロッカーを見つけた。
そのロッカーをライオンボスが開けると
「よぉ!」
「うわぁ!?」
中に芦毛の髪が長いウマ娘がいて、それに驚いたライオンボスは尻餅をついた。
驚いて呆然としているライオンボスにそのウマ娘は話しかけて来た。
「おめーが新しく我がスピカに入るウマ娘だな?名前なんて言うんだ?」
「え?あ、はい!」
「エ?ア、ハイ!って名前だな。お前中々珍名だなー?アタシの知り合いにもお前みたいな珍名バいるんだよ、名前は確かオレハ」
「違います!私ライオンボスって言います!今日から新しくチームスピカに入るウマ娘です!」
「え?いや名前知ってるし」
「え?」
「まぁ細かい事は気にすんなよ。ところで話変わるけど飲み物いるか?温めた醤油あるけど飲むかい?」
(なんなのこの人!?)
ライオンボスが驚いていると
「なんだか賑やかだねー?どうしたの?」
「もうゴールドシップさん、お辞めなさい。そこの人が困ってますわよ?」
扉から声が聞こえた。振り返って見るとそこにはメジロマックイーンやトウカイテイオーと言ったスピカのメンバー全員がいた。
「もしかして貴方がチームスピカの新メンバーですの?初めまして。私はメジロマックイーンと申しますわ」
「め、メジロマックイーンさん!?あの長距離で有名な!?」
「あらあら。私の事はご存知のようですね」
「そしてアタシがチームスピカのエースにして、最強、無敵、超ウルトラアルティメットギガンティックのスーパーハイパーウマ娘のゴルシちゃんことゴールドシップ様だ!」
(肩書きが小学生みたい……でも)
ライオンボスはゴールドシップを見た。
(なんかゴールドシップさん、初対面なのに…なんだか昔から知ってるような気がする?なんか運命的というか……)
「おっ?このゴールドシップ様の顔に何かついてるか?ハッ!?もしかしてアタシの美貌に惚れちゃったのか?」
そんなわけないでしょうとメジロマックイーンはツッコミを入れた。そこからライオンボスはチームスピカのメンバー全員と自己紹介をした。
「にしてもスペシャルウィークさんにトウカイテイオーさんもいるなんて……私去年の有馬記念感動しました!」
「へー僕のあのレースみたんだー?」
「はい!あとサイレンススズカさんの毎日王冠にダイワスカーレットさんとウオッカさんの天皇賞も!」
「随分見てるねボスちゃん」
スペシャルウィークがライオンボスに感心していると沖野トレーナーが入ってきた。
「おっお前ら全員来てたのか」
「あらトレーナー?アンタが一番遅いなんて珍しいわね」
「あ、あぁ。少し用事があってな…にしてももう顔合わせしたのか…」
「もう自己紹介も済んだよ?」
「まぁもう済ませたなら早いな。今日から新しく来たライオンボスだ。みんな仲良くしてやってくれ。あとボス、お前からみんなへ一言何かあるか?」
「えぇっと…と、とりあえず皆さんよろしくお願いします!」
スピカのメンバーは拍手をした。
「困った事があったら私になんでも聞いてね!」
「スペちゃんからは食堂のメニューのオススメ聞いた方がいいよ〜」
「えぇ!?それ以外でも聞いて欲しいですよ!?ほら練習とか」
「練習以外でも何でも聞けよ?悩み相談なら俺に任せな」
「ウオッカに聞いてもダメよ。アタシに任せなさい」
「おい何でだよ!俺だろ!」「ハァー!?こういうのはアタシなの!」「いーや俺だ!」「アタシ!」「いーや俺だ!」
チームスピカの部室は随分と賑やかになった。みんながワイワイ話している中で沖野トレーナーは何かを考え込んでいた。その目線の先にはライオンボスがいた。
「………トレーナーさん?どうしたんですか?」
サイレンススズカが沖野トレーナーに声をかけるとハッとした後に
「あ、あぁ何でもない。さぁ練習するぞ練習。今日のメニューはテイオーとボス以外は自由に決めてくれ。じゃあライオンボス」
「は、はい!」
「お前についてはメニューを決めている。何故ならレースを2週間後に入れているからな。お前はこのレースに向けてトレーニングをしていこう。テイオーと一緒にやってくれ。テイオー、頼んだぞ」
「任された!じゃあボスちゃん着替えたらやろうか」
「はい!よろしくお願いしますテイオーさん!」
「ワガハイに任せたまえ!この皇帝トウカイテイオーがビシバシ鍛えるもんね!」
こうして2週間ライオンボスはトウカイテイオーとトレーニングした。他にもトウカイテイオー以外のチームスピカのメンバーのトレーニングに混ざった。準備万端で迎えた2週間後の中山競馬場で行われたライオンボス初出走のレースは
16人中7着で敗北し、次に出走したレースは12人中8着と負けてしまった。選抜レースの勝ちが嘘みたいに負けた。