憧れの警察官になれたのに、転属先はクライムアクションの舞台でした。 作:福利更生
というわけで、書き貯めもないですけど、続きを書いていこうと思います。
魔法、霊感、超能力。その実在が証明されたのも今は昔。
今日も今日とて、誰かが誰かを傷つける。犯罪都市は平常運転。
ケイオスシティはこともなし。
◇ ◇ ◇
ケイオスシティ、昼。十番街の一角、通称『ヤマトタウン』。
純和風の武家屋敷や和モダン住宅の立ち並ぶこのエリアは、元々高跳びしたヤクザの親分が元締めを務め、日本人のチンピラを取りまとめ、今の形に発展していった。故に、外国人の想像する妙な日本ではなく、内も外もしっかりと故郷を再現した作りになっている。
当然ながら、それは食事にも言える。材料も調理法もアレンジの入りまくった似非日本食もなければ、カレーやラーメンなど半日本食もしっかりと故郷の味だ。
だからこそ、昼食の邪魔をされた俺は、爆発一歩手前だった。
至って普通の定食屋。しかし他の地区にはない、日本食の定食屋だ。
犯罪都市とはいえ、堅気の人間だってこの街には大勢いる。安全に仕事をするためにどこかのシマに入っているとはいえ、彼ら自身は真っ当に生きている。所場代さえ払っておけば、マフィア連中だって行きつけの店くらいはあるし、態々自分たちの娯楽を自分たちで摘み取る程覚っちゃあいない。
しかしそんな街のルールを無視する馬鹿は存在する。
一攫千金目指して、何もかも失って流れ着いて、或いはワルに憧れて、この掃きだめにやってきたお上りさん共。
無駄に血気盛んか、失うものなど何もない故に好き放題に暴れまわる。この街ではそれが許されると思っている。
そんな暴徒以下の馬鹿のために、せっかくのランチタイムがぶち壊しであった。
正直、あまりこの地区には来たくはないし長居したくもない。しかし極偶に故郷の味が恋しくなる。無性に味噌汁が飲みたくなってしまったのだ。
だというのに、馬鹿のせいで。ああクソ、騒ぎになってしまった以上、面倒ごとは避けられない。護送班はまだか。
「久しぶりだの、
来た。面倒事だ。
「…じいさん。分別ある屑と、そうじゃない屑くらい見分けろ。とうとう耄碌したか」
「カッカッカッ!言うてくれるのぅ。見回りでも増やすとするか」
見慣れない顔の若者と、見慣れた幹部の強面を侍らせた老人。
このご時世に、昔気質のヤクザよろしく仁義を重んじ、堅気には手を出さない。
しかし決して善人じゃない。
薬や超常兵器の密売には手を出さないが、殺し殺されは日常だし、ここらの地区の違法賭博の元締めでもある。
もう八十も過ぎているにもかかわらず、背筋正しく和服を着こなす老体は、この地域の抑止力を担っている。新たに入島した日系のチンピラを取り込み、禁じたシノギには絶対に手を出させない。そして、他の勢力がこの地区に厄介ごとを持ち込まないように常に目を光らせている。正直言って、この地区だけなら警察よりもこの『校倉組』の方がよっぽどお巡りさんをやっている。
忌々しくも、必要悪として見逃さなければヤマトの平和が崩れる人物だ。
向こうもそれが分かっているから、こうして俺の前に姿を表す。俺にできることは精々、面と向かって悪態をつくことと、他の構成員を現行犯で逮捕して、人足と資金力を削ること。その程度ならこの街も回る。
「てめぇ!親分になんて口を」
「新入りかお前。それ以上囀るなら公務執行妨害だ」
見慣れない顔の青年が口を出してくる。そもそも自分のボスの話に割って入ってくる時点で躾のされたヤクザではない。拾い物のチンピラか。
護送班を待っている間、大きな声で何かしらイチャモンをつけてくるのであれば、立派な公務執行妨害だ。ただでさえイライラしているんだ。何ならこの爺の側に立っているというだけで反社会的勢力として拘束することだってできる。
ゴン、と。
頭蓋の奥を揺らすような鈍い音が店内に響く。
爺の後ろに付き従うもう一人。強面の幹部、源次が青年の頭を床に叩きつけた音だった。
「親父、すんませんでした。よく言い聞かせときますんで」
「おう」
ヤクザに限らず、こういうところは上下関係には一等厳しい。親の会話に割って入るなどもっての他だ。
ついでに言うなら、源次は俺に目をつけられればどうなるかをよく知っている。何度か牢屋に叩き込んだからだ。
俺の機嫌が悪いことを察して庇ったんだろう、あれでも。最近は血の気も引いてきて、人を率いる余裕も器もできてきたらしい。次代の仮初の平和と均衡は心配ないだろう。
「悪ぃな。顔合わせにと思ったんだが、まだここの流儀に慣れてねぇんだ」
「顔合わせなんて必要はない。何かあればしょっ引くだけだ」
「頑なだねぇ。お前さんも」
まあそこが気に入ってるんだが、と。そう言って笑った。
◇ ◇ ◇
「兄貴…親分の話に口出したことは謝ります。けどあのマッポなんなんすか!」
一真が護送班と共に去っていった後の食堂。
校倉組新人組員、信二は、怯むことなく己の兄貴分に疑問と不満をぶつけていた。
小さな頃から腕っぷしだけを頼りに生きて、行く当てもなくさ迷って正栄に拾われた。感謝している。深く深く感謝している。
だからこそ、この街に来て早々警察の屑っぷりを知ることになった信二は、先の警官に好き放題言われていることが許せなかった。
そして再び床に叩きつけられる信二。
ぐりぐりと床に押さえつけながら校倉組のナンバー2、次期親分の源次は話し始めた。
「俺は最初に説明したな。親父が話振らなきゃ黙ってろって。そんなこともできねぇ犬だったか手前ぇは」
「んぐっ…!す、すんません」
「このまま聞け。あのサツ、柳沿には手を出すな、見つかるな、逆らうな。手前ぇじゃあ絶対敵わねぇ。いや、組の誰も勝てやしねぇ。手前ぇが手柄上げて幹部にでもなりゃあ捕まっても出してやるが、今捕まればそのまましばらく塀の向こうで無駄なお勤めだ。分かったな」
「う、うす」
そうしてようやく手を放す。
滲みだす血を拭う信二に、続けて話す。
「色々あだ名はある。『先兵にして最終兵器』『
後半突っ込みどころ満載だなと思いながら、それでも信二は黙って聞いていた。
源次はこう締めくくった。
「ヤツはもうこの街のルールの一つになってる。ここでやっていきたいなら、柳沿一真に目をつけられるな」
◇ ◇ ◇
一坊との縁ももう三年近いか。
阿保ほど強いお巡りが街で猛威を振るってるって噂を聞いて、どれ程の馬鹿かと見に行けば、まあ想像以上に愚直な馬鹿だった。
今でこそ多少落ち着いちゃあいるが、当時は誰彼構わず片っ端から豚箱にぶち込む狂犬みたいな男だった。源次のヤツも、二回だか三回だか真正面から叩きのめされて豚箱行き。出所にゃ結構な額を吐き出した。
まあお陰で源次も、伸びてた鼻っ柱散々に叩き折られてちったぁ大人になった。
この街のお巡りの目は暗く淀んで、溝川の方がまだマシに見える有様だ。
金さえあれば、それで世はこともなし。
理想を持ってこの街に来るヤツなんぞいない。どいつもこいつも流れ流れてここにたどり着く。
そんな連中の中で、悪意の濁流に抗いながら確かな輝きを宿した、俺の好みにドンピシャの馬鹿。
暴れっぷりも気持ちのいいもんだ。速過ぎてあまり見えやしないが、大の男どもがあっちへこっちへすっ飛んでいく様は、見ていて胸がすくような気分になる。あれで誰も死んじゃあいないどころか、後に引きずる怪我もねぇってんだから、バケモンよなぁ。
そんなバケモンが俺ぁ欲しい。
次の頭は源次と決めちゃあいるが、中々どうして、ああいう馬鹿が身内にいると楽しいことになるだろう。
孫も気に入っているようだし、どうにか手に入んねぇものかねぇ。