憧れの警察官になれたのに、転属先はクライムアクションの舞台でした。   作:福利更生

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まさか自分の作品がランキングにのるとは思いもしませんでした。
少し短めですが、今回も楽しんでいただければ幸いです。


第4話

 魔法、霊感、超能力。その実在が証明されたのも今は昔。

 悪意渦巻く背徳の街。その暗闇に蠢くものは、何も小悪党だけじゃあない。

 国家のため、人民のため、裏の公僕が夜闇を駆ける。自国の法に触れようが、成すべき大儀を成すために。

 しかし、その肩書がなんであろうと、そのお題目がなんであろうと、罪は罪だと声高らかに言える男が一人いる。

 罪には、罰だ。

 

 さあ今日も、ケイオスシティはこともなし。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「待ってくれ、貴方とやり合うつもりはないって」

 

 

 見覚えのある女はそう言って、両手を上げて、少しでも俺から離れるように体を後ろへ逸らしている。

 ああ、思い出した。殺人の現行犯で捕まえたことがあった。

 

 たしか最初は、『青空星辰会』の違法儀式のタレコミ。危うく接触禁忌神性が召喚されるところだった。確かその制圧中にかち合ったのがこの女。

 今思えば、タレコミはこの女からだったのだろう。

 混乱に乗じて任務を達成する手筈で、実際それは成功した。詰めは甘かったようだが。

 こういった雰囲気のヤツはたまにいる。各国の秘密組織、諜報機関の極秘任務というヤツだ。まあ殺しのライセンス云々など知ったことではない。殺人は殺人だ。少なくとも現行犯なら毎回しょっ引いてる。

 そういうヤツは無駄な問題を避けるためか、潜入先の人間以外には手を出さないことが多い。それ以前に目撃された時点で問題ではあるのだろうが。

 しかしこいつは、警察だ、と一声かけたにもかかわらず、口封じのためか躊躇なく発砲してきた。

 俺が巷で色々言われているのは知ってはいるが、しかし立場としては、ただの市警の一警察官なのだ。その俺に発砲してきたということは、一般人にも手をかける可能性は十分にある。

 即刻鎮圧して、研究所の職員と一緒に留置所送りにしてやった。

 

 蓋を開ければ、数時間と経たない異例の早さで釈放された。似たようなヤツらでも一日はかかるのに。

 その後署長に某大国の諜報員だったと、これまでにないにやけ面で知らされた。おそらく保釈金も異例だったのだろう。

 国家機関相手でもがめついとは、大したもんだと一周回って感心した。まあ、この街の警察にはそれが一番手っ取り早いと知っていたのだろう。これが他所の市警程度であれば金銭ではなく圧力をかけられたのだろうが、ケイオス市警に関して言えば別だ。

 そもそもケイオス市警そのものが超法規的措置によってこの街に存在している。都市計画の段階で、超常的利権に関わらない、しかし規制はしたい何者かがねじ込んだのだろうが、今では集金のためにその強権を振りかざしているというのは、なんとも馬鹿らしい話だ。

 

 それから何度か現場で鉢合わせすることがあった。

 この街はいつでもどこでもホットスポットだ。超常技術に関しては、街の外より数世代は進んでいる。その技術を少しでも独占しようと動いている国は多い。

 

 彼女らは国の奉仕者なのだろう。自国の発展を願う敬虔な愛国者なのだろう。

 だが、俺に見つかった以上、罪は罪だ。

 しかし、今現在に限っては彼女は何もしていない。勝手に怖がっているだけだ。凶器の類も向けられていない。これがまたぞろ違法組織で出くわしたというのであれば、任意同行を申し出るかもしれないが、今この場に限ってはない。

 

 何故ならここはただのカフェ。ランチタイムを過ぎた頃、偶然隣に座っただけ。

 

 いくら前科があるとはいえ、さすがにこの場で逮捕するほど、俺に常識がないわけではない。別に指名手配されているという訳でもないのだから。

 整っている割りに、剃刀みたいな切れ長の目の凶相に、プルプルと小刻みに震えながら無表情で涙を溜めているのがあまりに哀れでならなくて、少し早いが仕事に戻ることにした。

 

 この街にいればまた会うこともあるだろう。その時はしょっ引いてやる。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 カズマ・リュウゾエ。ケイオス市警特別巡査部長。

 肩書の上ではただの一市民であるにもかかわらず、諜報員(エージェント)である私に彼の情報が回ってきたのは、手を出すのは割に合わないと上層部すら認めたため。

 資料は読んだ。偶然手に入った戦闘ログも閲覧した。結果としては信じられなかった。

 

 だって見えないんだもん。スロー再生してやっとだ。

 

 私もプロだ。組織内でも五指に入る実力だと自負している。だからこそこんな危険極まりない街に派遣されるのだ。

 繰り返す。私はプロだ。

 この業界で生き残るコツは、コイツには勝てる、アレには勝てない、そんな風に相手を見極めること。勝てるならそのまま無力化すればいい。無理なら逃げに徹すればいい。任務の中で培ってきたその感覚は、今では一番信頼できる能力だ。そうして今日まで生きてきた。

 そんな私が一目見て、恐怖で思わず発砲してしまった。そんなこと、訓練中どころか生まれて初めてだった。逃げることすらできやしないと、私の感覚は訴えかけてきた。それ程の相手だ。

 

 気が付けば檻の中だった。意識する間もなくやられたらしい。やはり私の感覚は正しかった。亜音速で動くという資料も真実のようだ。

 規模の大きい、且つセキュリティも厳重過ぎるからと、安易に情報を流すべきではなかった。

 情報漏洩を危惧して自決も考えたが、幸いすぐに釈放された。組織が手を打ってくれたらしい。その恩義には報いるべく、任務に邁進しようと決意した。

 ただし、ヤツに見つからないように。

 

 それがどうしたことか。

 ヤツは街のどこにでも現れる。抗争、密売、裏取引。どの区画のどんな現場にも出張ってくる。

 ヤツが来ればその時点で仕事は終わる。後は逃げるだけという段階が一番マズい。そういう時は絶対に見つかる。暗殺の後は特に、だ。血の匂いを辿ってると言われても納得するが、傷つけず、毒も使わず仕留めた後に捕まった時はもう何も考えたくなかった。

 逆にまだ何もしていない時は、綱渡りだが逃げ切れるのだ。本当にヤツはどんな世界を見ているんだ。絶対私とは違うぞ。

 ああ、あれは笑うしかなかったな。いつだったか、珍しく追加の人員とチームで活動していた時、他国の諜報員と鉢合わせて銃撃戦になったことがある。しかしヤツが現れた途端にお互い何も言わずとも共同戦線を張ることになった。まあ三十秒と経たずに全員落とされたが。

 駄目だ、考えるだけで脳が疲弊する。

 

 諜報員(エージェント)にも息抜きは必要だ。そこらのカフェでコーヒーブレイクくらい、私にだって許されている。

 隣の客と一つ席を開けカウンターに腰かけて、おすすめの日替わりブレンドを注文。

 ふと、本当にふと、嫌な予感とかではなく、何かのはずみで横を見ると、私がこの世で二番目に信を置く、天然物の魅惑の顔面が凍り付いた。

 何を見たかは、察しの通りだ。

 私は何も見なかった。そう自己暗示をかけて視線を元に戻すがしかし、真後ろから迫る弾丸を弾き落とす程の男が視線に気付かぬわけもなく。

 何度でも言う。私はプロだ。故に恐怖は隠しきる。あくまでクールに。戦闘力ではともかく、精神的にはイニシアティブはとらせない。

 しかしこの場を乗り切るにはこれしかない。

 

「待ってくれ、貴方とやり合うつもりはないって」

 

 ハンズアップ。降参である。だって無理だよ。

 

 体一つで音速出せる?私はできない。

 




何もしていないとはいえ、彼がいる現場から逃げ切れる彼女は正真正銘のプロです。
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