憧れの警察官になれたのに、転属先はクライムアクションの舞台でした。 作:福利更生
正直最初は自分の目を疑いましたが、それだけ沢山の方に読んでいただいて、本当にありがたいです。
あとすみません。感想なのですが、予想以上に書いてくださった方が多く、遅筆な私では返信する時間がとれません。
一つ一つしっかりと、だらしのない顔で読ませていただいてますので、これからもよろしくお願いいたします。
魔法、霊感、超能力。その実在が証明されたのも今は昔。
欲望渦巻くこの街で、我欲を貪り金と怠惰に支配された、人の形をした獣。
ならば、獣の形をしたモノの方が、よほど人らしく思えてくる。
今日も今日とて、ケイオスシティはこともなし。
◇ ◇ ◇
この街で犯罪が発生しない日というのは存在しない。
個人的には当然などと思いたくもないのだが、まあしかし、度合が違うというだけで故郷の首都もそんなものだ。これについてはもう考えたくない。
そんな有様だからこそ、中々気が付けない犯罪行為というものが一定数存在する。
その内の一つが誘拐だ。
俺が配属されてからは極少なかった身代金目的の犯行は一切なくなったが、なんせこの街では人が消えることなんて日常茶飯事だ。昨日話していた友人が消えたところで、「ああ、何かに巻き込まれたんだな」と思って通報しないなんてザラにある。
今回のは特に慎重に事を運んでいたらしい。
普通にチンピラどもを攫おうと露見するのはかなり遅れるにもかかわらず、ストリートの浮浪者連中かつ、たまに俺がパトロールをしているのを知ってか子供には手を出していなかった。まあその子供に目撃されて俺まで話が回ってきたんだが。営利目的でないのは明らかで、だからこそ物騒なのがこの街だ。人間の体も魂もいくらでも使い道がある。事は急を要した。
俺でもやろうと思えば残留物や足跡から犯人の居場所を割り当てることはできるが、流石に時間がかかる。故にプロフェッショナルを招集した。
「しかし最近よく会うな。ま、前よりコソコソする輩が増えてきたからな。主にお前のせいで」
「そう言うな。感謝してるよ」
外見と口調にそぐわぬ美しい声で話しかけてくるこのヤマのMVP。
茶と黒の混じった、しかししっかりと手入れされているサラサラの毛並み。
ピンと立った耳と鋭い眼光がどこか気高さというものを漂わせている。
ジャーマン・シェパードのユーリだ。
『暴露事件』以前より人間社会に紛れていた彼らは、
遺伝子的にも魔術的にもなんら異常はないにもかかわらず、この様に人語を解し、自ら語り、寿命すら人間のそれに比することすらある個体。
異常が見当たらないことそれそのものが異常、一切の説明が出来ない動物。
この街に来たばかりの頃は入れ食いといった様子で、そこらを歩けばそれだけで一斉検挙といった有様だったのだが、クソどもはこうして態々探す手間を作りやがった。それこそ犯罪者としては当然の状態に戻ったとはいえ、最初の頃と比べると些か億劫なのは否めなかった。
既存の警察犬としての働きは勿論のこと、コイツはこの街で生まれ、この街で育った生粋のケイオス市民である。俺よりも遥かにこの街に詳しく、さらには他の同族の情報網を持っており、逃走ルートや隠れ家の予想すらしてくれる。
何よりも、それを言葉にして伝えることのできる能力と、あくまで他の同僚よりは、であるが追跡中の俺についてくることができる、普通の警察犬の何十倍の身体能力を誇っている。サイバネ手術を施しているシモンズですら俺にはついてこられないのにだ。
制圧そのものは大した手間はかからなかった。
狂信者故に詠唱を止めることなく、只管血走った目でいあいあ言っているだけなら、秒で終わった。
手放しに信頼できる友人との仕事は気分がいい。
「あーそこそこ」とひっくり返って悶える友人の腹を撫でながら、珍しくそんなことを思うのであった。
◇ ◇ ◇
吾輩は犬である。名前はなかったが、コイツはユーリと名付けてくれた。生まれはこの街だが、具体的にはどこだったかと言われればとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でバウワウ泣いていたことだけは記憶している。
まあこの街の路地裏なんてどこもそんなもんだし、どこだって同じだ。違いと言えば、血と腐臭が沁みついているか、落書き代わりの魔法陣が刻まれているか、そんなもんだ。
よく見かける姿かたちが似たような奴らとはあまり話が合わなかった。精々が単語くらいしか分からなかった。まだ全く姿の違う二本足のデカいの(当時はまだ人間という名前だと知らなかった)の方がマシだ。
同じようなヤツもいくらか見かけたが、ヤツら喋れないふりをして人間に飯をもらっていた。そこらの人間程度には負けない体だったオレには(銃といったか。なぜあんなものに当たるのだ)信じられなかった。
やがてオレは人間がするという『仕事』をすることにした。何故できることを我慢しなければならないのか、オレはあんな媚を売ってまで粗末な飯を食いたくはない。
そうして、同じ形のヤツらが働いているという『警察』という職につくことなった。
人間は怠惰だ。ただでさえ少ない仕事をさらにオレに押しつけやがる。人間の決めたルールに従わないヤツを閉じ込める仕事だろうに、すぐ出ていく様を何度も見てきた。もうずっとその繰り返しだ。
なんでも『金』のためらしい。存在は知っていた。あれがないと人間は生きていけないらしい。だが、あり過ぎるとあんな風に、路地裏の同族のようになり下がる。
望んでそうなるなど、オレには理解が及ばない。
そんなヤツらを見続けて、オレも屋根の下で飯が食えるだけのことに満足してきていた頃。誰もそんなことしようとしなかったオレに「名前がないと不便だな」なんて、密かに憧れていたものをつけた馬鹿が現れた。
一目見た瞬間、首を垂れそうになった。
同族がするように、腹を見せて鳴きたくなった。
今になってやっとアイツらの気持ちが分かった。“勝てない”という感覚とはこういうことか、と。
無理だ。実力もなにも見ていないがオレには分かる。コイツには勝てない。
そして実際にそうだった。
種族の違いや得意の違いくらいは分かっていた。なのになんでコイツは臭いをかぎ分けたり、コンクリートにはほとんど残らない足跡なんてものが分かるんだ。流石にオレ以上にとはいかない様子だったが。
なにより、オレより速く動けるヤツを見るのは生まれて初めてだった。同族どころか機械とやらにだって負けたことのないオレがだ。
まあしかし、できることを我慢しない、誰にも腹を見せない、金とやらに屈服しないコイツは嫌いではない。
たまに会えば食ったことのないものをご馳走してくれるし、オレを喜ばせるのも上手いしな。
オレも最近はコイツとくらいしか仕事をしない。たまに、あのよく分からない力を使う、無駄に物を壊す姉ちゃんくらいのものだ。
さて、今回も無事に終わったようだ。帰ったらマッサージでもしてもらうとしよう。
名前:ユーリ
犬種:ジャーマンシェパード
性別:メス
ついでに言えば、一真くんは犬派です。