目の辺りを腕で庇っていた恋金は辺りの光が収まったのをうっすら開けた目で確認したので、腕を下げて辺りを見回した。見えた景色は先程までのものとはかけ離れたものだった。
まず目が惹きつけられたのは巨大な壁画だ。まるで神話のワンシーンを切り抜いたような絵だった。後光を背負い長い金髪を靡かさせた女性がうっすらと笑みを浮かべている。そして、背景に描かれる山、川、草原を包み込むかのように手を広げている。
美しい絵、なのだろう。しかし、どこか胸糞悪さを感じる。まるで、この自然がこの女性の管理下にあるようで。まるで、世界はこの女性の意思に従って動かされているようで。
こんな絵が飾られている周囲は大聖堂のようだった。大理石の様な白い石で作られ、天井はドーム状になっている。
恋金がいるのは教会で言うなら神父のいる様な所。少し段差があり他の場所に比べて少し高くなっている。
クラスメイトは周囲に寝転がっている者もいれば、立って恋金同様に辺りを見回している者もいる。
足を動かそうとすると何かに足をぶつけた。見ると涎を垂らし熟睡する玖ノの姿があった。軽く蹴った。
「いっ、な、え?」
何事かと、驚いて飛び起きる玖ノ。
「おはよう、玖ノ」
「あれ?何でいんの?」
「そりゃ此処がお前ん家じゃ無いからな」
「ふぇ?どこ此処!?」
何がなんだか分かってなさそうな顔で恋金を見つめていた玖ノだったが、やっと脳が回り出したのか状況を理解して騒ぎ出した。
「おい、静かに「いや、でも目が覚めると知らない場所ってびびるからな!?わかるでしょうが!」いや、わかるけど」
「それに起きて恋金いたらこわいんだよ!」
「へ?私の何が『怖い』んだよ?」
「いや、だってお「あ、いたー!」また遮られた!?」
玖ノが何か言おうとしたのを遮って紬が声を掛けて来た。
「ん?出したの玖ノっち」
「いや、気にすんな。いつものことだ」
玖ノに濃く影がかかっているがいつもの事なので気にしないでおく。声かけても悪化する時としない時があるからだ。
「そう、なの?てか、此処すごいよね」
「ああ、大理石なのかなこれ?」
「いや、大理石は全然こんな感じじゃないよ」
「えっ、おっそうか」
紬が急に梯子外して来たからびっくりした。
「でもこれどうやってここまで」
その先の言葉を発しようとしていた紬は前方を見て固まった。見ると30人程の人がまるで何かに祈りを捧げているような姿勢で恋金たちの前にいた。何故今まで気づかなかったのかといえば段差のせいで偶然恋金の視界に入らなかったからだ。そのうちの1番偉そうな人が前に出て恋金達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
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現在、恋金達は10メートル以上あるだろうテーブルが幾つも並んだ大広間に
通されていた。
この部屋もまた煌びやか作りになっており、この教会が大きな権力を持っている事を如実に表していた。
恐らく晩餐会で使うのだろう大きさの机に恋金達は座らされていた。上座には先生や光輝達、それに続くようにその取り巻き達が座っていった。最後の方になったのは偶然か必然か。隣には未だ沈んだままの玖ノと何とも無さそうな南雲ハジメ。彼は何故ここまで冷静なのか。
全員が席に着いたと同時にメイドがカートを押しながら入室してきた。恐らく紅茶でも入っているのだろうティーポットとクラスの人数分のティーカップ。一体いつ準備したのか。
近くに来た際に軽く服なんかを観察してみたが、日本と何ら変わらない布生地だと思った。案外魔法で作られた繊維の様なファンタジーな物は無いのかもしれない。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
要点だけ説明すると人、亜人、魔人の三種族がおり、そのうちの人間と魔人が争っている。魔人は強大な力を持っているから人間がピンチ。その状況を覆すために神、エヒトにより恋金達が召喚されたと言う事らしい。そして、帰る方法は不明なのだそうだ。
帰還が不可能な以上恋金達が生き残る道は魔人族と戦う事のみだった。それは事実だが、イシュタルの話は事実が不明な点が多すぎだ。恋金はそのカリスマ性と強すぎる正義感を持つ光輝がこの戦争に参加する用にイシュタルが誘導した様な気がして仕方がなかった。
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戦争に参加すると決定した以上、恋金達が戦い方を学ぶのは必然である。いくら規格外の力があろうとも、素人レベルでは話にならない。
この辺の話は想定内らしく、この【神山】の麓にある【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
なんでも神の眷属が作った王国なのだそうだ。
そしてなんと、この聖教教会、【神山】の頂上に座していた。どうやって降りるのかと思っていると何やら台座の様なものに乗せられた。台座には魔法陣が刻まれている。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」
台座に乗った後イシュタルが何やら魔法を唱えた。すると台座がまるでロープウェイの用に山を降り出した。
まさかの魔法の登場に生徒のテンションが上がる。雲海に突入する頃には大騒ぎになっていた。
見えてきた地上はまさに王国だった。王城を中心に放射状に広がる街は中世のヨーロッパの様だった。
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恋金達は王城に着くと真っ直ぐ玉座の前に案内させられた。教会に勝るとも劣らない煌びやかな廊下を歩いた先、美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
中央の玉座の前で初老の男性が立ち上がって待っていた。彼が国王だろう。その隣には、王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。
イシュタルは国王の隣まで進み、そこで、おもむろに手を差し出した。国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。
後ろでハジメのため息が聞こえた。恐らくこれが何を意味するのか理解したのだろう。この国は〝神〟の支配下の様だ。
そこからはただの自己紹介だった。名前はもう覚えていない。そしてその後に晩餐。ピンクのソースやレインボードリンクなんかのゲテモノっぽい見た目の料理も出てきたが美味しかった。
王城では、恋金の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きベッドに愕然としたのは恋金だけではないはずだ。しかし、眠いものは眠い。ベッドにダイブすると共にその意識を落とした。
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次の日から座学と訓練が始まった。
まず、恋金達に配られたのは、銀のプレートであった。
何故こんな物を、と疑問に思っていると騎士団長であるメルド・ロギンスさんが説明を始めた。
対外的な理由もあるのだろうが、騎士団長クラスが自分達の指導を行うと言う事からも期待が感じ取れる。
本人も「面倒な雑事を副長に押し付ける理由が出来て助かった」と言っていたので大丈夫だと思われる。副長さんは可哀想だが。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
妙にフランクな喋り方をしているが彼自分が豪放磊落な性格であり、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいなのだ。
最も恋金は年上から敬語で話されるのも嫌だし、下手な敬語も使いたくなかったので喜ばしいと思っている。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
聞きなれない言葉に光輝が質問をする。
そのタイミングで恋金の肩を何者かが叩いてきた。
振り返ると満面の笑みを浮かべた玖ノがおり、手には何か文字が書かれているステータスプレートがあった。
「話は最後まで聞きなさいよ」
「えー、でもこんな面白い展開なかなか無いではないですか」
「それはそうだけどさぁ」
そんな風に小声で話していると周りの生徒達が指に針を刺して血をステータスプレートの魔法陣に擦り付けていた。
ずっと笑みを浮かべながら自分にステータスプレートを使うように進めてくる玖ノを煩わしく思いながら、針を使って血を出し、それを魔法陣に擦り付け表を見てみると、
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天職:武装姫
筋力:10(+0〜150000)
体力:50(+50〜125000)
耐性:10(+100〜125000)
敏捷:50(+10000〜150000)
魔力:10(+0〜150000)
魔耐:10(+100〜125000)
技能:
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この様に表示された。
ずっと笑顔だった玖ノの表情が少し強張った。
「えっ、何これは」
「何か変なの?」
そう思っている恋金に玖ノは自身のステータスプレートを見せた。
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天職:くノ一
筋力:50
体力:40
耐性:80
俊敏:140
魔力:50
魔耐:80
技能:隠密(+気配遮断)(+消音) 影移動 糸格子 炎魔撒菱
水魔鎖飛鎌 風魔手裏剣 言語理解
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ステータスと技能の双方が恋金に比べて高い。その事実に納得のいかない顔を浮かべて、恋金は玖ノに訪ねた。
「玖ノの方が強そうじゃん。なんでそんな微妙な表情なの?いつもならめっちゃ煽ってくるのに。」
「いや、お前の方が狂っとるが?」
そう言われて再度確認するもステータスだけなら玖ノの方が強そうに見える。
「どこが?」
「お前の目は節穴か?それとも目玉付いてないんか?」
「いや、括弧の中の数字は高いけどなの値か分からないからなぁ」
「いや、技能!!技能に明らかにおかしいのあるじゃん!!」
「え?この武転変化ってやつ? でもこれどうやるのか分からないし。まさか馬鹿正直に武転変化:珊瑚とか?それとも案外、武転:珊瑚……何これ!?」
武転:珊瑚の単語を発したと同時に恋金の身体は光の繭に包まれていった。
「えっ、は?」
「ちょ、恋金っち?!」
「恋金!?何が…」
「なんだこれは!?」
メルドさんやクラスメイト達も恋金が突然光の繭に包まれた事に驚いていた。
瞬間、光が爆ぜ、中から深紅の装甲を身に纏った恋金が現れた。
「え?どうなってんの?」
驚いて声が出ないクラスメイト達と困惑している恋金。
「これは、一体……」
「恋金、貴方一体何したのよ」
余りの光景に言葉が出ないメルドさんの後ろから見たこと無いような顔をした雫が声をかけてきた。
「いや、私もわかんない。何か変な技能を使ってみようと試したらこうなった」
「取り敢えず、もとの姿に戻ってくれない?その姿は何か腹立つわ」
「何で!?いや、戻り方、わかんないんだけど?」
「何かこう戻れーって念じたら?ほら変身物のお約束でしょ?解除は念」
玖ノが妙にハイテンションなのは気になるが、有益な情報ではあるので試してみる。すると、また光の繭に包まれてもとの姿に戻っていた。
「おお、本当なんだ、念」
「良いですね〜!お約束!!」
横のハイテション娘は放置して、謝罪のために恋金は頭を下げた。
その後も先程の光景の雰囲気のままで変な感じになったので、メルドさんには申し訳ないことをしたと反省していた。後、光輝が勇者であることが判明した。